45話 葬送
「しまった~!」サイタニ屋で目覚めてすぐに叫んでしまった!
「なによ朝から」
あ、ユイはまた天さんとこでシャワー浴びて来たな。服装も変わってる。
「あ、ソラ君気づいた?」ウミも気づいてたか。
「アデヤ教になってからの霊の行列、供養してなかった~!」
「あ、そうね。教会やお城に行くたびに通行の邪魔になってたから」
「うん、霊とは言え見えてるとやっぱり避けちゃうよね。ソラ君はガンガンぶつかって霊体をすり抜けてたけど」
「やっぱそうやんな?それが嫌で眼鏡かけてないもん」
「ほんじゃ一発弔いしてから出ようか。リーちゃんも呼んで盛大に。殿さんや家老も呼んじゃえ。そういや郷士の集落はおらんかったけど、アデヤ教が普及してないから昔ながらの墓を作ってるんやろうな」
「そうね、集落の奥にお墓が見えたわ」
「じゃあ城下だけやな。せっかくやから一番高いとこでやろう!」
「お城でやるのね?」
「岡豊城を思い出すね、ついこの前だけど」
「あそこなら人もいっぱい集まれるしええやろ。町民が城に入るなんて滅多にないだろうし、いい機会や。町民、上士関係なく100年以上分の霊みんな弔うぞ!一斉葬送の祭りや祭り。できるだけ明るく賑やかにな」
「なんかこの町、暗かったもんね。栄えているはずなのに元気がないと言うか。町のすぐ外に貧民街ってイメージだったから。明るくやるの賛成だよ、僕は」
「じゃあ若旦那……って言っていいのかな?坂本さんとリーちゃんに伝えて段取りしよう。まずは殿様に許可だろ?まだなんも言ってないし。ほんで坂本さんに協力してもらって三の丸前の広場くらいに食べ物屋の出店の手配してもらって~」
「ユイ、教会からって事でここでも不用品の寄付募ろうや。触れの看板に書いといてもらおう。ノベルティは……この前破ったドレスの切れ端とかどう?ZARAのハギレで申し訳ないけど、聖女の衣の断片とかって言えばそりゃもうウハウハになるのでは?」
「あなた詐欺師もできるわね」
「使えるもんは何でも使う。俺は営業マンやからな。そこら辺の石ころ売れって言われたら何とでも言って売るぞ。プレミア付けて」
「絶対詐欺師だわ」
営業マンってそんなもんさ。前に棺桶売る話もしたけど、相手のニーズに合わせてストーリー組み立てて最終的に相手が満足してくれたらそれが一番。
「せっかくだから郷士の集落の人も呼んじゃえ。弔い終わっててもいいじゃん。町の人と今後もっと深く交わっていかないといけないし。金はこっちで持つから女子とご婦人達は三助さん……四郎さんの風呂屋に入ってもらって、ガキと男どもは井戸で水浴びして着替えて集合だ!さすがに汚れたままじゃ町の人が余計ひいちゃいそうだし。着るものは……今回は時間が無いので殿さんと家老以下重役達に寄付してもらう!町人より豪華な古着になるな、ふふ」
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こうして段取りを決めてから半日も経たないうちに、話は動き出した。
若旦那のフットワークは相変わらず軽く、昼前には城から許可が下り、出店の手配もあらかた済んでいた。殿様は二つ返事でOKを出してくれた上に、古着まで大量に用意してくれた。リーちゃんは早々に中華鍋を担いで出店の準備に走り回っている。
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僕らの呼びかけに応じてたくさんの町民、侍とその家族、郷士の集落からも集まってきた。葬送の儀と名付けて集めたけど、みんな意味は分かっていない。だってアデヤ教徒は亡くなったら即転生を信じているからね。この溢れんばかりの霊に誰も気づいていない。一部見えている人もいたみたいだったけどね。
「おお、ソラ。大盛況じゃの。まさかわしの治世の時に城に町民がこれだけ入ってくるとは想像もせなんだわ」
「殿様、ありがとう。めちゃくちゃ古着集めてくれて。一部、薄着の重役おるけど無理やり身ぐるみ剥がしたりしてないよね?」
「そんな事するか。みな善意じゃ。これからの藩の方向性を見据えての行動とも言えるが、町民、農民、郷士の垣根を越えた付き合いが必要と皆考え始めたのじゃわ」
「うん、コーチにとってそれは絶対今後生きてくるから、僕……じゃなくて聖女の予言を信じて」
「聖女の予言か。それもあるがわしはお前を信じているからの。ソラ、お前とウミの二人組。ベラベラ喋るのと寡黙に人の話を聞く二人の言う事を信じておるわ。ぶっちゃけアデヤ教徒ではあるが、聖女様なんてもう雲の上の話で現実離れし過ぎててもうどうしていいかわからんわ、はっはっは」
「あんな天災みたいな奇跡を見せられたら抗いようもないですからね。信じるも何も仰せのままにってなりますわね」
「失礼ね!」と睨むユイ。やめろ、殿さんビビるから。
みんな楽しそうでよかった。バザーの要領で郷士の集落の人達には古着と一緒に木札の商品引換券を渡して、それで飲み食いできるようにしておいた。費用はこれまた殿さん持ちだ。たかが屋台の代金なんてこれからの税収から見たら知れている。損して得を取れの精神だと言おうとしたけど、そこまで言わなくてもこの殿さんは理解している。助かる。
リーちゃんはこれから儀式だってのに出店の中華料理に没頭している。筋金入りの料理人の貫禄を感じる。親父さんより中華鍋の扱いうまいんだけど。
「なんかいい雰囲気やな、ウミ」
「そうだね、ちょっとしたゴタゴタは起きてるけど、酒飲んだ土佐の男はそんなもんでしょ。議論好きそうだし。本気でやらなきゃOKだよ」
「城で酒に酔ってくだをまくってある意味凄いな。ちょっと前までなら斬られてるかもしれんけど」
「今日は特別だし、上だの下だの言う必要ないよ。さぁ、皆が酔いつぶれる前にやっちゃおう!」
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「それではただ今より、コーチ城下一斉葬送の儀を執り行います!」と宣言する。
「葬送ってなんじゃ~」と酔っ払いから声が上がるけど無視じゃ無視。「アデヤ様の教えに反する気か~」とヤジも。まぁアデヤさんの教義とは違うもんな。理解できないのは理解できる……なんじゃそりゃ。でもやらなきゃならんのよ。町中に弔われていない霊がいっぱい彷徨ってるからね。それをいちいち説明する義理も無いし理解もできんだろう、アデヤ教徒には。しかし土佐の人間って人の話聞かないねぇ~。ガヤガヤワイワイうるさい。これから儀式だって言ってんだろうが!
「お黙りなさい!」
その時ユイが一喝。聖女の声に、さんざんうるさくガヤガヤ言っていた連中も口を閉ざす。凄いなこいつ。女神と聖女の本当の怖さを知らん人も静かになった。昨日、教会や城でアデヤ砲を見た連中は頭を押さえて衝撃に備えてる。さすがにアデヤさんも今はやらんて。
周りが静かになったのでウミが読経を始め、チャイナ服にエプロンをしたままのリーちゃんが声を揃える。例の読経のハーモニー。仏教なんて今まで触れたこともない連中が聞き惚れている。ウミの低音とリーちゃんの高音の読経が混ざり合って、初めて聞いた人は不思議な感覚だろうな。
ユイはいつも通り静かに祈る。おやおや、見ていた町人も侍も……ああ、郷士の家族たちはとっくに坊さんもいないのに、見様見真似で仏式の葬式をしていたからか、口の中でお経を唱えている年寄りもいるな。仏教を知らない子供達はユイの真似をして跪いて祈りのポーズか。ええぞ、祈りの形なんて何でもいいんだ。祈って、郷士の子供達も弔われていない町人、侍の霊を一緒に送ってやってくれ。あ、この前ウミにお花を売りに来た女の子もいるな。今日は綺麗な女の子らしいブラウスとスカートか。ちゃんと古着もらえて良かったなあ。
僕は香炉の炭に御香をパラパラ落とすと、強い白檀の香とともに白い煙が立ち上った。それとともにたくさんの霊たちが空に上っていく。住み慣れた町から離れるのを寂しがるような、それでいてホッとしたような顔をして順番に空に上っていく。集まってくれた町人の女の子の顔を優しく手で包んでから上がっていく老婆。おばちゃんなんかな。のんびりした顔をしたお侍の肩をバンバン叩いて上がっていく年老いた侍の霊も、心配そうに見つめながら上がっていく。しっかりしろよ、残った侍。これからいそがしくなるぞ。そんな景色が二の丸のあちこちで見かけられた。サヨナラかもしれんけど始まりでもあるさ。今日はみんな笑って見送ろう。
先頭の霊が城の壊れた天守閣の辺りまで行くと、この前、吉田さんを送った時の光がまた空から下りてきた。アデヤさん、今日も手伝ってくれるんだな。城に集まった人は殆ど霊は見えないけど、その光が差してきたのは皆見えたはず。下まで光が届いた時にはどよめきが上がった。その光はなぜか僕の体をすっぽり包んでいたので、上がろうとする霊はみんな僕の頭を踏んづけてから勢いよくジャンプしていく。どういうこっちゃ!
ユイは薄目を開けてこっちを見て笑っている。リーちゃんは読経しつつあからさまにこっち見て吹き出しかけてる。殿さんは、と見るとニヤニヤしてるし。やっぱりウミやユイの力のお裾分けで見えてるな。
今までで一番大量の霊を送ることになってしまった。おかげで僕の頭は踏まれまくって髪の毛乱れまくり。子どもの霊が僕のリュックに差している風車をフッと一息吹いてから上がっていった。すまんな、それはあげられんのや、訳ありで。
最後に送ったのは身なりのきっちりとした身分の高そうな霊。やけに堂々としているなと思ったら、殿さんが泣いている。あ、先代の殿様か……。何も知らずに逝ってそのまま供養されずに放置されてたんやな。殿さんを見てまるで気にするなとばかりうなづいてから空へ上がっていった。「かたじけない」と僕の耳元で囁いてから頭を踏んづけて行ってしまった。謝るなら踏むなよ。
先代の殿様が上がってから光の柱は消えていった。サチは一人の迷子も出さず無事戻ってきた。何かに似てると思ったら牧羊犬やな、やってること。群れからはぐれた羊をちゃんと道に戻して迷子にならないように追いかけ回すって。
光が消え、ウミとリーちゃんの読経が止み、チーンと鐘の音がして式は終了した。「合掌」の声でウミとリーちゃん、ユイが手を合わせると、集まった人たちもそれにならって合掌をした。アデヤ教でも合掌したらええんや。したらダメって法律は無い。
その後は朝まで酒が振る舞われ、土佐の男も女も、子供はみかん水で飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。元々酒好きな人々だ。酔えば上士や郷士、町民関係なくそこらじゅうで乾杯してはひっくり返ってた。そうそう、そうやって垣根無くしていこう。時間かかっても。
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翌朝、僕らはコーチを発つことにした。
「ほんじゃぁ僕ら行きますわ。食客やから高知まわっててお腹空いたら城行くからご飯出してね」
「もちろんじゃ。いつでも来るがよい。歓迎するぞ」
「あと、三助さんじゃなくて四郎さん……めんどくさいな三だの四だの、の事頼むね」
「みんな思ってたこと口に出さないの」とユイにたしなめられる。
「ああ、吉田某との約束だ。家老ともども郷士達、郷士家族を悪いようにはせん」
「いきなり全部がうまい事まわるとは思わないけど。調練の時とかも素人集団の郷士の扱い苦労すると思うし、学校だってリーちゃん一人じゃ目も行き届かないと思うので必要な時は助けてあげてください」
「もちろんじゃ。いつでも確認しに来い」
殿様が手を出してきたので反対側の手を出して固く握手した。
「リーちゃん、修行ちゃんと頑張りなよ」ウミが声をかけるとリーちゃんがガッツポーズで答える。この子は賢いから大丈夫だろうな。機転も利くし。
「リーちゃん困ったことがあったらこの子を使って」とユイがローパちゃんをリーちゃんの肩に乗せる。ハシブトガラスの凶悪なくちばしでリーちゃんの頭をコツコツしてるけど大丈夫か?まぁ緊急連絡はこれでいけるな。
「坂本さん、あなたはお子さんを大切に育ててくださいよ!」
「え?どういうことですろうか?」
あとあとわかるわ。
「じゃあ行くぞ!」
と後ろを振り返ると既にサチを先頭にユイもウミも先に進んでいた。まてまて……。
町の外に出るともうたむろしていた浮浪児達がいなくなっていた。あそこにいるのは郷士だろうか?鍬を抱えて歩いている。向こうからはカンカンと金槌を打つ音が聞こえる。
町は色々動き出してる!止まるなよ、みんな。
*(第46話へ続く)*




