25話 コーチ突入
「ビビくるくらいおんなじ景色やったの~たまらん」
「前にソラ君も言ってたけど、ホントに山、川、石、森、空、以上だったね」とウミ。
「同じ場所をぐるぐる回ってるのかと錯覚するくらい変わらなかったわね」とため息をつくユイ。
何泊か山肌にへばりついてキャンプをしたり、時々ある集落に泊めてもらったりしつつ、僕らは南に向かっていた。
ようやく、ようやく山を抜けた!舗装道路だったら2日くらいで行けるんだろうけど、山道だから夜は動けない。そして猪ノ鼻峠並みに野生動物ももりだくさん。野生の猿も見たぞ。イノシシも山犬も普通に出てくる。
そうそう、こっちに来て数ヶ月。僕もようやく山歩きをしている時にスキルを身につけた。
「サーチ!!」僕が叫ぶ。気配察知の能力だ。近くに山賊のような不届き者や、クマとかイノシシとかいないか周囲を察知することができるのだ。
「よし、この辺に危険はないぞ。先に進もう!」
「バカじゃないの?」とユイが言う。
足元でヘッヘッヘッと荒い息が聞こえる。
「ソラ君、幽霊の使い方が荒いよ」とウミが苦笑する。
お前ら見えるからネタバレやけど、普通の人が見たらスキルにしか見えんぞ、これ。
「サチに『サーチ』とか言ってえらそうに周囲の安全確認に走り回させるのはどうかと思うわよ」
「だからサチとかダジャレで名前つけたのか……」
「断じて違うぞ、ウミ。たまたまだよ、たまたま。なあサチ」
見えないワンコがカプカプ足首を甘噛みしてくる。
「なぁウミ、なんでこいついつも俺の事噛むんだよ!」
「食事かな?僕やユイの近くにいると浄化されて天に登りそうになるから、煩悩を吸収してるんだと思うよ」
「邪念よ邪念。空海様のだめな部分を抽出したらソラになったのよ、多分」
「じゃあ俺がいたら霊たち成仏できないじゃん」
「だから私とウミが必死に祈ってるんじゃないの。ソラがいる分、余計に力を使ってるのよ」
「俺はお荷物かよ!失礼しちゃうわ!」
「ソンナコトナイヨ」
「なんでカタコトなのウミ!」
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「しかし祖谷のかずら橋の近くの村の蕎麦、美味かったなぁ~」
「僕らの世界と時代がどのくらいずれてるのかはわかんないけど、あったね。かずら橋」
「そんで近くに茶屋もあったやろ?」
「あったねぇ~。しかし時間軸というか、なんかもうよくわかんないよ。茶屋って観光客向けじゃないの?」
「そだね」
「なんでこの時代に観光客なんて来るのさ」
「そういやそうだな。この時代からかずら橋って名所だったのでは?」
「そんなわけないよ。単なる生活用の橋のひとつだったもん。昔空海様が架けたとか、平家の落人が追手が来た時すぐに切り落とせるようにって謂れがあるみたいだけど。観光地になったのなんて20世紀以降だと思うよ」
「ウミ」
「どうでもいいじゃない、細かいことは。俺らの世界と同じようにかずら橋はあった。茶屋もあった。それだけさ」
「アデヤさんの意図を感じるけど」
「ママの?」とユイ。
「アデヤさんの都市計画というかなんというか、街作りにこだわりみたいな……時代が違うのに僕らの時代のもの、海外のものを無理やり押し込んでるような……」
「ギクッ」とユイ。
「まあおいおいでいいやん、ウミ。そんなことより俺らのやることはまだまだ山積みや」
「うん、そうだね。まずはやることやってから考えようか。なんか知っている人もいるようだし、おいおい聞けばいいや」
「ドキッ」またユイ。いちいち口に出すなよな、お前。
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「ここらへん、子供の頃、親父の実家に帰る時によく通ってたんやわ。懐かしいのぉ~」
「ソラ君、田舎は高知の山奥って言ってたもんね」
「そうそう、子供の頃に下道で走ったらいつもこの辺で膀胱パンパンになって、あの向こうら辺にあるドライブインでトイレ休憩してたんよ。『岡豊城』とかいうたいそうな名前のドライブインやったわ。とっくに潰れたけど」
「あ、ソラ君あれ……」
「うわ、おっきな茶店。今まで見たこと無い規模ね」とユイ。
マジか!レストランがあった頃並のでかさやん。あ……でも昔の人も長旅の途中でしんどい思いして山越えて、やっと開けたとこに出たら腹も減るわな。トイレはそこらじゅうでしとったやろうけど。
「せっかくだから行こうや!前はお子様ランチとか鰹のタタキとか乗った刺し身の盛り合わせ食べた記憶!」
「お子様ランチはないんちゃう?」
「久々にハンバーグ食べたいのぉ~。動物性タンパク質に飢えとるんじゃ」
「おこちゃまはびっくりドンキーのワンプレートに目玉焼き乗ってるやつでも食べてたらいいのよ」
「お前もう完全に開き直っとるなぁ~隠す気ないやろ」
「もうパパがあれだけ喋ってたら開き直るしかないわよ。初めの頃の神秘性、皆無だもの」
「まあ話が早くて助かるわ。あそこ、ハンバーグのワンプレートあるかのぉ~」
「あるわけないでしょ、バカなの?店が違うでしょ?マックに行ってワッパーくださいって言うの?」
「店が違うとかいうレベルの話ではないよ、ユイ……」とウミが呆れて言う。
「そうやぞ、ユイ。マックなんてこっちじゃ言わんわ。マクド」
「それも違うぞ、ソラ君」
「あ、香川はマクド派とマック派混在やったか?」
「だからそうじゃないってば」
わーわー言っているうちに茶店に着いた。ほんまでかい。茶店というか宿屋も兼ねとるんか。そりゃでかいわな。
「お姉さん、ちゅうも~ん!」
「はいはい~」と若い日焼けした可愛い女の子がやってくる。
「何にする?」
「なんで先に決めてから呼ばないのよ?バカなの?計画性無いの?」
「俺に何を求めてるんだよ、壁のお品書き見たって読めんがな。毛筆な上に達筆すぎて」
「何がおすすめですか?」と、僕らの事はスルーして静かにウミが聞く。
「そうやねぇ、まっこと、しっかり食べたいがなら田舎寿司や皿鉢、ぐる煮もあるきね。あとはおでんにお団子らぁもえいねぇ」と娘さん。
「え?なんて?」
「あなた失礼ね、ホント。デリカシー無し」とユイ。
「じゃあおすすめのを3人分食べれるくらいの量で持ってきてください。あと今夜泊まれる部屋があればお願いします」
「よう分かりました。お宿の用意もできますきね。ちっとばあ待ちよってください」
「うん、オールOK。待っとけばメシも食えるってことやな」
「そう。あなたはもう黙っておきなさいね」とユイに釘を刺された。
待て待て、僕は高知と香川のハーフだぞ。基本、土佐弁はヒアリングできるぞ。聞き慣れない単語が出たからちょっと???になっただけだ。親戚のおばさんとかまだ高知におるきねぇ。ドヤッ!
メシはめちゃくちゃ美味かった。なんだろう?僕にとっては食べ慣れた味。なんでこんにゃくに切れ目入れて酢飯詰めて寿司っていうんだよとか、なんで筍の寿司~とか。しめ鯖の頭に酢飯詰まっとる~とか、まぁ色々昔は思ってたさ。でもそれも文化、僕は受け入れてるもんね。高知素人2人は面食らってるかなと思って見てみると。
「ソラ君、それ苦手なん?食べてあげようか?」
「これおかわりしてもいいかな?絶妙な味付け!この竹みたいなのってパパのいる山にめっちゃ生えてるやつでしょ?食べれたんだ?」
いわゆる「イタドリ」な。炊くと美味いんだ。ニュルとした食感が……って2人ともめっちゃ受け入れてる!
お腹いっぱいになって部屋に案内してもらってくつろぐ。あ~靴下に穴が空いとる。
「ユイ、靴下穴空いた」
「知らないわよ。なんで私に言うのよ」
お願い!パパゾンに発注して、と心で思ってみる。
「領収書もらえるかどうか知らないわよ!」
やっぱ優しい。ウミは、と見るとじっと目を閉じてなんか念じてる。
「ウミ!あなたまで真似して!」
なんか発注したようだ。学習能力高いやつだ。
「ところで真面目な話していい?」とウミ。
「なんぞいな?」
「どこの言葉やのん。それは置いといて——徳島からの山を越えてコーチの平地に出た時から、なんかものすごい事になってるんやけど」
「だよね。今まで見たこと無いくらい怖い事になってたわね」
何の話よ、僕は置いてけぼりかいな。
「あれって……ものすごい数の霊体だよね?」
「朽ち果てたお城みたいなとこのやつよね?」
「うん、お城までの道やら畑やらにも累々といたね」
「さすがにソラも気づいたでしょ?」
「え?茶店しか見てなかった。お城なんてあった?」
「思いっきり道の途中に見えてたでしょ?っていうかあの気配を感じないの?」
「だから茶店に集中……」
「ホントバカね!ちょっとこっちにいらっしゃい。行くわよ!」
とユイに耳を掴まれて部屋から連れ出されて、茶店から出た。
「ほら、あそこ。お城見えるでしょ?」
乱視だっちゅーの。そして僕は見たいものしか見ない主義なの。茶店はバッチリ見えてた!
「あ~ぼんやりとなんか建物らしき~」
とか言ってたら強制的にメガネをかけさせられた。ユイの指し示す方を眺めたら——
「ギャー!なんぞあれ!大名行列どころの話ちゃうやん。あの辺一体で黒い霧がかかってるんかと思うくらい色んなもんがうねってるやん」
「あれ、全部人よ……」
「え?人なん?」
「うん、それも怨霊みたいになってるね。かなり怖い感じ。今までの霊とは全く違うよ。どうする?」
「どうするってなにがいな?」
「先に進む?」
「アホ言うな。あんなん放っておけるか。なんぞ理由あるんやろ?あんなん、この辺に住む人も近づけんやろ」
「そう言うと思ったよ」
「今度こそ死にそうね」
待て待て、ヤバそうやけど。
「ソラ君、これは僕の仕事だよ。僕がやる」
え?という顔をしてウミを見る僕とユイ。
「歴史を一通り知ってるから。きっと長宗我部の岡豊城が城攻めにあって落城した時に亡くなった人たちだと思う」
「まぁ日本全国よくある話だと思うけど」
「面倒なのは、落城して自分たちは殉死したのに城主は逃げ落ちたらしいのね。もともとは城を枕に自刃したって美談だったけど。で、城は落ちたのに、それからあとにまた長宗我部が戻ってきて、ここを本拠地として四国を統一するまでになったんだ」
「犬死にか……?」
ぐるぐるぐるっとサチが呻いた。
「結果的にそうなるね。彼らの死があったから逃げ延びれた、その後の繁栄の足がかりを作ったとも言えるけど、一方で自分たちが負け戦で死んだと思ってたら、その同僚たちが我が世の春を謳歌してたんだからやってられなかったんじゃないかな。その思いが渦巻いて残ってる」
「なるほどなぁ~俺がしばきにいってもどうもならんな」
「うん。だから僕がやらなきゃね」
「方法は?」
「未定」
「でもやるんやろ?」
「もちろん!」
「よし、俺らなりの城攻めやの」
「手伝わないからね!」とユイ。
「ありがとう!」と答える。
「何聞いてるのよ、意味わかんない」
さぁ城攻め……の前に、今日は布団で寝て明日から方法は考えよう!
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「ママ、どうしてなの?」
そんな声が寝ぼけた耳に聞こえた気がした。
*(第26話へ続く)*




