35話 杖
僕らは高知へ向かって歩いていた。ず~っと山間の道ばかり歩いていたから、開けた土地は見渡しがきいて気持ちい。青い空、大きな川。川の流れが激しいのは夜中に雨でもふったかな?湿った地面が太陽に照らされ独特の草の香りを発している。独特の……ん?
「しまった~!!」
「どうしたのよ。べらべら喋ってたと思ったら急に」
「体汚いまんま!昨日いっぱい動いて汗だくになってベトベトしてたのにそのまま寝た!」
「寝てたね。僕も疲れてすぐ寝てしまったよ」
「私もすぐ寝たわよ」
「わん」
サチ、お前もすぐ寝とったんやな。
「でもお前ら風呂入りに帰ったり、水浴びしたりしてるやん。俺だけ体ベトベト。風呂入りたい~水浴びたい~」
「そこの川に飛び込みなさいよ」とユイ。
「お前、ここ国分川っていうて2級河川ぞ。元の世界じゃちゃんと整備されとるけど見てみぃやあの川幅でこの水流!白波たっとるやんけ。こんなん雨で増水した川に入ったら気づいたら太平洋じゃ!死ね言うんか」
「溺れて死にそうになったら飛んで拾いに行ってあげるわよ。安心して飛び込みなさい。最近飛んでないからうまく飛べるかしら」
「嫌だよぉ~昨日の夜死にかけたとこじゃん。連チャンで臨死体験しとうないわ~」
「じゃあどうしたいのよ」
「天さんとこでシャワーだけ浴びさせて!」
「甘えないでよっ!それこそパパが言ってた事と真逆じゃない。免許の時は仕方なくだったけど、便利などこでもドアみたいな使い方なんてしていいわけ無いでしょ!」
「ユイ、ちこう寄れ」と手招きする。
「なによ!」と言って油断して近づいてきたところをヘッドロックする。どや!
「うっ!臭いっ!何この匂い!5日ベランダに放置した生ゴミをクサヤの干物になすりつけてドリアンで和えたような匂い!やだ、離して!」ジタバタしても遅い。
「どうよ!昨日悪霊にパンチしてぽよんぽよんさせてたら、手が真っ黒になってたろ?アデヤさんのビーム受けて一時的に浄化されたみたいやけど、時間が経って効果が切れたらさっきからこれよ。俺自身が耐えられん」
百年単位であそこでドロドロに怨念貯めて絡まり合ってたのを素手で触ってたんやで。そこんとこ考慮してくれ。
「ママにもう1回撃ってもらう?恨みとか念が溜まってない状態でまともに受けると精神的にちょっと後遺症出るかもだけど」
「匂い消しで命かけれるかい!」
川に飛び込むかビームってどんなデスゲームやねん。どっちも死にかけるやん。
「まぁパパに一応聞いてみるけどさ。怒られるわよ、きっと。甘いっ!って」
天さん、頼むっ!
「あ……え?うん。そう。わかった。……いいよって。パパの基準どうなってんのよ!ガバガバじゃない」
さすが天さん、男も身だしなみ大事だよな。
「悪いけどユイ、お願い!ウミもちょっとその槍、預けとけよ。なんかユイとサチがいたら俺らが戦うシーンもなさそうやし」
「なんでよ!」
「そもそもサチがいたらそこらの悪霊がいても怖がって寄ってこない!こいつ、腹が減ったらきこっそり野良の悪霊の煩悩チューチュー吸いに行って俺らに内緒で天に上げとるぞ。あと獣の類もこいつの気配だけで逃げていくし。そしてお前。お前、アデヤさん抜いたらこの世で2~3番目に強いだろ?普通に岩とか砕くし。山賊出てきてもお前一人で壊滅させられる」
「失礼な言い方ね、人を化け物みたいに!でもそう言えばそうね。仲間だし?」あなた、厳密には全く人ではないのでは?
でもちょっと誇らしげなユイ。今までは中立だから俺らに手は貸さないってスタンスだったもんな。
「俺も天秤棒(改)からこの前に天さんに借りたお遍路用の金剛杖でええわ。思いの外、これ固くて丈夫」
「じゃあみんなで一旦山小屋へ行きましょうか。ウミはソラを待っている間、コーヒーでも飲みましょう」
「いいね。ちなみにユイのトンネル使えば高知城や札所はさっと行けたり?」さらっといい事聞くなあ、ウミは。
「しないわよ。目印が無いもの。とりあえずこの景色は覚えたからここまでは戻れるわ。でも頻繁には使わないからね。私はしょっちゅう帰るけどあなた達をそう何度も部屋には入れないからね」
あ、そうか。ユイの部屋直行だった。それは嫌だわな。とりあえずシャワーを借りよう。
「じゃあ天さん、シャワーだけ借りるわ。ごめん」
と挨拶もそこそこにユイの部屋を通って天さんに挨拶をしてシャワーを借りた。なんか彼女の実家に遊びに来てトイレを借りる時におとうさんに挨拶するような感覚。リビングを通る時天さんがめっちゃ嫌な顔して鼻つまんでたな。臭くて申し訳ない。でもシャワーで水洗いだけでもすっと流れて匂いは消えた。表面だけだったんかな。あとは置いてあったシャンプーとボディソープで体も洗ってすっきり爽やか。あ、サチも入ってきたんか。裸眼で見えんけどとりあえずお前も洗ってやる。身体が見えないから泡だけモコモコしてて奇妙だ。うっブルブルっとして泡を飛ばすな、もう!
「あ~さっぱりした!ユイ、天さん、ありがとう。これで高知に行けるわ」
「あ、サチも洗ってもらったんだ。毛がものすごくふわふわになって良かったね。すごくいい匂いするし。あ、ソラ君もすごくいい匂い。なんかの花の香りかな?」
とウミがクンクンしてる。知らんよ。臭覚ははあっちにいる時死んでいたから。まだ鼻の奥に若干匂いが染み付いてるくらいだ。
「あっ!あんた達!私のボディソープとシャンプー使ったでしょ!サチ!あなたコンディショナーも!?」
ああ、鼻が通って来たらなんかいい匂いがすると思った。ユイのだったのか。
「最悪~」
とコーヒーを入れてくれたユイがむくれる。
「天さんのかと思ってたわ、ごめん」目が悪いから適当に置いてたのをシュコシュコして出しただけなんだけど。
「わしは普段からそんなもん使わんぞ。天狗だから」
意味がわからんけどそういうもんなんか。
「ユイだってそんなもん使わんでもいいのに、最近だぞ、そんなの買ってきて使い出したの」
とニヤリ。ユイの顔色が変わった。
「ユイ、本当にごめんよ。知らずに使ってた。でもなんかユイの匂いがして嬉しいぞ」
と腕をクンクン。確かにいい匂い。腐乱臭みたいなのが消えてる。それだけで嬉しけど。
「なによ!もう」
と絶対怒ってない怒り方。よかった、許された。
「ところでお前らに話がある!」
あれ、天さん真顔になってなんか怒ってる?
「お前ら、この前貸した杖、どうやったらあんなに傷むんじゃ?あれ、特注品やぞ。おまけに空海証済み直筆サイン入りで国宝級ぞ!」
え、また空海さんゆかりの国宝級って?鑑定団出したらCMまたぐ系なん?やばっ。
「ごめん、知らずにウミとふざけて汽車に乗るまでチャンバラしながら山道下ってたら若干ささくれて。危ないからむしったけど」
「チャンバラだとぉ~~~~!!むしったぁあああ?」
「ソラ君が突然『きゃぁあああああああいやぁあああ!』とか言いながら面を打ち込んでくるからそれを払って、打ち返したりして。不可抗力だよ」
「お、お前らには物の価値ってわからんのか!?」値札貼っといてよ。普段葬式しかしてないリーマンと部活命の高校生ぞ。
「ウミなんて昨日、空海さんゆかりの金剛杵、投げて渡してきたよ」とチクる。あっちの方が金ピカでトゲトゲしてて高そうや。
「お前らぁあああああ!」
そう言って2人揃って天さんに思いっきりげんこつを食らわされた。げんこつなんていつ以来だ?小学生以来か?というか大人になって他人にげんこつされる僕らって一体なんなのさ。
「マジで痛いんですけど……」
珍しく冷静なウミも涙目になっている。
「そもそもな、あの杖はちょっとやそっとじゃ傷なんてつくもんじゃないぞ。当時の空海の法力が宿っとるから岩を叩いても傷一つつかんはずやのに」
「そこはほら、なんて言うの?僕らって空海さんと空海さんの力がぶつかり合うわけでお互い五分の力だとするとまぁ、お互いにダメージは無くても道具に支障をきたすことも可能性としては……」
とか言い訳してたらまた拳を振り上げられかけた。あぶなぁ~。とりあえずその場は平謝りに謝ってとっととまた高知に戻ったのだった。
「ウミ、ウミちょっとその杖であそこの石叩いてみてや」
「ソラ君悪いなぁ、さっき天さんに怒られたとこやん」
「アホか、岩より木の棒が固いなんてそんな事ありえるかいや。眉唾もええとこや。ものには道理ってもんがあるやろ?そんなオカルト話信用するかいや。だから試してみ」
「なんで自分でしないのさ」
「お前のほうがフィジカル上だから」
適当に言っておく。
「ずるいなぁ~」
と言いながらまんざらではない顔で道端の石というか岩を思いっきりぶっ叩くウミ。杖が折れても僕は無問題!僕のは無事だもん。
ウミが力を込めて叩くと岩は音も立てず綺麗に真ん中で2つに割れた。どういう理屈や。ドン引きする僕ら。
「あのね、それってパパがものすご~く大切にしていた杖よ。目につく所にってことで玄関に飾ってたのをあなた達が持っていったって言うから内心ヒヤヒヤしてたの。それをいきなりチャンバラって。あなた達、天狗の宝を傷つけたのよ?わかる?」
ホンマに宝やったんや。でもそこは僕。だからといって扱いは変えない。
「ウミ、これって俺らが打ち合ったりして遊ばん限りは丈夫そうやから、今後これメインでいこうや。多少無理しても壊れなさそう。さすが空海さんや。物はつかってこそ価値がある。使わんと飾っといてなにが嬉しいねん。置いとくだけならただの風景じゃ」
「まあそうだね。使ってこそ意味があるよね」
ウミのそういうところ好き。
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そんなこんなで高知城下に無事ついた。岡豊城からは平坦で割と近いのだ。遠くからでも城はよく目立っていたのでいい目印になってくれた。近寄ると立派な城だけど、なんだろう?覇気が無いというか力をあまり感じない。町の人は忙しそうに動き回っているけど、なんか活気が無い気がするなぁ。
「ウミ、ユイ、怨念とか地縛霊とか怨霊とかの気配は?」
「それが全く何もないクリアな状態にしか見えない」
「私も。なんの因縁とかもないけどどういう事?」
「わわんわんわん」
残念、お前には聞いてへん。するとくぅ~んと寂しそうに鳴くサチ。お前、邪霊とかいたら勝手に走って噛みついて煩悩食うじゃん。
ちょっと今までとは様子が違うな。
「ちなみにだけど、いつもの霊の大名行列は?」
「ああ、もちろんそれはいるよ。それは除外しての話だよ」
ああ、それはいるのが当たり前なんだよな、どこの町も。
「安穏寺さんの懸念ってなんなんだろうね」
「まぁお城のあたり行けばなんかわかるかもしれんから行ってみるか!」
とみんなに声を掛ける。とりあえず情報収集しに行こうかな。メシ屋で聞いてみるかぁ~。金剛杖を持った見慣れん格好の若い男女3人と幽霊犬が町の入口で作戦会議をしていると
「おまんら、そこで何しゆうが?」
いきなり第一村人ならぬ第一町人がネイティブ土佐弁で声をかけてきた。
*続く*




