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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
夢の跡

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37話 登城


ユイの祈りの時間に集まった宿屋のみんなは感動していた。噂を聞いて他の宿泊客やら近所の店の人も集まってきて、最終的に僕らの部屋はえらいことになっていた。宿の床抜けるんちゃうかと心配したもん。ただその中で気になったのはリーちゃんだなぁ。正確にはリー・チャンちゃんだけど面倒なのでリーちゃんでいいじゃん。


「ウミ、あの子マジで仏教って言うか真言宗……密教にも精通してるっぽいな、正しい意味で」


ユイが蹴ってくる。正しい意味って言ってるじゃん!ウミは気づいてないけど、ふふ。


「うん、間違いないと思う。声に出さなくてもあの口の動きは般若心経を唱えていたね。なんか不思議な感覚だね。アデヤ教の祈りの最中に般若心経を他人と一緒に唱えるって。ところでユイはいいの?聖女様から見るとものすごく不敬な事をしてるけど」


「今さら何よ。私だってあなたが霊を送る為に読経している時、私も同時にママにアデヤ神に祈ってるもん。同じよ」


ああ、そうだった。願う神は違えど霊を送りたい気持ちは僕らもユイも同じだった。う~ん、わからん!宗教って分ける必要あんのか?


「そこが悩ましいところよね」とユイ。また心読んでるな。


「ママがアデヤ教のみで統一した理由のひとつは、あまりに増えすぎた多様な宗教への危惧からなの。みんな幸せになりたくて祈るのに、それが原因で、祈りの対象が違うだけで争いが起きる。もう何百年、何千年にも渡って終わりのない争い。それを終わらせるためにママがひとつに纏めたの。それを良しと思わなかったのがパパ。宗教の一つとしてアデヤ教を布教するのにはパパも協力していたけど、ママがそれを強引に進めた結果ママと離れたのよ。パパは信じるものは人それぞれでいいって。ソラの考え方はパパに近いわね」


「なるほどなぁ~。アデヤさんも色々悩んで良かれと思ってやったのか。でも天さんの言うように強制しちゃダメだよな。寺社仏閣を破壊し封印したり妖怪達を祠に閉じ込めたり……おかげで隠れ仏教徒とか生まれてるしな。やり方が過激すぎるわ」


「それについてはママの意思とはまた違うってフォローしておくけど、まぁ別にわからなくてもいいわ。今の現実がママの理想通りになってないもん」


なんか含みを持たせた物言いやな。


「じゃあリーちゃんに対しても特には?」


「そんな気持ちがあるなら安穏寺さんのお手伝いなんてするわけ無いでしょ。誰が何を唱えても私は何も思わないわ」


確かに!


「じゃあリーちゃんについてはまたおいおい考えようか。さっきのウミの読経で俺らは仏教関係ってのはバレたし。他の人らはユイの祈りに夢中で気づいてなかったけどな。ホンマにこのはアデヤ教徒しかおらんのやな?ちょっと前まで安穏寺さんといたから隠れ仏教徒もっとそこら中にバリバリおるんかと思ってたわ」


「そんな簡単にわかったら1mmも隠れてないじゃない。バカなの?隠れてるから隠れ仏教徒でしょうに」


確かに。今回聖女がいるって言っても集まってこなかった人の中にはいるのかもな、隠れ仏教徒。


「とりあえず今日は飯食って寝ようか。明日、ちょっと町の中ブラブラしてなんか安穏寺さんの依頼の手がかり探そうか」


そう言ってリーちゃんのいる食堂へ行ってみんなでメシを食った。この宿屋の名前は「宿サイタニ」ってとこでこの町一番の老舗宿らしい。メシも若旦那が言ってた通り魚料理が評判だけど、もうひとつリーちゃんの作る中華も評判だそうで。「中華」言うてる時点でもう……。そして僕らは1年ぶりくらいの中華を食べた。餃子がクソ美味かった!



翌朝から僕らは町に出て色んな人に話を聞いてまわった。ただ僕らは昨日の聖女様騒ぎで面が割れているので、リーちゃんに頼んで町民コスプレ服を買い出しに行ってもらいそれに着替えて出かけることにした。サイタニ屋の主人と若旦那には口外したら他所に泊まると宣言したら強く首を縦に振っていたので、そこから漏れる事は無いだろう。ウミは前髪をかきあげると普通にイケメンだなぁ。ユイは町娘の格好をすると可愛いけどポニーテールにしてるのでまさか昨日見た聖女とは気づかれまい。僕は……バンダナを巻いてみたけどあんまり変わらんな。町民の服がこの中では一番フィットしてる自覚はある。ああ一般人さ。

挿絵(By みてみん)

町の中を一通り端から端まで歩いてみた。面白いなぁ、少し行った通りには出店がいっぱい出ててなんでも売ってる。野菜はもちろん鶏やら子犬やら生きた魚、お菓子の類も売ってるなぁ。あ、高知名物芋けんぴ!!これは買わねばと後ろを振り返るとユイが既におばちゃんから受け取っていた。


「ユイ、お前、金持ってたん?」


「うん。パパに持たされてるから」とカバンを叩く。


ったく天さん甘いな。


「ふふふ、実は俺らも割と持っているのだ」


「どうしたのよ?この服買ったりで結構使ったと思うけど、コトヘラで稼いだ小銭がまだ残ってたの?」


「ふふん、安穏寺さんにもらった。と言うか正当な取引き?社長にもらった高級御香やロウソクや線香。かなりあったから分けてあげたのさ。そしたら悪いからってお金くれた」


「いくらで売ったのよ!」


「それは言えんな」としらばっくれる。


「アデヤ金貨10枚だよ」


余計なこと言うなウミ!


「なんてボッタクリ価格!あんなに一緒に戦った仲間とまで言ってた人にあなたって人は」


「違うよ。マジで安穏寺さん困ってたんだって。隠れ仏教徒していくには消耗品として必要だけど作ってるところもう無いもん。だから俺らでなんとかしてあげるよって」


「無くなったらどうすんのよ。使い切ったら終わりじゃない」


「ん?また持っていったらええし」


「どうやって?」


「ユイがいるじゃん」


「仲間じゃん。さっきユイもそう言ったし~」


「あとさ、言っとくけどあの御香ってマジで貴重品やからな。さすがにあっちで何十万もはしないけど、滅多に使わない代物だぞ。俺、法要で使ったの初めてだもん。あんな匂いするんだって感動したし。ロウソクだって手作りの一品もんだぞ」


「あげればいいじゃないの!」


うう、痛いところを……でも旅の資金必要だったもん。


「そうなんだけど、これから先お金も必要だしね。また必要があれば別のものを町で物々交換したりしていかないと。僕らは収入がないからね」とウミ。そうそう最初はシャチョゾンで塩とかトイレットペーパーとか売ってなんとか現金化してたんだぞ!


「そう、それに俺ら二人なら前みたいに野宿でなんとかなったけど、ユイも仲間になったからそういうわけにはいかないし。となると宿代もいるでしょ」とすかさず乗っかる。


「う~ん、確かに。今回の宿も一泊銀貨一枚するし……まぁわかったわ。私もパパに甘えてたし。ソラ達の言うようにするわ。もらったお金はパパに返す!」


え?真面目か!それは返さなくても……。


「それがいいよ。宿代もタダにしてくれるっていうのも断ったくらいだし。人に甘えずに行こう」


ウミ、お前も真面目か。


「それはそうとどう?町を歩いたけどなんか感じるものあったか?」美味しそうなもんは感じた。


「それが全く。なんの念も感じないよ」


ん?そうなんか。じゃあどこに念が……。ああ、あそこかなぁ、やっぱり。


「やっぱ城に行くか!突然行っても当然入れないだろうけど」


「城の近くで何か感じ取れるといいんだけどね。でも中に入れるといいなぁ」


「あ!聖女がらみでなんとかならないかしら。この町、昨日の感じだとかなり熱心なアデヤ教の町よ」とユイ。


「そうか!サイタニ屋の若旦那って昨日の様子だと司祭にまで話しできる立場やろ?うまいこと頼んで殿様にお目通りをってしたらいけるんちゃうか?」


「それいいかもね。ユイの隠蔽でこっそり城の中に入れなくもないとは思うけど、目的のものが本丸となると警備が厳重だろうし」


そうだなぁ。よし!宿屋に戻って若旦那に動いてもらおう。



「若旦那あの体型でめっちゃフットワーク軽いな。もう司祭に話しつけて司祭と一緒に登城できる段取りできるってさ。息切れしまくっとったけど」


「まぁ聖女を呼べるなんて、司祭にしたら鼻高々だろうし、殿様にしたらまさか聖女が表敬訪問してくれるなんて青天の霹靂だろうしね」


「ちなみにユイ、聖女って世界に何人くらいいるのよ?なんかある程度修行とかしたらなれるんだろ?」


「え?私一人よ。そうポンポン聖女なんていたら全然ありがたみないでしょ?」


「お前、今まで全くこっちの世界でいなかったのに突然、私が聖女って言われてもみんな信用しないだろうに」


「私はず~っとこっちにいる事になってるわよ。これまで人目につかない分、神秘のベールに包まれてたのよ、ふふん」なんで偉そうなの。


「その聖女がついに姿を現した。民衆は歓喜するよねそりゃ。ましてや大都市でもなくこのコーチでってなると」とウミが分析する。


「まぁその聖女がやろうとしているのが、結果的にアデヤ教の衰退かもしれんけどの」


「待ってよ!私はそんな気はないわよ。アデヤ教はアデヤ教としてこれからも隆盛を極めさせるわ。ただ、人に選ばせる権利を与えるべきと思ったのよ、パパやあなた達と一緒にいてね。だから私は人に選択肢がある中で、これからもアデヤ教を信じてもらえるようにするわよ。その一歩としてママがやり切れていない浮かばれない霊の弔いをあなた達とフォローしていくの」


「はいはい、まぁ目的は違えど手段は同じだよな。それでいいよ俺達は。俺達は俺達の考え、ユイはユイの考えで行こう。どっちにしても俺らは仲間だ」


「そうよね。その為にもまずは立派な聖女にならないとね、この場だけでも、うふふ」楽しんでるな。


と言ってユイは町娘からいつもの白のドレスに着替える。僕達はさすがに坊主の格好もリーマンの格好もおかしいので町人AとBのままで行こう。いやんなるくらい町に溶け込む僕…。


やがて城から迎えが来た。ユイは駕籠か。僕らにはちゃんと綺麗な馬が用意されてたけど今まで六甲牧場のポニーしか乗ったことがない!乗馬?無理。ウミはポニーすら経験がないと。というわけで駕籠の後ろをついて歩いていった。さすがに駕籠も聖女を乗せてエッサエッサとは走らず、ゆっくりと丁寧に進んでくれたのでなんとかついていけた。城に入ってからの坂のきついこと。どうして城はこんなにグネグネ坂が多いんだ。


「攻め込まれた時に守りやすくするためだよ」とウミ。


お前、マジで心読むのやめろよ。


「ソラ君の考えそうなことはわかるんだよ、顔色で」


そういうお前はやっぱり山道でも息切れひとつしないのね。サチは……?見えんけど飛んどるな、あいつ。へっへっへっとか聞こえないし。下手したら駕籠の屋根で休んどるかもしれん。


「やっと大手門か~しんどぉ~」


思わず声が出た。いかん、僕らは町民A、Bかつ聖女の付き人AとBだった。ちゃんとしないとな。ビシッと。


「では聖女様、こちらへ」


と、なんか偉い感じの中年の男が駕籠の中のユイの手を取る。なんかイラッとするのぉ!多分家老とかそんなクラスの人だろうけど、洋装だからめっちゃ違和感あるなぁ。ダンディなオールバックの家老って。そんでもって武器は刀かよ。


「はい」と言って出たユイはものすごい聖女感だ。こいつこんな顔できるんかってくらい目を伏せてしずしずと歩く。アホ面下げた僕らはその後をついていく。整列した大勢の西洋風の武士達の前を通り過ぎ、またグネグネ上がってようやく本丸御殿の書院に通される。しかしいきなりこんなとこまで案内されるとは聖女パワー恐るべし。僕らはユイのはるか後方、襖ギリギリのところに座らされた。下座の限界。足先は後ろの襖に当たっとる。まぁ殿様にお目見えする資格ない町人風情がここまで入れた事自体破格の待遇やしの。その辺割と融通の効く物わかりのいい主従関係かもしれんな、この国は。


「ん、ソラ君……」小声でウミが話しかける。なんや突然。


「いた……あそこに」と小さいジェスチャーで指を指す。


殿様が出てくる前に、案内してくれた家老っぽい人以下身分の高そうな人達がずらり並んで座っているその下座あたりか。


「おるんか?」


「いるよ、一人だけだけど、怨念とは違う、苦悩、苦悶かな?そんな念を抱えて苦しんでいる侍が一人。アデヤ教が布教される以前の古い霊だね。きちんと糊の効いた羽織袴の侍だからかなり高位な人だと思うよ」


「ソラ」とユイも口パクで僕を振り返って目で合図する。


わかってると軽くうなずく。それを見てまたユイは前を向いて殿様を待った。


間違いないな、ここに安穏寺さんの言ってた事と関わってきそうな霊がいたわ。でもどうやって話をしようかな。あ、そうだ。


「サチ、その辺におるよな?お前あそこら辺におるお侍見えるやろ?ちょっと煩悩かじって動けるかどうか確認してくれ。地縛霊なら動かんかもしれんけど、浮遊霊なら連れてこれるやろ?もしかじったまま引きずってこれるならここまで連れてきて」


と見えないサチに小声で言った。もしおらんかったらブツブツ小声で独り言を言ってる危ない人やの。その時カプりと軽く腕を噛まれたのでサチの了解の合図だろう。すかさず僕の煩悩もチャージして行った。わんぱくな幽霊犬だ。


「ウミ、聞いてたと思うけどもしサチがこっちまで連れてきたら教えて。眼鏡カバンの中やけど入口で強制的に預けさせられたから。危険物なんて持ってないちゅうねん」とヒソヒソ。


「了解」と小声でウミ。


そうこうしている間に殿様が上座に現れた。表を上げいと言われてちょっとだけ顔を上げて見てみた。殿様、40台前半の色黒で精悍な顔した男前。坂口憲二みたいな顔立ちでムカつく。ちゃんと礼装してるわ。


「よくぞ参られた、聖女様よ」


殿様が聖女に「様」つけるんか。すごいのぉ。ユイ、ローマ法皇みたいや。そしてユイの近くに跪いてユイの手の甲にキスしやがった。思わず立ち上がりそうになったのをウミが押し留めた。


あれ?なんで腹立ったんや?


ユイはめっちゃ嫌な顔をしたけど、殿様は跪いたまま頭を下げていたので気づかない。他のえらいさん達も同じように頭を下げていたので気づいていない。う"ぇええええって顔するなよな、ユイ。おかげで腹立ちもおさまったわ。一つ分かったことがある。僕は男前が嫌いだ、うん。


「ではアデヤの神に祈りましょう」とユイが声をかけると一斉に皆祈りのポーズを取る。何分もずっとそのまま無言で祈る。すごっ!本気のユイの祈りは眼鏡なしの僕でもオーラと言うか光が見える。その光が周りで祈る人にも伝播しとる。殿様めっちゃ光ってる!信仰の深さなんかな、これ。薄ぼんやりしか光ってない人もいる。なんか親近感湧くのぉ。


しかし待ってる間、暇やな……サチまだかなと思ったら。


「来たよ、サチとお侍さん」とウミ。


おお、お侍さん動いたんか、良かった。自分でそこにいただけか。


「イタタタ……なんなんだて、この犬。どえりゃあがや、どうせぇ言うんだて!」


え?名古屋弁?なんで?


「あの~ひょっとして名古屋辺りから来られました?」と小声で声を掛けるとそのお侍さんは、


「わしか?ああ、わしは殿さんと一緒に尾張から来た……???待て!おみゃあなんでわしと喋れる!?」


ふふ、それは言えんな。


*(第38話へ続く)*

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