41話 心残り
「よ……吉田さん?郷士の皆さんもう誰も浜に残ってませんよ?まぁ一部自分の意思で残った人はいますけど、恨みとか念とかじゃなくてこれからの未来を面白がって待機してるだけですから!」
と坂本さんと名乗った霊を指さす。中岡さんはどこやろ?室戸岬の方?霊場巡りでまた会いそうだな。
「あそこの坂本さんは丘の上でずっと海の向こうの方を眺めているだけですから。気にする事ないですよ!」
と丘の上を指差す。坂本さんの霊はそれに気づき口の端でニヤリとした。あくまでこっちは見ないのね。
「心残りは……心残りはまだある……」と絞り出すような声で吉田さんは言った。
「あんな格好つけてる褌の男が残ってるくらいでそんな。もう一人は室戸岬の方に飛んで行ったなぁ。二人とも大概やな。どっちもなんかもっと先の未来を見たいんじゃないですか?本人の意思、趣味ですよ」
「うん、僕らの歴史だとあの二人の子孫はきっと後世にずっと語り継がれる人になるんだろうね、この世界でも」とウミ。
「ああ、海援隊と陸援隊か?なんかつくづく出来過ぎた話よな。こんな江戸から大きく離れた田舎の城下町からそんな後世に残るような人が出るとは。歴史って面白いなぁ。まぁそういうわけで、吉田さん!彼らもきっと満足する未来が見えると思うからそろそろ上がりましょ?ねっ?ねっ?」
この人がちゃんと成仏して上がらな安穏寺さんの懸念が消えん。
「違うんじゃ。わしがあやつらに約束したのは……」
ん~また面倒な事を言い出した。
「あ、とりあえず場所変えましょか。一旦サイタニ屋に戻りましょうね、それじゃみんなお疲れ!」
と雑に解散宣言をして宿に戻った。最近怨霊関係ばっかり相手にしてて手持無沙汰だったので、宿に戻る途中太平洋に流れ込む鏡川ってところで、アデヤ教徒に封印されそこなった猿猴ってのをサチが見つけてきたのでとりあえずしばいておいた。捕まえたらカッパの仲間。サブロウとは色違いやな。ポケモンか!ややこしい。川に仕掛けた網にかかった魚を盗るとかで近隣の漁師に迷惑かけていたみたい。猿猴曰く、一人で寂しかった、みんなの気をひきたくてやった、今は反省しているとの弁。親に放置された鍵っ子の高校生か。とりあえずもっと川の上流に行ってさらに山越えたらカッパの大家族いるから行ってみたらと伝えたら感謝してたくさん魚をくれた。お前、それ絶対パクったやつやろ。返してこいよ。共犯者になるやんけ。
「よし、とりあえず片手間ではあるが妖怪もしばいたしゆっくり話しようか?」
と宿で吉田さんに話を向ける。
「ねえ、このタイミングでカッパに説教する必要あった?」とユイ。
たまには存在感示さんと今回ぼーっと見とっただけやし。あっちから攻撃どころかみんな友好的やったし。これまでの経験上、弔いで一番凶悪だったのはそこの幽霊犬だな。
「わん?」
わん?ちゃうわ。死ぬとこやったわ。結果弔えてないし。
では吉田さん、どうぞ。
「わしは腹を切る前に殿様に手紙を書いたんじゃ。家族と仲間の接待役の連中の今後の事、そして残された郷士達の家族の手厚い保護を頼んでおった……。家族に別れも告げず突然去って行った郷士達。働き手を失った家族はどうすればいい?わしはそれが気がかりで殿様に、そこだけは必ずなんとかして残された者が何不自由のないようにして欲しいとな。当たり前じゃろ?」
「信長さんみたいに一族郎党根絶やしにするぞ、ってのじゃなければ逆に残された方はかなり困りますよね」
「わし一人にできる事なんぞたかが知れておる。だから藩として、自分たちの将来を危ぶんで蜂起した高知入城の時に首をとられた郷士達、そして生き残ったのにも関わらず、藩の為家族の為に田畑を必死に耕しておったあいつらを今後反乱をおこすかも、かもで200もの命を奪ったのじゃ」
「『かも』……仮定だけで人を簡単に死なせる。昔の権力者なら当たり前だったのかな」とウミ。
時代でなんて済ませたらあかんぞ、そこは。
「ウミ、俺らは間違いなくその時代なら殺される側やぞ、俺らの思想は。反体制派って事になりかねん」
「あなたとウミは全然違うわよ」とユイが言う。
ふふふ、表面だけ見て中身をわかってないな……。
「ユイ、表現の差はあるけど僕もソラ君と同じだよ。口下手なのもあるけど心の中では怒ったり泣いたりしてるよ」
だよな、ウミ。あ、中断させて失礼、吉田さん。
「手紙ではしつこいほど郷士連中の家族について頼んだわ。その後わしは腹を切ったのはこれまで言った通りじゃ。その手紙を……家老は一読もせず破り捨てた!」
「中も見ずに?ひどい話だ。じゃあ吉田さんや接待役の家族も?」
「そこじゃ。わしの家族や仲間達はひどく厚遇されたわ。息子はわしの代わりに取り立てられた。殿様への当てつけで腹を切るような男の子をだぞ?他の接待役らも順当に出世しよったわ」
「なんなのそれ?」とユイ。
「だからわしは郷士どもを死なせた無念で城に留まっておったが、愚息が出世し、その子らもしっかりと役職を務めていたのでその点は安心しておった。約束は果たされたと。手紙は捨てられたが、家老は読むまでもないという事じゃったのかな、と」
「ここの城の中だけ見てたらそうだね。みんな幸せになっている」
「だからじゃ!町の外で見た景色。なんじゃあれは?ボロボロの家、そして食うや食わずの生活をしている子供たち?どこの飢饉にあった村の子じゃ?聞くと郷士達の子らという。どういう事じゃ!わしら身内に甘いだけじゃないのか!しょせん郷士という事で残された家族は切り捨てられたというのか?」
「働き手を失った家族ばかりになったものね……」とユイ。
「そりゃ野菜や米の取れ高も減るし、税も納められず藩の庇護も受けられないって事かな」
「うん、おかしいの」
むかっ腹が立ってきた。
「喧嘩する気?」とユイ。
「現役の殿様と?」と心配げなウミ。
「わん」
それ以外言えんわな、サチ。よしよしお前はかわいいな。
「この前、殿様からもらったお金いっぱいあるわよ?たかが城に行っただけなのに。裕福な藩なのかな」
「ユイが聖女として金をばら撒いてもその場しのぎにしかならんよな、ウミ」
「うん、昨日みたいなあんな悲しい思いはこりごりだね。次から次に子供が押し寄せてきてもこっちはもう何もできないもん」
「今、郷士の家族の一番の問題はなんだろうな」
「やっぱりお金?稼ぎが無い事かな?」そうだよなぁ、ユイ。
「仕事?健康なら仕事なんざ選ばなきゃ何でもできるさ、生きる為に」
「浮浪児達がたくさんがいるという事は親がいる。その親達は何をしてるんだ?」
「町の外の人達の事?男の人はは町の大工仕事の手伝いや田畑の草むしりとかしてお金もらってるよ」とリーちゃん。
「女の人は?」
「女の人は町の商人さんから時々、急ぎの縫い物の仕事を受けたりしてお金をもらっているみたい」
「根本的にやな……主体性が感じられん!」
「主体性って?」
「あんな広い田畑があってなんで放置されとる!なんで人の手伝いばっかりしとる!自分で考えて動け!子供を売るな!捨てるな!アホかっ!田畑あるなら手を入れろ!食い扶持稼げ!仕事くれる人がいなくなったら飢え死にじゃん」
「あ、また怒ってる」
ちゃかすなユイ。
「でもな、やっぱり殿さんが郷士の子孫を飼い殺し……飼ってすらないな、放置しているのが一番の問題じゃ!何十年も何百年も働き手を殺したくせに放ったらかし。城下町の人にだけ、自分の息のかかったもんだけええ思いさせとる」
「そうだね。コーチ以外の町もきちんとしているところと町の外はこんな感じの差があるよね。荒れた所はやはり郷士達が住んでいるのかな」
ウミも感じてたか。やっぱり根っこは俺ら一緒やな。
「あと、アデヤ教!」
「は、はいっ!」
思わずユイが背筋を伸ばす。珍しい。
「お前ら、宗教家気取ってあんなん放置すな!毎日炊き出ししろとか言わんけどな、信者いっぱいおるなら読み書きソロバンできる人間いっぱいおるやろ?郷士の子供らに教育を施せ。ちゃんと外で働ける人にしろ。奴らもあれだけいたらいつかは人財になるぞ!さっきの坂本さんや中岡さんの子孫なんていつかきっと国の未来を変えるはずや。みすみすそんな芽を逃すな!あとな、服だって町の子らが成長したらいらんようになるんだろ?それを捨てるな、ガキどもにリサイクルしろ!教会で町の人の不用品を集めて配れ。寄付してくれたらお礼にアデヤ教徒向けのおまけをつけろ。まぁノベルティやなそれで喜ぶならWINWINや。聖女直筆サインとかさ」
「あの……わし、お主が言うとる事が全く分からん。どこの言葉や?」あ、吉田さん蚊帳の外になってた。
「あ?讃岐じゃ讃岐。あとはまぁ……なんや……バテレン由来の言葉」雑な説明すまん。
「ほう、バテレンのう」
え?伝わったんか?ちょっと違うけどまぁフィーリングで許して。
「ごめん、一気にまくし立てて」とユイに謝る。
「ううん、言ってることはいちいちもっともよ。言い方がムカつくけど!」
と背中にパンチ。優しさ半分入ってるから痛みはそれほどでもないな。
「と言うわけで、明日から動こう!このままだと吉田さんここで塩漬けになるわ」
「それは勘弁してくれ。郷士の件の半分は片付いた。わしの嫁も子も見た事の無い孫やその子らもとっくに上がっておるようじゃし。郷士の家族さえなんとか健やかに暮らしてもらえたら心残りは無いはずじゃ」
本当は上がりたかったよな、一人であんなところでずっと暗い顔して立ってたんだよな。俺らがちゃんと一番ええとこに行かせてやるよ、吉田さん!仏さんが待っとるかアデヤさんがニコニコして待ってるかは知らんけど、まぁそう悪いもんでも無いと思うよ。
あ、油断してたらサチが足首噛んでるな。腹ペコ犬が。
「お前も成仏するか?ん?」と問いかける。
あ、甘噛みから本気噛みになった。
「アダダダダダダ」
犬神もどきが本気出すと半端なく痛い。
「なにやってるのよ。バカ」
見てないで助けてよユイ。
「よしよしよし~いい子だね」
リーちゃん、サチを甘やかさずにひっぺはがして。
「かわいいのう~もふもふで」
吉田さん?吉田さん?
「じゃあさっそく明日からの予定を立てよう!」
スルーですかウミさん。
*(第42話へ続く)*




