57話 浦島
「あのさ、あんた以前の記憶無いの?」
「あるにはあります。私はアデヤ様の信仰に触れてからはこの身を捧げるつもりでお仕えして参りました」
「お仕えってアデヤ教会で?」
「はい。それ以前は仏教徒でした。小さな寺院で僧侶をしつつ読み書きを教える寺子屋で近所の子供らに勉学を教えておりました」
「仏教のお坊さんが改宗してアデヤさんに極端に傾倒していったのか。想像通りやな。アデヤ教に改宗したからにはそっちを一番にしないと変えた意味ないもんな」
「アデヤさん?不敬な!崇高なるアデヤ様をそのように呼ばれるとは」
あんた真面目か!あ、狂信者だった。
「最後の記憶は?」
「最後?最新の記憶はタカマツ教会の司祭様に呼び出され……そこで食事をいただきました。それから……ああ、それからの記憶がないようです」
ん?なんか薬を盛られたか?
「ユイ、タカマツの教会って?」
「元々アデヤ教の布教が四国で一番最初に始まった場所。向こうの世界の香川の県庁がある高松ね。あっちで三越があった辺りに教会があったわ」
「あったわ?ってなんで過去形?」
「私がパパの所に行くより前だからまだ小さかったけど覚えてる。教会の判断で潰されたのよ。当時の司祭一派の過激思想、闇献金、有力者との癒着、献金強要、強制奉仕、挙げ句の果てに司祭の性暴力まで明るみになって、司教が出向いて破門、解散になったわ」
「ユイは体は小さくてもその頃から中身は……」
「うるさいわね!」
「司教の判断と言うよりアデヤさんの指示やろうな、教会の解散レベルは。そのタカマツの司祭も多分、熱すぎる信仰心から最初は教会を大きくしたい一心で周りの宗教を弾圧して統一していったんやろうなぁ。その過程で寺社仏閣の破壊に及んだのかな。この男はその実行部隊かな?結局は使い捨てのコマにされたんだろうな。アデヤさんが周りの宗教を全部抑えて唯一神となってからはその司祭も調子に乗ったんだろ。頑張った分だけ見返りを求めて不正に手を染めたのかな。でも不正の温床となった教会を見過ごすほどアデヤさんは甘くなかったと」
「そんな狂信者集団もいなけりゃ、どんなに正しい教義でもそれだけで勢力を広げるのは難しいよね。実行部隊も過渡期には役には立ったけど安定したら用済みになったんだ」
「そんな言い方はやめてよ、ウミ!」
「ごめん、ユイ。でもそれって歴史でもよくある事かなと。中国統一した漢の劉邦だって似たような事したし」
「まぁ幕末に活躍した坂本龍馬も高杉晋作も生きて明治を迎えたらどうなっていたかわからん。西郷さんですら謀反起こした扱いになってるしな。世が乱れる時期には必要だけど、って人材」
「まぁそうかもしれないけれど……」
「あの~?どういう事ですか?タカマツの教会が解散?司祭が不正?ウソですよね?」
「あ~言いにくいけど、あんた多分便利に使われたんだよ。あまりに強すぎる信仰心をね。教会での働きを見て司祭に目をつけられてたんだろ。こいつの信仰心は使えるってさ」
「記憶の最後に食事の時になんぞ薬か催眠術をかけられて洗脳されてたんだろうね。きっとアデヤ教だけが正しいと思ってたからそうなる土壌はこいつにもあったんだと思う。あちこち封印したりしているうちにやばい神様に手を出して返り討ちにあったのかな」
「それでも並外れたあんたの信仰心が、乗っ取られてからもアデヤさんの為にって、意識もないまま悪神どもを身にまといつつ寺社仏閣を壊しまくってさらなる土地神、悪神達のヘイトを集めまくったんだろうよ」
「そして悪意が積もり積もって制御不能の鬼になった……って事ね」
「ところでなんで生きてるんだ?この人」
「多分、悪神達に意識を乗っ取られた時に依代として仮死状態のまま体を使われてたのかな?核とする体をジップロックみたいに閉じ込められて体の機能は冬眠みたいにしてたのかも」
いややな、そんな肉体の保管方法。100年フレッシュなまま持つんか。
「アデヤ教が布教されて早い時期にそこらじゅうの封印終えてからはずっと、俺らがあちこち封印解くまで冬眠状態やったんかな。もし俺らが現れんかったらそのまま何万年も保存されてたかもな。タイムカプセルみたいやん」
「あの、聞き慣れぬ言葉ばかりですがなんとなくおおまかな流れは理解しました。私ははからずも信頼していた司祭様に裏切られ、アデヤ様の教えに背き悪い事に加担していたのですね?かくなる上は自ら命を……」
おいおい!
「あんた思考がホンマに昔の人のまんまやな。宗教家がそんなんするな。利休か!とっくに時代は変わっとる」
「そうだよ、それは責任から逃げるずるい方法だよ。元々は仏教の心得あるんでしょ?」
ウミ、なんか感じたのか?
「はい、かつては僧侶でしたので」
「そしてアデヤ教を信仰していたと」
絶対同じ事考えてるな?
「はい!敬虔なアデヤ教徒だったと自負しています……しかしなんて事を。この私がまさか寺を壊してまわっていたと?神社も土地神様も。私は取り返しのつかない事をしてしまいました」
サブロウと喋ってる気持ちになるな、この語り口調。調子狂う。カッパ達元気かな。
「あんた、坊さんの頃は寺子屋で子供らに読み書き算術も教えてたんだよな?」
念のため聞いておこう。
「はい、もともと子供好きですし」
「仏教の心得もあってアデヤ教を信仰していて、勉強も教えられるのね?」
ユイ、お前もそう思った?
「あー面倒くさい!またUターンか」
なんかコーチに呼ばれとる気がするなぁ。
「名無しのおっさん。名前ないと困るから俺がつけて……いや、ユイ、お前が考えてあげな」
「なんで私?」
「聖女だから……。こいつもある意味被害者で、本当ならとっくに寿命で人生終わっとるはずやん。そしてこの世界ではもう死んでるに等しい。新たな生きる道をアデヤ教の聖女たるお前が示してやれ」
「なっ……。でもそうね、わかったわ。じゃあ、あなたの名前はヨシダ!私達の色んな思いを乗せた名前を託すわ」
「私はヨシダ?ヨシダですか。わかりました。しかし、貴女様が……聖女様ですか……?まさか生きてるうちにお会いできるとは……。このいただいた名前のヨシダ、残りの人生をアデヤ様に捧げます」
ん?人生を捧げるって?それは絶対にあかん。
「その激しい思い込みがダメだ。あのな、宗教に命かけるな。これからの人生の彩りと思え。それを生きがいにするな。自分のために生きろ」
「そんな生き方……今さらできないです」
「今から試してみたらいいさ。あんたの居場所検討つけたし」
強く頷くウミとユイ。みんな同じ事考えてるな。
「ダルいけどまた高知行くかぁ~待ってる人もいるしなぁ、ウミ」
「そうだね!」
「あの、行きかけた札所はどうします?」
あ、サトちゃんさすが。目的をちゃんと覚えてる。やばいやばい。
「安穏寺さんに挨拶して、まずは寄れるとこ寄って封印解いてからコーチに入る!」
「ほなヨシダさん!」
「はい」
「腹は減ってる?」
「え、あ……まあ」
「ほな安穏寺さんとこでご飯食べてから出発。服とかは道中適当に揃えよう。坊さんの頃のお経も覚えてるよな?」
「はい、もちろん。人生の大半は真言の僧侶ですから」
「ほな、仏教の細かい事とか覚えていることをこれから寄る安穏寺さんって人に教えてあげて。その人、本物の坊さんに会ったことないんだわ。あとな俺ら、あんたが狂ってた時に封印しまくった所を逆に解放してまわってるから。あんたも罪滅ぼしだと思って封印解くの手伝って」
「いえ、それはアデヤ様の教えに反する事で……」
アデヤさんは封印までしろって言ってないぞ!過激派が勝手にやったことだって。
「あのさ、そこに聖女おるけど?聖女も俺らと一緒に解放してまわってる。まぁそういう事。アデヤさんはそれを推奨はしていないけど、禁止もしていない。だったら俺らは寺だったところや神社だった所の封印を外す。その後そこがどうなろうかは知らん。信じる人が集まったらそれはそれでええと思うし、誰も訪れずそのまま廃れてもええ。別にそこでアデヤ教の人が手を合わせていってもいいし。自分が信じたいものを信じたらええと思うよ。信じるものを一つに強制されるべきではないってのが俺らの見解」
「そういう……事ですか?聖女様」
「ふふ、まあ私はアデヤ教の聖女しながら、ソラ教の信者よ」
「それ、やめい!」
そんな事を言いつつ僕らは30番善楽寺、31番竹林寺とまわり、32番禅師峰寺はちょっと遠かったけどコーチ行ってからだとまた行くのがダルいので先に済ませた。太平洋沿いを歩いてコーチに向かうと、海を挟んだあっち側に桂浜が見えた。
「ソラ君、ソラ君」
「なんだね、ウミ君」
「桂浜の丘の上に、サカモトさんの霊が暇そうにしてチラチラ横目でこっち見てるよ」
「ああ……腕組みしてふんどし一丁で太平洋睨んでる変人な?目を合わしたらいかん。他人のフリしとけ」
「室戸でナカオカって人も無視してたよね?なんでなの?」
「関わると面倒くさそうだから……やたらと話長そうだし」
「ただでさえ寄り道多すぎるからね、僕ら。何度コーチに行ったり来たりしてるのかな」
「ま、からまれないうちにとっととコーチ行ってリーちゃんに会いに行こう!」
「この前コーチを出たとこですのにね」
それを言っちゃおしまいよ、サトちゃん。
「そもそもこんなルートを……」
「うるさい!ソラ。もう飽きた、そのくだり。付き合うこっちの身にもなってよ。ヨシダさん体力なさすぎてライフはゼロよ!」
よかった僕より体力ない人がいて。
「ヨシダさん、コーチ着いたら美味いもんいっぱい食べさせてあげるから頑張りや。とりあえずモンエナわけてあげるわ」
もったいないけど虎の子のモンスターエナジーを取り出しヨシダさんに飲ませてあげる。
「なんですか!これは。喉が痛い!はじけて痛いです!毒ですか?喉も胃も刺されるような痛みが!」
「あ、元気になったね、よかったよかった」
「そうなのかな?」
「そうなんちゃう?下俯いて足引きずってたのになんかわーわー言うてはるし。元気元気、うんうん」
さあ、とっととコーチ入るよ!
*(58話へ続く)*




