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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
室戸へ

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48話 迷い


野宿ゆえにテントで久々のエアマット、なんか背中痛いな。ウミもしんどそう。一方女子達は……なんかすっきりした顔してるなぁ。どこで寝たんかなぁ。


「ユイちゃんのお父様、背が高くて素敵ね。あと温かいお湯を滝みたいに浴びれるなんてびっくり」


ああ、女子達は結局野宿じゃなくて天さんとこでお泊りですか。よろしいなぁ。で朝からシャワーと?


「ユイ、お前さっさとあっちの世界にサトちゃん連れて行ったな?こっちの世界の人にいきなり文明世界の洗礼を浴びせたらダメなんじゃないですか?いいんですか?ええ?」


「ネチネチうるさいわね。あなた達だって行き来してるんだから一緒でしょ?向こうの文明を持ち込んでポカリ飲んでレトルトカレー食べてるの誰?」


「最低限自然環境を破壊しないように配慮してますぅ~」


そう、プラゴミとかはちゃんと捨てないように持ち帰ってるのだ。


「そのゴミを山の家に持ち帰ってプラゴミで出してるの誰ですかね?」


「え?天さんでしょ?」


「そこまで持ち込んでるの私よ!あなた達のゴミをいつも運んでるの!で仕分けしてゴミ袋に入れてるの!わかる?夏なんてどれだけ臭いか」


あ、確かに。


「じゃあ、サトちゃんもあっちの世界の一部に触れたのよね?シャワーとか」話題を変えねば不利だ。


「『てれび』というのも見せてもらいました。凄いです。人が動いてました。歌ってました」


何やってんだよ、天さん。見せるなよ、深夜番組。


「パパ、若い女子好きだから」


アデヤさんのビームに打たれればいいのに。


「パパならはね返すわよ」


一体何者なんや天さんってば。


「とりあえずじゃあ朝ごはん食べたら出発しようか?今日は25番津照寺、26番金剛頂寺を解放してまた奈半利まで戻ろう。そこで一泊して27番の神峰寺行って安芸だな」


「うん、そうしよう!サトちゃん、もし歩く速度が速すぎたら言ってね。合わすから」


「わかりました。足手まといにならないようについていきます」


---


「不毛だ……同じ道をUターン。昨日もこの景色見た。飽きた。左は海、右は山。なんで同じところをUターンするんだよ。意味わかんねえ~」


「うるさいわね!昔の巡礼の人も同じこと考えてたわよ、きっと。文句があるなら作った人に言いなさいよ!」


「ウミ!なんなんだよ、このシステム!」


「あ、ソラ君イルカだよ!」


「え?どこどこ!うわ~イルカだぁ!……ってアホ!救急車にテンション上がるガキか!もう見飽きたわ、イルカ。そこら中におるやん。希少価値無い」


「怒ってもいいけど、作った責任の半分はソラ君だからね?空海の半分」


「ソラ、ちゃんと聞くのよ。あのね、空海さんはちゃんと徳島終わったら最初に高知の最御崎寺に来るようにしてたの。バカな二人が一旦池田の方に戻ってきて、カッパと戯れたり、犬神を躾けたりするからUターンする羽目になったのよ」


「そうですね、私は順番通りに来たので一筆書きの要領で来て、同じ道を戻るなんて愚行……失礼、失敗はしなかったです」


今、愚行って言いかけた?言いかけたよね?いや、言ったよね?


「まぁミスとも思わないけど。僕らはこうしたいと思ったからこうしただけだよ、ねえソラ君」


「えっ?う、うん。そう!池田に行かなかったらユイとも会えてなかったかもしれないし」


「えっ……あ、そ、そうね、うん」


チョロい。


「まあ文句言わずに行くわよ!2つ解放したら奈半利で一泊。宿だからお風呂入りなさいよ、二人とも。暑いんだから汗かいてるでしょ」


「へ~い」


そう答えて僕らは歩みを進めた。


---


「なんでこんな山の中に寺作ったんだよぉ!ウミ」


「修行の意味もあるんじゃない?平坦な道ばっかりじゃないってのは徳島でもいっぱいあったじゃない」


「Uターンしつつ、さらにそっから分岐して山登りしてまた元の道に戻るなんて不毛過ぎるよぅ~」


「どうでもいいけどあなた、歩くペース遅すぎ!」


「ペース上げたらサトちゃんが大変じゃないか」


「ペース?歩く速さなら私は大丈夫ですよ、もう少し早くても平気です」


くそ、昔の人は健脚が過ぎる!


「あなたが足手まといになってるのよ。そこをちゃんと認識しときなさい」


「俺、社会人になってから足は軽トラだったんだよ。香川の糖尿病罹患率舐めんなよ。玄関出たら車があってそっから目的地まで車。白米食ってうどん食うから糖尿病なる人多い、多い」


「なんの自慢よ。こっちの世界に来てから毎日歩き回ってるんだからいい加減慣れなさいよ」


「お前、時々飛んでるじゃん」


「それはまぁ空から警戒の為もあるし?」


「ズルい」


「はぁ?」


「ズルいって言ってるんだよ。自分の足で歩いてこその八十八ヶ所巡りだろ!」


「私は別に信仰心でまわってるわけじゃないんだけど?霊場とかどうでもいいんですけど?」


ムググ……確かに。正論だ。でもズルい。


「乗せてって!」


「なに?」


「俺を乗せて封印されてる神峰寺の跡地まで連れて行って!」


「落としていいならね」


「落ちないようにしがみつくから大丈夫」


「……」


「じゃあ、ソラ君、ユイ、僕とサトちゃんは速度上げて山頂目指すよ。確かにそっちの方が早いね。サチ、二人が墜落したら教えてくれる?」


「ワン」


「じゃあユイ、ソラ君をよろしくね。行こう、サトちゃん」


「はい、このくらいの坂は小走りで行けます」


そう言って二人は行ってしまった。


「行っちゃったよ。どうすんだよ」


「……仕方ないわね」


「背中におぶさればいい?」


本当に連れて行ってくれるの?ラッキー少女の頃ならおぶさると潰れそうだったけど今は成長したから大丈夫だろう。


「羽が出るんだけど?」


あ、そうか。


「じゃあ正面で……正面?」


思いっきり抱きつく形になりますがいいんでしょうか?


「仕方ないじゃない……」


そうだね。


「じゃあ失礼します」と言ってユイにしがみつく。


あ、うん。はたから見るともう抱き合ってるようにしか見えないな。


「じゃあ行くわよ」


何事も無かったようにユイは背中の羽を広げてバサバサっと試すように羽ばたいてみせた。


「うん、なんとかいけそうね」


そう言うと羽ばたきを増やして軽く地面を蹴り上げると僕の足が地面から離れる。


「うわっ、本当に浮かんでる」


「浮かんでるに決まってるでしょ?飛んでるんだから」


地面がどんどん離れていくにつれ怖さが増してくる。フリーフォール系の怖さ?ヤバい。経験したことの無い高度。


「ユイ、大丈夫?落ちない?」


「うるさいわね、これくらいで落ちないわよ。怖いなら目をつぶっていなさいよ」


そうする……と思っていたら突風が吹いてユイの飛行姿勢が若干揺らいだ。ヒェッ!目を瞑って思いっきりしがみつくとなんか顔の前にフワフワと。あ、ヤバい。胸に顔を埋めていた。まあ後が怖いけど今はそれどころじゃないし、楽しんでおこう。怖さもやわらぐ、心もやわらぐ。

挿絵(By みてみん)

「そう、大人しくしときなさいよ」とユイ。


あ、怒ってない。僕は到着するまでその感触を両頬で楽しみながらフライトを続けたのだった。色んな意味で大きくなったなユイ。うんうん。落ちないように飛ぶのに必死で僕の邪心を読む余裕は無かったようで一安心。


サチは僕らが無事到着したのを確認してからウミたちを迎えに走って行った。忠幽霊犬だな。


「ふ~、やっぱり飛ぶ方が早いよね」


僕がユイの胸の余韻に浸っていると少しして二人が到着。


「そうですね、直線で行けますから。私たちも後半かなり駆け足だったんですが。ハァハァ」


いや、走って上がってくるってどれだけ二人とも心肺能力高いのよ。僕らがついて数分しか経ってないよ。グネグネした山道をそのスピードって。サトちゃんもバケモンだな。


「この変態は私の胸に顔を埋めて大きくなったなってニヤニヤしながら飛んでたわ!」


あ、バレてる。いや、ニヤニヤはしてないぞ、断じて。ニタニタだな、正確には。


「最低ですね!ソラさん」


あ、地味に傷つく。事実だけど。


「どうせそのうち結婚するんならいいんじゃないの?ねえソラ君」


え?ウミ?なにその飛躍した思考は。おい、ユイ、そこで照れるな!


「婚約してたんですか?知りませんでした。おめでとうございます」


え?サトちゃん?


「天さん公認だし。あとはアデヤさんの許可待ちだよね?」


「待て待て、俺ら二人ともそんな話した事ないぞ!なあユイ」


「まぁどっちでもいいわ。私は」


とクールな回答。耳まで真っ赤やから無駄な努力だな。


「俺、ただの葬儀屋の社員ぞ。聖女なんて荷が重すぎるぞ。無理無理」


「私、あっちの世界では普通の人よ。別に葬儀屋さんでも気にしないけど」


「俺、先に死ぬじゃん。寿命短い」


「結婚したら神の血族になるからその辺は気にしなくていいけど?」


お前、かなりノリ気だな?普段散々ボロクソに言うくせに。


「俺、聖女じゃない一般人の嫁さん養えるほど給料もらってないが」


「時々こっちに来てお布施で金貨もらって向こうに行くわ」


「それ横領だから!」


「労働の対価よ」


「うぐっ。まあまだ旅の途中だし、そこはおいおい考えようか、ねぇ」


「あ、逃げた」


え?ウミ?


「逃げましたね」


な?サトちゃん?


「逃げたわね」


ん?ユイ?


なにその連携。お前らなんか隠してるな!


「追い詰めたらどうなるかユイと賭けてたんだよ。僕は流されて折れる方にアデヤ銀貨1枚かけてた」


「もちろん私はソラが逃げるに賭けてたの」


「私は山登りの最中に、前々からウミさんとユイさんが賭けてたと聞かされたので、今日感動的なシーンが見られるかと思ってドキドキしてました」


「お前らいつからそんな賭けしてたんだよ!」


「安穏寺さん出た辺りかな?」


「多分そうね。ウミ、惜しかったわね。私の勝ち。この人はギリギリまで粘るわよ」


「男気が無いなぁ、ソラ君」


いや、いつの間にそれが当然みたいな空気になってるのさ。天さんが言ってるだけじゃん。


「私はいいっていってるじゃない。あなた達の仲間になるって決めたって事はそういうことよ」


うっ重っ!


「検討します……」


「責任取ってよね」


「なんの!」


「ふふふ」


怖いなぁこの親子。でもまぁユイの事は嫌いじゃないし、ウミは興味無いだろうからきっとそうなるんかな。


「えっ」と声を上げて俯くユイ。


お前、攻めに弱いな。攻撃力高いのに。


「お互い純情だから時間はかかるね」


「お子ちゃまなんですね、二人とも」


「なんで上からなんだよ、ウミとサトちゃん」


などとじゃれながら無事封印解放して山を下りた。下りるともう昼過ぎだったので猛ダッシュで安芸に辿り着き……また中屋さんに泣きついた。


「あら、これはこれは皆さん、まさかこんなに早く再会できるとは」と中屋の店主。


「ごめん、また無理言います。さらに一人増えまして申し訳ないです」


「何を仰います。お得意様が増えたみたいなもんですよ。狭い所ですがごゆるりとお寛ぎください」


とバカっ広い部屋に通された。この店の先祖に感謝だな。ヒダル神、サンキュー!


僕らは女将さんが夕方に例の空き地に花を供えに行くのに着いていった。そしてウミが読経を、僕が御香を焚いて清め、ユイが祈って、サチが僕の足首を噛む。……おい、いつもより強めに噛みついてるな。そんだけ今日は僕の煩悩が溜まり過ぎてたのか。だってあの胸はなぁ。あ、思い出したらなんか恥ずかしくなってきた。それに気づいたユイが祈りながら尻を蹴ってきた。器用だな。


サトちゃんには事前にここであったヒダル神とのことを伝えていたので、僕らの祈りの景色を必死で紙に書き留めていた。いつか旅の出来事を本にしたいとかで。筆だと立ったまま書きにくそうなので、無印のノートとフリクションペンを貸してあげている。文字を書いて消せるのにめちゃくちゃ感動していた。うんうん、僕も最初見た時は感動したよ。


女将さんは祈りが終わると丁寧に僕らにお礼を言ってくれた。隣のばあちゃんも途中から家から出てきてわけもわからないまま一緒に祈ってた。そう、それでいいんだよ。気持ちがあればどこで何を祈っても構わない。


余談だけど、僕らがここを出てさらにしばらく時が過ぎてこの地、ヒダル神が最初に店を開いた空き地は「聖なる祈りの場所」として後世に語り継がれたらしいけど、僕らには関係ない。サトちゃんの本を読んだ人が聖地巡礼とかで来たのが始まりらしいけど。昔も今もミーハーは変わらんのだな、うん。


その晩はゆっくり中屋さんで泊めさせてもらい、翌日僕らはまたUターン地獄を味わうのだった。早くコーチから先に行きたい~!


*(49話へ続く)*

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