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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
城攻め

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30話 血

30話 血


なんかとんでもない事を言い出したぞ、安穏寺さん。


「あの……なんて?」


「だからわし、長宗我部の血やけど?」


「なんでよ!」


「なんでって言われても、そうだとしか言えんが」


「今が西暦何年なのかはわからないけど、長宗我部氏の血が途絶えて久しいと思うけど」とウミ。


「ユイ、お前、時代の生き証人だろ?安穏寺さんの言ってることホント?」


「あなた私を何百歳だと思ってるのよ!多少は人より長生きだけどそこまでじゃないわよ!バカ」


「多少?」


と言った瞬間臀部に蹴りが入った。まぁ脂肪あるからふくらはぎや弁慶の泣き所よりはマシ。


「安穏寺さん、説明してもらっても?安穏寺さんの力とも関係があったりします?」とウミ。何を感じてるんだ?


「あんた、鋭いな。わしとあの城はものすごい因縁でつながっとるんだ」


「さっきあんたらに城の興亡の話をしたろ?安穏寺は長宗我部の城ができる前からここにあったし、城が無くなってからもずっとここにあった」


「アデヤ教徒に壊されるまでですね」


「そうだ。長宗我部が滅んでからもずっとあった。そして岡豊の城の霊たちとも向き合ってきた。なんでかわかるか?」


「城が落ちた時の供養に失敗したから……というか一旦は成功してたのか。悪霊になったのは殿様が2回城を捨てたからですよね?」とウミが聞く。


「ああそうだ。ただ話したように、流れの若い僧侶が施した術が原因の1つとも言ったな?」


「はい、霊たちを縛り付けたと。寺の記録をそのまま受け取るならば、その僧にかなり責任がありそうな書きぶりでしたね」


「そうよ。その僧が悪い」


「捨てた殿様にもかなり責任がありそうやけど。若い僧も悪気なかったやろうし」


「いや、やはり若い僧が悪い」


「安穏寺さん厳しいな?流れの僧は褒美もらってまた出ていったんでは?」


「そうだ。この地から出ていってもらった金で他の土地に腰を据え寺を建て嫁ももらって幸せに暮らしとったよ」


「まあ大金手に入れたら放浪して寺に居候せんでもええわな」


「ただ他所に移り住んでも、本当にあれで良かったのかという疑問も持って生きていたんだ。力はあったとは言えまだ若い未熟な術。本人はちゃんと浄霊したつもりだったが、あれで良かったのかずっと気にはかけていた。やがて歳を取って死んだが、その家では親から子へその話は伝えられた。自分の家がなぜこれほど恵まれた生活ができているのかその理由、どうやって金を手に入れたか。何かその城に起こった時は一族で対応するようにとの」


「ん?と言うことは?」


「わしの先祖だ」


「え?安穏寺さんってその霊能者の血筋なん?力のある僧侶を他所から呼んだって言ってたけど」


「そうだ。恥ずかしながらうちの先祖が原因でもある。寺の記録が辛辣なのはそういう理由だ。自戒の念を込めて記録を書き直した。元の記録は慰霊をした、若い僧は褒美をもらい出ていった、寺も潤った、そんな程度しか無かったのよ」


「まだちょっと見えてこないな。安穏寺さんが若い僧の系統とは分かったけど、長宗我部さんとは?」


「褒美をたくさんもらったと言うただろうが」


「お金もらって他所で寺建てたんでしょ?で裕福に暮らしてたって」


「金だけじゃない」


「ん?」


「若い僧は嫁をもらったと言ったろ?」


「あ、そんで子供らに代々岡豊城のことを伝えたんだよね」


「その嫁が長宗我部の出よ」


「ええっ!姫さんもらったの?」


「表立ってそんな事したら大事よ。殿さんはかつて自分が手を付けた女中との間に生まれた年頃の娘を、若い僧に取らせたのよ。隠し子とは言え実の娘だ、その子が苦労しないようにと褒美もかなりはずんだということだ。殿さんにしたら将来跡継ぎ問題になったときの揉め事も減って万々歳よ」


「それはそれで大きなお世話やな。その若い僧はひょっとしたら本当にそのまま空海の生まれ変わりとして諸国を巡ってすごい僧侶になれたかもしれんのに」


「でも空海の本当の生まれ変わりだってそこで立ってる2人程度のものよ。そこでの生活がその僧の身の丈だったんじゃない?」


「なんかひどい例え。俺らまだこれからやで」


「じゃあ安穏寺さんの何代か前の人が、岡豊城の惨状を知って寺に入ったんですね」


「そういうことだ。先祖の尻拭いでやってきて、目的を果たせないままわしの代になったということだ」


「でも僕らとしては結果的に、当時の僧侶と長宗我部の血が入った安穏寺さんという願ってもない人に手伝ってもらえる」


「手伝ってもらうも何も、わしが助けてもらう立場だわ。一人ならば諦めて死ぬまであれを横目に生きるしかなかった」


「安穏寺さん、失礼ですけど家族は?」


「寺もなくなり、わし一人ではあれはどうにもできんと理解した時にもう安穏寺はわしの代で終わってええと思った。檀家の人もわしがおるから未だにご本尊さんを拝んでるが、わしがいなくなったらもうアデヤ教に鞍替えしてもええかもしれん」


「なんで終わったムーブかましとるんですか!これからやないですか!せっかくこんなお経や本尊を先祖が危険を犯して残してくれてるのに。まず寺の封印解いたら、岡豊城やりますよ!」


「その後残された人生で何をするんかの」


「決めるのは自分ですわ。寺の封印が解けて僕らが魂入れたらそこを信仰の対象としてみんなで拝むもよし、ここで本尊拝むもよし。ちなみに安穏寺さん、今おいくつですか?まだまだ頑張れる歳でしょ?」


「わしか?わしももう数えの40だ」


「え?まだそんなもん?うちの会社の先輩なんて40越えてバツイチですけどヘラヘラ毎晩遊びまくってますよ。会社の飲み会の後、一人で3次会までして、会社の宿直室で寝ようとエントランス行ってドア叩いても宿直の田中さんが開けてくれないので『田中ぁ~開けんかコラボケ~』言いながら玄関の網入りガラス蹴破ったら、会社と逆方向の少年院の入口やって、出てきた教官と大乱闘になって社長が呼ばれて身請け人になってるくらいですから」


「何を言っとるか全然わからんが」


「その後、菓子折り持って改めて社長と先輩がお詫びに行った時『いやぁ~オタクの社員さんガタイがいいから、制圧の訓練になって良かったです。深夜に教官4人がかかりでやっとおとなしくなったくらいですから』って言われてましたから」


「あなたまだその話、続けてるの?伝わらないって」


「ふふ、それ葬儀社の淵さんの話?」とウミがニヤニヤして聞いてくる。


そうそう、店長という名の暴れん坊。185センチ、体重100キロのレスラーみたいなおっさん。


「そそ」


「あの人ならやりかねないね」とウミ。


「他にも……」というとユイが頭をはたいてきた。「しつこい!」


「なんかわからんが、まだまだわしもいけるということか?」


「そうですよ。40歳なんて僕らの街ではまだまだ若手ですよ。やっと『そろそろ嫁でもさがそうかの』って残念な人が多いですよ」


「残念なんか」


またユイに叩かれた。「あんたたちよりよっぽどモテそうよ。あっちの世界でも」


「そうそう、大丈夫ですよ。安穏寺さん、剃髪が似合っているし色黒で筋骨隆々。骨太でちゃんと出会いがあれば余裕だと思いますよ」とウミのフォロー。よくできた子だ。


「なんかあんたに言われると色々自信がでてきたわ。言葉に優しさと真実味がある」


「ほな僕わいな」


「あんたは口ばっかりでしょ!ソラ」


「ふん、ある意味そっちが本職だ。お客様の立場にたって色々ご提案するのが善通院葬祭のモットーや。あとは約束厳守、時間厳守、5分前行動。異世界でも時間の概念が薄れてもちゃんと時間の確認はするぞ」


と言いつつ時計を見る。カレンダー機能も着いているのでこっちに来ていても、向こうの世界の日付も時間もわかるのだ。と、日付を見た瞬間。


「あぁあああああああああああああああ!!」


「どうしたの?ソラ君!!」


「しもたぁ~~~思い出したぁ~~!!」


「どうしたのよ急に」


ユイが目を見開いてこっちを見ている。安穏寺さんも心配気だ。


「この前のパパゾンの買い物と一緒に、社長から書類届いとって……」


「ああ、また通帳コピーとか給与明細とかビリビリ引き裂いてたね。他にも色々あったけど」とウミ。


「免許の更新忘れとったぁ~~~~~!」


「え?誕生日いつだっけ?」


「明日……」リュックのポケットから折り曲がった更新通知を取り出して2人に見せる。


「なんの話?」


安穏寺さんが困惑気味だけど、ちょっとごめんやけど作戦会議。


*(第31話へ続く)*



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