第20話 風車(かざぐるま)
「確かこの近くやったよな? 犬神の伝説って。かなりメジャーな話やけどあれはなんなん?」
「妖怪じゃないよね。心霊でも無いし……さっきの子泣きじじいさんと似たような感じじゃないかな?」
「俺、見えんの嫌なんやけど。心の準備できんやん。もっとさ、前みたいに祠をパーッとやってちゃちゃっとして、言う事聞かんかったら天秤棒(改)でぱーこんみたいなさ」
「さすがに色んな意味で重かったわね、子泣きさん」とユイ。
「君ら、行くまでは平気でじじい、じじいって言うてたのにいざご対面したら『さん』付けかい? 日和るなよ。じじいはじじいじゃ。そういうネーミングじゃん」
「でも伝わってた内容と全然違かったよ。おぎゃーおぎゃーとかじゃなくって、笑えんくらい重かった」とウミ。
「俺は物理的に重かったわ……ってそう言えば」
「そう言えば?」とウミ。
「さっきは助けてくれてありがとうな、ユイ」
「何を今さら言ってるのよ? バカなの? もう済んだことなのに今頃言わなくていいわよ。バカバーカ」
「でもホントに助かった。感謝!」
「あなたが死ぬとパパとの約束守れないからよ。前も言ったでしょ。手伝わないって。命にかかわりそうな時だけは手を出すって」
「じゃあ、あれってお前が最初から手を出したらどうなってたの?」
「そんなの簡単よ。見えないけども、やもやしてたあれなんて簡単に蹴散らせるわよ」
そう言うと河原の岩が何かに貫かれて爆散した。
「お前が本気出したらじいさんの念も一撃で霧散してたんか?」
「余裕」
「さすがにあのおかんの娘やの」
と言った瞬間に僕は後ろに2歩下がった。学習能力高いからね。
僕の元いた場所にレーザー光線でできた穴があいて土煙が上がっていた。
「どんだけ遠隔射撃が正確やねん。ロングレンジ攻撃のアデヤさん半端ないのぉ」
「え? あれは警告だけだよ、たぶん。本気だったらよけられるわけないもん。やってみる?」
え? アデヤさんホーミング機能搭載?
「ソラ君、チャフばら撒く?」
とポケットからふざけてお香をばらまくウミ。さっきの弔いのやつをポッケに入れてたんかこいつ。
その瞬間鋭い光が走り、ウミの前に舞っていたお香から煙が上がった。さすがのウミも怯えている。
「ママ、冗談嫌いだから」
怖い母娘……。
辺りをおだやかな「沈香」の香りが漂っていた。
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「よし、この辺で……『サーチ!』……ってなんか感じる? ウミ君よ」
「結局人任せなのね?」
ユイ、厳しいな。
「俺に能力なんて無いもん。そんな修行してないし。できるのは妖かし相手に説教するくらいだわ」
「ソラ君、僕も能力なんて皆無だよ。そもそも修行なんてしてないし。お経も理解せずただ読んでるだけで除霊とかできないからね。ずっと陸上しかしてきてないんだから」
「でもちゃんと弔いできとるやないかい」
「それはみんな上がりたいって思ってるからだよ。上がり方がわかってない、あの世とかわかってない霊に対しては、お経を読むことで道を示してあげてるんだよ。だから任意でみんな上がってくれてる」
「じゃあ悪霊とかいたら?」
「それは祓えないんじゃない? そんなのしたことないし。数珠持ってカーッ!とか言ったところで、こんなガキの話聞いてくれる? 背が高いだけのひょろひょろ高校生だよ。髪も伸びたまんまだし」
「剃る? 剃っちゃうここで?」
「やだよ、恥ずかしい」
「お前、お坊さんを恥ずかしいと言うか?」
「学生だよ! まだ。卒業式に剃髪した状態で出るってなったらどうすんのさ、卒業写真つるっぱ?」
卒業式……忘れてた。時間どうなってんだ? ウミはこのままこっちにいて卒業できるのか? 受験は?
「ウミ……このままこっちって事はないかと思うけど、このペースだとお前、卒業できんかも」
「あ~そうか。まぁ1年や2年、別にいいけど。こっちの方が生きてるって感じするし! 部活も引退してるし」
お前には部活の延長戦感覚なのか、これ。たいがいハードやぞ。さっきも僕、普通に死にかけたし。
まぁ戻ろうと思えば戻れるって事は天さんもユイも否定してないし、僕もこっちでそれなりに働いてるしこれでいいか!
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「ユイはなんか感じる?」
「手伝わないって言ったでしょ? 聞いてたの? あるとしたらもう少し向こうよ。煙が見えるところが多分村。その辺じゃないの? 知らないけど」
文句いいながら教えてくれるユイ、やさしい。
「やさしくなんてないわよ!」と脛を蹴られる。
ハイキックの方が色々嬉しいけど、と思ったら後頭部に蹴りが来た。小さいのによく足が届く事……と思ったら羽を出してちょっと浮いてる。そこまでしてクリーンヒット狙うか。
ずるい……そして意識が無くなった。
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「ソラ君、重いんだからしょっちゅう意識失わないでよ」
「そうよバカ」
ウミの背中で意識が戻った。ウミのリュックと僕のリュックをユイが体の前後に担いでいる。じゃんけんで負けた小学生がランドセルを前後に背負ってるみたいだな。
「記憶飛ばした俺が言うのもあれやけどさ、心霊体験とかで幽霊が迫ってきた瞬間に意識を失って気づいたら朝ってよくあるじゃん?」
「よく聞くね。金縛りにあってその後バーンって幽霊が現れたり、手を伸ばして首を絞められたりした瞬間気を失ったたとかって」
「ぶっちゃけあれって、寝てるだけじゃね?」
「ああ……言っちゃう?それ」
「人生でそんなに失神することある?」
「ないね」
「生きてて気を失っている人を見るのって、朝礼の時の校長の話が長い時とかくらいじゃない?」
「ああ、貧血ね」
「俺、葬儀の仕事してるけどそんな経験ないんやけど。一般人の何百倍もご遺体と対面してるけど」
「僕も生まれた時から葬式見まくってるわ」
「だろ? そんなに霊体験ってするもんかね」
「よくあるけど……」
「え?」
「あるよ」
「あるの?」
「あるよ。慣れてるから別に気にしてないけどね。前言ったじゃない。忘れられないって」
「あ、そうすか」
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てな感じでバカな事を言ってる間に比較的大きな村に着いた。
あ、ここはアデヤさんの手の入った立派な洋風の町だわ。泊まるとこあるかなあ。エアベッドが不調だから今日は宿屋で寝たい。ついでに情報収集もしなきゃ。
犬神の伝説の集落の近くだけあってワンコが多いな、普通の村よりも。
おっと宿屋らしき建物発見。もし宿屋じゃなくてももうここに泊まる。疲れた。おしかけ民泊でいい。
「こんにちわ~」と声をかけると奥から中年の女の人が出てきた。
「ここ宿屋であってます?」
「はい、いらっしゃい。ふふ宿屋であってますよ。1泊でよろしいですか?」
「ひょっとしたら状況次第で伸びるかもですが、一旦1泊で。2人……」
と言ってユイを見る。あっち向いてるけど、どうせ自宅に帰るんだろうけど一応3人って言っておかないとおかしいよな。
「1室3人っていけます?」
「大丈夫ですよ、3名様ですね。料金前払いでいただいております」
と受付の女性が言うとユイがポシェットから何やらお札を取り出して「これ、天狗の札。私、箸蔵の天狗の娘」と言うと女性は「ああ天狗様のご身内の方で? お代は結構ですのでごゆっくりおくつろぎください」と言って部屋に案内してくれそうになる。
「あ、違うの。私だけ。この二人からはしっかり料金取ってくださいね」
と余計な事を言う。
後でユイに「なんやあの札? クーポンか?」と聞くと、あれは何やらありがたいお札で3人の1泊料金くらいじゃとても釣り合わないブツらしい。
なら俺らもタダでいいじゃん。
「私はあなたたちのお守り役。仲間でも無いでしょ?」
うーん、スーパードライ!
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「それよりソラ、あなたそれいつまで持ってるのよ」とユイが言う。
それ? ああ、風車の軸か。さっきの村の。
「お墓にあったやつでしょ? あなたの周りに置かれていたおもちゃの破片は全部またお墓に戻したじゃない?」
「ああ、そうだな。でもこれってあのガキんちょが俺にくれたからさ。こんな軸だけなのに嬉しそうに走り回ってたから、きちんと風車にしてやろうかなってな」
「ソラにも優しい気持ちあるのね」
しんみりとユイが言う。
「で、この先っぽを尖らせてピュッ!って投げたら悪者の手の甲にぶすって」
「矢七やん!」
「あ、学校から帰って水戸黄門の再放送見た口? ウミも」
「延々と毎日やってたから……うち、寺だから時代劇しか見れなかった」
「それ寺関係ある?」
「二人ともバカなの?」ユイが呆れる。
…捨てられるわけないじゃん、風車。あのガキんちょの笑顔が頭から離れない。壊れた風車の軸だけで顔あんなクシャクシャに笑ってたんだぜ…僕が持っておくさ、ずっと。
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さて暗くなってきたし、もうすぐ晩ごはんの時間かな。今日は本気で疲れた。どこぞの物置のCMみたいな感じだ。
遠くで犬の遠吠えが聞こえた。
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*(第21話へ続く)*




