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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
幕間

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ウミ

僕は昔から変わった子と思われていた。年の離れた兄がいるけど比較されるのが嫌で、僕はもっぱら部活動に力を入れてきた。建前上ね。


父も母も兄たちが仏教の道にそれぞれ進んだため、僕には仏教の道を強要はせず比較的自由にさせてくれている。


ただ父は、僕がみんなとは違うものが見えていることに気づいているようだ。小さい頃から父は「にぎやかし」ということで僕を檀家さんのところへ連れて行っては、そばでお経や作法を見せていた。僕はそれを聞くだけで覚えたし、見るだけで次からは真似できるようになった。絶対記憶というやつらしい。


檀家さんに失礼なので、ついて行った先の法事や葬儀で僕自身がお経を読むことはなかったけど、着付けの手伝いや祭壇の準備をする時に色々と不思議なものを見てきた。


今そこで棺に寝かされている人が、式場の後ろから見ている。それを僕が見ているのを父は目線で追っている。誰もいないはずの通路脇の柱からこっちを覗いている人。僕の目線の先を父も睨むように見てうなずく。


僕には生きている人と同じように見えているけど、父はきっとぼんやりとわかる程度なんだろう。ただ、そんな事があってもとやかくは言わない。いつも通り接してくれていた。父は僕に妙な力が有ることを分かっているということだけだ。


小学校の体育で色んなスポーツをした。でも球技をしていると誰もいない所にボールを投げたりする。ああ、人には見えてない何かが見えているんだと気づいた。


だから僕はチームプレイが苦手だ。一人がいい。一人だと人に迷惑をかけることもない。だから中学からは陸上を選んだ。一人で没頭できるから。人の心を汲むのも苦手だ。


そして僕は、さっきも言ったけど全てを記憶してしまう。忘れたくても忘れられない。交差点で事故を見ると、その脇に立って血を流している自分を呆然と見ている人を見たりする。見ていると目が合ってしまい、すがるような目で助けを求められる。でも僕には何もできない。そこを見る度あのときの景色がずっと見えてしまう。


そんな時に何もできない自分を忘れられない。失敗した自分、何もできない自分が積み重なって潰れそうになる。唯一忘れられる時間が陸上をしている時だった。でもそれも3年生でもう引退。あとは空虚な時間が待っていた。


大学は多分望めばどこでも行けるだろう。教科書は全て覚えた。参考書を見れば覚える。英語のヒアリングも聞けば理解できる。でも人と喋るのは苦手だ。失敗したくないから。相手の望む事が言えないと思うと言葉が出ない。


勉強も部活ももうやることがない——そんな時、前から葬儀の時にうちへよく来る葬儀社の若手社員のソラ君からバイトの話が出た。言い出しっぺがどっちだったか。忘れないはずの僕が、意外な展開に夢中になって聞き逃したのかもしれない。なぜかソラ君とは実の家族より気が置けない関係だ。何を言っても流してくれる。ツッコまれるけど愛がある。全く性格は逆、趣味趣向も全く合わないし年も違うけど、不思議と気が合う人だ。


僕がこの世界に来た時、一人ぼっちだった。食べるものも無く、知り合いもおらず、廃墟になった善通院のような場所で不安な夜を過ごした。バイトの迎えに来てくれる時間なのに約束を守れなかったなぁと思っていたら、彼は僕を探しに来てくれた。僕の無茶なお願いも聞いてくれて、必要な物資を持ってきてくれた。それだけで十分だった。


なのにソラ君は自分からこっちに来てくれた。嬉しかった……ただの知り合い以上友達未満なのに、救援物資以上の勇気を届けてくれた。元の世界にいてもこれからどうしようと悩んでいたけど、こっちに来てからはそれ以上にどうしたらいいかわからず途方に暮れていたのに、彼は自分からやってきて僕の道しるべとなってくれた。


根拠もなく直感だけ、ほんとに危なっかしくてでたらめな人だけど、僕はこの人となら、この世界も悪くないと思えたんだ。


そんな時、天狗の天さんと出会った。天さんは僕らの元知り合い、友人だと言う。まぁ名前がなんの因果かソラとウミ——バカじゃなきゃ想像はついていたよ、最初から。総本山善通院で空と海が出会うなんてある?ベタベタすぎるよね。


それからコトヘラで霊たちの大名行列を天に返した。初めて人のためにお経を読んだ。ああ、これが僕の役目だ、天職だと理解した。ソラ君以上に僕は使命というものを感じた。そして決めた。僕は元の世界に戻ったら僧侶の道を選ぶ。兄たちのように宗教をきちんと学び、修行をしてたくさんの人を救いたいと思った。


それまではまずはこの世界で、ハーマイオニーこと唯一神アデヤさんをなんとかしないと。そう2人で決めて、まずは元の世界の徳島——アーワの国の1番札所から23番札所まで巡った。ソラ君は何度も死にかけた。よく天秤棒ひとつでいくつもの妖怪をボコボコ殴ってなんとかなったもんだ。基本は口で言い負かして説教して納得させてたけど、見てる方はヒヤヒヤしてた。


アーワから高知——コーチへ行くぞって時にユイが現れた。ソラ君は理解するのに時間がかかったけど、最初から僕はユイの服装や言葉の端々に元いた世界の匂いを感じていた。帰国子女みたいなイメージ。最初に出会った時着てた服なんて、韓国のアイドルのMVで中世をイメージしたヨーロッパロケで着てたブランドのやつそのまんまだったし。言わなかったけど。ポシェットもスペイン王室御用達のロエベってブランドのレザーバッグだった。野暮だからわざわざ指摘しないけどね。ソラ君はしばらく騙されてたけど、面白いから僕も気づかないフリしてた。


天さんからはソラ君がいない時に、空海様と約束した許婚の話を聞かされていた。きっと先に生まれたソラ君に、空海様の持つ破天荒なところや情熱、怒り、苦しみなど感情に関わるところが全部行ったんだろうな。ソラ君が取り忘れた、知性とか霊力とか不動心とか客観性などを僕が時間差で受け取って生まれたんだと思う。空海様がより濃く残っているのはソラ君だ。僕は結婚にも興味がない。今あるのは早く修行をしてたくさんの人を救いたい気持ち。それだけだ。


だからソラ君とユイには内緒で天さんに協力する約束をした。でもこの前の子泣きのおじいさん、犬神の時を見ていたら、無茶するソラ君を見るユイの目が心配を通り越してちょっと怖いくらいだった。僕が手伝うことなんてないかもしれない。まぁソラ君にやたらとユイの当たりがきついけど、それはたいていソラ君が悪い。


さて、こんなこと考えているのをユイやソラ君にバレたら大変だ。無心でいこう、無心で。さ、サチも仲間になったし、次の場所へ向かおうかな。


あ~サムライマック食べたいな。ユイ買ってきてくれないかな。怒られそうだから先にソラ君をそそのかしてみよう。ソラ君はきっと殴られるだろうけど、多分ユイは文句言いつつ用意してくれるはず!


「ねえ!ソラ君!お腹すいたね」


*ウミの悪魔のささやき*


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