第15話 次の相手
「どの辺まで来た? もうすぐ最御崎寺?」とウミに聞く。
「なんでよ、今朝池田を出たとこやん。この前行った剣山がまだあそこに見えてるし」
「舗装道路ないの? 足、葉っぱで滑るんやけど」
「ソラはやっぱりバカだ」とユイ。
僕らは吉野川に沿って南下している。なんで川沿いかって? ほかは山ばっかりだもん! YAMAPを開いたら吐きそうになるくらい峻険な山ばっかりだもん! マジでこれを歩いて行くの? 昔のお遍路さんって徒歩だったの? こんな道を。
「当たり前じゃない、バカなの?」
また心を読まれてる。
「お前、アスカ以上にバカバカ言うのぉ~」
「どこのアスカよ!」
「チャゲさんは……」とウミ。
お前は賢いけどもっと昔のアニメも勉強しろ。そしてなぜそっちのアスカだと思った。
「なぁ、ユイ。腹減ったよう~。なんか届けてもらってよ~」と甘える。
「何がほしいのよ? パパに伝えるけど。メモしといて」
とポシェットの中のメモとペンを渡される。なぜにフリクション?
「どうせ書き間違えてグシャグシャにするでしょ! 紙は貴重なのよ、こっちでは」
ダイソーの3冊セットのメモ帳やんと思ったらめっちゃ睨まれた。
「書いたらこっちに頂戴」
散々ウミと悩んでシャチョゾンの発注品を書いた。旅に必要な洗面セットにスニーカーの替えも欲しいな。暑いからUVカットのパーカーも頼むかとか話し合ってたら「お金あるの?」とユイ。
「金だと? んなもん異世界出向中の経費だぜ。社長さんのおかげだいっ!」
「ふ~ん」と不思議そうなユイ。
経費がわからんか、見た目ロリ少女には。社会人とはを教え込んでやろうかへへ。
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ピュイっとユイが指笛を鳴らすと向こうから1羽の鳥が飛んできた。
お、伝書鳩? これが天さんに行って、天さんが善通院跡地のちょうちょ結びのところからシャチョゾンに注文するんだな。で、社長が買い出しに走ると。
鳩がまっすぐこっちに飛んでくる。おお~速い速い……っておっきくないか? 真っ黒で、なんかでっかくて、くちばしが見たことないくらいでかい……ってあれ鳩ちゃう、ハシブトガラス!!
大きすぎるって~と思ったら、まっすぐ僕に向かってきて、おでこにくちばしがぐさっと直撃。
ぐわぁ~~~!
「あ、ごめん、この子まだ慣れてなくって着陸が下手なの。ハシブトガラスの『ローパ』ちゃん。よろしくね」
シンディじゃないのね、ローパなのね。と昔の洋楽好きな僕は思った。
「古っ!」とユイ。お前が言うな。ええじゃないかええじゃないかってリアルタイムで踊ってたんちゃうか?と思ったら頭をしばかれた。
「そこまでじゃない!」
ローパが何か首から下げてるな。ユイがそれをほどいて中を開けると僕あての封筒だ。
特別手当とか?と思って開いたら、これまでの給与明細が入ってる。あと通帳記帳のコピーまで。細かいなぁ社長も。ほとんど給料手つかず、部屋も社宅、車も会社のガレージ。戻った時はマグロ漁船で半年航海してきましたけどなにか?くらい溜まってるんだろうなと思い通帳を見る。
……あれ、思いの外少ないぞ。出向手当とか色々ついてたら予想では桁が変わっていないとおかしいんだけどなぁ。
そして別の用紙を見ると——ああ、このご時世にPC出力じゃなく手書きの明細。ジムのベテラン女性社員の橋本さんの字だ。懐かしいなぁ。
なになに……シャチョゾン明細ってか?
なんか経費と経費じゃないのに分けられてるぞ、これ!
嗜好品は経費外、調味料とか水、トイレットペーパーは経費扱いだけど、ウミが毎回発注してるプロテインバーは嗜好品扱い? タンパク質補給には必須なのに!
「ウミ、今後プロテインバーは……」と聞くと短く「必須!」と即答。
育ち盛りやしなぁ。
あ、男梅も嗜好品扱い。汗をかいたら塩分必須なんじゃぁあああ~~~!
とりあえずカラスのシンディじゃなくてローパに、削りに削った必要リストを持たせて天さんの元へ飛び立たせた。飛び上がり際に僕の頭を踏み台にしたのは絶対忘れん。
でもハシブトガラスを近くで見た人ならわかるけど、勝てる気がしない。今は借り上げ社宅となった部屋のバルコニーの手すりに止まっている時に知らずに出てお見合いとなったけど、あれは人を殺したことある目やで。驚いて逃げるわけでもなくその場でじっとこっちを見てる。こっちが怖くなって部屋に戻ったもん。鳥に負けた。
ローパにも僕じゃ勝てん。
「当たり前よ、天狗の使いよ」とユイ。
へいへい。
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しっかし、腹が減ったのぉ~。冷たいきゅうりとかスイカが食べたいのぉ~。
と歩きながらぼやくと、「ご所望ですか?」と聞き慣れた声が川の中から。
「おお~サブロウ! 忘れとった。お前に別れを伝えなきゃと思いながら、ユイさんに顔面を蹴られて意識が飛んでたからつい」
「蹴られる理由があったわよね?」とユイが言う。ちょっと見ただけじゃん。不可抗力じゃん。
「いえいえ、こちらこそお礼を言いそびれたので、きりが良いところまでと思い黙ってついてきておりました」とサブロウ。
本当にいいやつだなぁ。家族がいなかったら一緒にお供に加えたいくらい。沙悟浄って名前に変えてやろうか。
「じゃあソラは猪八戒ね」とまた心を読んだユイ。
「ほな三蔵法師はウミだからお前は悟空やの」
次の瞬間またユイの足が伸びてきた……如意棒かこいつの足は。蹴り技主体のカポエイラの使い手かもしれんな。修行先はブラジルだったのかな?ああ、左頬が痛い。
僕たちはとりあえず石に腰掛けて、サブロウが持ってきた冷えたきゅうりを食べる。
冷たくて美味い!
しかし吉野川の薄い青緑の水が綺麗だなぁ。さっきからずっと同じ景色で飽きたけど。
「きゅうりってあんまり栄養がないんだってね」と言うと後ろからユイに頭をはたかれた。
「デリカシーが無いわね! せっかくサブロウさんが持ってきてくれたのに」
「きゅうりはカリウムが豊富だから塩分を排出してくれてむくみとかにいいんだよ」とフォローするウミ。
えらいやっちゃ。
「でもこんな暑い日に塩分が排出されたらただでさえ塩分が減るのに熱中……」
とまで言った時点でまたユイに頭をはたかれた。手も出るんですね、ユイさん。
いや、本当はサブロウに感謝してるけどなんか照れくさいやん。今さら。ウミなんて背中にやり投の槍突き刺した相手やぞ。甲羅にヒビだけですんだけど。
「行者様の毒舌は愛の裏返しということは存じておりますので」とサブロウ。
やっぱりいい奴。
「そや、差し入れしてくれるのはありがたいけど、子どもたちのきゅうりは大丈夫なんか?」
「お気遣いありがとうございます。あれから色々話し合って、お魚も食べるという話になりました」
「またお前が乱獲するんじゃなかろうか」
「そこは大丈夫でございます。ちゃんと色々ほどよく食べることにしましたので」
「賢い子たちやのぉ~」
「名前を覚えられない誰かさんよりはね」とユイ。
「ソラ君が色々言うから全部覚えちゃってどれが正しい名前かわからなくなったよ!」とウミが怒る。
まあええやん!
「サブロウ、ありがとう! こっからは俺らで行けるよ。みんなによろしくな。あと大蛇がまたなんか悪さしたらいつでも言ってな! 面倒だけど、陸に上がって飯屋の親父に伝えたら天さんが飯を食いに行くかも知れんから、天さんからハシブトガラスのシンディ……」
「ローパーね」
「……から、ユイに来て俺らに伝わるから。伝わったら次に帰ってくる頃やから数ヶ月先にまた大蛇をしばきに行くわ!」
「かなり迂遠な方法になりますね」と笑うサブロウ。「大丈夫ですよ、本気を出せば大蛇くらい私がねじ伏せますので」
そうやった、こいつフィジカル最強だったわ。
「では私はここで失礼させていただきます。本当にありがとうございました。あ、ここをもう少し行けば、今度は子泣きじじいというものがおりますのでご承知おきを。では」
と言って水の中に戻っていった。
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「子泣きじじいってあの?」と僕が言うとウミが言う。
「あの、だね。この先の元の世界で言う山城町に伝わってるって見たよ」
「見たってなにで?」
「水木しげるさんの妖怪大百科。小学生の頃に図書館で読んだ」
まじか。
「そんなもんよりるるぶの四国八十八か所巡りのムック本でも読んどけよ」
「無茶言いなや」とウミ。
「YAMAPがあるじゃない」とユイ。
山の地形はわかるけどな、地形は。
ふ~。次は子泣きじじいとな。
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*(第16話へ続く)*




