第18話 決断の責任
「そこそこおっきな村やったみたいやの。家の数も相当あったんちゃうか」
「うん、川にも近いし畑だったと思われるところだけじゃなくて、棚田もあったみたいだし。水の心配はいらないから作物は結構採れたと思うよ。これだけの田畑があれば、相当の人の食べ物には困らなかったんじゃないかなぁ」とウミ。
「何も起きなければ、ね」
と意味深なユイの言葉。
ああ、そう言えばアデヤさんが統一神になるきっかけが、疫病とか災害とかバッドイベントてんこ盛りだったか。それより前かも知れんけど、いくら肥沃な土地だったとしても天候不順だけでも死活問題だったんだよな、昔は。
「お日様が照りすぎてもダメ、照らなすぎてもダメ、雨が降りすぎてもダメ、降らなすぎてもダメ、虫が増えすぎるとダメ、いなさすぎてもダメ。そんな話は大昔からそこら中、世界中であったわ。たまたまその時代に生きていただけで、人は喜んだり苦しんだり悲しんだりするの」
長生きしている張本人が言うから重みが違うな。
……睨まれた。
「じゃあ、この集落にもなんかあったんやろうな、きっと。そうでなければコトヘラやイケダの町みたいに今でも人が住み続けてただろうに」
「なにか村を捨てざるを得なかったのか、それとも全員ここで……」
「なんか子泣きじじい探しに来たのに、気が重くなったのぉ」
「しょうがないよ。僕らだってこの世界に来てこういう景色を見たのは初めてじゃないし」
そう、初めてじゃない。
というよりも、もう見慣れてしまったと言ってもいいかもしれない。徳島の霊場をこれまで23か所まわった。アデヤさんの封印を解くたびに彷徨う魂をウミと空に返していった。途中でいくつも朽ち果てた村を見つけては、近くにあるお墓も見てまわった。幸いというか、朽ち果てた村にあるお墓はどれも古く、アデヤさんの封印とか関係ない物が多かった。そこで魂が彷徨っているということもなかった。どっちかというと僕が妖怪連中を説教する機会の方が多かったかもしれない。
しかしここは空気がどんよりと重い。僕に能力とかそんなのは無いと思うけど、この集落跡に来てからとにかくすごく重い。
「サーチ!」と叫んで周辺の空気を探ってみる。
「ソラはやっぱりバカなの?」
「いや、そろそろスキルが……」
「バカなの?」
魔物の気配とか察知できたりするんちゃうんかいっ!
「なあ、ウミ。その槍ってピンチの時に実は呼べば飛んできたり、先の鈴を外すと封印が解けてウミが覚醒したりするとか無いの? 別名『獣の槍』的な」
「そもそも僕ら物理能力じゃないやん」とウミが呆れる。
そうだった……特に何と戦ってるわけでもなかったからなぁ。
「なんでまたいきなり戦う気になったの?」とユイが尋ねる。
「昔読んだ漫画の妖怪と一部被ってきそうな気がしてきて……思い出したんだよ、この場所」
「ここ? 子泣きじじい?」
「んにゃ……犬神ってのがいるんだよ、他にもこの地にさ。確か同じ山城町」
「あ、だから獣の槍か。そんなエピソードあったね」とウミが納得。
その時はマジモンで危険な妖怪と戦いになるんじゃないかなぁと。ここの子泣きじじいはどうなんかなぁ。
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「なぁユイ。真面目な話、なんか情報とかないの? 会ったことは無いにしても。お母さん、女神として統一する前から天さんと日本にいたんだろ? なんか話を聞けないかな?」
「ママが知ってたとしてあなたに言うメリットがあると思うの? バカなの?」そりゃそうだな。
「あ、自分で聞いときながらそれはないなと思ったわ。俺らの得はアデヤさんの損だもんな。ごめん、ごめん。ユイに頼むことじゃなかったわ。俺らでなんとかするべきやな」
「そうだね。僕が読んだ本がヒントになるかもしれないし……」とウミ。
「ああ、単なる事象として伝わってる子泣きじじいの話じゃなく、バックボーンか?」
「うん。人を襲ったり怖がらせたりするのが目的じゃなくて、なんか他の……由来みたいなところから、かな」
「この村に妖かしや霊の気配は無い。いるとしたら感じないのは祠に封印がデフォだとは思うけど、さっきも話したけどそんな感じしないよな?」
「うん、一切感じないし何も霊的なものは見えないよ」BY JINS。
「ユイ、空から目視でなんか見えないか頼めないか?」
「見るくらいならいいわよ。でも先に言っておくけど、私は手伝わない、手伝えないわよ。あなた達の命に危険が迫った時はパパとの約束もあるから手は出すけど、それ以外は見るだけだからね」
白い翼を広げてユイが空高く舞い上がった。
落ちてくる光の中で、天使にしか見えんよな。でも天使の羽じゃなくて白い天狗の羽なんよなぁ。違いわからんけど。
しばらく空からかなりの範囲を見て回っていたユイが降りてきた。
「子泣きじじいって呼ばれているような妖かしはいなかったわよ。ただ……」
「ただ?」
「少し行ったところの山肌にへばりつくみたいに、ここよりもっと小さい古い村の跡が見えたわ」
「跡って事はそこも廃村だったの?」
「うん、ここなんかよりもっともっと古い時代の建物に見えたよ」
とりあえずこれまで子泣きじじいのヒントも無いし、そこへ行ってみることにした。
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「ウミ……なんか前に言うとったよな。胸糞悪いけど飢饉の時とかの口減らしに子どもを……とか、年寄りを……とか」
「うん、労働力とみなされない弱い者は村から排除されたと」
「排除ってなんやねん!」
「……」
ウミが黙る。
ユイが廃墟の中から小さな草履を片方、見つけてきた。
「生活の跡はあるけど……どのくらい前だったんだろうね」
口数が少なくなる3人。それぞれが小さな村を見て回った。
村の中はさっきの集落より雑草が少なく、まだ整って見える。でも気づいた。
「ウミ、さっきの集落は草ぼうぼうで酷い有様だと思ったけど、逆やな」
「逆?」
「ここ、山の斜面に立ってるやん? 水も川から遠い。おまけにこの地面」
靴で削ってみる。ホコリがあがるだけで全然掘れない。
「地面カチカチやん。こんなとこに作物が育つか? さっきの集落は地面が柔らかくて畑も田んぼもできたんやろうけど、ここに種を植えても植物が育たんやろ? 鍬を打ち込んでも跳ね返されるくらい固い」
ウミも槍でつついてみるが、ほんの少し凹むくらいで刺さる感触は無い。
「人が住めるとこちゃうぞ、ここ」
「でも廃屋も人が住んでた痕跡もある」
「これは雨がちょっと降らんだけでも詰むぞ」
「そうかもね」
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「ソラ、ウミ! こっち来て」
向こうでユイの呼ぶ声が聞こえた。声のする方に行くと、古い墓があった。
これまでも見てきたアデヤさん統一の前からの墓。でも立派な四角い墓石なんてもんはない。ただ小さな石を置いただけの簡易な墓。誰も訪れることのない忘れられた村の端にある墓。
近づいてみると、壊れた風車みたいな物の部品、竹とんぼや鞠だったものの残骸が見える。
小さい石は……子どものか。
胸が苦しくなった。
ウミは黙って手を合わせている。これはもう魂は上がった後だけど、そこにあるであろうご遺体に対してウミが祈る時の姿勢だ。僕も姿勢を正して手を合わせた。
色んな事情があったんだろう。こんな険しい山肌の小さな村。困難な時代だったんだと思う。
だけど……誰がこんな事をしようって言い出したんだ?
老人を。子どもたちを。誰が!
その時ふと頭の中をある考えが過った。
ここ……ここが捨てられた老人や子どもたちが最後に過ごした場所だったんでは!?
最初の集落から離れた山肌のこの、厳しく作物も育てられない土地に形だけの村を作り、必要のなくなった人をここへ……。
その時、何かの泣き声を聞いた。
赤ちゃんの泣き声?
違う、大人の慟哭だ!
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*(第19話へ続く)*




