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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
夢の跡

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40話 土佐の男は


「リーちゃんお願い!」平身低頭お願いしてみる。


「なんの事だかさっぱり」ととぼけるリーちゃん。


「この前、僕に釣られて般若心経唱えてたよね?」


「ギクっ」


前も見たな、このリアクション。


「僕はお寺の息子だよ。安心して」


「お寺って……今はもうどこにも無いはず」


「わけあって遠い所から来てるんだけど本当だよ」


「……仏教狩り?」


「違うって、信用してよ」


「じゃあなんで聖女と?」


「それもわけあって、だよ」


「その二人はアデヤ教と無関係よ、聖女の私が保証する」


「アデヤ教信用できない」


信用できないと言うてる時点でもう……。


「あ、そうだ。ウミ、杖だ杖。あれようわからん暗号みたいなん書いてたやろ?読めん奴」


「梵字だよ、サンスクリット語!これ空海様の杖ね。見てごらん」


そう言って武器じゃない方の、空海さん由来の金剛杖を見せる。


「こ……これは……」


「僕ら読めないからもし読めるならなんて書いてるの?」


「『空海のだから絶対取るな』と書いてあります」


「コンビニで傘パクられる感覚で盗られてたんやな、空海さんも。でも日本語で書かんと読めんからみんな持っていくぞ」


「もう一本には『この杖盗んだ奴全員呪う』と書いてます」


よっぽど腹立ってたんやな。呪うのはどうよ、まぁシャレやろうけど。


「信じてくれた?」


「仏教徒と言うのは信じます。でもなんで空海様の杖をあなた方が?模倣品?」


「違うよ、本物。天狗の鑑定書付き……無いけど。俺ら二人、空海さんの生まれ変わりやと。自分ではわからんけどみんながそういうからそうちゃう?」


「空海様の⁉……わかりました。信じます」


えらいあっさり信じるのね。


「我が家の言い伝えでコーチにいれば空海様に会えると言われてきました。だからここコーチでずっとお待ちしていました」


なんかドラクエみたいな展開だな。


「俺ら空海様じゃないからね。生まれ変わり。だから何もわからないよ」


「空海様の秘伝の技を授かりたくて中国から来たのです」


いや、とっくに死んではるし。


「俺らなんの技も無いで?特に俺なんて無能力」


「でもなんか思い出す事もあるかもしれないから、あったら教えるね。だから今回ちょっと桂浜でお手伝いして。僕の読むお経に合わせてくれたらいいから。ちなみに霊は見えないよね?」


「え?見えますけど?」


なんだと?


「この前から白いフワフワのワンちゃん見えます。そこの昔の服装のお侍さんも。あと町中を弔われていない霊がたくさん並んでさまよってるの見えます。アデヤ教会の前をウロウロしていますがあの司祭さんには見えてないみたい」


おお、完璧じゃん!安穏寺さん並みのアシスト期待できそう。


「じゃあ頼める?」とウミ。


「空海様のお手伝いできるなら喜んで」とリーちゃん。


あれ?ウミを空海さんと認識しちゃってる?二人で一人なんだけどぉ~~。


「なんか問題ある?」とユイが睨む。


チャイナ服が好きなんだよぉ、男のロマン。


「私も着ようか?」


ちょっと想像したけど、ユイはやはり白ドレスだな。一番好き。


「バカじゃないの!」と照れてる。


照れるくらいなら人の心を盗み見しなきゃいいのに。


じゃあ行こうか、桂浜。久しぶりだなぁ~。子供の頃闘犬場に見に行ったなぁ。噛みついて離さない犬を新聞紙に火をつけて叩いてたけど、さすがにコンプラ的にもう無理だろうな。めっちゃ迫力あったし。横綱犬の貫禄のあった事。うちの社長よりは間違いなく上やな、うん。


「あほな事考えている間に着いたけど……これは凄いな」


眼鏡をかけた僕の眼前に広がる夕暮れの太平洋。打ち寄せる波。ここに泳いで行くってウソやろ?すぐ波に飲み込まれてアウトやん。生きて泳ぎ切れるわけないわな。


「ソラ、凄いわね。あんな大勢」ユイが驚いている。


「なんだろう、みんなリラックスしてるね。砂浜で寛いでる人多い」


「わわわんわん」お前も何か言いたかったんだな、サチ。


「おお~おお~」吉田さんが泣いている。


僕らはどんどん波うち際に近づいて行った。吉田さんが顔を隠して大泣きしている。近寄る僕らに霊達が物珍しそうに寄ってくる。


「なんじゃこいつらおかしな格好しちゅーのう」


「一人侍がまじっちゅうぜよ」


なんか集まってきたな。


「ちょっと話できますか?」と声をかける。ざわつく霊達。


「おまん、わしらが見えちゅうか?」と褌一丁の逞しい霊が返事をした。


「ええ、私だけじゃなくここにいる全員が皆さんを見ることができます」


「そりゃまた奇特な事ぜよ」


喋りが全員竜馬みたいやな。


「で、なにしに来たがよ?お喋りでもしにきたがか?」と言うと周りから笑い声があがる。


「皆さんを弔いに参りました。もう皆さんの家族もとっくに空に上がっているはずです」


「なんの。今さら何言うがよ。もうわしらがこうなって何年、何十年、いや何百年おると思うとるがじゃ。今さら上がってえいです言われてものう」


そうじゃそうじゃという声達。そう言うなよ。


そこへ吉田さんの泣き声が大きくなった。


「すまん、すまん……」と必死に詫びている。


「そこにおるのは誰じゃ?顔を見せんとわからんがよ」


「みんな、すまなんだ!不本意なれど騙し討ちにするような真似をしてしまった!」


吉田さん、手をどかして顔をさらした。


「ん?お前は誰ぞ?知らんがよ」


!?周りの霊達は大笑いしている。ウソでしょ?


「わしは……わしはっ!」


「冗談じゃ、冗談じゃ。真面目かお主。わしらを接待してくれた山内のお人じゃのぉ。その節は世話んなったのう。酒も肴も美味かったぞ」


「そうじゃ!相撲も面白かったのぉ」


「わしに投げられた侍はどうなった?息災か?」


「そんなんとっくに死んどろうが?生きてたら何歳ぞ」


「そりゃバケモンじゃ!」


などと賑やかだ。全然陰惨な感じちゃうぞ。なんやこれ。


「わしは、わしは……」吉田さん言葉にならん。


「おまん、どうした?何を泣いておる?……ん?おまん、あの日と姿が変わっておらんの。なんでや?」


「わしは……」


「この人はあなた達を見送った後、すぐに腹を切ったの」とユイ。


「なんでそんな事をした?わしらのせいか?痛かったろうが?」とオロオロする霊達。


「お主らを騙す気など毛頭無かった。本気でお主らを労うつもりで……」


「そんな事かよ。小さいのぉ」


「小さい?」


「おまんがわしらを本気でもてなしてくれたことがわからんと思うとるがか?わしら全員分かっとるき。何をそんな事で腹までつめるかよ」


「しかし、お主らを……」


「あんとき言うたろうが。わしらは相撲を取って酒を飲んで汗をかいたからちと海に泳ぎに出たんじゃ。おまんらに騙されて討たれたわけじゃないがぞ」


「そうじゃ、そうじゃ。誰もおまんらに殺されとりゃせん。一人の死体もあがってなかろうが?」


「そうじゃ!わしら泳ぎに行っただけじゃき。なんなら今も泳いどるがよ」


「まっこと!どこまで泳ぐもんなら。一人異国に行って異人の嫁もろうたぞ」


「わしゃ太平洋の果てまで行って往復しとるがぞ」


「なんの、わしは三往復目じゃ」


あ~うるさい!なんなんだこの陽気なほら吹き霊の群れは。


「冗談はさておき、おまん何で自分で腹切ったがよ。わしらはわしらの意地で、死んでも死体を打ち上げられるもんかと全員気張ったがよ。わしらが張った意地の意味がなかろうが」


「わしはお主らをこんなことにはしとうなかった」


「ふふっ……上意……じゃろ?」


「……」


「アホじゃなきゃわかるがよ。おまんが宴会の途中に呼ばれて行って顔色が変わる所も見とったがよ。わしに酒を注ぐとき手が震えとったのもな。おまんな、侍とはそういうもんじゃろ?わしらは郷士じゃけん、そこまでの忠誠心っちゅうのは無いがよ。損得で動いとった部分もあるきね。それでわしらの仲間の大半は高知城で首を取られたがよ。わしらはそれに乗り遅れた残りもんじゃ。田畑耕しては死に損ねた、死に損ねた思て過ごしておったがよ」


「ある程度皆さんも覚悟してらしたんですね?」とウミが聞く。


「おお、いきなり郷士連中集まれ言われたらみな警戒するわ。何されるがよと。じゃがわしらもあの日腹をくくって集まった。最後に皆で楽しめたがよ。まっことありがとう」


「お主らは……」


「辛気臭い男やのぉ!わしらなんも腹に無いき。さすがにもう泳がんでええならこの辺でやめてもええがよ、のう!」


「そうやの、さすがに泳ぐの飽きたの」


「体がふやけてちゅうが」


「おまん浜でぼーっと海みとるだけやったが」


「行くなら次は山がええがの」


あ~やっぱりこいつらうるさい!こんなん200人もおったら全員の与太話なんぞ聞けるか。朝までかかるわ!


「ウミ、準備は?」


「大丈夫、できてる」


「リーちゃんは?」


「ちょっと興奮しています。空海様と……」


いや、違うって。


「ユイは?」


「いつも通り」


「サチは迷子のケア」


「わん!」


ケアがわかるんか、この犬すごい。


「では皆さん準備できたようでしたら、儀式を始めますので用意のできた人から順番に上がっていってください」


なんかいつもの霊と違ってやりやすいんだかやりにくいんだか。全く勝手が違う。みんなガヤガヤ言いながらじゃんけんして順番決めてる。陽気な男達だ。……ホントに死んでるんだよな?


「それではただいまより、郷士の皆さんの葬送の儀を執り行います!合掌!」


と僕が開式の合図をするとウミが鐘を鳴らし読経を始めた。リーちゃんもそれに合わせてハモるように音程を変えて声を奏でる。二人の綺麗なメロディーライン。今日初めて合わせるとは思えない。ユイはいつものように跪いて祈る。この子はいつもブレることなくアデヤ神に祈っている。しばらく耳を傾けていた郷士の霊達も順番に空に帰っていく。一人上がると我先にとどんどん上がっていく。我が強い人たちだなぁ、ホント。そこ!喧嘩しない!


「ワン」


あ、上がっていく途中で一人の郷士が流れからそれてUターンしてきた。


「どうしたんですか!」と聞くと


「今、皆と上がっても面白うないき。なんぞこれからもっと面白い事が起きそうな気がするがよ。わしはここに残ってそれまでここで待つとするぜよ」


めんどくさい事言いだしたなぁ。その霊は向こうの丘の上で腕組みして仁王立ちで太平洋を睨んでる。どっかで見た格好やな。

挿絵(By みてみん)

「あなた、お名前は?」とりあえず聞いとくか。


「わしゃ坂本じゃ」と前を見ながら答える。


……坂本なぁ。まぁありそうな名前だな。と思ってたら


「ワンワン」とまたサチが鳴く。またかよ。また一人Uターン。


「坂本がそっちならわしはあっちの方に行くがよ」と東の方にそれていく。自由人かこの人ら。


「あなたのお名前は?」遠く離れていく郷士の霊に声をかけた。なんか四角い顔してはるなぁ。


「わしか?わしは中岡じゃ!すまんのぉ無理言うて」と去って行った。坂本さんは一瞥もせず口の端でニヤリと笑っていた。


ああ、あんたらはそういう人やな。僕の知っている人に似ているわ。あんたらの望んだ未来かどうかは知らんけど、まぁその辺に立ってたらこの先歴史が変わる所は見れるかもね……。


さてと、最後に吉田さんも一緒に上がってくれたかな?…と思ったらまだそこにおる!!なんで?


*(第41話へ続く)*

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