49話 ウミの決意
「あ!あの山!前に行ったことある!昔、彼女とドライブしててなんか中世のお城みたいなのあった!」
「彼女?……ふん、確かバブルの頃にレストランとかやってたわね。中にスペイン風の甲冑とか置いていた記憶があるわ」
「え?バブル……僕ら生まれてないんですけど」
当時の日本は羽振り良かったらしいなぁ。
「さすがはユイだね。その頃は向こうの世界で学校に通ってたんだね?」
「確か遠足でバスで行った記憶があるわ。高知まで高速で来て、田んぼだらけの一般道に出て山を見てたら、えっ?なんでこんなところにママの喜びそうな中世のお城が?って頭の中が???になったわね。龍河洞で鍾乳洞を満喫した後だったから余計違和感があったわね」
「そんじゃさ、うちの会社のある善通院の近くのレオマワールドは?」
「あそこもオープンした頃遠足で行ったわね。テーマパークかと思いきや長いエスカレーターに乗ってたらなんでこんなところにアジアンワールド?アンコールワット?って思った記憶があるわ。ブータンの寺院とかもあったわね。コンセプトがぐちゃぐちゃでなかなかカオスだったけど。レオマってどういう意味?って辞書調べたけど載って無くて『レジャーは大西にまかせろ』の頭文字を取ったって聞いてずっこけたわ。結局大西さんに任せたら色々あって親会社替わりまくったのよね」
まさに生き字引だな。面白い。
「ユイ……お前遠足ってトータル何回行ったの?」
「遠足?社会見学を含めると四国の主な観光地と工場見学はあらかた行ったような気がするわ。川之江の製紙工場とか高知の和紙の手すきとかコーラの製造工場とか牧場とか数え切れないくらい。やたら産業に詳しくなったわね」
「よく飽きないね」
ホンマに聖女か。なにしとんねん。
「毎回一緒に行く同級生は変わるしね。でも使う観光バス会社はいつも同じだったから、何度も乗るうちに運転手さんとは顔なじみになって、その人が採用されてから定年するまで見届けたわ」
「恐ろしや~。運転手さんも恐怖やろうな、毎年同じ背格好の女子が変わらずバスに乗ってくるって」
「ちょっとしたオカルトだね。本当はそこにいない女の子って思ってたかも」
「失礼ね!」
いや、多分この世のものとは思われていない可能性大。
「すごい!全然わからないけど皆さんが住む世界についてもっと色々教えてください!」
サトちゃん好奇心にあふれとる。
「サトちゃん、この人が例外なだけだからね。普通はそんな何十年も同じところに遠足行かないから」
「うるさい!ソラ」
そんな感じで色々懐かしいなと思いつつ、まだ建っていない西洋のお城を偲びつつ大日寺の山を往復し、次の国分寺の平坦な道に安堵し、今日中のコーチ着を目指して僕らは歩いた。安芸から合計50キロくらい歩いたんではなかろうか。もうね、後半はみんな無口。ユイはたまに飛ぶし、サチは最初から飛んでるし。でもウミとサトちゃんは元気。フルマラソンしてるくらいの感覚。おかしいよあいつら。山道はあるし道は舗装されてないのに。おまけにお寺二つ解放して途中で見つけた神社も封印解いたりしたからね。
「ソラ君、でも走れば3時間ちょいの距離だから。大丈夫でしょ?」
「早歩き程度ですから疲れなくて良かったです」
サトちゃん、君の心肺能力おかしくない?年齢無視してワールドカップに出た長友並??
「だいたい人は時速4キロ程度なのよ!歩くとね。お前ら余裕で時速6キロくらいの速足じゃん。競歩見てるみたいだわ」
「競歩はこんなんじゃないよ、こう……」
って陸上バカが真似してお尻フリフリして歩き出す。めっちゃ速い。駆け足でも追い付けん。
「こうですか?」とサトちゃんも真似する。
いや、早すぎるって!
「待て待て。ウミはジャージ、サトちゃんも動きやすい格好。俺だけスーツなの!向いてないの!気持ちはあるけど、運動できる格好じゃないから」
「ソラ、パンツはジャージ生地のストレッチ素材でしょ?その上がTシャツだから上着は特別に私が持ってあげるわ。それなら運動できるでしょ?さぁ行きなさい」
とユイがスーツの上着を取り上げる。うわ、スポーツできてしまう。おかんか!
「わ~ったよ!ピッチ上げるよ。フン」
そうして僕もお尻を振りながらウミの後について競歩風にコーチへ向けて歩き始めたのだった。お尻プリプリになるなぁ。
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「うう~お尻が、お尻の筋肉が痛いよう~。お尻が割れたよう~」
なんとか夕方前にはコーチの町に到着した。かなり無理しすぎたかな。
「お尻がくっついてたら怖いわよ!」
「普段と違う歩き方したからね。初心者が真似したらダメだよ」
今それ言うか?
「私は平気ですが」
「普段から色んな筋肉を上手に使ってるんだね。すごいよサトちゃん」
陸上バカが二人になりそうな予感。
「ノロマが少し頑張ったから無事に着いたわね。今夜はどうする?お城に行く?教会に泊まる?」
「ん?美味しい中華が食べたい……」
「じゃあサイタニ屋だね。リーちゃんいるかな?」
「あれから何日も経ってないから、学校はまだバタバタだろうな。とりあえず教会行ってみよう。これからの事もあるし」
「ああ、例のあれね?」
「そうそう。俺も眼鏡かけてよく見てみるけど……この前の葬送の儀式からもう一週間くらい経ってるから」
「そうだね。これだけ人口いたら……いるだろうな」
「探しながら行きましょうか」
そう。この前お城でやった一斉葬送から7日。一人も亡くならないって事は考えにくいんだよな。町に入ってまるで迷子を探すように僕らは大通り、路地、建物の裏までくまなく探して歩いたのだった。そして教会へ。
「あれ?誰もいなかったな?」
「そうね、見つけられなかったわ」
「僕も見なかったよ」
「亡くなった方ですよね?見かけませんでした」
「ワン!」
そうか、お前が見つけられないならいないんだな。
「まあこんな日もあるよ。俺の会社がある市も葬儀が出ない日はホントにないんだよ。マジで4万人規模だけど、受注の無い日が何日も続くことあったわ。普段は1日に数件掛け持ちがデフォなんだけどね。夜勤してて受注無いと手当が減って辛いんだけど、その分眠れるからまぁ良かった」
「葬儀屋がお葬式ない日は何してるのよ」
「ん?祭壇の道具を直したりだなぁ、霊柩車にワックスかけたり、寝台車のガソリン満タンにしに行ったり。あ、あとは骨壺のセッティングと棺桶作り」
「棺桶って前も言ってたけど本当に作ってるの?」
「そうよ。あんなん組み立て状態でストックしてたら倉庫パンパンになるやん。棺桶キットを買っておいて、受注ペース見て組み立てておくのさ」
「前に見せてもらったけど、本当に夏休みの工作みたいだったね。カラーボックスの組み立てじゃんって思ったよ」
「そうそう、ウミに見せたことあるけど、まさにカラーボックスの大型版みたいよな。違うのは内側に水漏れ防止のビニール貼って、その上に棺桶サイズのお布団敷くんだよな。でもそれはお通夜の時に、お布団の上に棺桶サイズのお布団敷いてその上にご遺体寝かすことが多いからな。あの布団防水だし。納棺の時もその布団の隅にある取っ手を握って納めれば綺麗に安置できるし」
「なんかシステマチックね」
「昔みたいに大勢集まってお通夜とかも減ったからな。家族葬が増えてきたし。本当に近い親族だけだと人手が無いからそっちの方がご遺族も助かるんだよ」
「アデヤ教なら楽なのに」
「あっちの世界にはアデヤ教はねーんだよ」
おっと、教会に着いたな。
「リーちゃん!どう?頑張ってるかい?」
「あっ!ウミさん!こんなに早くお迎えに?行きます!用意して行きます!」
いや、さすがにリーちゃん、そんなわけ無いだろ?
「え?違うよ。通りがかりに様子を見に来たんだよ。困ってないかなって」
「あの~、それを言うなら毎日ものすごく困ってます。郷士さんの子供達、文字が読めないので教本の意味が無いです。読み書きからです。座ってじっとしていられません、大変です」
「そりゃそうだろう。今まで勉強もせずブラブラしてたんだから。でもな、あいつら口は達者だ。会話はできる。頭は動いてるんだよ、下手な大人より。ガキなりに頭使って毎日必死で生きてきたんだ。だから根気よく文字を教えてやってくれ。あいつら文字が分かればきっと勉強が楽しくなる。勉強が分かればもっと色々知りたくなる。色々知ったらもっともっと可能性が広がる。まだガキだから、あいつらには可能性はいっぱいあるんだよ。あいつらが大きくなったらその下の子達がそれを見て育つだろ?悪循環じゃなく好循環に変えていこうや」
「あなた、バカなの?それとも本当は賢いの?どっちかよくわからない人ね」
「俺?俺は基本は何にも考えてない。いつも行き当たりばったりだよ。ただ前にも言ったけど、バカなりに何か起きた時はその後どうしようか考えてる」
「先の先まで?」
「おう。なんか起きたらまずゴール考えてそれまでの過程を後付けで考えてるな」
「頭おかしいわね」
「だからそうじゃなきゃ営業なんてできんのよ。電話取って話聞いたらその後のクロージング考えて、そこに向けてプレゼンし始めるもん。逆算だな逆算」
「ソラ君は変態だからね」
「変態言うな!間違ってはないけど。でも社会人になったらみんなやるんだぜ?セミナーとかで。顧客を4つのタイプに分類しましょう。それに応じた対応をとか言われてロールプレイングさせられるの。おっさんの講師に!毎回、理屈こねられてあーだこーだ批評されるけど、俺の方が営業できるわ!って心で思いながらやってるもん」
「真面目に受けてるの?セミナー」
「ん?いつも半笑いでロールプレイングしてたら、録画されてて『あなたは世の中を斜めに見てますね』って総評された」
「的確な批評じゃない、その講師さん優秀ね」
「キャラ見抜いてるね、すごい」
「よくわかりませんが、ソラさんってそういう人なんですね」とサトちゃん。
「あら、そういうあなたはどなたでしょう?」とリーちゃん。
しまった紹介し忘れてた!
「あ、この人はサトちゃんって言って室戸に行った時拾った」
「拾った?」
「行き倒れてたんだ、道の端で。そこを僕らが助けて色々あって一緒に旅をすることになったんだ」ウミの大雑把過ぎる説明。
「え?一緒に旅?私との約束は……」
落ち込むリーちゃん。そりゃそうか、修行って事にしてある意味仕事押し付けて行ったもんな。ウミ、なんとかフォローして。
「リーちゃん、学校の仕事をお願いした時言ったよね?修行だよって」
「はい。ある程度目処がついたら一緒に修行に出ていいって」
恨めしそうに僕を睨まないの。
「その約束は覚えてるよ。必ず守るし」
「でもサトさんはもう一緒に旅してまわってるんでしょ?ずるい」
「サトちゃんは修行しているわけじゃないからね。同行してるだけ。リーちゃんは修行したいんでしょ?僕だってまだまだこれから修行するつもりだよ。だから先はまだ長いんだ」
「まだ長い?」
「ユイとソラ君にも言っておこうと思う。リーちゃんをコーチに置いていく時考えたんだ。僕がリーちゃんの師匠になるなんてとんでもない事だなって。だって僕はまだ何者にもなれてない。向こうに帰ったらただの休学中の高校生だよ。進路も考えてたけど僕はそのまま修行をしようと思うんだ、一生をかけて。でもリーちゃんの空海様の事をもっと知りたいっていう気持ちも凄くわかる」
「珍しくウミがめっちゃ語ってるな」
「バカ!」
ユイにつねられた。
「だから色々と世の中の理に逆らう事になると思うけど、僕はリーちゃんを向こうの世界に連れて行って一緒に修行をしようと思うんだ。先祖が空海様を追ってこの国に来たからって理由で、仏教が消されたこの世界で見つかるかもわからない空海様の足跡を未だに追ってるって凄いことだと思う。このまま僕らがこの世界に来なければリーちゃんは仏教だったものは知っていても僕らの仏教に出会うことは無かったと思う。この世界に隠れ仏教徒はいても、出会う機会は無いだろうしね。だからこの出会いは運命だと思うんだ。元いた世界だと日本では仏教が主体で、仏教以外の宗教にも触れられる。だからこの世界で再び会えなかったリーちゃんの先祖と空海様の思いを叶えたいと思う」
「え?え?マジ?」
そんな事を考えていたなんて夢にも思わなかった。いつも無表情だし。
「そ、そう……なの?」
ユイもうろたえてる。
「最初はそんな事は夢物語だと思ったよ。別世界の人をあっちに連れていくなんて。でも考えたらユイが聖女の資格を持ちつつ成長を止めて向こうの世界で天さんの元で学校に通ってたでしょ?そして今も行き来している。天の理ならそんな自由に行き来できないと思うんだ。僕らも一度帰れた事実もある。サトちゃんも行けたし。もし向こうの生活を知ってしまえばリーちゃんはこっちに戻れないかもしれない。それでもいいって覚悟があるなら連れて行こうと思う。リーちゃんのご両親の許可もらえたらだけど」
「う、うん……それでいいのかな?」
その辺僕にはわからないのでユイの方を見てみる。
「ま、まぁ間違ってはいないかもしれないかも知れないわね……う、うん」
歯切れ悪いぞ。
「ユイがソラ君の奥さんになるのと同じレベルの話だと思うんだ。天さんが許可してるって事はユイかソラ君がどっちかの世界に行くって事じゃない?」
まぁどっちかがどっちかの世界を選択するってことだわな。行き来するにしてもどちらをベースにするかって。
「わかった!俺もユイとどうなるかはまだ決めかねてるけど、今のところ断る理由は暴力くらいだし、ウミの考えは間違ってないと思う!」
「リーちゃん次第でいいと思うわ。でもママの世界の住人が減るって事よね?それは……」
まぁ確かに一人減にはなるけど。
「いいじゃん、仏教徒だし。アデヤ教信者じゃないんだからお目溢ししてくれよ」
「あの……一体何のお話をしてるんですか?あっちの世界とか」
あ、リーちゃんには具体的に説明してなかったな。ウミ、賢くわかるように説明してあげなさい。
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「私、必ずウミさんと行きます!必ず。それまでここで一生懸命子供達に勉強の楽しさを教えたいと思います!」
めっちゃ気合入ったな。ウミが詳しく話して、理解した時は号泣してたのに。まぁ夢が叶ってよかったな。空海さんを追って国を捨ててまで来た一族が、その生まれ変わりと一緒に修行できるんだから。
あれ?生まれ変わりってことなら相手は別に俺でもいいんでは?チャイナいいよなぁ~。
「私もチャイナミニドレスにしたらいいの?それより、ウミの方がよっぽど誰かさんより決断力あるわね!本当に!」
ユイ、ボディブローはダメだって。レバーに下からパンチがめり込んでるよ……。
「なんか皆さん仲良しですよね!私は本が生き甲斐ですから皆さんとの旅の思い出をどんどん残していきますよ~」
サトちゃんはあっちの世界よりこっちでの旅の方が楽しみなのね。
「俺がユイの胸に顔を埋めてたとか書かないでね」
「とっくに書き残してますけど?」
いや、きょとんとした顔して見つめないで。恥ずかしいから。
「え?ソラさんとユイさんそんな仲に?おめでとうございます」
リーちゃん違うってば!ほら、そこの暴力的な女子、照れないで。
「じゃあこの後は新しい教会に行って、新任の司祭さんと今後の儀式の打ち合わせしてくるよ。リーちゃんも今後、休日の時で悪いけど、毎週1回祈りの日を設けるから司祭がお祈りしてる間、声にしなくていいから読経してくれる?」
「わかりました。何事も修行ですね!やります」
いい子だなぁ、ほんと。
そして僕らは司祭の元へ行った。
「これはこれは聖女様。この度は本当にお疲れさまでした。おかげでこんな居心地のいい教会に赴任できて光栄です」
いや、前の司祭の豪奢な邸宅を壊した木材を使い突貫工事で作ったこじんまりとした教会。司祭の住居もホントに狭くて申し訳ないのに。
「急な依頼によく応えてくださいましたわね。本当にありがとう。今後の教会のあり方についてお話させていただいていいかしら?」
ユイはそう言うと僕の考えた週一の弔いの儀式の話を伝えて了承してもらったのだった。また埋葬についても疫病の蔓延の防止をメインで話すと大賛成してくれて今後の心配は無くなった。形から入ってそれが普通になればいいんだよ。墓の復活だ!
この後は殿様に面会だな。今後の弔いと墓の段取りをして、次の霊場へGOだ!
*(50話へ続く)*




