表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
廃村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/64

第16話 先に進む


「ウミぃ~眠いよぅ、休みたいよぅ、疲れたよぅ」


僕はまぶたがくっつきそうな状態でよたよた河原を川に沿って歩いている。


「大人が何情けないことを言ってるの。いつも社会人とはってよく言ってるくせに」とウミ。


「だってさ、昨日は宿もなくておもちゃみたいなテントで2人で寝たんだぞ。持ってきたエアマットは寝返りを打った時に石に擦れて空気が漏れたみたいで、朝起きたらぺしゃんこになってて俺、結局石ころの上に寝たみたいなもんぞ。疲れなんて取れないよぅ」


「知らないよ。ソラ君の寝相が悪いからじゃん。得意のダクトテープで穴を塞ぎなよ。今夜も辛いよ」


「ソラのを貸して!」


「無理!」


「ケチ!」


そんな言い合いをしながら高知を目指して歩き続けるのだった。


ユイは少し先を石の上を跳ねながら進んでいる。


そう言えば昨夜はユイのテントがなくて心配していたけど、羽に包まって認識阻害を使って寝るから平気よとか言っていた。あいつ、エアベッドも無いのに元気だな。


というかあいつ、昨日と衣装が違くないか?


「ユイ君! ちょっといいかな?」


「なぁに? 目が遮光器土器みたいに横一文字になってるソラさん」


「人を縄文土器みたいに……縄文時代にそれを作ったんユイと違うか?」


あ、また蹴りが……しかし華麗にスウェーして躱した……つもりが、眠気と疲れでそのまま真後ろにひっくり返る。


もうこのまま寝るか……と思ったけどユイが慌てて抱きとめてくれた。


あ、天使!


と思ったら頭を打たないように後頭部だけ支えてくれただけだったので、体はそのまま河原の石に激突。


「目が覚めましたか? お兄さん」と微笑む。


顔は可愛いんだよなぁ、顔は。


違う、違う。用事があったんだ。


「お前さ、絶対夜こっそり家に帰ってるだろ?」


「ギクッ」


「で、風呂に入って寝て服も毎日着替えてるよな?」


「ギクッ」


「お前、口で『ギクッ』って言うとるやん」


「へへへ……バレた?」


「お前だけいつもいい匂いさせてるの怪しいと思ってたんだよ。なぁウミ」とウミに同意を求める。


「えっ? そやったん?」と本気で驚いている。


ウミもバカだ。


「ウミもって事は自分もそうだって認めてるのね? えらいね」


また心を……。


「心が読めるなら話は早いぜ。お前、やはり羽とかなくても移動できるよな? 自宅がどこかは知らんけど、いつでも行き来できて、俺らがいた世界にも出入り自由だろ?」


「ま、できなくもないかもね」


「じゃあ帰り方もわかるんだな?」


「わかるかもね」


「そうか、よかった」


「え? よかったって、それだけ? 元の場所に戻せとか帰り方を教えろとか言わないの?」


「うん、それはさ、天さんにも言われたんだけど、俺たちは俺たちでこっちでやることがあるしな。全部終わってやること無くなった時に帰れるかどうか、それさえわかれば今はどうでもいいよ。とりあえず安心できたよ。ありがとう、ユイ」


と心からそう礼を言った。


不確かなまま霊場を回って、浮かばれない霊たちを空に戻した後、ウミと2人でこの世界で生きていくのもちょっと困るなと思っていたのだ。


まぁユイを嫁にして2人で世界を統治するってのもありか? 人が神になるなんて……そんな世界線もおもろいかも——


などとくだらん想像をしていたら、グーパンが飛んできた。いかん、調子に乗りすぎた。


でもユイは可愛いんだよ、顔が。


「ソラ、あんた最低」


肝心のユイにはめっちゃ嫌われてるし。まぁこの線はないな。


---


「なぁユイ、お前があっちこっち行けるなら、ホントはローパとか天さんを頼らなくても、必要なもんをコーナンとか行って買えるんじゃね? この前フリクションを持ってたし」


「なんで私があなたのパシリをするのよ! バカなの? ソラはバカ?」


「僕も欲しいものがあるかも……」とウミが言うと、


「ウミのはなんとかしてあげるわ。何が欲しいの?」


「靴下がちょっと穴があいてきたので裁縫セットがあれば直せるかなって」


「ほら! ソラ、聞いた? ここがウミとあなたの違うところよ。あなたはバカだからすぐ3足千円は高いから4足千円以内の靴下買うとか言うでしょ? 根本的に考えが違うのよ、バカ」


なんかえらいストレートにダメ出しされてるな。


と心で思っただけなのに、ユイに頭をポシェットでしばかれた。


見かけによらず重い力を感じた。中に何か硬いものが入ってるやろ!武器か?それ武器なんか?


---


とりあえず目は覚めたな、今ので。


「ウミ、サブロウが言ってた子泣きじじいやけど、イメージは鬼太郎の中のおぎゃーおぎゃーやけど、あのまんま? 山で赤ん坊のフリをして泣いているところを可哀想に思っておぶっていると、泣くたびに重くなって押しつぶされるとかやったっけ?」


「うん、まぁ有名どころはそんな感じ。柳田國男先生の本ではもっと重たい話だったりするけど」


「重たいって何さ?」


「まぁ飢饉とかあったりして食べ物が少ない時に生まれてきた子を口減らしで山に……とか、姥捨山の話みたいに野良仕事ができなくなった老人を山にとか」


「胸糞悪い話やのぉ! 今さら言ってもしゃーないし、当時は当時で色んな事情があったんやろうけどさ」


「好きでそんな事を誰もしないよ、ソラ君」


「そりゃそうだけどな。でもそんな色んな気持ちや念とかが積み重なって、そんな話が出てきたんやろうな」


「そうだね。時代も世界も違う僕らがとやかく言えないけど、その残念な気持ちとか悲しみとかはなんとかしてあげられるといいよね」


「実はさ、サブロウに子泣きじじいがおるって言われた時、素通りでええかと思ってたんだわ。人を驚かせたり害をなす妖怪をわざわざ解放しなくていいかなって。住んでいる人に迷惑をかけるかもじゃん? それで怪我をしたり亡くなったりする人が出たら本末転倒やしな」


「うん、そうだよね」


「でもちょっと行って確認が必要やな」


「確認って何をするの?」とユイ。


「とりあえず封印されてたら解放して話を聞いてみようかと」


「暴れたらどうするのよ? 何百キロもの赤ちゃんのフリをしたおじいさんに押しつぶされるかもよ? 私が天に送ってあげようか? アデヤ教の末席で修行する? きちんと出世したらお婿さんになれるかもよ?」


と怪しい笑みを浮かべるユイ。


その時クリップオンを下ろしたウミが空を眺めていた。


「おかぁさん鬼の形相になってるよ。あんなの今まで見たことないけど大丈夫?」とウミ。


「大丈夫くないかも」とちょっと焦ってるユイ。


とばっちりじゃん。アデヤさんの目からビームとか出えへんやろうな。即死するぞ、僕。


う~む元の世界にいた時は別に意識してなかったけど、僕はただの面食いのようだ。でもさ、こっち来て女っ気無かったからしょうがない。


元の世界ならあったみたいな言い方になったけど、無いことも無いよ。まずは18歳の双子の母親の事務の橋本さんでしょ、あとドリームジャンボ当たって大金持ちになったけどなぜかパートで来ている掃除の田辺さんっておばあちゃんに、宿直の時に買い物に行くコンビニのバイトの女の子でしょ、名前しらんけど。……単なる顔見知りしか浮かばんな、悲しい。


実は大学のとき3年間付き合った彼女には「葬祭プランナーに、俺はなる!」って伝えた時にフラれた。「きしょ!」って。でも僕らがいないとそれこそこっちの世界みたいに彷徨う魂ばっかりなんぞ、オラ!。


今なら胸張って「誰かがやらないといけない仕事。大切な仕事だ」って言えると思うけどね。ウミと一緒にいてその気持は以前より強くなったなぁ。ま、フラれた時も同じような主張をしたけど返す刀で「あんたがそれをやる必要ある?」って元カノには一瞬で論破されたけどね。


ただこっちきてからはかなり鍛えられて、人間と口喧嘩しても負けないだけのスキルは身につけたぞ。スキル……


---


「よしっ!スキルアップしたぞ! スキルボードオープン!」と口にして空中を指でポチポチ。


「ソラ君、どうしたん? さっき頭を打った?痛いの?」と心配そうなウミがこっちの様子を見ている。


「ソラはバカだ」と笑うユイ。


異世界に来たらできるんちゃうの? スキルボードオープンとかレベルアップとか! みんなやってるやん、チェッ。


「レベルかどうかはわからないけど、バカなソラも賢いウミも魂の成長はしてると思うよ」と微笑むユイ。サラッとなんか悪口言ったのぉ、おい。


「なんぞそれ。どうやって見るの? サングラス?」


「前にオーラが見えるメガネとか売ってたね。ムーとかの広告で見た気がするなぁ」とウミ。


それはいつの時代の雑誌を読んだのかな?図書館か?


「なぁユイ、俺らの魂の成長って言ってたけど、どういうこと?」


「それはね、あなた達2人がこっちに来てから、ない頭で色々考えてママの邪魔をするためにいくつもお寺をまわって封印を解いたり祠を開いたりしてきたでしょ? そこで魂や思いが救われた分だけあなた達に乗っかってるのよ」


「え? お祓いいる?」


「バカなのあなた? 『徳』が溜まってるのをわざわざ祓うってバカなの? ママがせっかく貯めていた力を他所から来た2人が食いつぶしてるって怒ってたのよ。ママが本気になったら……」


「なったら?」


ゴクリとつばを飲み込む僕ら。


「でもね、パパの友達なんでしょ? 2人の魂の根本は。だからママもそこを消し去ったらもっとパパと遺恨が残るから様子を見てるのよ」


「今、さらっと消し去るとかおっしゃったか?」


「ママの目からビーって光線が出たら一瞬で」


「やっぱりビームが出るんや! アデヤさん」


「嘘だけど」


「うそなんかーい!」


「真面目な話、僕とソラ君が空海の魂を持ってるから見逃されてるってこと?」とウミ。


「そうよ。もし消しちゃったらもうパパとの復縁の可能性がなくなるし」


「復縁希望でしたか! アデヤ神様。乙女じゃん」


ジュッ……となんか左頬を何かが掠めた。熱い。


「ハーマイオニーさん、激おこ風だけど照れてる感もあるね」冷静にウミが言う。


「ママも頑固だけどシャイなのよ」と笑うユイ。


いや、ほのぼのしてますけど、今僕の頬を何かが掠めたんですが……血が滲んでるけど、これビームの類では……。


「さて、そろそろ行こうか、ソラ君。高知に向かうついでに山城の町に伝わる子泣きじじいのところへ」とウミ。


「そうね、先に進みましょう」とユイ。


いや、なんか俺たちの旅は始まったばかりみたいな感じになってるけど、なんか今女神さんに命を狙われたんですけど。


「ソラ、バカね。本気だったら眉間にいってるわよ」とユイ。


やっぱり出るんやん、ビーム。


---



*(第17話へ続く)*

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ