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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
室戸へ

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50話 対峙


**高知城書院にて**


「お主ら、この前出ていったかと思えばもう戻ってきたのか?しばらくはわしの元で働く気になったのか?」


「それはさておき……」


「殿に対してそれは無礼だぞ」


ダンディ家老、固いなぁ。


「よいよい。なんぞ願いがあって来たのだろう?ソラの言うことは聞いていても悪くはならんと思う。申せ」


「そんな信頼されてもこれが正解っていう事はできないんですけど。この前の葬送の儀式の時、殿様は大量の霊が見えましたよね?近くにウミやユイもいましたから」


「ああ、見えた。二人がいるときだけはわしにも何か見えないものが見える力が強まるようじゃな」


「あれは霊です。郷士の集落で見た吉田さんも霊でした」


「うむ、そうじゃな。亡くなった者どもじゃったな」


「はい、そこで質問。殿様はアデヤ教徒ですよね?」


「もちろんじゃ。この国に住む者は皆、アデヤ様のお導きによって暮らしておる。当たり前ではないか」


「その教えだと、霊がいるわけないんですよ。即転生なんていう教義ではね。霊が見えない僕みたいなのは信じちゃいますけど」


「私も見えておりませんので、霊と言われましてもピンと来ませんでした」


家老も見えてなかったもんね。でも雰囲気は感じてたはず。


「そこに聖女もいるので嘘偽りなしで申し上げます。アデヤ様が亡くなった方を即転生させているのは事実」


「うむ」


「でもこの国に住む全員を同時に転生させるほどの力は無いんです」


「ふむ」


即否定しないところがこの殿様の賢い所。狂信者じゃなくて助かる。


「アデヤ教の信者の中でも、ひどく苦しんだ者、辛い思いをした者を最優先で救済しているが為に一般の人は後回しになっているのです。手が回らず100数十年分の一般の霊がそこかしこの町に溜まっていっているのがこの前の儀式の時の状態です。この町だって月に何人亡くなります?それが1年、10年、100年分とか。この前これまでの霊は皆天に帰しましたけど、これからもまた亡くなる人は当然出るでしょ?」


「もちろんじゃ。生まれる子もあれば亡くなる者も出る。世の習いじゃの」


「だから今後もそれは続いていくわけですよ。でもアデヤ教にその概念を押し付けるわけにもいかないんです。アデヤ様を信じていますからね」


「そうじゃのう。わしはともかく教会がアデヤ様の教えを否定するわけにはいかぬの」


「なので既に司教には聖女から手を回しておきました。週に1回、祈りの日を設ける。そしてそれまでに亡くなった人への祈りを捧げるのです。今では即転生だからある意味次の人生おめでとうくらいの感じでしたけど、亡くなった方へ祈りを捧げることでその霊に帰るべき道を示してあげるのです」


「道をのう」


「アデヤ教徒は即転生なのになんで自分はここにいるの?って混乱したまま過ごしてるんですよ。そしてこれまでに亡くなった霊が町を徘徊しているのを見てそれに着いて同じ様に彷徨う。それをこれまで100年以上続けてたんです。でもこの前二の丸で葬送の儀をしたじゃないですか?あれでなんとなく祈りの雰囲気を町の人も見た。そして週に1回の教会の祈りを見て今度は自分が送られる番を悟って上がっていってもらうってのが僕の案です」


「1週間分の霊をまとめて送るのじゃな。面白いな」


「僕の働いていた町ではほぼ毎日していましたけど、いきなりそれをするにはまだ早いかなと思いまして」


「聖女様、それはアデヤ様的に問題はないと?」


「はい、そこは問題ないです。教義に反しますが実際に霊が留まっていたのも事実です。それを女神の手を介さずとも空に帰してもらえるのはありがたいことかと」


「空でまた霊が溜まってしまうのでは?霊だらけになりませんか?」


「そこは無為にこの地で彷徨うよりは意味があります。自分が亡くなったことを知って、上で何をすべきか悟り、修行をする者は修行を重ね次の生まれ変わりに備えることができます」


「アデヤ様一人だからそのような混雑が生じているのでは?」


「うぐっ……」


殿さん痛い所を突いたな。ワンオペは大変なんだよ。注文取って料理作って配膳してカウンター片付けて洗い物まで一人でってどんだけ大変か。アデヤさんの大変さ伝えてあげたい。


「殿様!」


「なんじゃ?」


「これ僕個人の意見ですけど、殿様は聡明な方なのでお話します。そもそも一神教の世がおかしいんです。それまで仏教一つでもたくさんの宗派があって寺も一つの町にいくつもあって、さらに神道、神道にも色々ありまして、さらに他の宗教もあったんですよね。それらが色々争って見るに耐えないってことでアデヤ様がアデヤ教に統一したんです」


「そうだったんだな」


「ユイ、俺らも詳しく聞いてなかったんだけど、上がった人はず~っと何百年も渋滞の中待ち続けるの?」


「天界の事を細かく言うのはアレだけど、天に登りさえすればあとは転生のジャッジだから早いわよ。渋滞の理由は生前の行いの判断をママが一人一人しているからなの。選んで上げて転生させるって作業のうち、選んで上げるに手間がかかるのよ」


「とりあえず全員を上げようとしている俺らのやり方は?」


「ある意味凄く助かる。上がりさえすればママが上で振り分けを決めるだけだから。補佐の神もいるし」


「なら教会で最初から葬式上げて~ってしとけば問題なかったじゃん!アデヤ様バカなの?」


「お主なんという不敬な発言を!」


殿様怒った。ヤバい。


「ソラ、いい事?数ある宗教の中でなんでアデヤ教が統一できたと思うの?仏教にも無くなったら極楽に行けるって教えの所あるでしょ?イスラムにだって殉教したらってあるでしょ?みんな死後の幸せを願ってるからそういう宗教に惹かれるのよ。死んだら地獄って宗教をあなた信じたい?比較的新しい宗教であるアデヤ教が最強になるにはさらなる差別化が必要だったわけ」


「そこで激甘な死後を約束したってわけか?死んだらすぐ転生。死は怖くない、恐れることはない、悲しまなくていい、葬儀、法要不要、お財布にもやさしいよ~って」


「すごく悪く言えばそうね」


いや、そのまんまやん。


「だからその教義を否定することになるから、葬儀、法要、墓の概念をうたえないのよ」


「いびつやなぁ」


「半分くらいしかわからんかったが、まぁ間違いに気づいてはいたもののやりたくてもやれなかったということかの?」


「トライアンドエラー、間違ってたら修正してもいいと思うけどな」


「できたら苦労しないわよ!」


「手伝うけど?」


「えっ?何を?」


「教義の訂正。いいじゃん、これからは葬儀します、法要します、墓作りますって」


「そんなこと今さらできるわけないじゃない」


「やればいいじゃない。した方が絶対いいんだから」


「そうだね、これまで僕らが色んな町でやって来たことをそのままこれからの町でもやって、アデヤ教の教会の人に伝えてやっていけばいいじゃない。コーチの司教様みたいに協力してもらえばできるよ」


ウミの言う通り。


「コーチでできたのは殿様が理解あったから」


「だからここに来たんだよ」


「?」


「殿様、トサの国の全域にお達しを出してください。聖女とその一行がまわって行く。仔細はそのもの達の言う通りにって」


「ふむ。よいぞ。食客じゃしの、お主らは」


「あとね、イーヨーとサヌキとアワの殿様にも紹介状書いて。山内家の食客で話を聞いてやってくれって」


「なかなか欲深いの、ふふふ。面白くなりそうじゃの」


「あとね、町の外に疫病防止の為に墓を……」


「ソラの好きにせい!事後承諾で問題ない」


「ありがとう!聖女の手にキスした件チャラにするわ」


「キス?キスとはなんぞ?」


「なんでもないです、御殿様」


慌ててユイが止める。うぅ……正座した足の指先にパンチすな!痺れがまわってきた……。


その後僕はウミに肩を借りてお城を後にしたのだった。


---


**サイタニ屋にて**


「ユイ、あれで良かったかな?勝手に話進めたけどアデヤさんにバレたらヤバいかな?」


「え?あのやりとり?ママずっと聞いてたわよ」


「へっ?」


「なんか大事な話だったから回線繋いで同時配信してたけど」


YouTuberですか?


「怒ってなかった?」


「トライアンドエラーに関してはまさにママも感じていたことで、どうにかしたいけどアデヤ教としてやると矛盾が出るので頭を抱えてたって言ってたわ」


「じゃあ部外者の俺らがやる分には?」


「言いたくないけど助かる」


「俺らがアデヤ教、一神教を否定する点は?」


「それには当然だけど賛同は絶対しない。ママは信念があって始めたことだから」


「でもミスには気づいているよね」


「……」


「部外者の手を借りないと成立できない時点で失敗してるんだよ。俺らのやることを見逃してたのもそれがあるからだろ?完璧に正しいと思ってたら最初から妨害してるはず」


「今度ゆっくり話しましょね、だってさ、ママが。し~らないっと」


「え?女神と?まぁいいよ。前にも言ってたことだしさ。今度ゆっくり、だね」


と言いつついきなりユイのおでこにおでこをくっつけて言う。あ、顔がめっちゃ近いな、ドキドキ。

挿絵(By みてみん)

「アデヤ様、初めまして。ユイと旅をさせていただいているソラです。ご存知ですよね?聞こえますか?」


「聞こえますよ、ソラ。神のやることに意見するとはあなたもなかなか勇気がありますね」


落ち着いた静かな語りだな。ユイの頭を通して直接僕の頭に話しかけている。ウミとリーちゃんとサトちゃんはポカンとしてる。


「勇気なんて無いですよ。女神様が本気を出したら僕らなんてゴミみたいに消されるでしょ?あなたに見逃してもらっている自覚はちゃんとあります」


「女神と直接そうやって話すこと自体が勇気があると言っているのです。前にユイに言われませんでしたか?あなたは今、人の身でありながら神の神託を受けているのですよ?その事を理解していますか?」


「ああ、そんな事言ってましたね。でもね、言わせてもらうと僕は仏教徒です。神様の神託を受ける立場にありません。もし僕が道を歩いていて突然神様の声が聞こえてきたとしても、気のせいと思うか、自分の頭がおかしくなったと思って精神科に通いますね」


「ソラ、あなたは遠慮というものが全くないですね?怖くないのですか?もし私を怒らせたら?」


「アデヤ様、あなたは怒りませんよ。こっちの世界に来てあなたのことが少しずつ分かってきました。最初は僕らと真逆だと思い反発していました。宗教を押し付けるなんてバカげてるって。でも旅するうちにその必然性があったのかもって思うようになりました。やり方は僕らとは違えど、その時はそうせざるを得ない状況だったんでしょう。そこは否定しません。納得もしないけど」


「納得しないけど否定もしないと?」


「はい、そしてあなたは統一神となった。でもミスはミスとして認めている。それをフォローしている僕らの動きもわかってる。だから僕らを生かしている」


「ふうん……なるほどね。ソラ、あなたの事もわかってきたわ。娘……そっちではユイという名をつけられたのね?ユイがあなたに惹かれたのも、天狗のバカがあなたに肩入れしている理由もね」


目の前のユイが真っ赤になってるけど一言も喋らない。喋れないのか?


「僕は僕が感じたことをやっているんです。正解不正解はわかりません。僕が正しいと思ったことをしています。神様から見て間違っていると思ったら消してもらって結構です。人として間違いは犯さないつもりで生きてますけどね」


「わかりました。私が違うと思ったら即消します。ユイがなんと言おうと天狗がどんなに庇おうとも気にせず消します。たかが人間一人造作もない。覚悟して生きなさい」


こわっ!機嫌損ねたか?


「アデヤさん!最後に一つ!」


「なんですか?」


「仏教徒なのにこれまで色々助けてくれてありがとうございました。威嚇のアデヤ砲落としてくれたり、霊たちを導いてくれて本当にありがとうございました。僕の信仰や信念は変えませんが、この世界に来て神の存在の偉大さを知りました。この世界の人たちを今後ともよろしくお願いします」


と深々と頭を下げた。また頭を上げた時ユイのおでこと後頭部がぶつかってしばらく二人で悶絶してしまった。落ち着いてまたユイの額に頭をつけると女神さんはケタケタ笑ってらっしゃった。意外な一面を見た。僕とユイがまた繋がっているのに気づいて慌てて元に戻った。遅いわ。


「ソラ、あなたの事は良くわかったわ。そして後ろで黙って見ているウミ。彼も只者じゃないわね。この会話、ユイを通さずとも黙って聞いているわ。彼はあなたと違って神の神託を単独でユイを介さず受け取れる預言者、聖者になれる器よ」


「僕は一生仏教徒ですから無視していただいて結構です。その辺の少し耳が良い石ころと思ってもらえれば」


「面白い子達ね、本当に。天狗の見つける子ってこんなのばっかり。ところでソラ、一つ話があるの」


「ん?なんでしょうか?アデヤ教にはならないですけど」


「あなた、神の下で働きなさい。ユイを通して神の声を聞ける。ユイが側にいればあなたも聖者よ。どう?」


「え?だからイヤですってば。仏教徒ですから。空海さんの煩悩担当ですよ?無理ですよ。女神様と違って和風が好みですしね」


「あなた言っていることが矛盾しているわ。信じる対象はなんでもいいんでしょ?形に拘らないんでしょ?」


「そこはブレませんよ」


「じゃあ仏教徒でいいじゃない。仏教徒のままでユイと一緒になって聖者になるの。それともユイが嫌い?」


「また難しいことを……あなたのやった寺社仏閣や祠を解放するって仕事があるからまだそんなん考えられませんって」


「私がやったんじゃないわよ。私の教えを曲解した信者達の暴走よ」


「そんな事もユイに聞いた気がするけど、あなたは止めようと思えば止められたのにそれをしなかったでしょ?指一本動かさなくても消せたはず」


「確かに言い訳になるわね……でも」


その時ユイが動いた。


「ママもソラも話が長い!なんで私が黙ってずっとソラと額をくっつけてじっとしておかなきゃならないのよ!もう終わり!終了!切るわよ、じゃあね!」


と言ってアデヤさんとの通信をシャットアウトした。確かに喋りすぎた。


「ユイ、ごめんよ。リーちゃんもサトちゃんも何がなんだかわからなかったよね。俺の独り言で。ごめんごめん」


「あ、大丈夫です。全部ウミさんが実況してくれていたので」


なにさらしてくれてんだ?ウミよ!


「難しすぎて私にはよくわかりませんでしたが、要約すると女神がソラさんに婿に入れって言ってるんですよね?」


バカなの?サトちゃん。君、メモってたね?これ残す気ね?


「私は顔をあんなに近づけ合って、二人はとても仲良しだなって思ってみてました」


リーちゃん?何言ってるの。


「まぁ、ユイ!あれだ、アデヤ教の狂信者が封印した所を全部解放できたらだな。それまで待ってて」


アデヤさんにも言われて僕も素直な気持ちになれたわ。


「え?えぇ?何を急に?バカな事を……」


ん?照れてる?


「男気見せたね!ソラ君」


え?俺そんなつもりじゃなくて、進退決めるのはもっと先って素直に宣言したんだけど。


「ユイちゃんおめでとう!」


え?何言ってるの君ら。


「あ……ありがと」


ってユイが顔を紅潮させ照れてるけど取り返しが付かない状態になった?


えーと、明日の朝、30番善楽寺に出発します!高知の北東ってまたなんて位置だよ。徳島方面にまた行かなきゃ。それよりなんか寝れるかなぁ……妙な胸の高鳴りが。違う違うとかもう言えない。


*(51話へ続く)*








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