27話 秘めた思い
「おたくらどなたや?見ない顔やな」
と訝しげに僕らを見る、日焼けした顔にマッチョな身体、スキンヘッドの強面のおっさんがこっちを見ている。
「ちょっとだけお時間もらえませんか?すぐ終わりますので~」とさらに営業スマイルで頼む。
「ま、丁度休憩しようと思っとったからええけんど」と強面なのに笑うとかわいい。いい人そうでよかった。
僕らのいる畑脇の道まで歩いてくると僕の足元を見て「ん?」という顔をする。
「あんた、足の調子が悪いとかそんなんないんか?」
「え?いたって健康ですよ。何か気になります?」
ヘッヘッヘッというサチの息遣いが聞こえとる。
「大丈夫ならええがやきに。なんか悪いもんでも憑いとりゃせんかと思っての」
「あ、見える人だ」とウミ。
「見えてるわね」とユイ。
僕は小声でサチに「サーチ!」と言ってみた。サチはダーッと畑の向こうの方まであっという間に駆けていった気配がした。僕には見えてないけど。それを目線で追うスキンヘッド。間違いないな、こりゃ。僕よりはるかに見える人だわ。話が早い。
「お聞きしたいことが3点あります」社会人1年目に無理やり読まされたビジネス書の真似をしてみる。最初に要点言わんとね。
「1点目は安穏寺さん、あなたはこの世のモノならざるモノが見える人ですね?」
目を逸らせて「なにを言うとるかさっぱりじゃが」とすっとぼけ。最初に要点3つ伝えないといくつまでいったか忘れてしまうのに。
「サチ、戻ってこい!」そう言うと向こうからタタタタタっと駆け戻ってくる音。足元でヘッヘッヘッと言うサチの息遣いが聞こえる。あ、僕の足首から邪念吸収し始めた。探索したご褒美代わりか、僕の邪念は。
「あんた……足、噛まれとろうが」
「はい、見えてる~!」
サチは邪念……失礼やな……を吸い取ったあとはおとなしく足元で伏せの姿勢で大人しく待っている。えらいぞ。
「あんた、怨霊憑きか?」とスキンヘッド。
「はい、見えている上にアデヤ教に無い『幽霊』の概念を出しましたね?普通の人と違う知識を持ってる~」
「おい!あんたなんなんや?仏教狩りか?」
ん?なんか知らん言葉出た。
「じゃあ2点目の質問です。仏教を知っているという事は仏教が信仰されていた時代、安穏寺がまだ寺だったころの話も知っていますね?」
「答える義理は無い」
「まあいいでしょう。安穏寺さん、あなたお百姓さんのなりしてますけど、まだ坊さんですよね?」とカマをかけてみる。古畑ソラ三郎気分で気持ちい。
「ギクっ」
あ~ここにもユイみたいに素直な人いたぁ~~~~。と思ったら安穏寺さんに見えない角度からユイにえぐいローキックをふくらはぎに叩き込まれた。ぐぉ~と呻き思わず膝がガクリと崩れる僕。それを見た安穏寺さんはサチの霊に僕が何かされたかと勘違いして、慌てて印を結ぼうとする。悪霊退散的な感じで。
「おんちゃん、ちゃうちゃう!」と慌ててトリリンガルが出てしまう僕。
誰がチャウチャウやねん!と言わないあたりは関西人のノリとは違うところ。印を結びきる前に止められてよかった。もうちょっとでサチが祓われてしまうとこだった。危ない危ない。
「ものすごく正統派の綺麗な印の結び方だったね」とウミ。
「お前、なんでそんなんわかるの?学校で習った?」
「あんたは少し頭の中で思ったことを一拍置いてから口にする方がいいわよ」
「これでもかなり抑えとるわ。お前、俺の頭の中見えるんやろ?10分の1も口に出してないわ」と正論を言う。
「確かに煩悩あふれまくってて全部口に出すと捕まるわね。ゴメン」
「釈然としない謝罪やけどまあ受け入れよう。ところでウミはなんで印の形まで知ってるの?」
「兄さんが高野山の修行から一度帰ってきた時に見せてくれた。興味なかったので横目で見てただけだけど」
「お前、できるの?」
「形だけなら」
と言ってとても美しく印を切って見せた。それを見ていたスキンヘッドはたちまち態度を変えた。
「おたくら……仏教を知っているのか?高野山も知っとるのか?」
「知っとるも何も、僕ら八十八か所巡礼中やっちゅうの。寄り道ばっかりやけどな」
「おい、そんなもんとっくに失われてしもうて何もないぞ。アデヤ教の信徒がぎっちり封印しちゅうぞ」
「それを復興……は言い過ぎか。封印されてるやつだけでも解いて、アデヤさん一択の信心を無くそうって思ってね」
「なにを言ゆうがよ、そんな事ができるわけなかろうが。アデヤ様の封印はどうにもならん。わしも試したけど並大抵の力じゃどうしょうもないがやぞ」
お、安穏寺さんの態度なんか風向き変わってきたぞ。いい感じ。アイスブレイク終わり!警戒心解けた……はず。直射日光がかなりきつくて暑いから上着脱いじゃえ。もうどっから見てもそこらの兄ちゃんやな。リーマン要素無くなった。
「そうそう、一応この二人、空海、弘法大師の生まれ変わりだから」とさらっとユイが言う。
あ、Tシャツ一枚のラフな格好になったばかりなのに威厳無し。まあソラはずっとジャージやし……ってこいつも暑いから上はTシャツ。そこらの兄ちゃん2人になってた。もうひとつ権威付けの為に大ネタ投下しちゃる。ちなみにこれ営業でも大事。どっかの大学の先生の論文では~とか適当に言うだけで信憑性アップ間違いなし!
「この子、アデヤさんと箸蔵さんの天狗の娘ですわ」と僕が言う。
安穏寺さんは絶句して僕ら3人を眺めている。兄ちゃん2人に変なドレスの少女…信じがたいよねぇ。
「せっかくやから紹介すると、こいつ、この前まで山間の村で犬神って呼ばれてた存在」追加投入。
サチが嬉しそうに尻尾をパサパサ振り回す。また足が泥で汚れとるがな。
「あんたら一体なんなんや?」と呆れ顔でこっちを見る。
「坊主見習いの学生と葬儀屋の新人リーマンで中身は元弘法大師と、子女神と幽霊犬」と僕が胸を張って言う。
「全く意味が分からん。とりあえず色々話を整理したいからうちの家に来るかい?」と安穏寺さん。
「ほなお邪魔しようか。しかしユイ、お前、いきなりの空海さんはインパクト強すぎるやろ。バラすにも段取りってもんがあるだろうに」
「それを言うならあんたもアデヤの娘って言うのおかしくない?がっつりお互いの利害関係ぶつかってるじゃない。それだけ伝えられると私めちゃくちゃ敵じゃないの!」
「半分天狗やからええんちゃう?天狗の羽出せ、羽」
「あんたら、ほんまになんなん」頭を抱えるスキンヘッド改安穏寺さん。
「僕はただの高校生ですよ」と自慢げなウミ。
「高校生がちらっと横目で見ただけで完璧な印なんて切れるか~!」と僕。
「わしの隠れてやってきたこの40年の修行ってなんやったんやろうのう」と寂しそうな安穏寺さん。
「こいつが特別賢いだけで気にしないで。そもそもこいつ空海さんの生まれ変わりだから」
「そういうあなたもでしょ!」とユイ。
安穏寺さんはしばらく思案していたが、僕を見て「あんたが一番ごっついの……」と静かに言った。どういうこっちゃ?一応Tシャツの袖をまくって腕に力を入れて力こぶを出してみた。横でウミが同じように力こぶを出した。くっ、アスリートに勝てるかぁ~。「だっさ」とユイが小声で言った。
その後、僕たちは安穏寺さんの後をてくてくついて行った。しばらく歩くと寺の廃墟があったところのすぐ近くにこじんまりとした洋風の家があった。こんな小さな寺もがっつり壊され封印されている。アデヤさん恐るべし。
「ユイ、ママってまだ見張ってる?」念のために聞いてみる。
「もちろん、がっつりとマークされてるわよ。最近、パパが暗躍してるから余計に」
うぅ、調子乗ってパパゾン乱用しすぎたか。だって~天さんがポロっと社長が出向手当とは別の特別手当を用意してくれてるって言ってたから。使えないのに給料を増やすと税金がかかり過ぎてかわいそうという事で、あえて収入を押さえるようにしてくれているとか。社長!一生ついていきます!てなわけで、ソラやウミに大盤振る舞いしたんだった。善通院から会館の紹介やら花輪、盛かごの発注やらでホクホクらしい。ウミの安全は任せてください!ご住職!
アデヤさん、見張っている割にあんまり僕らが寺の封印を解除してる事に対して妨害とかしてこないんだよな。泳がされてるだけなのか?本気出したら僕やウミなんてビーム一閃で消し飛ぶのに。
「私でも一発で消せるわよ」とユイ。
この母娘怖い。多分、天さんの息がかかっているから見逃してくれてるんだろうな。
「粗末な小屋だけど」と安穏寺さんは家へ招き入れてくれた。外観は小さな洋館だけど中は畳敷きで板の間まである。おや、素敵な囲炉裏が。めっちゃええやん。
「コーヒーで良かったか?」と3人分のコーヒーを入れてくれる。やっぱ湯呑ですわな。安穏寺って彫られてる。茶碗や湯呑は何年経っても残るからなぁ……思いと一緒に。
「安穏寺さんやったらわかると思うけど、こいつわけありやけど総本山善通院の息子でもあるウミって言います。修行はしてないけどお経は読めるし一通りの作法もご住職についてまわって覚えています」
「なんと善通院やと?うちの寺と同じくアデヤ様に封印されて久しいと聞くが、まだ血は、信仰は途絶えてなかったのか!」
と顔を覆ってスキンヘッドのおっさんが嗚咽を漏らす。
「そこはちょっと訳ありで素直にそうですとは言えんところやけど、まぁ系統でいうとそんなとこ。そして僕はただの空海の生まれ変わりと言われているうちの半分です」
「そこが全く意味わからんのやが」
「同意します!」と僕。
「ウミ君って言うたか?善通院の。そっちのボクよりあんたの方がごついと感じとるんやが」
「あ~僕は空海さんの煩悩でできてるみたいですわ。僕が滓やったらウミは上澄みですね」
「あんたからものすごい力を感じるんやが」
「それなりの喋りと営業力と行動力には自信あります!」
「言うとる意味がわからん」
「最前線を任される男っていうことですわ、はははは」と自嘲気味に笑って見せる。
「私もあなたからは何の力も感じないわ」と冷静にユイが言う。
同意する。
「いきなり覚醒して色んな力を手に入れてあれこれ倒して世界に平和をっていう類の人間じゃないですよ、真反対です。めちゃくちゃ弱いです。勢いと度胸だけしかないですよ、本当に」と僕が言う。
「それが一番強いんじゃないか。自分の実力を知って、それでも前に行く勇気を持つことができるのは」
「なんかええ感じの事を言ってくれてますけど、とりあえずなんかやれそうな空気を出すのは得意です。でも実力は無いです!妖怪とか棒でしばく事もありますが、後ろにウミやユイがいないと即死です。後ろを信頼してるからできる事ですわ。ホンマはこいつ弱いんちゃうか?って相手に思われたら終わりなので、弱さ見せないように頑張ってます」
「ほうかほうか、よぉわかった。あんたはすごいのぉ」
あんまり褒められると疑心暗鬼になってくる。
「この人、本心から言ってるから心配しなくていいわよ」
「うん、僕もそう思ってるよ。ソラ君が凄いのは僕が一番知っている」
なにこの空気。気持ち悪い……。
「それはそうと本題。安穏寺さん、仏教を知ってるって事はアデヤさんの世になってからも代々それが伝わってるって事でいいよね?」
「まだ続いてたんか、その質問の流れ。ああ、全部読んどる。何が知りたい」
「岡豊城落城の経緯について」
「‼」
「それとあなたが霊が見えるにも関わらず、城をあの状態のまま見過ごしている理由を聞きたい」
「‼」
いやそんなびっくりマーク出されてもわからんて。
「わしらは『隠れ仏教徒』なんじゃ」
「‼」
なにその隠れキリシタン逆バージョン!
「マネするんじゃないわよ!バカ」
バカバカ言われ過ぎてもう慣れちゃったよ、ユイ。安穏寺さんが仏教を未だに守ってるのはわかってたけど「ら」って言ったな。わしら……。そして隠れ仏教徒というパワーワード。なんぞそれ。
*(第28話へ続く)*




