42話 教会
よし!睡眠はしっかり摂った。今日できる限り目途付けるぞ。
「リーちゃん!リーちゃん!!」部屋からリーちゃんを呼ぶ。内線ないからしょうがない。えらそうでカスハラみたいで嫌やけど。会社にもいるよなぁ、呼ぶやつ。用事があるならこっち来いよって。まぁ「社長~社長!社長~って!どこ~?」って社長を読んでたのは僕だったりするけど。
「ソラが自分が行けばいいじゃない」
確かにな。でも他の人に話聞かれるとやだもん。
「はい~どうしました~」とリーちゃんがすぐ来たのでほれほれほれと部屋の中に押し込んで作戦会議。
「リーちゃん、ここの主人でも若旦那でもええから、教会に聖女がこの町を訪問するって伝えるように言って」
「聖女?ユイちゃんが行くの?」
ユイちゃって、すっかりお友達やな。ええこっちゃ。
「うん、ユイと僕らで行く。その後で殿様に会いに行く。その時にここの主人か若旦那も同行させるつもり。どっちがヒマかな?」
「若旦那さんはいつも昼はお客様の呼び込みをしてるから、時間に余裕があるのは若旦那様かな」若旦那ヒマなんかい。
「わかった。ほんじゃ教会に行ったあとできるだけ綺麗な格好でって伝えといて」
「一体なにをするの?」
「なにかをするの、ふふふ」
昨日、僕が怒り倒してたから心配してくれてるな。喧嘩はしないよ、喧嘩は……多分。殿様と喧嘩なんてしたら無礼打ちされるよなぁ。その時まぁはユイが暴れてくてうやむやにしてくれるか?またはアデヤ砲が飛んでくるか?どっちも見ものやな。
リーちゃんはタンタンタンタンと階段を駆け下りて下に要件を伝えに行ってくれた。すぐに玄関からバタバタっと宿のの誰かが使いで駆け出す音がしたので首尾は上々やな。
「ところでソラ」
「ん?」
「なにをする気なの?」
ああ、昨日怒っただけで段取り伝えてなかったな。教の主役に。
「まず教会を動かす。教会を受け皿にして子供らに教育を与える。先生はアデヤ教の信者。町の商売人なら読み書きソロバンできるはず。とりまとめできそうないい先生のアテもできたし。ほんで大人は働かせる。今の日雇いバイトみたいなのはやめさせる。荒れた田畑をもう一回耕し直して農作業に従事。そしてカッパのおった川。あそこなら漁だってできるだろ。商店の仕事だって教えりゃなんかできるだろう?宿屋の客引きを若旦那がする必要あるか?そんなん人を雇えばいい。なんでもいいんだよ、勤労して対価をちゃんともらう。自分から働くって事をそもそも考えて来なかった、浮浪児はいつまでも浮浪児で大人になっても大きくなった浮浪児でしかない。浮浪児にならなかった大人も自主的に働かないから貧乏が連鎖してる」
「なるほどね。勉強する場所と働く地盤を整えてあげるんだね」
「そっ!その為には教会の広い敷地が魅力的。あとサイタニ屋。ここ老舗って言ってたやろ?それなりに町人、商人に顔が利くと思うので、仕事の紹介とか農機具や服の用立てやな。汚い格好のやつらと働きたくないやろ?あ~大工とかもできるやつができたらええな。色々考えると今から忙しくなるし」
「あ、その後の殿様は?」
「殿さんは現状知ってもらってからやな。見た感じは賢そうに見えたけど、この現状放置してるくらいやからアホかもな」
「アホって……」
「あとユイの手にキスしたんも許してない!」
「あれは作法のひとつよ」
「めっちゃ嫌な顔してたん誰や?」
「うぐっ」
うぐっ言うとるやん。
「吉田さんですら城の外の世界知らんかったもんな。郷士の霊達もまさか自分らの子孫がこうなってるとは思ってないやろ」
「一体何のためにわしは腹を切ったんじゃ……郷士達の家族をなんとかしたかったのに」
手紙を破った家老のせいか!とは言えもうそいつも死んでるわな。とっくに天に昇ってるだろうからどうしようもない。
「吉田さん、今やるべきことをやってすっきり気持ちよく天に戻りましょうよ!」
と気合を入れる。ユイは僕が頼むまでもなくいつの間にかドレスに着替えて聖女になった。僕らはまた町民AとBになる。サチは見えんからそのままな。
「聖女様、お迎えに上がりました」と若旦那が部屋をノックする。
開けると正装した若旦那。黒のモーニングみたいなのに頭を七三にしてきっちりしてる。あの短時間でリーちゃん意図を読み取ってよくここまで手配させたな。仕事できる子だ。
「私の準備はよろしくてよ」とユイ。
「よろしくてよ……ぷぷ」
若旦那から見えないよう素早くユイのローキックが入った。痛い。
教会までは若旦那が先導して行った。徒歩で行くもんだから目立つ目立つ。白いドレスに黒髪の聖女に道行く人がひざまずこうとするのを町人AとBが立ち上がらせるのに忙しい。どんだけ崇拝されてるんだよ、アデヤ教聖女さん。
「そういや、アデヤ教の教会って行くの初めてやな?」
「僕ら行ったらアデヤさんにビームで打たれると思ってたじゃない」
確かに。教会に着くとあふれんばかりの信者が詰め寄せてた。ユイが大谷に見えてきた。ユイが手を振ると「キャー」と女子達から悲鳴が上がる。おかしいやろ?たかが人ぞ?子女神だけど。子天狗だけど。
教会のドアの前には司祭が待っていて大げさにユイを出迎えた。手を広げて抱きしめようとした司祭の脇をするりと抜けてユイは案内もつけずズカズカと大股で祭壇の方に歩いていき、司祭が座るであろう椅子に腰かけた。おお、教会見ただけで既にめっちゃ怒ってる。
「ドアを閉めなさい。私の付き人とサイタニ屋の若旦那さん、司祭以外は入れないように」とユイが指示を出した。外からはせっかくの聖女様が見れなくなって不満の声が上がってるけど知らん知らん。
ドアを閉めた途端これまでの清楚な聖女のイメージとは真反対。怒れる女王様の降臨。まぁ僕の思ったことをユイが読み取って実行しているんだけど。リモートユイは僕が考えた事をオブラートに包んで司祭や若旦那に伝えた。
「なにこの教会は?」
めっちゃりっぱな大聖堂というような造り。これは無駄に金かかってるよなぁ。
「むさくるしい所にお越しいただき恐縮です」と司祭が自嘲気味に言う。
思ってないくせに。……それを聞いた瞬間、
「はぁあああ?」
とADOかと思うようなデスボイス。そして祭壇の前の聖書を置く台をユイがおもむろに蹴り上げた。めっちゃくちゃ重そうな木製の台を片足で蹴り上げ、音を立てて落ちたその台は粉々になった。よくあの蹴りをしょっちゅう食らってイテテで済んでるなぁ僕。はたから見たらあんな破壊力なんや?
「ちょっといつもソラ君の頭を狙う時よりは遠慮して蹴ったね」とウミ。マジすか。
ビビる司祭達。
「誰がこんな立派な教会建てろって言ったの?どこからお金出てるの?」
「それはもう、敬虔なる信者たちの寄付で……」
「寄付ですって?じゃあその絹でできた金ぴかのローブは?その純金のロザリオは?それはなんの革の靴?この重厚な机は?ごてごてした椅子は?あの金色に光る大きな像は?あなたアデヤ教を何だと思ってるの?」
今度は立ち上がって今まで座っていた椅子にかかと落としをした。椅子がまた壊れて飛び散った。あ、ユイ、当たり所悪くてちょっと痛そうな顔をしたけど我慢してる。俺を睨むなよ。それは俺の指示ちゃうやん。
「あの純金のアデヤ神の像、高そうね?すぐ処分しなさい。サイタニ屋さん、あなた商店のツテを利用して高値で売却して」
「えっ?」と絶句する二人。
「返事はっ!」とすごむ聖女。いや、怖い。
「そうすると信仰のよりどころである女神像が……」司祭が言う。
「そんなもん木製でいいのよ、木製で!祈る対象なんて何でもいいの。なんなら無くてもいいわ。祈りたい気持ちがあったら場所なんて無くても祈れるのよ!形にこだわるんじゃないわ!誰のための祈りなの?バカなの?」
あれ?僕の指示する前に勝手に喋っとる。まぁ僕の考えと同じだわ。おまけに最後は地が出てるし。
「いい?司祭さん、こんな広い教会はいらない、この場所は子供達の学校として使いなさい。授業必要な費用は像を売ったお金で賄うように。教会なんて雨の時用の屋根があったらなんでもいいわ。いくら建物を立派にしたって信仰の深さにはつながらないのよ!返事は!」
「はっ、はい」と二人。
「あとサイタニ屋さん。各商店から毎日交代で子供らに勉強を教える為に奉仕活動として人を寄こして。奉仕活動の負担は公平になるようにね。算術、読み書き、ソロバン何でもいいわ。できる人を寄こして。今後は献金なんていらないから奉仕して。そっちの方がアデヤ様の加護があるわよ」
「献金なしとはちょっとそれは……」と司祭。
「なんでそんなに献金がいるのよ?」
「それはもちろん我々も食べていかねばなりません」お前献金でメシくってんのか?はぁ?
「ふ~ん……じゃあ本部から支給されてるお金は?」まぁあるわな、毎月
「うぐ」
「なにに使ってるの?集めた献金は本部に報告してるの?その書類はある?今見せてよ。後ろめたいことがないなら見せられるでしょ?ほら」
とユイが詰める……あんまり詰めるとこういう人は。
「ぬぬぬ……お前、本当に聖女か?あ、聖女、聖女が女神像を売れとか言うはずがない!こいつは聖女を語る偽物だ!」
ハイ、切れた!お約束。時代劇でよくあるパターン。であえ、であえ~ってか?バカだな。
「あなた、色々と不正な事をしてきたわね。覚悟はいい?」静かにユイが言う。
「なにを言うか、この偽物が!誰か?誰かおらぬか」さっきの蹴り見てまだそれが言えるのがすごいな司祭。
う~んますます時代劇。
「じゃあね」
そう冷たくと言うとビュッとユイの指先から細い光の筋が伸びた。その光が司祭の眉間を捉えた瞬間——
「がああああああ」と声を立ててその場に崩れ落ちる司祭。額から煙が上がる。うそ?死んだ……?
これまで葬儀の時に亡くなった人はたくさん見てきたけど、人が死ぬ瞬間を見るのは初めてだった。ショックだ。ユイが……。
「ユイっ!なんで!」とウミが慌てて司祭に駆け寄る。
僕は茫然とユイを見ていた。くぅ~んと心配そうにサチの鳴く声が聞こえた。
司祭は眉間を撃ち抜かれ……ていないな。ウミどうなってんだ?
「あ、おでこに軽い火傷をしてるね。皮膚がちょっと焦げてる。眉毛は麿みたいになったけど命に別状はなさそう」
若旦那は腰を抜かしてへたり込んでる。
「ねえ、これまで司祭はずいぶん信者達に強引に献金を迫ってたんじゃない?」
と優しユイが若旦那に聞くと
「あ……は、はい。毎月一定の金額以上を出さないと厳しい神罰が下ると」
「神罰ですって?司祭が神罰を口にするの?見たことも無いのにふざけないでよっ!」
ユイが切れた。教会の外を見て贅沢な司祭の住処らしきところを見て「ママ」と小さく呟いた。その瞬間窓の外に光の柱が立って、そこにあった建物は消え去った……いや、蒸発するくらいの勢いだったのに、ものすごく繊細に再利用できる程度に壊されてた。アデヤさん小技も効くのぉ……マジ怖い。
「見た?これが本当の神罰よ。商売が傾くとか家族に病人が出るとかそんなレベルじゃないの。わかった?そうだ、あそこも教室にしましょう!ふふふ」
カクカクと言葉も無く頷く若旦那。びっくりしたやろ?僕もだよ。気を失っていた司祭もさっきの音にびっくりして目が覚めたな。
「さてこの司祭は更迭します。今、女神経由で本部からもっとましな人を寄こすよう連絡しました。その人がまた汚職に手を染めるようならば今度はもっと本気でやっちゃいます。これからは町の人もしっかり監視してね。アデヤ教は不正は一切許しません」
と笑顔で言う。その笑顔が怖いわ。
「本当に本物の聖女様なのですね。あなたの仰せのままに」
「ではこの後、お殿様にお会いしたいです。司祭は更迭したのでどっか町の外に放り出してください。司祭の次の地位の人を城に使いを出して、聖女から出向くので迎え不要とお伝えください。そっちが都合がつかなくても行くと。神の力はご覧になったでしょ?お城からも先ほどの光は見えたと思います。あの力があればお城だって(ピー)するのは造作もない事です。言わなくてもいいですけど」
絶対今頃お城も大騒ぎだろうな。どっぷり司祭と繋がってただろうし。
*(第43話へ続く)*




