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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
夢の跡

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34話 夜明け


うう……もう多分朝が近いぞ。数時間後には朝日が登る。ほぼ一晩中やってたんだなぁ。体の疲れはアデヤ砲のおかげでそれほどだけど眠い。


「アデヤ砲ってママに失礼ね!他に言い方無いの!」とユイが怒る。


怒るくらいなら心を読むな。っていうかお前の意識どんだけ僕に向いてるのさ。


「バカ、アホ!」とまた悪態をつかれる。これ、筒抜けなのちょっとイヤやな。なんか方法無いのかな。


「ソラ君、余計な事考えず、無でいいんだよ」とウミ。


お前も僕の心を読めるんかい!


「ソラ君の考えていることはわかりやすいから」


そういう問題?


「あんたらにはホンマに世話になったなぁ」


ずいぶんお疲れの安穏寺さんが労いの言葉をかけてくれる。


「いやいや、安穏寺さんがいてくれたからうまい事いったんです。もともとは僕らだけでなんとかしなきゃくらいの勢いでしたから」


「これも運命の巡りあわせだな。あんたらはわしがおらなんだらできなかった。わしはあんたらがおらなんだらなんにもできんなかった。こうやって城をまともに見ることもできんかったわ」と安穏寺さん。月明かりに照らされた朽ちた城を感慨深げに眺めやる。


「なんか色々ありましたが僕らもしっかり成長できましたし、約一名はもう見かけも成長しましたから」


「うるさいわよ!ソラ!」と足を蹴られる。


いや、ホントに成長したなぁユイ、と惚れ惚れと見つめていると、今度は尻を蹴られた。


「女の子があんまり足を上げるな。今まではお子ちゃまが蹴ってくるくらいに思ってたけど……もう色々大きくなったから」


「なったから?」


少し顔を赤らめるユイ。


「蹴りに体重が乗って痛さが倍増しとる!」


「このバカっ!」


あ~ハイキック……これはいかんよ。色々と……ドレスなのに。


「さてと一旦宿屋に帰って朝まで寝ようよ。徹夜はやめよう。筋肉に悪いし」とウミ。


体のメンテの話かい。まぁ確かにゆっくりもしてられないな。まだ高知の霊場一個も行けてなかった。だいぶ前に勢い勇んで「さぁ最御崎寺へ!」とか言ってたんが恥ずかしい。小学校のリレー自主練の時に「ナメクジにブレーキかけとるんか!」って昔親父に怒られたわ。くそっ!当たっとる。全然進まんな、この旅。


「安穏寺さん、じゃあ一旦宿戻って休んでからまた寄らせてもらいますわ」


と伝えて僕らは宿屋に戻る。こんな時間に戻って大丈夫かなぁ。入り口閉められてるんでは?てくてく3人と1匹で宿に戻ると……ああ、やっぱり入り口閉められとる。24時間チェックイン可とかじゃないもんな。カードキーも持ってないし。


「サチ、中からつっかえ棒外してきて」


とお願いすると、すっと扉をすり抜けてすぐにガタンと棒の外れる音がした。幽霊犬ナイス!


「みんな寝とるけん、静かにな」


とひそひそ声で伝えて、床の軋み音にも気を遣いつつ部屋に戻る。和風じゃなくて洋風の部屋だからちゃんと個室なのはいいな。和室だと隣と襖で仕切られるくらいだもん。とりあえずくつろごう。


「ウミ、お疲れ。そんな法衣着てたら肩凝ったやろ。俺もスーツ脱ぐわ……ふ~」油断してズボン脱いで脱力~


っと思ったらユイがまだいた。


「お前も、自分の部屋に戻ってゆっくりして来な。朝お前が戻ってきたら出発しよう」


「ここにいるわよ」


「は?」


つい声が出た。


「ここで寝るって言ってるの!」


ん?


「なぜ?」


「仲間だから」


「ほう」


「なによ」


「女子じゃん」


「あ……」ユイが黙る。


「お前なぁ、昨日までの青臭いお子ちゃまフォルムならまだええぞ。でも今はなんかもう立派な女子じゃん。ウミが困るわ」


「え?僕は別になんともないけど」


お前は聖人か。いや、ある意味そうだけど。


「俺はサチの食事要員をつとめるくらいの煩悩の塊だ。こら、今噛むなサチ!女子と一緒に歩くのもちょっと照れくさいくらいなのに、同じ部屋で寝るとかなんかもうそれはちょっと……」


「お子ちゃまね」と笑うユイ。


あ、そうだ、こいつ100歳以上年上だったわ。


「失礼ね!」


と回し蹴りをくらわそうとする。甘いわ、その蹴り何回くらってると思うのさ。油断してたらガンガン当てられるけど、煽って怒らせて狙ってくる蹴りの軌道は想像つくのよ。パッとユイの足首を掴んで持ち上げるとドレスの裾がめくれて恥ずかしい格好に。


「やめてよ、バカ!」


「ほらね、恥ずかしいでしょ?もうドレスでミドルキック、ハイキックはやめときなさいね」


とお説教……してたら頭に激しい衝撃が!掴んだ足を軸にしてもう片方の足を蹴り上げて延髄に重たい一撃。背が伸びた分、高所への攻撃もレベルアップしたのね……。覆面の女子プロレスラーかお前は、前のめりに崩れ落ちる僕。


「舐めないでよね、フン」と捨て台詞を吐かれた。恥じらいの説明をしたかっただけなのに……シクシク。


「まぁ、ソラ君が悪い」とウミのジャッジ。


とりあえずささっと着替えて雑魚寝する。ユイも一緒に寝ているのが新鮮だ。うっ、近い…。


---


次の日の朝、というか数時間後に目覚めるとユイは着替えていた。あ、また髪の毛いい匂いしてるから早起きして天さんとこで風呂入って着替えてきたな。ウミはもう一旦宿屋のお姉さんに挨拶して水浴びしてきた後のようですっきりさわやか&定番の黒ジャージ。サチも一緒に洗ってもらったのかな?なんか獣臭が消えている。


「ゴメン!俺待ちやった?急いで支度するわ」


「大丈夫だよ。まだ早いし。昨日一番お疲れは実はソラ君だったかもだし。めっちゃ体使ってたから」


「いや、疲れはマジでアデヤほ……アデヤさんの癒しの光のおかげでないんだけどね」またアデヤ砲言うとこやった。


ユイが満足そうに頷く。


「そう言えばなんでアデヤさん、俺に溜まってた紫の念とか祓ってくれたの?俺ら敵認定されてるんじゃないの?」


「う~ん……仲間だからってママに関することを全て話すわけにはいかないわ。神の内情の話になるから。言えるところだけ言うとね、ママはアデヤ教の信者で苦しい思いをした人を優先的に救い上げてるって話をしたわよね?」


「ああ、おかげであちこちで霊が渋滞しとる。即転生の前提崩れてるやんって事で俺らが動き出した」


「もともとはパパと二人で役割分担して救うはずが、ワンオペになってそのせいでそうなってしまったって話もしたわよね?」


「ああ、天さんが逃げたんだよね?」


「色々そこも事情があるんだけど、そこは置いといて話を続けると、ママが唯一神になる以前の霊や因縁、怨念に関しては手出しできるものとできないものがあるの」


「ほうほう」


「ソラ達がやってきた子泣きのおじいさんの件もサチの件もママは手出しできなかったの。ママが神になる前の話の因縁で触れなかった。そして今回の岡豊城もね。かなり前の契約が元になっているからママがどんなに助けようとしても。気がかりだったけど、毎日違う案件がどんどん入ってくるしで」


「お前、そこまで知ってるんなら何でもっと早くその辺の説明しないんだよ」


「今聞いたもん」


「え?今?」


「そうリアルタイム」


「ソラがなんでって聞くから聞いたら答えてくれたのよ」


「ん~なんか調子狂うなぁ。俺らがしてることって俺ら的には反アデヤ教のつもりよ。アデヤさんの唯一神の教えに反発して寺の封印解いたり、祠あけたりして妖怪を戻してるもん」


「その辺はね……色々あるけどあなた達……いえ、私達がしていることはパパの考えに似てるの。ママとパパはお互い譲れない点があってぶつかり合って、結果的にパパが離れていった。ママは一人で神の仕事をし始めたけれど、長い間しているうちに色んな不具合に直面して自分の理想だけじゃまわっていかない事に気づいたって。一つはあなた達が最初に感じた浮かばれない霊の渋滞ね」


「俺らが来た最初の頃なんて僕らを殺す気で狙ってたよ、アデヤさん」とウミ。


ビームとかあったもんなぁ。


「あれはね、自分の不手際を見咎められたような気持ちで面白くなかったんだって」


「それでビームで殺す気だったのかよ」


「当てる気なんてないに決まってるでしょ。本気出したら今でも当てられるわよ。神様なのよ?わかってる?」


確かにちょっと舐めてたかも。ホーミングだぁとか笑ってたけど、連発されたら終わりだったな。


「ママにあなた達を排除する意思は無いよ。二人を排除=パパとの決別。それは天界の崩壊を表すわ」


え?そうなの?山の天狗さんがそこまで影響ある?


「パパをただの箸蔵の天狗と考えるのは間違いよ。言わないけど」


ん~それって俺らに「神にならないか」って誘ってくる事に関係あるのかな?


「これ以上神界のことを詳しく人間の二人に話す気はないけど、ママにもママの事情があるし、今の状態はママの望んだ世界の形になっていない事は確かよ」


「で、俺らの立場は?」


「神に守られ神に生かされている仏の代理?」


「生かされてる?神も仏もどっちが上とか下とか無いやろ?一番上は『一番』って事やから一つだけなんやろうけど、それを決めるのは誰やって話。みんな自分が一番って信じているもんが一番なんやろ?」


「よくわからない例えね、いつも」


「例えばだよ。そうだなぁ……サブロウは自分の奥さんのフミさんが多分世界で一番かわいくて素敵って思ってるよな?俺は今まで出会った中で一番可愛いと思うのはユイだよ。世界中の誰よりもな」


「いきなり何を言うのよ……」と顔を真っ赤にしてうつむくユイ。


たとえ話やし、その後に「好きとか嫌いとかは置いといて」って言おうと思ったんだけど……。あ!しばかれる!、と思ったけどなんかそういうところは心は読めないシステムなんかな。モジモジしてるし。都合がええ能力やなぁ。


「ソラ君……刺されないようにね」と心配げにウミが僕を覗き込む。


あ?


「ソラ君も耳まで真っ赤だよ。そんな風に言われたら信じるって」


ぎゃっ!女性免疫ほぼ皆無の本領発揮してた。やばっ!なんか二人してしばらくモジモジ。


「僕らは一体何を見せられてるんだろうね、サチ」


「わぅ~」と困ったようなサチの声が聞こえた。


とりあえずアデヤさんの悩みもわかった。まるっきり敵対関係にも無いらしい。ま、僕らは僕らの考えを変えることは無い。一神教はおかしい、封印は全部ぶっ壊す。アデヤさんの手からこぼれた霊は僕らが送り出す。頼もしくてかわいい仲間も増えた。次や次。


それから僕らは準備を整えて安穏寺さんの所へ行った。


「ほな、安穏寺さん、僕ら当初の目的地である最御崎寺に向かうとします。お元気で!また寄れるようやったら寄りますわ」


「ホンマはあんたらと一緒にもっと修行の旅をしたいけどな」


「安穏寺さんおらんようになったら檀家さん困る。仏教徒狩りに関しては先々なんとかしたいけど、今は自力で対処して。まぁ安穏寺さんに勝てる人少ないと思うけど」


「畑で鍛えたこの体、だてじゃないきのう」


と言って力こぶを見せる。この人はもう大丈夫だ。コソコソ隠れて信心してた隠れ坊主じゃない。自信にあふれた顔をしている。


「あとな、厚かましいんやが頼みを聞いてくれんか?」


「なに?一緒に命かけて戦った戦友の願い聞きましょ」


「長宗我部の事やが……。殿さんが岡豊城を捨ててコーチ、高知城に入城したのは話したの?」


「うん、聞いた」


「その後長宗我部は滅んだ」


「聞いた」


「長宗我部亡き後、山内が来た」


「そうでしたね。すっかり忘れてましたけど司馬遼太郎の国盗り物語って本読んだことありましたわ」自慢げに言ってみた。


「それは知らん。なんの話や?」


ごめん、あっちの世界の話でした。


「長宗我部が領地を召し上げられ、山内が土佐の国にやってきたんですね?この世界でも」


「そうだ、わしの先祖が守っていた城を間接的に取り上げた。問題はその後だ」


「……桂浜?」とウミ。


「なんでそこまでよそ者のあんたらが知っとるんだ?」


「色々話せば長くなりますが、多分僕らが知っている話と同じかと。岡豊城の時もそうでしたから」


「じゃあ詳しく言わんでもわかるな?昨夜、殿さんがわしの体から出る前に無念の気持ちをわしに見せたんじゃ」


「無念とは?」


「殿さんがコーチへ連れて行った家臣団の末裔たちの最期だわ」


「ああ、やはり」


「昨日、空に帰した城兵たち、その兄弟や子は殿さんと一緒に岡豊から高知へ行き高知城下に入った」


「その家臣たちの子孫を、長宗我部家の家臣団を山内は領地保全名目で根絶ねだやしにした……」


「根絶やし……」ユイが絶句した。


「諸説あるけれどね。どれが本当かなんてもうわかんないよ」


「長宗我部の家臣を統治の障害になると考えた山内家が、桂浜で相撲大会を開くって名目で長宗我部家臣の腕自慢達を集めて、酒飲ませて油断しているところを一人残らず惨殺したとかいう話を読んだぞ」


「それも本当かどうか」


「いずれにしても長宗我部家臣が一掃されたのは事実だ。それを殿さんが心残りだ、とな」


「僕らは高知城に行って何かできる事があればやったらいいですね?」


「悪い、寄り道になると思うが頼めんか?」


「安穏寺さん、あなたも僕らの仲間ですよ。いらん心配しないでください。頼まれなくても行ってきますよ」


そう言って安穏寺さんに手を振って別れた。


「本当に寄り道が好きね?」とユイ。


「寄り道じゃないんだなぁ、これが。俺らは単に四国霊場八十八か所まわればええとは思ってないから。アデヤ教信者が封印した土地を解放するのが一つ、浮かばれない霊がいたら空に帰すのが一つ、妖怪でもなんでも悪さしないなら助けてやるのが一つ。以上」


「どんだけかかるのよ?」


「え?知らん。目についたらそこらの祠も解放しに行くぞ」


「まぁいいけど」


ふふふ、仲間だな、ユイ。


「しかし長宗我部氏とここまで深くつながるとはね」とウミ。


「あのさ、言うてなかったけどうちの実家の畑のあるとこ、元々は長宗我部に燃やされた寺やってん。ある意味俺の先祖の敵よ」


「なにそれ?初めて聞いた!」


「延命寺って寺やったんよ、むかしむかしな。で、長宗我部が四国統一する時にわざわざうちの実家のある半島までやってきて寺に火ぃ着けよった。寺は全焼よ。廃寺になった。あいつらえげつないことそこら中でやってたんやで。近所には悪い話がいっぱい残っとる」


「ヘビーな話だね」


「俺、ばあさんに連れられて畑作業行ったときに延々聞かされてたわ、長宗我部への恨みつらみ。畑の端を掘ってたら昔の瓦とか出てくるから、幼児の頃から遺跡発掘が趣味やったっちゅうねん」


寺の焼け跡で作った野菜は美味かったよ。


「じゃあ今もその畑はあるんだね?」


「それがさぁ~一昨年久しぶりに懐かしくてその畑行ったの。ばあさん亡くなってから行ってなかったし。そしたら知らんおっさんがそこで畑仕事してるのよ」


「なんで?」


「知らん。それで念のために登記簿謄本とって調べたの。ばあさん死んでから人手に渡ったんかなと思って。そしたらなんと畑の名義、俺になっとった!」


「どういう事?」


「知らんがな。ばあさん死んで俺名義の畑になってて知らんおっさんが耕しとった」


「借地として人に貸してるとか?」


「俺もそうかなと思っておかんに聞いたら、知らん言うとった。誰やねんあのおっさん」


「なんかのんびりした田舎の話ね」


「でも俺が毎年固定資産税払ってるのよ!なんか通知来たらわからんままコンビニで払ってたわ。これやったんかぁ~って」


「世知辛い世の中だね」とウミ。


適当な相槌打ちやがって。


「私は何の話を聞かされたのよ!」


「俺に長宗我部を助ける義理は無い!と言う話」


「じゃあ高知城は行かないの?」


「行くわいな。安穏寺さんの頼みやもん。仲間やし」


「ややこしい人ね!本当に」戦争とか一概にどっちがいいとか悪いとか外野が判断できんやん。お互いそれぞれの正義があるもん。銀河英雄伝説見てたらわかる。


「じゃあなんで畑の話したの?」とウミ。


「ただの世間話やん」


「全然、『ただの』ではないわね」とユイ。


よくある話だと思うけどなぁ。まぁどうでもいいけど。さて次は高知に向かうぞ。途中なんも無ければだけど。


*(第35話へ続く)*




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