第17話 村の跡
「ぶっ続けでかなり歩いたのぉ。そろそろ休憩しよ」
もうほっぺのヒリヒリもおさまった。
「そうだね、珍しく僕達が無口で歩いたもんね」とウミ。
「だって歩いても歩いても、ず~っと目に入るのは川と山。全く景色が変わらん。岡山らへんを新幹線で走ってる時と同じ気持ちやったわ」
「それは知らんけど」
「最初は学生時代にラフティングしたとこやん! 懐かしい~とか色々思ってたけど、終盤もうどうでもよくなった。川、岩、木、山、空、以上」
ユイはなんか忙しそうやったけどな。密かにアデヤさんに俺らの情報を流しとったんか? 今どの辺にいるよ、とか。
「ソラはバカなの? 丸見えじゃない、上から」
「ずっと見られてるけど?」と空を見上げてウミ。
あ、こいつさっきから暇つぶしに歩きながら水の中の魚を偏光サングラスで数えとったな。光の反射を抑えるってほんますごいなぁ。水中までくっきり見える。
「前の休憩で大歩危小歩危を過ぎたから、そろそろ山城町って呼んでるあたりかな」
余談ではあるが、小学生の頃に車で高知に行っている時にトイレ休憩で立ち寄った「大歩危峡まんなか」というドライブインのことを思い出した。あそこならひょっとしてこの世界でもなんかあるかも!と思って行ってみたら、ほんとにあった。峠の茶屋ならぬ峠のカフェ。
風情が無いのぉ~。なんでここも洋風ファンタジーやねん。
「ユイ、お前のオカン、たいがいやの。もっと伝統を大切にしようや。この景色にカフェか! ここは茶店やろ、団子屋やろ!」と八つ当たりした。
「知らないわよそんな事、言われても。大ボケ!」
ユイはシャレで大歩危にかけたんだろうけど、バカよりボケは効くなぁ心に。関西圏だと「アホ」は若干褒め言葉だけど「バカ」は本気で言われてる気がしてムカつく。さらに「ボケ」は喧嘩を売られてる気がする。神戸っ子の僕はカチンと来たね。
その時「ゴメン」と素直にユイが言った。
非をすぐに認めるところはえらい。
「ええんやで」とにっこり笑う僕。
「へ~珍しいわね、高知には後免って町があるんだ?」
「うん、アンパンマンミュージアムってとこに行くときにJRの後免駅ってあって、汽車でそっから……」
ってウミと雑談してたんかいっ!
そのカフェで僕は番茶と団子とこんにゃくのおでんなどを食べたのだった。ギャップ! 統一しろやアデヤさん。箱と服装だけなんかいっ! ガワだけか、こだわりは。
---
「ソラ、どこを目指してええかわからんけど、YAMAPの山城町の辺に向かおか」
「うん……というかさっきのカフェで思ったけど、元の世界の地図でもある程度場所を把握できると思う」とウミ。
「そやな、俺らが勝手に裏四国って呼んでるけど、道は舗装されてないけど昔の街道はそのままやな」
「お前、地図は覚えてなくても、どこにどんな妖怪がいるとかは妖怪の図鑑とかで覚えてるわな?」
「うん、細かい場所は正確にはわからんけど、どこにどんなのがいるってのはわかる」
「さすが天才! それさえわかれば……って言うか、その妖怪本と地図を手に入れたらええんちゃうか?俺も事前に心の準備ができる」
「確かに」とウミ。
「ユイ! 次のシャチョゾンで頼むわ! 四国八十八か所のガイドと細かい道はどうでもええから、視認性の高い地図と妖怪図鑑!」
「お金……」
「え? こっちのお金でいい?」
「やだ、換金率がわからない」
「PayPay……」
「ここスマホ通じない」
「立替え……」
「無理」
くそっ! 詰んだ。
「ほなシャチョゾンで発注するから、天さんとこからここまで持ってきてくれるだけでいいよ」
「それならまぁ手間賃だけでいいよ」
「手間賃取るんかい!」
「何事も対価は必要よ」
「等価交換だ!」
「ソラ君、鋼の錬金術師? ユイに残りの人生の半分あげるの?」
……なぜか顔を赤らめるユイ。僕まで耳が真っ赤になってしまった。自分で墓穴を掘ったわ。いつ見たんやろ、ユイ。
「わかった。じゃあこうしよう! 天さんに届いた荷物、本だけならローパちゃん持ってこれるやろ? あのサイズ感。子ども一人くらい掴んで連れ去ることも可能やろ?いけるいける」
「ローパちゃんをコンドルみたいに言わないで! バカソラ」
「ユイ! コウノトリだって赤ちゃんをかごに入れて連れてくるんだぞ。ローパちゃんも……」
「バカなだけなの? おこちゃまなの? ソラ君は」
「バカなだけです……」
とりあえず話はついた、のか? わからんけど先に進むのだ。
---
「ウミ、この辺……集落の跡やの」
川沿いの道から少し山に入った辺りで声をかける。
アデヤさんの信者の手が入った様子もなく洋館もない。もっと前から廃村になったようで、落ちた土の壁、茅葺き屋根の建物の残骸のようなものがあちこちに残っているし、畑だったところは背丈以上に雑草が生い茂っている。
「うん、前に妖怪の本で子泣きじじいの像の写真で見た景色はここらへんだね。角度的にも見える山の位置は合ってる。でもなんの気配も感じないよ。祠なんてあるのかな?」
「そやな、俺はなんも感じないけどほんとに子泣きじじいって封印されてるのかね? アデヤさんが見過ごしてるパターン? もしくは天さんとは違う意味でマジでノーマークだったんちゃうか? 妖かしを信じる人も祀る人もいなくなって、そのままで……」
「でも妖怪の伝承は残ってたし。まぁ妖怪がいたって話もアデヤさんの覇権の前かもだけど。サブロウさんも知ってたけど、あれも直接知ってるって感じじゃなかったかな。奥さんからそんなのがいるよって聞いただけかもだけど」
「私の知る限りでは会ったことないわよ、その子泣きじじいって人」とユイ。人なのかな?知らんけど。
じゃあもっと昔の妖怪なんかな。
「妖怪って消滅するもんなん?」
「忘れられて存在が消えるってことはあると思うわよ。でも子泣きじじいってサブロウさんは知ってたし、あなた達も知ってる。忘れられたわけではないと思うよ」
じゃあ、あえて存在を消しているのか?
なんで?
廃村の跡に風が吹いて、雑草が静かに揺れた。
---
*(第18話へ続く)*




