58話 後釜
サイタニ屋さん、いつも誠にすまんこってす。すっかり僕らの定宿と化してるな、もう。僕らは食堂でご飯を食べながらリーちゃんの手が空くのを待っているのだ。
「教会に泊まってもいいのよ。なんならあなたたち食客扱いなんだからお城でも泊まれるでしょ?なんでいつもここなのよ」
「え?中華美味いもん。城のメシってなんか俺ら向きの味じゃないじゃん。焼き魚と汁と米と野菜ってバランスはいいだけど病院食みたいじゃん。この前スーパーのレバニラ食べたけど、肉は無くてもリーちゃんの中華の方が美味い!」
「うん、やっぱり違うよね。辛味とかが、山椒とかの使用量が僕らの想像を越えてきてて口が痺れるもん」
「四川風なんかな?知らんけど」
「バカ舌二人に酷評されるお城の料理人さんたちが気の毒だわ」
「お前、辛いのが苦手なだけじゃん。子供舌~!」
「私は辛いの平気です!リーちゃんの作るご飯美味しくて食べすぎてしまいます!」
さすがサトちゃんは大人だ、うん。
「あのお~私はなんでここに連れてこられたのでしょうか?」
あ、ヨシダさん。
「ああ、ここの調理師兼給仕担当兼教会勤務の子に合わせたくてさ」
「おお、アデヤ教会の方ですか?それはぜひに」
「仏教徒だけど」
「は?仏教徒?なんで教会に?」
「ヨシダさん、道中一緒に封印解除してまわってたじゃない?寺3つと神社4つ」
「はい、記憶には無いのですがなぜか自然に解除方法もわかったので、どうやら昔、私が封印した術のようです。申し訳ございません」
「それはもうええよ。ヨシダさんの意図したことでは無かったってことで。でね、ここで会わせたいっていう教会で働いている子は隠れ仏教徒として空海の足跡を追っていたのね」
「真言ですか?かつては私も信仰しておりましたので空海様の素晴らしさも分かっております」
「そう!そこよ。ヨシダさん、あんた仏教を憎んでやめたわけでもないのよな?真言よりアデヤ教の方が惹かれるものがあって宗旨替えしたんだろ?」
「はい、当時色々と道に悩んでおりまして。子供達を寺子屋で教えていたものの、貧しい子はどんなに優秀でもずっと貧しいまま。百姓の子はずっと百姓。このまま田舎に埋もれていてはいけない人材を育てられない、中央に送ることもできない。そんな気持ちで鬱々としておりました」
「松下村塾の吉田松陰の行動力ないパターンやな……一つ間違えたら維新の志士達の生みの親になっていたかも知れん考え方やん」
「全く伝わらない例えね。時代が違うわ。早すぎるわね」
「そんな時アデヤ様の教えに触れて、私の理想が叶うかと思い仏教を捨てました」
「ある意味俺もヨシダさんの考え方には賛同できる部分もあるよ。それもあってぜひリーちゃんに会って手伝って欲しい」
マジで100年以上前に、吉田松陰の生まれる前からそんな考えをしてた人がいたんだと感心した。そう言えば吉田松陰も当時は狂人扱いされたこともあったよな。時代が変われば……ってヨシダさんと吉田さん、たまたまだけど繋がった。面白いな。
「お待たせしました!ウミさん、ユイさん、サトちゃん、サチ……とソラさん」
なんで僕が一番最後なの?ねえ?ねえ?
「リーちゃん、ちょっと込み入った話になるから場所を変えられるかな?」
「はい、もちろん。もう夜の仕込みも終わってあとは父と従業員さんでまわせますから大丈夫です」
「じゃあ教会に行こうか。そっちの方が話が早い」
「わかりました。ところでそちらの方は?皆さん来る度に人が増えてますよね、フフフ」
フフフ、これがコーチ改革の切り札になるかも知れんぞ。
「じゃあ教会に行こうか!」
「はい!ところでサチってこんな大きかったですか?なんか土佐犬くらいになってませんか?」
これでもスリムになったのよ。ちょっと前まではセントバーナードかピレネー犬くらいあったんだから。吉田さんにまとわりついてたの根こそぎ食べたからなぁ。
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「リーちゃん、1週間くらいしか経ってないけど教室らしくなったじゃない、すごいな」
「ソラさんやウミさんから聞いた学校の雰囲気に近づけようとしました。あとユイさんが色々と『イメージ』という物を見せてくれたので想像しやすかったです」
ユイ、お前、こっそりスマホで学校の写真かなんか見せたろ?天さんとこに帰った時にネットで検索して保存してたやつ。まぁ別にええけど。
「リーちゃん、この年表とか凄いね!どうやったの?」
「あ、これは御殿様からの贈り物で、学校で使うがよいということで絵師さんが巻絵にしたものを壁に貼ってくれました」
「本もたくさん増えたね~」
「これも御殿様や御家老様、あとはお城勤めのお武家様の奥方様達が寄付ということでたくさんいただきました。ユイさんの署名入りの御守り目当ての方も多くてもう在庫が……」
「ユイ、そのドレス破れよ」
「イヤよ!これはちゃんとしたやつだもん」
「どうせゆめタウンに入ってるショップとかやろ?」
「違うわよ!ちゃんとしたやつよ。あなたにブランドとか言ってもわからないでしょ!」
「わからんなぁ。ほんだらハンドタオル切ってサインするか!前に社長に頼んで送ってもらった葬祭会館の倉庫にあった会葬御礼の返品。大量にあったからわけてもらっとった。こっちの世界の手ぬぐいは吸水性悪くてさ」
「そんなどうでもいいもんをリュックに入れてるからいつもすぐ疲れるんだよ、ソラ君」
「あ!そうか!天さんとこに預けといたら良かったんや!ユイの部屋を物置にしてさ。必要な時にユイに取りに行ってもらえれば持ち歩かなくていい!天才やな俺」
「僕はとっくに頼んでたけど」
え?教えてよ。
「この前の槍だって天さんところに預けてたし」
そう言えばこいつ持ち歩いてなかったな。
「ユイ、なんで教えてくれないのさ!ウミばっかり」
「頼まれてないものをわざわざ教えないわよ。ウミの預かりものなんてたかが知れてるもの。あなたはくだらない物ばっかりじゃない。社長に頼んで買ってもらうのはいつも飲み物とか食べ物とかかさばるものばっかり。で、ペットボトルや缶を飲んだら捨てといてって私に渡すでしょ?バカなの?ウミはそんな事しないもん」
「ウミだって俺のお菓子食べてるし!」
「だって持ってるって自慢するから」
「子供ですかっ!」とサトちゃんに怒られる。
「皆さん、相変わらずですね。フフ」とリーちゃんが笑う。
そうそう、ヨシダさんだ。
「リーちゃん、このおじさんはヨシダさんと言います」
「えっ!ヨシダさんって?」
「はい、別人です」
「なんだぁびっくりした~」
「よくある名前なんだよ。とか言いつつ本当はユイがつけたの。この人記憶無くしててね。名前も覚えてないからユイが聖女として名付けたの。過激すぎるアデヤ教徒だったから」
「ああ、それで教会のあったここへ?」
「いや、そうじゃなくて……説明が難しいけどヨシダさんって100年以上前に生きてた人で、俺らが封印外してまわってるやん?それを昔、寺社を破壊して封印しまくってた方の人」
「え?100歳以上?若く見えますぅ~」
ってリーちゃん天然やな。
「いや、ヨシダさんは土地の神さんとか封印してる間に悪い神さんに取り憑かれて、気づいたら取り込まれて鬼になって記憶も無くしてたのよ。封印が終わってからは活動休止してたみたいだけど、俺らが解放してるのに気づいてまた起きて再封印してる所に出くわして」
「出くわして?」
「俺、殺されかけた」
「え?殺されかけたって……そんな危険な人を連れてきたんですか?」
「話せば本当に長くなるけど、この人、アデヤ教の悪い司祭に操られてただけ。で、悪い神さんは全部やっつけて悪くないヨシダさんが残った。自決しようとしたのを止めて役割を与えるため連れてきた」
「役割?」
「この人、アデヤ教徒になる前は真言宗の僧侶で寺子屋の先生してたんだって」
「え?真言の?お話聞きたいです!本物のお坊さんなんてもう生きている人いないです。すごい、すごい!興奮しちゃいます」
「ちゃんと修行してお坊さんになった人だからウミよりも得るものは多いかもね。アデヤ教に宗旨替えしたのもちゃんと理由があったし」
「あの、お話中すみません。私のここでの役割とは……」
「あ、ヨシダさん。この学校でヨシダさんに先生になって欲しいんだ。アデヤ教の事をリーちゃんより分かってるから、これから学んでいく子供にとってはそっちの方がいいだろうし、仏教も理解しているから公平な目で色々教えられるかなって」
「え?じゃあ私は?」
「あとはヨシダさんに任せて、引き継ぎできたら僕らと修行をしよう!」
ウミが熱く語ってる。珍しい。やっぱりリーちゃんが気にかかってんだよな。
「え?ヨシダさんにここを任せて……ウミさんと修行!……こんなに早く……」
そうそう。悪鬼を倒してヨシダさんと話した時からみんなそう思ってたんだ。
「ウミさん!イヤです!」
「?」
「私、イヤです」
ズコ~!!なんでそうなる。
「リーちゃん?何を言ってるんだい?」ウミが戸惑いつつ尋ねる。
「ウミさんは、ここで子供達を教えるのも修行だとおっしゃいました。私はウミさんが迎えに来てくれる日まで、頑張って学校を軌道に乗せてたくさんの子供達に教育を与え人材を育てようと思っています。まだ1週間や2週間ではやっと学校としての形ができたくらいです。商家の皆さんも郷士さんの子供らの相手に苦労しながらも、工夫して教え方を考えてくれています。興味を引くように飴玉で計算させて、正解するとご褒美にあげるとか、習字用の紙を用意して持ってきてくれたりみんなが御殿様の指示もありますが、子供達の為にってやってくれています。服の寄付だけじゃなく、寄付金も。お昼には差し入れを持って来てくれる食堂の人もいます。まだ今始まったばかりなんです」
「なるほどね。リーちゃんの言い分はもっともだな、ウミ。俺らが浅はかだったな。リーちゃんの決意に対して失礼過ぎたな。ごめんな、リーちゃん。俺ら良かれと思って」
「気持ちはとっても嬉しいです!ありがとうございます」
「リーちゃん、ホントはね、ウミが一番リーちゃんを旅に加えたかったのよ。ヨシダさんの話聞いて一番目をキラキラさせてたもの。多分いちばん今ガッカリしてるわ」
「ユイ、やめてよ。バラすの」
バラすのって……ウミ、純情な子供か。ちょっとは抵抗しろよ。
「ウミさん!必ず迎えに来てくださいね!それまでにはきちんとヨシダさんに校長を任せられるようにしておきます」
「リーちゃん、素敵です!私ならすぐ仕事放りだしてついていきそうです。この人達、本当に無茶苦茶で飽きないですから。大丈夫です、リーちゃんいない間も私がしっかり記録しておきますから。それ読んだら私達に何が起こったか、どんな失敗したか全部わかるようにしておきます!遠くに行ってコーチに戻れない時は伝書カラスのローパちゃんに頼んで送ります」
そんな、なんも起きないって。
「ヨシダさん、そういう事で第二の人生はここで子供らの教育をして欲しい。ここの殿様は革新的な考えをしてくれていて教会のあったこの場所を学校にして、上士の子だけじゃなく商人の子、百姓の子、漁師の子、あと郷士の子、みんな一緒にここで学ばせてくれるんだ。そのきっかけを作ったのは今から数百年前に山内の殿様について尾張出身の吉田さんってお侍さん。その人の名前をあなたに引き継いだんだ」
「素晴らしい!分け隔てなくどんな子も学べるとは」
「まあその学びを将来どう活かすかはその子次第。ひょっとしたら優秀な子は商人の子も侍に取り立てられる未来も来るかもよ。郷士の子がそのうち天下を取る事もな」
「夢がありますね!やりがいがありそうです!私の眠っていた100年、それを無駄にせず100年分しっかり働きます」
100年働いたらあんた140歳くらいになるぞ……そこまでせんでよろし。
「ヨシダさん、私は教育できるほど知識もありません。目端が効くからということでソラさんに言われて校長という仕事を任されていますが、勉強を教えるのは商家の人たちの協力が主です。それもきっと負担をかけていると思うので、ヨシダさんができることから任せていいですか?」
「もちろんです!毎日、毎日寺子屋で子供らを相手に勉強を教えてきました。任せてください。子供は大好きですから」
「ヨシダさん、ここの郷士のガキども舐めんほうがええで。この前まで浮浪児してた連中やし」
「ふ、浮浪児?なんてことだ……。その辛かった分、しっかり愛情込めて教育いたします」
すごい感覚やな、まともな教育者だわ。
「ほんじゃリーちゃん、学校のこと、ヨシダさんの事よろしく頼むわ」
「御城へは?御殿様にご挨拶はされないのですか?」
「話長くなるし、あの殿さん隙あらばユイの手を触ろうとするから行かない」
「フフフ、そうなんですね。じゃあ来たことだけ伝えときます。なんで来ないんだってスネそうですけど。あ、ウミさんちょっと耳を貸していただけますか」
とヒソヒソ話をしようとするリーちゃん。なんの悪巧み。
チュッと突然リーちゃんがウミのほっぺにキスをした。なんじゃそりゃぁあああ!
「え、リーちゃん、なっなっなんでぇ~」とウミが顔を真っ赤にしてうろたえている。
「迎えに来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます。一緒の修行楽しみにしています!」
「リーちゃん、キスなんてなんで知ってるのさ」
「あ、ユイさんからお別れの時はこうするんだよってさっき……」
おい、ユイ!横向いて笑ってるわ、この人。悪い人やなぁ~。
「じゃあ、ヨシダさんも無事納品できたし、次行くか!」
「さすがに今日は泊まっていってくださいよ、サイタニ屋に」
「そうやなぁ、ウミ。じゃあ三助さんじゃなくてシロウさんが働いてた風呂屋行こうぜ」
まだ呆けてやがる。ガキんちょが。
「ウミ、今日は顔洗わないでいいわよ、フフフ」
悪い顔しとるなぁ、ユイ。
「ふむふむ」
サトちゃん、気配消してずっとメモしてるな。
「じゃあ、サイタニ屋帰って風呂入って寝たら出発!次は……多分何もなければ雪蹊寺!」
*(59話へ続く)*




