22話 憑き物
「思い出したっ!」
「なによ急に。びっくりするじゃない」
「入社したての頃に社長に『色々あるけん、手首に着ける念珠買って来い。わしが買うてやるけん、好きなん仏具屋で買え』言われて、そこにあった一番高い青いラピスラズリの念珠買ったんよ。数万円の。そしたら『お前は~加減知らんのかぁ~』と低い声で怒られた。好きなん言うたけん、一番目立つの買ったのに」
「遠慮知らずね」
「ソラ君、葬式でラピスってどうなん」とウミも呆れる。
なんかカッコよかったもん!
「で、その時社長の『色々あるけん』って意味がわかってなかったんよな」
「意味深な言葉ね」
「で、先輩らがヤバいって言う家があったんよな。前から。で、お前、後学のために行けって言われて行ったさ」
「行ったんや?」
「行った、行った。ほんで受注しに行って喪主さんと打ち合わせしとったら、なんか仏壇に火がついてさ」
「蝋燭じゃなしに?」
「うん、扉の下あたりがぼうって。焦って消したがな。でも喪主さんめっちゃ落ち着いてて『ようあるんですわ』って」
「ようあるって怖いね、それ」
「んで、葬式したんやけど、俺普通にマイク持って司会しとっただけやったのに、その数珠が突然はじけ飛んでん。ギャグかと思うくらいバーンって」
「ゴム切れただけじゃない?」
「買いたてやっちゅーねん。数万の数珠ぞ。ゾッとしたわ」
「霊現象?ソラでもビビるのね」とユイ。
「いや、社長に怒られると思て……」
「私たちはさっき何を聞かされてるの?」
「慌てて告別式が終わってから地面に散らばる珠拾ったわ。ま、最終的に2つ見つからんかったけど。自分でシリコンゴム通して直したけど珠の数が足りへん」
「106個なんや?」
「おかげで煩悩2個減ったわ……って違う!そんな話ちゃうねん」
「なんなんよ、話が見えんわ」
「先輩が後から言うには『あの家は狐憑きの家やから』って。このご時世に狐憑きってなんやねん」
「でも突然火が出たんでしょ?」
「うん」
「念珠切れて飛んだんでしょ?」
「うん」
「なんなんそれ?」
「イリュージョン?」
その後、その家はテレビの心霊特番で当時めちゃ有名な霊能者の人が来てお祓いしたとか言ってたけど、原因不明の出火で全焼したとか聞いたぞ。できてへんやんけ。
「で、質問なんやけど——憑くってなんなんやろ?霊なん?妖怪なん?」
「僕に見えるもんじゃないと思うから、妖怪寄りかな?」
「妖怪とか可視化できる物ならあなたたちのサングラスでどうにかなるんじゃないの?」
「妖怪ならユイも見れるよね?」
「私に妖したちが使う認識阻害みたいなのは通じないわ。私も使い手側だし」
そう言ってスッと消える。あ、見えない……どこ行った?この辺かなってところを手で適当に探してたらなんか当たった。少しだけプニュって。あ、これあかんやつや……と思ったら見えないグーパンが飛んできた。避けれるかぁ~こんなん。
数分後、目つきの鋭くなったユイがこっちを睨んでいる。ごめんなさい。
「犬神ってのがどうもわからんくてな。メシの前にざっくりウミから説明してもらったんだけど、この辺の伝承で犬神憑きの家があって、そこの家の人が他の人を呪うとかって話やんな?」
「うんざっくりとは、前に読んだ本にはそう書いてた」
「でも犬神憑きの家自体も呪われてる家系とかいう説もあるんだろ?」
「そうだね、諸説あるけど」
「『うしおととら』もそんな感じやったはず!」
「漫画の話なの?」
「俺のバイブルや!」
「どうでもいいわ」
直感的にこれは悪霊でもなく妖怪でもなく神様系でもない気がする。なんか……重たい感じ。これってまた僕、押しつぶされる系?
「次はウミの番がええのぉ~。かわりばんこにしようや、しんどいの~」
「身体はるのはソラの仕事でしょ?」
「なんかずるいわぁ~」
「じゃあソラがお経読めば?」
「う~」
とりあえずこの宿屋のお姉さんに聞いてみよう。
「すんませ~ん。ちょっといいですか~?」
奥からお姉さんが出てきた。
「聞きたいんですが、この辺に犬神憑きの家……」と言ったところで、にこやかだった顔が瞬時に変わり「シッ!口に出してその言葉を言っちゃダメ。聞かれてたら来るわよ。知ってても知らないふり、それがここの決まり!」と言われた。この辺は夜は看板犬は家の中にいれるんだな。やはり犬神とかに襲われるのかな?外に置いておくと。
なんも聞けんやん。でもメシの前から散々ウミと部屋で「犬神」連呼しとったけど、手遅れなんちゃう?
「うおぉおおおお~~~~ん」
さっきより大きな遠吠えが聞こえた。警告音……なの?聞かれてる?
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情報収集失敗。僕たち3人は早々に部屋に戻った。ユイも一緒に戻ってきてくれた。勝手に看板犬連れてきてる。白くて割と大きな雑種。めっちゃ人懐こい子やな。思わずモフモフする。手をあまがみされた。犬はいいなぁ。きびだんごあればなぁ。
「なんの情報も無しやの」と僕は言う。
「名前すら口にするのを避けられるってよっぽどだね」
「それだけ強い、もしくは強いと思われてるんだろうなぁ、(ピー)神」
「とりあえず、夜も更けてきたし、外に出るか!」
「ふつう逆やろ?」とウミ。
「昼間に幽霊や妖怪は出にくいやろ?明るいうちからだと」
「え?普通にいるよ」JINSのメガネをクイッとウミ。顔も頭もよくて運動もできるけどさ。欠点は天然なとこくらい?
「ソラと一緒につるんでることくらいよ、ウミの欠点」とユイ。もう勝手に人の心を読めばいいさ。スルーしてやる。
「ウミぃ~やめ~や、そういうん。わかるよ、わかるけどさぁ……。どこの村や町にもおるんやろ?アデヤさん信仰以降に亡くなった人」
「うん、いるねぇ。あ、でもね、ちょっと気づいたんだけど」
「あ?何を?」
「コトヘラほど霊がいない。どこも……」
「どういうことや?」
「ごめん、全く根拠はゼロ。でもこれまでの体感的に生活が楽じゃない所ほど霊の数が少ないんだよ、明らかに」
「人口密度の違いじゃろ?」
「それだけじゃないと思うよ、明らかに全く違う気がしてたんだよ」
「それは生まれ変わりと関係があるんかな? ん?」とユイを見た。
「私は知らないわよ。知ってても言わないけど」ケチ。
「恣意的にアデヤさん、転生者と放置している霊を分けてないか?」
「だから知らないって」つれない子。
「ウミ、お前の話からの俺の推論。アデヤさん、即転生する人としない人、区別してます!」
ユイの眉が動いた。
「人と言うより場所で決めてる気がします」
また動いた。
「比較的平和な暮らしをしていた人は放置、もしくは後回し。厳しい環境に置かれて苦労して亡くなった人を優先で転生させているんではないですか!」とユイの目を覗き込む。
こっちの目を見ず、固く閉じた。ハイって言っているようなもんじゃないかそれ。
「なるほどなぁ」
「なるほどって何よ」
「ユイはかわいいな」
「な、なに言ってるのよ、バカ」と狼狽する。
いや、わかりやすくて単純でかわいいと思っただけだよ——バカと心で思ったら、避けられる程度のゆるいパンチが来た。そういうところもかわいいなと思ったら、弁慶の泣き所を思いきり蹴られた。パンチがフェイントとは全くかわいくないのぉ~。
「ウミ、もう憶測、推測だらけやけどそんな感じとちゃうかな。救われないまま亡くなった人、遺恨を遺して恨みつらみで成仏できず悪霊になるかもしれない思いを持っていそうな人を、アデヤさんは選んで成仏させてるんじゃないかな」
「うん、僕、ず~っと疑問に思ってたんよ。この前も言ったけど僕は僧侶じゃない。除霊もできない。上がりたいと思っている人しか上げられない」
「せやの」
「これまで一度もその場所にしがみついて、怒りや悲しみ苦しみを訴えて抵抗してきた霊っていないんだよ。おかしいよね」
「そうよな。そういう気持ちを持っている魂はアデヤさんが率先して上げてるんかもな」
そう思うとアデヤさんのやってることって、やっぱりそのまま悪とは決めつけられないよな。
「ユイ」
「なによ」
「俺の心読め」
「……嫌よ。顔に出るから」
やっぱかわいいやん。
ここの村もやっぱり山間で生活は厳しいよな。じじいの所もそうだけど、ここも稲作が厳しいから蕎麦にシフトしてるんやろうし……と思った時、ふと、子泣きじじいの村も蕎麦を作ってたら今もこうやってみんなで暮らしてたんかな。クソガキどもの子孫とかも元気に走り回ってたんだろうか、なんて考えてみた。今さら意味ないのに。直した風車をフッと息を吹いて回してみた。じじい……今のアデヤ統一神の元で死んでたら、一番最初に転生させてもらえてたやろな。もっと豊かな村の子に。
うん、アデヤさんが少しわかってきた気がした。ここの霊はまた改めてウミと弔おう。その前にさっきから遠くでワンワンうるさい犬やな。そんだけアピールされたら放っておけん。お前、犬神やろ。僕らがビビると思うなよ。僕が怖いのはマジ口調の社長の説教だけじゃ。
「よし、行こう!ウミ、ユイ!」あ、そこの宿のモフモフワンコは置いていけよ。犬神に食われたら怒られるぞ。
「なんで私も一味に加わってるのよ。ただの傍観者、付き添いって言ってるでしょ」
「俺が死んだらユイは天さんに怒られるやろ?多分俺、簡単に死ぬよ。犬にカプッて首筋噛まれてあうあうあ~って。だって戦闘力無いもん」
「天秤棒(改)があるじゃない」
「あれ物理攻撃オンリー!霊、妖かしの類には無効です~」
「大蛇とか叩いてたじゃない?」
「あんなん青大将やん。勝てると思った相手には有効。強いと思ったら無理」
「あなた最低~」
「非常に人間らしいと言ってくれ」
バカ話をしながらも、きちんと準備をしてくれている2人は頼もしい。ホントに僕は何の力もない。ゲームで言うなら紙装甲の盾役だ。ペラペラの装甲なのになぜか一番前で敵の攻撃を受け止める。あれこれ毒舌吐いて敵のヘイトを引き付けておいて、後ろで仲間が攻撃を待つと。
「え?僕も攻撃なんてできないよ」
「私も手伝わないからね」
なんてこったい。犬死じゃん、犬神相手だけに。……うん、つまんない。
「ほんとにつまんない」とユイ。
ワンコを宿に置いて外に出るともう村の通りにはひとっこ一人いない。夜はよくないモノがうろつくって事が、大人も子供もよくわかってるんだな。えらいえらい。空には半月か。満月なら犬神は人の姿になって襲ってきたりするんでは?そりゃ狼男か、とかバカなことを考えていたら、犬の遠吠えが村の外れの家の方から聞こえてきた。そっちに向かうと、もうずいぶん前に廃屋と化したようなボロボロの家。吠える声が聞こえる。
「ウミ、なんか見えるか?」
「なんにも……声は聞こえるけどね」
「犬神って家に憑くって話だよな?」
「うん、犬神憑きの家って呼ばれるって書いてた」
「その家の人は他の家をその犬神を使って呪うんだよな?」
「うん」
「その力を使って誰かを呪っても、そもそも犬神憑きの家も呪われてるんだった」
「犬神を使う前にかなりひどいことをしているからね。犬を首まで埋めて目の前に餌を置いて、食べたいのに食べられない状態で放置して餓死させて、その恨みつらみをもった犬を使うって事だったけど」
「そこだわ。声は聞こえるけど犬の霊が見えないんだよな?俺も眼鏡かけて見まわしたけどおらん」
「犬の霊なんておらん!犬神になった霊なんぞどこにもおらん。って事は実は、その犬はもう成仏してるんでないか?」
「成仏?」
「ひどいことをされたけど、苦しい悲しい思いをして死んだけど——もう天に上がっているのでは?」
「えっ?」
「さっきの話……アデヤさん」
「あっ!まさか」
「アデヤさん、その死んでしまった犬を上に拾い上げてやったんちゃうか?」
「じゃあこの声は……」
「じじいの時とおんなじよ、なぁ犬神!」と僕は声を上げた。
怒りに震えるような犬のうなり声が聞こえた。
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*(第23話へ続く)*




