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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
札所

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53話 完敗の後


ん……ここは……


「あ!ソラ気がついた?気分はどう?」


ああ、気分?最悪だな。負けるの悔しいな……。あと、ホントに死にそうになるってこんな気分なんだな。クソっ!


「え~とても気分は悪いです」


「そんな事言えるなら大丈夫だね、安心した。いつものソラ君だ」


どういう事。


「びっくりしたがぞ、ソラ。ユイ殿が泣きながらお前を体に縛ってぶら下げてフラフラで空から下りてきて。見ればお前の手は応急処置はしたといいつつ血まみれじゃったし」


「ごめん、安穏寺さん。迷惑かけます」


「そんな事はどうでもええが、……あそこにおるあの人は誰ぞ?」


あの人?ああサトちゃんか。まだ紹介してなかったのか、ユイ達。


「ああ、新しい女の子の仲間が増えたんだよ。あそこにいるのが……」


と安穏寺さんが指差す方を見ると……お、おっさん!?


「天さん!」


なんでここに?


「久しいの、ソラ。やられてボロボロじゃの?笑えるわ、カッカッカ」


パシーンとユイに叩かれる天さん。


「ユイが泣きながら緊急ですぐに来て!と、言うことで呼ばれて来ました。で?なによ、めっちゃ死にかけたって?」


「死にかけてはいないよ。死にそうにはなったけどユイがギリ助けてくれたから全然平気。右手はなんかもう感覚ないけど」


「出血多量で死にかけてたって。ひどい傷でいくら包帯を変えても血が止まらなくてね」


そうなんか。ウミ、心配かけた。


「……で?ソラよ、さっきから聞いとるけど誰ぞ、この人は?」


あ、安穏寺さんごめん。


「これ……いやこの人はユイのお父さんで天狗ですわ、箸蔵山の」


「え?うそ?天狗ってか?おるんか?そんなの」


「それがホントなんだなぁ。紛れもなくホンマもんの天狗です。今は人の格好してますけど、時々天狗に変身して空飛んでますわ。人間と元カノには見えないようにしてね」


「え~と、只今ご紹介にあずかりました箸蔵の天狗です。この度はうちの娘とガキどもが世話になりまして」


「いえいえ、こっちこそ色々世話になりっぱなしで。こんなところでよければいくらでも……と言いたいとこだが、そうもいかんのよな?ソラよ」


「うん、明日にはヤツが来ると思う」


今の結界じゃ足止め程度だもん。


「あらかたお前が寝てる間にウミとユイから何があったかは聞いた。細かいところはサトちゃんが書き留めてくれてた記録を読ませてもらった」


いきなりサトちゃん呼び?馴れ馴れしいぞ天さん。


「もうこの上なく完敗。僕ら3人が何しても全く通用せず。ほんま情けないです」


「あれの正体、天さんはなんだと思う?」


「見てないからなんとも言えんが、元は人だったもんじゃないか?人がその土地付きの神さんを封印してまわりよるうちに、あかんのに手を出して取り憑かれて、そっから土地神の中の悪神を取り込んでどんどん大きくなって鬼に変わったんと違うか」


「ユイもそれっぽいこと言ってたわ」


「で?どうするよ?おっと、それよりまずはお前のひどい傷はわしが直してやろう」


「ん?天さんの力で治す?それはいいよ」


「なんでよ!せっかくパパを呼んだのに!」


「負けたのは俺の力不足。怪我をしたのも自己責任。相手の力を見誤って追撃して大怪我して、天さんに簡単に治してもらってまた戦って、怪我したらまた治してもらってって……それじゃあ漫画の世界じゃん。その力が使える天さんは凄いけど、放っておいても人間には自然治癒力ってのがある。その辺の薬を塗ってそれでも治らなきゃそこが自己再生の限界ってこった。格好つけるわけじゃないけど、それで何度も戦ってそのうちやっと勝って喜べるか?負けて死んでもセーブポイント戻ってやり直し。俺はヤダよ」


「バカなの?意地はってる場合?」


「この世界にもしヒールとかポーションとか使えるなら相手も使えると考えるべきだろ?なんでこっちサイドだけ都合よく使えるんだよ。そもそもそんな力があったら怪我人、重病人を先に救え。なんで冒険者や宗教家の特権みたいになってんだよ。俺は自力で治せるとこまで治せたらいい。天さんの力は特別だよ。チートだな、チート」


「ん?ソラ?それってひょっとして天狗と神様に喧嘩売ってるのか?」


天さん、凄むなよ。ユイもビーム打つからそもそも反則っちゃ反則だけど、まぁ神様の一族だからな。


「神様クラスに喧嘩売ってるつもりはないよ。人が都合よくなんでもかんでもアテにしちゃダメってことさ。危なくなったら天さん!アデヤさん!助けてって頼むのは子供でもできる。でも俺らが目指すのはそうじゃない。もし怪我したら治るとこまでそれでいいんだ。熱が出たら休んで熱が下がるまで寝る。できるだけ人の力は借りない。ふっとばされて無くなった手が生えてくる。一度死んだ人が生き返る。なんぞそれ。生死の概念ガバガバじゃん。死人も出なきゃ葬儀屋の仕事いらんが」


「ハッハッハ、なるほどな、わかったぞソラ!もしお前に泣きつかれて助けてと言われたらガッカリするとこだったわ。やはりそれでこそソラだな。安心したぞ」


「でも天さん、知恵はなんぼでも借りるよ。あいつに攻撃するのはどうやったらいいかな?今は全くわからん」


「さっきも言ったが聞く限りは、アデヤ教の狂信者が各地の祠や寺を封印してまわるうちに悪いのに取り憑かれたんだろ?自分は次々封印しとるつもりが、知らん間に悪神、邪神を溜め込んでいったんだろう。それがふくらんで悪鬼になって制御不能になってんだな。一度全ての封印が終わってからは眠っていたのを、お前らがまたあちこち解放し始めたから目を覚ましたと思うがな」


「僕らのせいだったのかな。封印してまわるうちに取り憑かれて狂ったのか、それとも元々狂っていたのか。どっちもかな」


ウミ、僕らのせいじゃないぞ。つけ込まれたヤツが悪い。


「天さん、僕らは今まで人や犬が悪霊化したのは見たことがあったけど、悪神なんて凶悪なのは初めての上にさらにそれが混ざり合って悪鬼になっているのなんて、どう対応したらいいのか全然わからん。勝ち筋が見えなくて逃げるしかなかった」


「悪鬼な。もう人でも無く神でも無い。まさに『邪』の化身じゃの。そうなると邪を祓う強力な手段が必要になる」


「ユイ、聖水とかホーリーライトとかそんなインチキ魔術みたいなの使えないの?」


冗談で言ってみた。


「バカね。そんなのあったらサチに会った頃からそこらじゅう清めまくってるわよ。漫画じゃあるまいし」


僕と同じこと言ってるな。でも実際にはそんな便利なものは実在しない!


「邪を祓うね……ねぇソラ君、魔を祓う破魔矢(はまやってあるじゃない?」


ああ、初詣とかで授かる厄除けのお守りな。


「あれ、うちにあるよ」


「え?善通院?じゃあそれを……」


話が早いぜ。


「ん?善通院のか?あれも悪くはないが威力は弱いぞ。家庭用の厄払いだからそこら辺の小物には効くけどな」


え?天さん、それはどういう?処方薬と市販薬みたいな差?


「人の生死がかかるような厄を払える厄除け専門の寺で、しっかりと術者の御祈祷を受けたやつじゃ無いと本物の邪は祓えんぞ」


「本物で専門的なやつなぁ~。お祓い、お祓い……。あっ!そうや、宇多津の合掌寺や!あそこはがっつりそれ専門の厄除け大師さんだわ。仕事で何度か社長と行ったことがある」


香川の海に近い町にある札所だ。もっと後に行く予定だったとこ。


「ああ、宇多津のあそこか。確かにの。あの寺、アホみたいに霊力が強過ぎてわしが行ったら、わしの隠蔽術すら解けて気づいたら天狗の姿に戻るから個人的にはあの辺は近付かんようにしとる。宇多津の町自体がもう護られてる感じぞ」


「え?天さんですら近寄れんの?こうなったらしゃーない。うちの社長にお使い頼もうか。天さん、社長ともうツレやろ?あの人、深夜でも爆音で鳴る携帯を枕元に置いてるから、夜中でも起こして破魔矢用意してって頼んで。あと合掌寺の御住職も社長とはなあなあやから深夜でも対応してくれると思う」


「ん?しやぁないのぉ。まぁ、かわいい娘の婿さんの頼みや。先々の為に恩を売っておくのもええか、へへへ」


誰が婿じゃ。


「でも、ソラよ。破魔矢って基本は装飾用やろ?矢尻も無いし弓で飛ばそうとしてもあんなん飛ばんぞ。手で投げた程度じゃ刺さらんし。どうするつもりだ?払いのけられてしまいぞ」


「そうよ。私のビームも意味なかったし。あなただってその手じゃ何もできないでしょ?かなり血を流したし」


「ああ、貧血気味でまだフラフラはする。横になってる分にはええけど。ウミ、血を作るのに必要な食品は?」


「鉄分やタンパク質がいるね」


「天さん、善通院の王将でレバニラ炒めをテイクアウトで」


「わし、ウーバちゃうぞ!」


「それも一種のチート使ってるのと一緒じゃない!チートの文句ばっかり言うくせに」


それを言っちゃぁ……。


「ちなみにソラ君、レバニラ食べてもそんなすぐに血にはならないよ」


あ、そうなの?


「ま、そこは気合でなんとかする。血が止まったから最悪、大丈夫」


「あとは装飾用の矢を悪鬼に打ち込む方法を考えないとだね」


そこはもうある程度寝ながら考えた。なので天さんが戻るまでさらに寝る。


「ユイ!」


「なによ……」


「膝枕して」


「バカ!」


ふふ、冗談だよ。


「ソラ君、天さんが来るまでずっとユイの膝枕で寝てたよ。天さん来たから恥ずかしがってユイもやめたけど……」

挿絵(By みてみん)

「そうですね、ユイちゃん、ずっと心配そうにソラ君の顔撫でてました」


「えっ……」


「あ!ソラ君、また血が……」


一瞬で体中の血圧上がったわ、ドキドキ。知らなきゃよかった。貧血治った~!かな?無理か。


*(54話へ続く)*


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