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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
城攻め

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26話 下調べ


朝、下の茶店でメシを食って部屋に戻る時に「お前、昨日の夜、ここで寝てた?」とユイに尋ねる。いつもは天さんのところかどっか知らないけどいなくなるのは知っている。でも昨日の夜、なんとなくユイの話し声が聞こえた気がしたから。


「なんでよ?いつも通り家に帰ったわよ」


「だよなぁ~夜お前がなんか喋ってる様な気がしたから」


「!!」


なんか怪しいな。僕の寝顔でも見られてたのだろうか。


「見るわけないでしょ!」


もう僕の心はフルオープンのようだ。こいつの彼氏とかになったら浮気なんて絶対できないだろうな、すぐバレる。バシッと鋭い蹴りが飛んできた。ふっ久しぶりだなと思いつつ避けきれず側頭部に受ける。もう見飽きたけど何色かなと思ったらキュロット!


「お前ズルいぞ!」と言うと「意味分かんないわよ、バカ!」と頭をはたかれる。


今の御時世、コンプラに引っかかるぞと思いつつも甘んじて受ける。ま、大人だからね。


「大人はそんなバカなこと考えないわよ!」


まぁそうかも知れん。そうかも知れんけど……それが男ぞ!と胸を張ってみる。


「じゃあ俺の聞き違いだったんだな。よかった」


「よかったって何がよ」


「いや、ユイがなんか悲しそうにしてた気がしたから。違うなら平気。変なこと聞いてごめん」


「……」


なんか変なリアクションだけど、まあ違うっていうもんをあれこれ聞くのはおかしな話だしな。


「ソラ君、近所の人に何か情報がないか聞いてみようよ」とウミ。


「そうやな、乗り込む前になんかヒントとかないと取り憑かれるだけな気もするな。その役目どうせ俺やし」


「今までの霊はアデヤさんの教えを信じたまま亡くなって、どうしていいかわからない霊がウロウロ彷徨ってたんだけど、今度のはそれ以前の霊だからね。弔いも受けてないのか足らなかったのかわからないけど、ものすごい怨念が離れているここまで感じるもん」


「サーチ!」ととりあえず言ってみる。


「くぅ~ん……」とサチが悲しげに鳴く。


お前、元犬神もどきだろうに。なにビビってんだよ!


「サチはもうとっくに普通の幽霊犬よ」とユイ。


普通の幽霊犬ってなんやねん。幽霊を普通にするなよ、異常だよ。


「サチがサーチを使うまでもなくヤバい存在ってことでええんやな?」


「そうだね、僕らが山を抜けた時から感じてたから、サチもビクビクしてたと思う」


「悪霊いっぱいいるなら俺の足噛まなくても浄化する力の影響減りそうやの」


「白いサチが黒くなったらどうするのよ!」


「俺には普段見えんがな」


「メガネかけたら?」


ん?かけてみるとなんか白く透明だったサチが若干茶色く見える。


「マジかぁ~~~~!俺の足噛め、好きなだけ」


「嘘よ、さっき外を走り回ってたからよ。泥まみれで帰ってきたから」


「え?霊って汚れるの?どうなってるの?物理的に毛に汚れつくの?どうやって洗うの?」


「ごちゃごちゃうるさいわね、知らないわよ。理屈っぽいんだから」


「だってなんで透明で触れないのに汚れがつくんだよ~」


「いつも噛まれてるでしょ!物理がどうこうの前にしょっちゅう尻尾でパサパサされてるじゃない」


「あ、ほんまや……日常的に足首噛まれてたわ。そういやそうだな。幽霊がドア開けたり物投げたりするもんな」


「それと同じかどうかは知らないけど、現に茶色くなってるからそうなんじゃない?」


「ユイ、洗ってやって」


「霊体をどうやって洗うのよ?バカなの」


「お前、言ってること矛盾しまくりじゃないかよぉ~」


「オカルトってそういうもんでしょ?」


なるほどそういうもんか。なんとなく納得した。


---


「まずは茶店の人に聞いてみようか」


「せやな、城から近いしここはずっと前から街道の要所の1つやろ。歴史もあるやろうしな」


と僕らは料理を作っているおやっさんに声をかけてみた。


「おんちゃん、悪いけんど、ちっと岡豊城のことについて教えてや」


「なんぞね、岡豊おこうの城の話かね?どがなことが知りたいがや?」


「あんた何で土佐弁そんなに流暢なのよ」とユイ。


「ハーフや言うたやろ?あとは『竜馬がゆく』愛読書やきに」


「ソラ君、わかりにくいから普通に喋って。ソラ君がネイティブで喋るから相手も同じように返すんだよ。よその人だと分かればそれなりに僕らの喋りに合わせてくれるでしょ?」


「一理あるな。ほなこっからは標準語でいくことにするけんの。あんの、おっちゃん、あっこに岡豊城のあとあるやろ?あれって元々は長宗我部さんの城であっとんかの?」


「あなた今度は西の方の讃岐弁丸出しよ」


うるさいなぁ……僕は高知弁、讃岐弁、神戸弁のトリリンガルなんじゃ。


「あんたこっちの人間と違うかったんか。あ、城の話やね?あそこは長宗我部さんの城やったんで間違いないですわ。だいぶ前に城を高知、今のコーチの真ん中に城を移したんで取り潰しになりましたわ」


「やっぱり合ってるね、歴史的には」


「移転して不要になったから廃城になったってことなの?」


「そうですわ。それまでは長宗我部さんの居城でしたからそれはそれは立派なお城だったと聞いとります」


「じゃあ特に争いごとも無く……?」とウミ。


「いえいえ、1回落城しとりますわな。最後までおられた長宗我部の殿さんのもっと前の殿様の代の時に1回。その後またお戻りになられてそっからは平和に過ごしとりましたそうで」


「なんか言い伝えとかはないですか?大変なことがあったとか……」


「さて、わしはよそ村からの入婿やから詳しい話はよう知らんですわ。昔の話は寺の住職に聞けって婿に行った先のじいさんは言うとりましたが、じいさんもそのじいさんから聞いた話で、その寺っていうのもアデヤ様の言いつけで取り壊されて、もうその跡地くらいしか残っとらんですわ」


「そこの住職さんだった家はまだ続いてたりしますか?」


「ああ、寺の跡地って言われとるとこの近所に、寺でもないのに『安穏寺さん』って屋号で呼ばれとる家があるけどそこが元お寺の系列やと聞いとります。今は畑を耕しとりますわい。地図でも書きましょうか?」


「いえいえ、この男に道順を伝えてください。そしたら全部記憶しますので」


「ほんまですか?けったいなお人ですな」


「人をボイスレコーダー代わりにせんといて」と眉をひそめるウミ。


さあ準備しようっと。お、サチ、ユイに拭いてもらえてよかったな。綺麗になってる。ほぼ透明わんこ。


「ワン!」


ってお前、それ俺のTシャツで拭かれてるやないかい!


「洗えば同じよ」とユイ。


「ならお前の服で拭けよ!洗えば一緒」


「私の服、いくらすると思ってるのよ!」


「どうせZARAとかH&Mやろ?いつも着てるテロンテロンのドレスって」


「はぁ?バカなの?ソラのTシャツなんてGUばっかりじゃない!で、時々しまむら混じる感じ?」


「な~んで俺の荷物見てるんだよ!やめろよスケベ」


「襟元がだらしなく伸びてたら新しいの用意しないと恥ずかしいじゃない!サチを拭いてるのだって首が伸びてダランダランだからもう雑巾にしようかと思ってたのよ!」


「お前は俺の嫁か!」


「バカじゃないの!」


と言ってサチを拭いていた汚れたTシャツを投げつけてきた。めっちゃ雨に濡れた犬の背中の匂いするやん。ホンマに幽霊なんか?


おっとボイスレコーダー放置してた。行こうか。


「よし、準備OK。ナビよろしく!ウミ」


「ボイスレコーダーなんかナビなんかどっちなんよ」と不満げな顔のウミ。


「お前、見たもん忘れんからドラレコ機能もあるのぉ」便利な事この上ない。


「知らんわ」


「とりあえず連れてって、安穏寺さんのおるとこ」


「なんかいいヒントあるといいわね」


「絶対なんかあるぞ」と僕。


「その自信はなによ」


「俺の勘は当たるけんのぉ」


「全く根拠ないけどね」


ウミの歩く前を警戒しながらサチが行く。どうやら僕のシャツが気に入ったみたいで鼻の頭に乗せているので、霊感のない僕がネガネ無しで見ると単にTシャツが勝手に宙を飛んでいる様に見える。


「カエルの絵を描いたらぴょん吉みたいやの」


「ぴょん吉ってなに?」と聞くウミと、少しだけ眉を動かして反応したユイ。ユイは絶対知っているはず。なぜなら僕より遥かに年上だからね。


「ユイ絶対に知ってるだろ?」


「逆になんであんたがそんな昔のアニメ知ってるのよ?」


「僕はアニメじゃなくてドラマで見ました~」


「ドラマなんてやってたの?アニメは知ってるけど」


「人気あったかどうかは知らんけど斬新だったので見ました!」


「は?」とユイ。


「ど根性だけで平面に潰れたカエルがTシャツの中で生きていて人の言葉を喋るんやぞ?今流行りのテンプレ異世界ファンタジーでは絶対出ない発想や」


「知らないわよ!」


まぁ確かにどうでもいい話だわな。僕もそう思うわ。


---


カーナビの誘導……っていうか僕ら歩きだからカーの要素全く無いな、ナビについていくこと10分、だだっ広い畑に出た。何人かのお百姓さんがいるけど、どの人だ?わかるか~こんなん。


「あの人だね、ユイ」


「間違いないわね」


ってなんでわかるのこの2人。彼ら曰くその人をまとってる空気が普通の人と違うそうだ。オーラ的な?よくわからんけど行ってみるか。最初に行くのはまぁ僕だよな。ふふ、ガキみたいな変な服着た女子とエセ米津が行くより。よし!営業スマイル準備OK。


「こんにちは~安穏寺さん。ちょっといいですか~?」と畑の真ん中にいる初老の男性に声をかけた。


ん?スキンヘッド?剃髪しとる?なんでや???


*(第27話へ続く)*


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