約束
ずっと昔、1000年以上前のこっちの世界の話。できたばかりのでっかいため池の水に足をつけて涼んでる、壮年の僧侶と背の高い農夫の会話。
「できたできた。村人総出でかかってようやく無事完成した!これだけ大きければ日照りが来ても田畑に水を送ることができる。飢えに苦しむものも減るぞ。みんな笑顔になれる」と僧侶。
「お前の力があればそこの杖でしょっとそこの地面叩けば、寝ている龍を叩き起こせてその巣穴に水でも貯めれば一瞬ででっかい池もできるだろうに。唐まで行って修行してさらには高野山であれこれやって人ならざる力を持っているじゃないか」
「それじゃいかんのよ。わしがひょひょいってやってしまえば人は甘える。また誰かがしてくれると思わしたらいかんのよ。自分たちで汗水流してやる。もし干上がって別の場所に池を作らなくてはなった時、一緒に働いた者たちやそれを伝え聞いた者たちが後年自力でまた同じことができるじゃろ?」
「わしが見るだけでもそんじょそこらの土着の神さん以上の力があると思うがの。お前はその力をどう使うんじゃ?」
「使わんよ。わしは人じゃ。それを使うと人外の者になるじゃろ?わしはおのれの力で歩く。そして教えを広げる。そのためにあちこち寺を作っていっておる」
「でもいつかは寿命がくるぞい?」
「そういうお前は出会った頃と変わらんの。町で悪さして遊んでた頃とおんなじじゃ。時に若返ったりもしよる。人外じゃ、人外、怖いのぉははは」
「お前と出会ってもう40年近いか?子どもだったお前が小さな善通院の町を出てあちこち行ったと思ったら立派になって帰ってきよった。戻って来てからも旅して寺作って池掘ってばっかりやったの」
「貫禄はついたろうの、ふふん」
「でもわしの見るところ、お前あと10年ちょいで命が終わるぞ」
「おお、まだ10年以上あるか。それは重畳。まだまだこれからも歩ける。修行もできる。ええこっちゃの」
「お前、その法力、惜しないんか?死ぬほど修行してそんなバカげた力を持ったまま死んでしまうのが」
「アホか、どんな金持ちやってあの世に金は持っていけんぞ?もったいないとか言うとる場合か。この力やておまけやしのぉ。欲しくて修行したんやない。結果や。ほんで時々悪いの懲らしめるのに使う、そんだけや」
「お前…神にならんか?」
「はぁ?神ってか?アホ抜かせ。わし仏にはなるやろけど、なんで神さんや。そもそも信じるものが変わっとるが、ははははは」
「お前、わしに娘ができたら婿になれ!ほんでわしの身内になったら寿命なんて関係なくなるぞい。神に名を連ねい」
「おい、箸蔵の天狗!昔からお前が田舎の山におる割にはえらい力があるんは知っとったけど、神の一柱やったか。すごいのぉ。タメ口聞いてすまんの。ま、人間の寿命から見たら長い付き合いや。ほんだけどの、お前、嫁もおらんのに何言いよるんじゃ。寝言は寝て言え、あほ。カカカ」
「うっ…そりゃわしがモテんのとちゃうぞ。わしのメガネに叶うもんがおらんちゅうだけや。わしの理想は高いけんのぉ。スリムな女よりこうボンボーンって感じの…どっかおらんかのう?」
「めがねってなんや。すりむもわからん。何にしてもわしは坊主ぞ。そもそも嫁は取れんて。」
「あ、そやったか…。でもわしは諦め悪いけんのぉ。今生お前が死ぬまでにわしの嫁が見つからんでも、そのうちいつか嫁もろて娘できるまで子を作るぞ。で、娘ができたらお前を探しに行くぞ!それまでお前の魂が何回輪廻転生するかわからんけど、絶対にの」
「ああ、そん時はよろしくたのまいな。でもそん時も坊主しとったら無理やぞ、カカカカカ」
「ああ、その時お前が坊主してなかったらええんやの?言質とったぞ。覚悟しとけよ、未来の婿殿よ」
「まだ今まで輪廻転生した記憶もないし来世覚えとるかは確証ないけどの」
「お前の人並み外れた毒舌と、人を思うときの手を合わせたまっすぐ綺麗な姿勢をわしは忘れんよ。
「まだ生きとるが、わし。カカカカカ」
「絶対見つけて婿にするからな、空海よ!」
古い昔の約束である。




