54話 破邪の矢
**あっちの世界の善通院 深夜1時**
プルルルル……プルルルル……
「はい、ん~善通院葬祭の、や、やまうちですぅ……」
「あ?社長?わしわし、天狗や。え~と悪い、寝てた?」
「はぁ天さんか?なんや?寝取るに決まっとるやろ。こんな夜中に」
「それでも2コールで電話に出るとはまだ現役のプロやな。長年の習慣が身体に染みついてるのぉ。ソラの言う通りや」
「ソラぁ?ソラがどしたんなら?」
「ソラがの、あっちの世界で大怪我しての?かなり危ない状態で」
「なにっ!ソラが!ホンマかっ!容体は!意識はあるんか?」
「……まぁ冗談やけどの。でもやはり社員大事なんやの?鬼の山内って聞いてたけど」
「ん?いや、労災になったら面倒やけんのぉ。うちの田中がこの前、霊柩車で琴平の交差点曲がる時、横転させてちょっと打撲して病院かかったから、なんかあったら労基署がうるさくなると面倒やけん」
「そんな事情かい!ま、あっちの世界には診断書出す医者もおらんから心配すな」
「ほんであいつは怪我はしとらんのやな?」
「いや、怪我はホンマや。手のひらをざっくりとやって大量出血。こっちやったらまぁ4~5針は縫わなあかんくらいやな。かなり出血したらしいけどうちの娘が応急処置でなんとか」
「大怪我やないか。こっちで治療させられんのか?」
「あ、あいつホンマに面倒臭いヤツでルールがどうこう言うてわしに治療もさせんかったわ。チートがどうこううるさい!絶対言うても来ないぞ」
「こっちには無い、ばい菌とか入って大ごとにならにゃええがのぉ。破傷風とか怖いぞ」
「あ、その辺はうちの娘がうまい事しとる。ソラが気を失っているうちに応急処置で化膿せんようにしとるわ。起きとる時にやるとあいつまた魔法がどうじゃこうじゃ言うて暴れるからこっそりな」
「あいつ変に頑固やからのぉ。って天さん、こんな夜中に怪我の報告か?」
「あ、ちゃうちゃう!大事な用事や。社長!今から宇多津の合掌寺さん行って、飾りじゃなくてホンマもんの破魔矢手に入れて来て。ソラからの伝言」
「伝言て……合掌寺の住職寝とるぞ、こんな時間やし」
「社長、おたくらの性分知ってるんやぞ。電話あったら夜中でも飛び起きて仕事するやろ?あんたも社長いいながら宿直の社員ばりに2コールで起きたやないか。住職やって夜中に檀家から電話あったら行かなあかん。さあ、電話してもらってきて。御祈祷済みの特別にごっついやつを」
「なんに使うんなら?」
「それがなかったらソラ、今度こそ死ぬかも知れんぞ。わしが手伝うって言ったけどそれはズルになるから手助けいらん。方法だけ教えてくれたら自分らでやるっての。ホンマ頑固」
「まぁ、筋が通ってなかったらわしにも歯向かうからのぉあいつは。わかった、合掌寺さん電話して頼んでみるわ。それが無かったらソラがやばいんやの?」
「そう。うちの未来の息子のピンチや……」
「ん?息子?」
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プルル……
「はい、こちら天狗!」
「おお、天さん。住職叩き起こしたらOKやと。今から祈祷して念を入れまくるからすぐ来いとさ。で、天さんも一緒に来てくれ」
「え?わし、行ったらまずいんやけど。人の姿じゃなくなるが」
「誰が金払うんぞ?」
「え?……社員が使うからそれは御社の経費では……」
「住職のやつ、いつもニコニコ現金払いしか受け付けん言うとるが。うちは10日締めの翌月払いじゃ。無理」
「え~それってなんぼするん?わしの手持ちで足りるかな?」
「時価言うとったぞ。普段売ってないやつやて」
「旬のウニか!怖いわ!」
「でも天さんと一緒やったらタダでええて」
「わし?なんでや?ひょっとしてわしの事、喋った?秘密べらべら喋ると消されるよ?社長?ええの?」
「だって、こんな夜中に無理言うから相手もなんか怪しむやん。事情説明せな納得せえへん。ほんでまぁぼかしつつも箸蔵の天狗様の依頼や言うても信じへんやん。天狗なんて都市伝説みたいなもんやんか」
「まぁ、寝てるとこ叩き起こされて、天狗が言うとるんじゃ~言われて即、信じるヤツはちょっと頭イタいやつやな。付き合い考えるべきやな。普通は夜中にそんな戯言言うて、喧嘩売っとんのか!ワレ!ってなるわの」
「ほんなら実物連れて行ったらええんやの?って話になっての」
「まてや、わし、夜中に天狗の格好で行ったら、ただの変なコスプレしたイタいイケオジやんか!そんなんいやや」
「イケオジは置いといてソラの為や我慢して。ほんだけん一緒に車で行こう!わしの家知っとるやろ?宇多津まですぐやし。待っとるわ」
ガチャ。
「なんかようわからんけど行かなあかんのやろうなぁ。わし、こんなにあっさり存在ばらされてよかったんやっけ?なんかめっちゃオープンな妖怪みたいやん。まぁホンマのとこは天狗でもないしまあええけどな……」
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「社長、宇多津入ったらわし、隠蔽の術使えんようになって天狗の姿になるぞ。ええんか」
「ええよ、ええよ。合掌寺さんのオーダやし、生の天狗連れて行くって」
「責任取らんぞ?ええな?ほらそこ!そっから宇多津って看板!」
「責任ってなんや……って、おいっ!天さん、羽を車の中で広げたら前が見えん!」
「の?いうたやろ?天狗やから羽があってなんぼじゃ。絶対ひっこめへんからの、カカカカカ……」
「わかっとってやったのぉ、天さん」
「社長チビやから羽の下からでも前見えるやろ?愉快愉快。サンバ趣味のじいさんが頭から羽生やしとるみたいや。薄毛も隠れて派手でええぞ」
「だれが薄毛じゃ!若干控え目にしとるだけじゃ。そう言うとる間に着いたがの。近くて助かる」
「しかしここ久しぶりに来たけど、霊力がホンマに凄いのぉ。人がここまで霊力を高めて厄除けに特化した寺を作るとは、霊場作った空海もびっくりじゃ」
「それが人の力なんやろうな。何十年、何百年、千年以上かけて人の祈りや思いが集まってこの形になったんじゃろう。さぁあそこの灯りがついてるとこ。あそこで住職が用意して待ってるはず」
「なぁ、わし変じゃない?ノーマルな天狗姿披露すんの、久しぶりでちょっと緊張する。フォーマルな天狗の方がよかった?」
「ノーマル、フォーマル、カジュアルも有るんかしらんけど、そもそも普通の天狗あんま見たことないからわしにはわからんよ。天さんわしと会う時も人の恰好がほとんどやし。ま、イメージの天狗と大差ないからええんちゃうかな」
「ステレオタイプな天狗にはなりたくないの」
「一般的な天狗をそもそも誰も知らんのよ。赤い顔で鼻が高くて羽があったら天狗かな?くらい」
「ま、わしも要はビジュアル天狗やしな」
「ん?見た目だけって事?」
「一応天狗として顕現しとるだけやな」
「え?本体は天狗やないの?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
「ま、どうでもええわ。こんばんわ!合掌寺さん!用意できた?」
「おお、社長。ホンマに来たか。そしてそちらが!うおおお~!本物の天狗様かっ!よく来てくださった。凄い、羽が……うおおお。テンション上がるわぁ」
「住職、感動してくれるのはありがたいが、破魔矢の用意を……」
「ああ、すみません。喜びのあまり失礼しました。しっかりと念を込めて祈祷しときましたよ。……!!」
「ん?どうした住職?」
「天狗様、その……立派な背中の羽をいただく事はできませんか?見たこともない大きな羽。それを破魔矢の矢羽根に使わせていただければより強くどんな邪でも穿つ事ができると思いますが」
「わしのか?別に構わんがお前に扱えるかの?念は入れられても矢も自分で作れるのか?」
「これでも今まで厳しい修行に耐えてここまで来たんですぞ。昔はこれらを作るのも修行のひとつでしたわ。すぐ仕上げますからお待ちを!」
「おたくら寺で内職で御守り作っとるんか?知らんかったわ。ブラックやのぉ。」
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「じゃあ天さん、ソラをよろしく頼みます。あいつ手のひらの怪我がひどいと聞いておったのでこれを……」
「ん?本革のドライバーズグローブか?かなりええやつやの?」
「包帯の上からでもつけられるし、指先が出てるから細かい作業の邪魔にはならんでしょう。くれぐれも自分を大切にするよう伝えてくださいや。あとは王将が閉まっとったんで24時間スーパーの総菜を……」
「ふふ、ええ社長やの。きちんと届けるわ。任せとけ」
「天さん、頼んます。ところで、さっきから気になっとったんやが、天さんあなた本当に天狗なんか?それとも違う別の者なんか?」
「ん?だから天狗と言われたら天狗や言うとるやろ?人にお前は百姓と言われたら百姓やし」
「相手次第でなんにでもなるのかい?」
「人が思うように思たらええが。一部ではわしを神と呼ぶ奴もおれば仏と呼ぶ奴もおる。呼び方なんざなんでもええが。わしはわしじゃ。あれもこれも全部わし。この1000年くらいは箸蔵の天狗が気に入っとるからそう呼ばれる事が多いだけや」
「天さん……あんた……」
「そう、わしは天さん、天狗の天さんじゃ、お前にとってはスナック行ったりして遊ぶツレの天さんや。ほな行くわ!また電話するけん飲みに行こうや、社長」
「うは~社長、ホンマに飛びよるんやな?天狗様は……って社長?なにポカンとしとるんや?大丈夫か?」
「はぁ……天狗の天さんのぉ。ホンマ何者なんや、あのお方は。底が見えんわ」
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「よしよし、無事に合掌寺さんの破魔矢も手に入ったし惣菜も社長が用意してたし。そうや、このドライビンググローブちょっとだけわからんように細工してソラに渡してやるか、フフ」
*(55話へ続く)*




