21話 お祓い?除霊?浄霊?なんやねん
「めっちゃ美味かったな!晩メシ!」
「蕎麦米汁って初めて食べたけど、とっても美味しいね」
「なんで蕎麦なんやろ?香川なら小麦の名産地、小麦粉と言えばうどん!うどんがソウルフードなのに。お食い初めのとき香川ってタコの代わりにうどんやん」
「適当な嘘挟まないでね。山間だと蕎麦なら育てやすいからね。平野じゃなくても採れるから。小麦とか米はやはり山では育てにくいんだよ、水も必要だしね。条件的に厳しいよね、山だと」
「お前やたら詳しいな」
「昔、社会科で習ったじゃん」
「俺はうどん食えたらええけんの」
「そういう話じゃないよ」
「ソラはバカだから」と食べ終えたユイが言う。あ、メシはここで食べていくのね。夜は自分ち帰るくせに。
さて腹も膨れたので食後の雑談タイム。あ、そうだ。お姉さんに適当な紙をもらって風車修理しとこ…修理っていうか工作やけど。リュックに棒だけ刺さってても「ん?これなんやっけ?危なっ!」って反射で捨てる。僕なら秒で捨てる。明日にはなんの棒か忘れてると思うから忘れないうちに一応ね、一応。深い意味はない…。
「なぁソラ、俺ってオカルト好きじゃない?」
「好きだよね。文句言いながらも」
「実は子供の頃は僕ってばムーが愛読書だったのね」
「そうなんだ?」
「でもあれって同じネタをループしてるよね、数年単位で」
「そうなの?」
「『あれ?これ前も似たような話見た?』ってそのうち気づくの、3回目くらいで」
「逆に3回目まで気づかんの?ああ……ネタ切れで?」
「まぁ前ほど心霊的なのは減ったかもだけど、基本UFO、UMA、陰謀、地球滅亡みたいなのがさ」
「そうなんだ?」
「僕は図書館で見たけど、中身より広告が面白くて見てたな。中身見てないわそう言えば」
「必死で読んでた俺がバカに思えるな。そんでな」
「うんうん」
「俺ってオカルト好きだけど、基本あんま信じてないのよ」
「なにそれ、バカなの?」とユイ。
「なんなんだろうなぁ。実際に体験しないからかな。占いとかも世の中あふれてるけど、占う人によって運勢が全く違うじゃん?朝の星座占いもこっちは最悪、こっちはラッキーデーみたいな。『今日のラッキーアイテムはピンクのシュシュ』って言われて俺がつけるの?この頭に。はぁ??ってなるよな。あと北東がラッキーって行ってたかと思うと別の占いでは西とか。身体ひとつしかないんじゃ!」
「続けて言うと血液型占いなんて言われてもただの遺伝じゃん。生まれる前から——両親が結婚した瞬間に俺の性格がほぼまるっと決まってたの?」
「生まれる前からひん曲がるのが確定ってことね。そんな子ができないように法律でこの血液型と血液型は禁止って法するべきね。ちなみにソラは何型?」とユイ。
「日本人に最も多いA型です!」
「じゃあ今後A型禁止ね」とユイ。
「手相なんてシワじゃん! 俺、恋愛線どこにもないんだけど!」
それもなぜか腹が立つ。昔必死で探してみたけど無かった。なぜに。せめて平等に土俵にくらいは乗せてくれよ。そもそも無いって…ズルいぞ!
「星座占いだってさ、双子ならもう生まれた時点で同じ人生が確定なの? 俺の同級生、真逆の性格してたぞ。兄貴は暴走族になって高校やめたけど、弟は国立大受かって今は大手デベロッパーで働いてる。更に言うとタッチの達也は甲子園優勝、和也は無念の事故死!…ウウッ」
「漫画の話やん」とウミ。ま、それぞれに同じ日に生まれても出てくる順番とか時間が違うとか逃げ道作ってるよなぁ。
「あと幽霊だって、俺あんまり信じてないから」
「こっちで散々見たじゃない。バカなの?」とユイ。
「こっちはこっち、むこうはむこう。むこうではそれほど変わった体験してないもん」
「ん? それほどって?」
「一人で宿直してるときに施錠した館内で宿直室のドアを誰かにノックされたり、夜中にご遺体乗っけて寝台車を運転してるときにシートの背中を誰かにドン!って蹴られたくらいやし」
「それは怖くないの?」
「別に実物見てないし平気。怖いってよりムカつく。こっちは仕事中なんじゃぁ~!って。ノックしておらんってどうよ?ピンポンダッシュやん。ほんで蹴るってどうよ?人として」亡くなってらっしゃるけども。
「それ、いるけどソラ君だから見えてないだけじゃないの。じゃあ夜中の霊安室とかは?」
「あ、全然平気。休日のイオンのフードコートで一人ではなまるうどん食べてるときの方がメンタルに来る。家族連れ、カップルばっかりじゃけん。」鼻息を荒くして怒る僕。ま、イオンくらいしかないもんね田舎は。
「霊安室にご遺体いてはるんでしょ?」
「だってご遺体はもう殴って来ないからOK!」
「めちゃくちゃ割り切ってるね」
「そもそも怖かったら葬祭の仕事せんでしょ? 天職や」とサムズアップ。リアリストだいっ!
「でもオカルト好きなんだ?」
「めっちゃ好き!いつもYouTubeで怪談聞いてる。寝るときも」
「怖いの?」
「いや、それが全く。他の人が怖いって言うのがどんなのか知りたくて見るけど怖いと思ったことないなぁ。雰囲気が大事かと思って深夜の公園でイヤホンして聞いても全く。あ、そうそう——この前、関西万博あったじゃん?その中で夜に怪談をやるイベントがあって抽選に当たったの。有名な怪談師達も来るってことで」
「なんかテレビのスピンオフみたいなイベントがあったみたいね。あれ当たったの?すごいやん」
「運使い切ったけど当たった!もう高速バスで行ったよ丸亀から。有給取ってさ」
「それって怖かったの?」
「ああ、声優さんの怪談の朗読、すご~って思った。感動して泣いたわ。号泣よ」怪談師の方たちも、トーク上手だなとは思った。演出とか音とかさすがプロ!って感心した。怖くは無かったけど。
「ほんとあんた性格ひん曲がってるわね!」とユイ。
「で、本題!」
「はぁ?今までのトーク何だったのよ。時間返して、バカ」
ユイは厳しいなぁ。
「霊能者についてお前はどう思う? ウミ」
「ん?なんかめちゃくちゃ前フリ長かったね。 まぁいるんじゃないのかな、僕みたいに見える人」
「うん、それは俺もいるとは思うんだ。俺は霊は見えないけど、いないと否定してるわけじゃない」
「ほんとにややこしい性格ね、ソラは」それは言わない約束だよ。
「除霊とか浄霊とかお祓いってやる人おるやん? それさ、宗教って無関係なん?」
「言ってる意味がよくわかんない」僕の聞き方が悪かったな。
「例えばだよ、日本のぐわ~って怒ってる悪霊に対してアメリカのエクソシストが悪魔祓いして聖水まいたら消えるんか? もし俺が霊やったら英語で『悪魔よ去れ!』って言われても『ぱーどん?』言うわ。いや、いきなりわーわー言われて水まかれたら、『なにさらすんじゃごるぁ~!』って余計キレる。あとアフリカで悪霊に憑依されてぴょんぴょん跳ねてる人に、日本の神道の人が厳かに祝詞あげたら『へへ~』っておさまるんかね? 笛や太鼓が鳴ったら余計ノリノリで踊りだしそうやん?俺なら笑うかも『なにですか?なにですか?これはなんなのですか?お祭りですか?跳ねまショカ?もっとさらにワタシ跳ねまショカ?跳ねてミマショウカ?』ってご機嫌になるわ多分」
「なんでカタコトなん。そもそも言葉お互いわからんでしょ?ソラ君が言わんとしてる事って多分、世界中の人が思ってるけど言わないことやね、きっと。色々不都合起きそう」
「ってなると、その悪霊を追い出すにはそれに沿った霊能者をあてないと浮かばれない気がするのよ。そもそも言葉が通じんし、信じる神が違うやん。イスラム教徒の霊がいてキリスト教のエクソシスト来たら、霊より前に祓う方、祓われる方の人間同士で胸ぐら掴んで取っ組み合いの喧嘩が始まるんちゃうか?」
「またややこしい例えを……」
「でも実際、日本でも多様性だなんだで色んな神さん仏さんを信じる人がいるから、バシッとこの人はこの宗教だからこの宗派のこの寺の、偉い人呼ばなきゃ~ってなるとめっちゃ難しいと思うんよな。日本人ですら宗教マチマチやのに、って俺は思うの。信じてない手法であれこれ説き伏せられてもワシゃ知らん!ってなるで」
「うん、その辺のシステムはよくわからんね、実際。ごま焚いたり太鼓叩いたり、聖水振りまいたりして除霊できましたって言ってるし」
「なのになんで高い除霊料金を取って、さらにオプションで水晶やら数珠やらお札を売るんですか!」
思っていたことが口をついて出た。
「お祓い終わったのになんで身を守るためにってオプション料金必要なんですか?祓えたんじゃないですか?」
「あなたは取り憑かれやすいとか言ってるけど、それも含めて祓ってあげたらいいんじゃないですか?オプション必要ならちゃんと祓えたと言えないんじゃないですか?」
「お金ある人しか救ってもらえないんですか? 本当に苦しんでるお金ない人はスルーですか? なんでわざわざパワーストーンでブレスレット作って売るんですか? 安価にするなら木製の玉でもガラスでもいいんじゃないですか?」
「誰に怒ってるのよ、あなた。うるさいわよ、さっきから」とユイが冷静に返す。
本当に霊が見えて除霊できる人が、お金のあるなしで選択するの?「街歩いてて悪霊がついている人が見えるんですよ」って言う霊能者が、そのままそれを見過ごすの?不幸になるってわかっている人が目の前にいるのに。それってさケガして血まみれの人が苦しんでいるのに、お医者さんがそれを見て知らん顔してるみたいなもんじゃないか。診療科目が違うから手を出さんのか?なら宗派が違うなら手を出すなよな!って思う。
僕にはわからない。本当に霊能力がある人が、見て見ぬふりとかできるのかな。悪霊を祓って徳を積むより、不幸になる人を見過ごしてマイナスポイントを積み上げる方が怖くないのか。いつか閻魔様に「お前は人助けをしたふりして金儲けしたから地獄ね、テヘっ」とか言われないのかな。
まぁ、これが僕のブレない根幹。ホントに霊がいてお祓いできる人がいてみんなを分け隔てなく助けてるなら霊能者も信じるけど、結局ビジネスじゃんって思うとお祓いできてたとしても、懐疑的にならざるを得ない。
うちの社長はお金持ちには豪華な祭壇を勧めて高い棺桶を受注しろとは言うけど、本当にお金のない人からは経費しか取らなかった。こみこみ六万円とかで全部やってあげていた。お坊さんも呼べないって人も多かった。そんな時は斎場の職員の田辺のおっさんが読経して送り出した。
田辺のおっさんはかなりめんどくさいおっさんで、火葬のない日は昼間から酒を飲んでいる。暇だとうちの事務所に入って来て勝手にコーヒーを飲んで喋り出す。一応市の職員ではあるけれど、火葬場一筋うん十年。きっとタクシー会社からリベートでももらってるんだろうなとみんな思っていた。本当にややこしいおっさんだけど、坊さんの資格を持っていてお経を読める。普段は作業着でも、必要な時は袈裟を付けて死者を弔う。市民葬の時は田辺のおっさんがお坊さんの代わりに経を読む。無料で。
そんな日は社長に言われて場夕方に斎場まで軽トラで一升瓶を持っておっさんに会いに行く。
「今日はありがとう! これ社長から」
「いつもすまんの! お前もやっていけ!」
おっさん、車で来た人間に酒勧めるな。
社長もおっさんも、金にはシビアだけど人としてのラインは外さない。金のない人からむしり取るのは、やっぱ僕は認められない。
で、長くなったけど——アデヤ統一神は僕らの考えとは真逆だ。霊に対する向き合い方も、平和と引き換えに価値観を押し付けたことも。それでも、元いた世界のように神様仏様だらけで「誰が何を信じていて、霊が迷ってたらどの宗教の誰を呼ぶのが正解か」とか「その儀式は違う、この方式で」とかにはならない分、システムとしては悪くないのかもと思った。
まぁ、そもそも浮かばれない霊なんて存在しないってのがこの世界の建前だけどね。
即転生? さまよえる魂、そこかしこにゴロゴロいるがな、履いて捨てるほど——いや、捨てないけど。それを空に帰すのが僕とウミの役割だから。
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*(第22話へ続く)*




