166話 ラッピング
「ん~久々に来たな、善通院」
随分端折ったが、僕らは鹿さんに乗せてもらって清滝寺に入り、そっから戒壇を逆回りして、あれやこれやで善通院へ戻って来た。
「久々の実家やな、ウミ」
「うん、前触れもなくいきなり帰るからさすがにびっくりすると思うよ」
「ご住職とお母さん、思いっきりびっくりさせてやれ」
「そうだね、ふふふ」とウミ。
「いいですねぇ、家族って」とアオが呟く。こいちの家族の話全然せんもんな。家族との思い出ないんやろうな。でも!
「お前の家族だっていっぱいいるやろ?」
そう言って僕は自分を指さす。兄貴分です。
「そうですね!ソラさんもウミさんもシカちゃんもみんな家族ですね」
「そそ。そこのおっさんもな」
シゲさんを見やる。あ?おっさん聞いてない。
「これは立派な五重塔じゃな。これだけのもん造ろうとしたらわしでも一週間はかかるの」
無精ひげを撫でながら独り言を言っている。一体何を張り合おうとしてるんだ。
ウミはそそくさと自宅の方に向かい、いきなり玄関をガラガラっと開けた。田舎は基本、鍵なんて閉めないからね。
「ただいま~」
中に声をかけると、パタパタと奥から奥さんが出て来た。
「あら、ウミ、お帰り。今回は早かったのね。晩御飯は食べて来たの?」
ええ?なにその部活帰りの息子を迎える母のリアクションは。もっとこうさぁ。
「あなた、ウミが帰ったわよ。ソラ君と男前のアオさんと知らない渋い方も一緒。おや、シカちゃんも来てくれたのね、いらっしゃい」
「おお、ソラ君も一緒か?今行くぞ」
いや、ご住職様、僕なんかより自分の息子を……。
「やあ、ソラ君。いらっしゃい。あ、ウミもお帰り。まぁ上がれ、上がれ。晩飯は?まだか?今日は会館に泊まるんか?うちで泊まってもええぞ」
いや、僕のことよりウミは……。
「あのぉご住職様、一応息子さんも帰って来てますが」
「ん?ウミか?そりゃ帰って来るやろ。家やからのう。ソラ君は帰ってきてもいつもわしのとこ素通りやないか。通路かなんかと思っとるんか?まあそれはええがな、ほら上がれ。ほれほれ、そこの二人もどうぞどうぞ。シカちゃんも来たか、かわいいのう」
促されてアオもシゲさんも上がる。初めて見るシゲさんを見てご住職が、
「おや、あなた……人ではない?」
と言う。さすがやな。
「ん?わしか?わしは……」
「あ、この人、元人間で今は神様。シカちゃんみたいなもん。割とレアキャラです」
「ああ、そうか。神様か。ようこそ善通院へ。でも寺に招待してよかったんか?何系かわからんけど神様を」
「大丈夫ですよ。この人を信仰している人なんて今はもう希少です。あっちの世界にも鍛冶の神様を拝む人なんてほぼいないですよ」
「ほぼいないってお前、もっと探せばおるやろ?多分」
「アデヤ教徒に他の神様がほとんど封印されている中、完璧にスルーされてたくらいやん。ま、僕がめっちゃ信仰してるからええやん」
「え?ソラが?ほんまか?」
「当たり前やん。そうじゃなきゃわざわざリュックにぶら下げて歩かんよ」
「そ、そうか?」
デレるシゲさん。リュックに神様ぶら下げるって、神社の境内のお守りと同じ扱いやけど。成田山って書いた車に吸盤でくっつけるお守りとか。本人がええならそれでええけど。
「アーミーナイフみたいな便利ツール扱いだよね、ソラ君」
それは言わない約束だよ、ウミ。十徳ナイフみたいに便利だからとは言ってないぞ。
「あーみー?なんか知らんけど、まあそうなんやな。うん」
シゲさんが無知で良かった。
「で?なんで僕なんかを歓待してくれるんですか?ご住職様」
「ソラ君、聞いたぞ!天さんの娘と婚約してるんやろ?ほんだらソラ君、天さんの義理の息子になるやないか。凄いことやぞ」
「田舎の天狗の義理の息子がそんなに凄いんですか?まぁ天狗もレアと言えばレアですけど、あっち行きゃもっと色んなんがいますよ。もう何が出てもあんまり驚かなくなりましたわ。なあウミ」
「まあ確かにあちことで色んなのとは出会うけど。でも天さんはまぁ天さんだからねぇ。ソラ君的に言えば唯一無二」
「それ言うなよ。俺、どんな顔して次ユイに会えばええんや。やめてくれ」
「ま、そんな感じでソラ君と縁がつながってたらうちの寺にもなんぞご利益ありそうやし、これからもウミと仲良くしてやってくれ」
「仲良くも何も魂の片割れやし……って言うか、そうそう!」
僕はウーワの城であったことを端折りながら、ご住職と奥さまに報告した。
「化け猫と家族って、それ大丈夫なんか?」
「女の幽霊さんも……家族になったんですか?」
「大丈夫かと言われれば、さて?どうなんでしょう?まあ犬神やら聖女やら神様もいるし大丈夫でしょう!ようわかりませんけど」
「はっはっは、話聞けば聞くほど、天さんがソラ君を気に入っているのようわかるわ」
「え?」
「おもろい!」
「おもろい、ですか?僕なんていたって毒舌で文句言いな出しゃばりですけど」
「そうだね、まさに」
ウミがちゃちゃを入れてくる。
「ところで、話は変わるけんど、あんたらええとこに帰って来たのぉ」
「ええとこ?」
「ソラ君の会社、今頃もうしっちゃかめっちゃかやで」
「なんでですか?」
「先月にの、うちの寺で元国会議員の先生の葬式したんやけどな、それを仕切ってたんがオタクの会社や」
「へ~そりゃまたいっぱい人が来たんでしょうね」
「もう花輪や生花、凄かったで。うちの寺の周囲では足らんから言うて、商店街や自衛隊の基地の方まで足場組んでお供えの花輪立ててたから」
「社長、ウハウハですね。儲かってしゃーない」
「ほんでや。そこの先生の家の人もすっかり気に入ってくれたみたいで、満中陰志のお返しもお願いしますってなったらしいわ」
「それは凄い!百貨店とかにダイレクトで依頼じゃなくてうちの会社でお返しの受注できたんですね。こりゃ笑いが止まらんですね、社長も」
「ほんで、わし、今日オタクの会社の前を車で通ったんやけど、会館の一階、全部荷物で埋まっとったで」
「え?」
「お返しの品、一旦会社に届いて、包装紙の上から自分らでいつもラッピングして発送しとるやろ?」
確かに……。三越みたいなデパートに発注して届いた包装済みの商品に、さらにオーダーで黒地にその家の家紋を入れた包装紙を巻いて、その上にラベル貼って発送している。普通の家なら多くて二百個とか三百個だけど……。
「発送が千個以上って言うとったぞ」
「うひゃ、まるでAmazonだね、ふふふ。ブラックフライデーみたいな?」
ウミが笑ってる。いや、それ笑いごとちゃうぞ。四十九日に送らないとダメだから、そんな個数、社員総出でラッピングしてもいつ終わるんやって話。
「ソラ君、手伝いに行った方がええんちゃうか?」
「そうですね。一応会社から給料もらってますし。ご飯いただいたら行きますわ」
「ご飯は食べて行くんだね、ソラ君」
「ああ、徹夜になるぞ。しっかり食べとけ、ウミ、アオ、シゲさん」
「え?わしも」
「人手がいるんや。明日には女子も合流や!ご住職様、明日、リーちゃんたちとここで待ち合わせしてるんでシカちゃんと一緒に送ってくれませんか?」
「シカも明日?」
「もちろん!シカちゃんじゃ戦力外なので、明日、詩歌様になってラッピング手伝って」
「らっぴんぐ?」
「明日やり方教えるからね。子供の手じゃやりにくいので詩歌様でお願い」
「わかった」
「じゃあご住職、今夜はシカちゃん泊めてあげてください。神様だから寝なくて平気なはずなんですが、この子普通に寝ちゃうので。おまけに今日はいっぱい走ってもらってるので休ませたいんです」
「わかった、わかった。じゃあシカちゃん、わしと寝るか?ん?」
「ご住職、悪いことしちゃダメですよ。その子神様ですからね」
「するかいな!人聞きの悪い……」
「父さん、ずっと僕が生まれた後、かわいい娘が欲しいって言ってたなぁ」
「ウミ!それ、今言う?語弊がある!」
「ウソウソ、ご住職様ですから安心してお任せできます」
「ソラ、祓う?」
「ご住職を祓っちゃダメッ!」
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「頼もぉお~」
会館入り口で叫ぶ。夕方六時、日が短くなってきたなぁ。
「ソラか。普通に裏口から入って来い!わしら忙しいんじゃ!」
出て来た田中さんが偉そうに言う。
「あ?」
と、聞き返すと、慌てて
「今、みんなピリピリしとるんよ」
怯えた山羊のような目で僕に答える。課長が平社員にビビるなよ。
「知っとるから手伝いに来たんでしょうが!よし行くぞ」
僕は手下どもを従えて中に入っていく。
「ソラ、手下ってわしも入っとるんか?え?」
「シゲさんうるさい。こっからは戦闘モードやで」
「わし、神様ぞ」
「はいはい、わかったわかった。いちいち勝手に人の心を読むから小さいことが気になるんや。神様、神様」
「お前、もっと敬意を……」
「払ってるから頼みにしてるんだよ」
「お前、またそんな……」
「よし、じゃあ行くぞ」
一階のホール全体がまさにAmazonの倉庫状態になった修羅場に突入。ここまで荷物が積み上がってるのは初めて見た。
「社長~!おる?チビやから荷物で見えんけど手伝いに来たで~。ウミもアオもその他一名の神様もおるで~」
「おお、ソラ、来てくれたんか?助っ人まで連れて来てくれたか。ありがとうな」
「おっ?ソラ、いつまでこっちにおれるんや?」と淵さん。
「え?まあ数日のつもりやったけど、これあるんやったら終わるまでおるけど」
「すまんの。大ごとになっとるんや。まさか全部うちに来ると思わんかったけんのぉ」
「淵さん、自分で元議員のセンセのとこに満中陰志の営業かけたんやろ?取れて良かったやん」
「ええにはええけど、まさか全部来ると思わへんやん。義理で五十件くらいもらえるかなって思ってたら甘かった。まさか全部まわってくるとは」
「そんだけ淵さんの対応が良かったんやろ。誇ったらええやん」
「お前、なんかぺーぺーの癖にちゃんとしたこと言うようになったやないか?知らん間に成長しとるのぉ。しばくぞ」
「最後の一言いらんのちゃうん。でもまぁ取り掛かるわ。包装紙巻いていったらええの?」
「おう、余力あったらリスト突き合わせて宅急便のラベル貼っていってくれると助かる」
「OK。じゃあ手先の器用そうな……ん?全員器用そうやけど……頭よさそうなウミがリストチェックとラベル貼りして」
「ソラ君了解!」
「シゲさんとアオは俺の手つき見て包装の仕方覚えて」
そう言って手本を見せる。
「家紋入りの包装紙の真ん中に百貨店の包装済みの商品を対角線上にこうやって置いて~こっちを折って、次にこっちを折って、ええ感じになったら端っこをちょっと曲げてテープでこう!わかった?」
「かしこまりました、やっていきます」
「ソラ、それはちょっと斜めにずれた方がええんか?」
「いや、久々でちょっとミスっただけ。このくらいは許容範囲」
「きちんとやれ!贈り物じゃろうが!」
シゲさんに怒られた。職人だ。
「じゃあ二人とも、これ頼むな?そのうち包装紙の金の家紋のインクで手の横が金色になるけど気にせず」
「わかりました。やります!」
「仕方ないのう」
アオとシゲさんが包装に入る。え?手元が見えん。なんだこの二人。
「なんか凄い助っ人来ましたね」
事務の橋本さんが目を丸くしている。
「大阪の老舗のみたらし団子屋さんの店員さんの包装を見たけど、このくらいのスピードやったのう」
淵さんも呆れた顔で見ている。
「ソラ、この二人、うちで雇えんか?」
真顔で社長が見ている。いや、あんたらも働けよ。生花部店長の四郎さんがあっちで黙々と包装してるやん。
「このペースだと明日の昼には終わるな……」
淵さんが呟く。まあ僕らが見てたら終わるやろうなぁ。この二人バケモンやし。一方のウミはというと、リストをパッと見ただけで宛先を覚えて、次々伝票を貼っていく。品物と宛先を覚えてるから、いちいち確認がいらんらしい。
「淵君、包装は俺らに任せてウミのラベル貼りのダブルチェックをお願い。多分一人じゃ無理やろうから田中さんも一緒にやって。事務の橋本さんは、もう帰っても大丈夫!子供のご飯の用意あるやろ?明日も助っ人朝から来る予定だから今夜はゆっくり休んで」
とりあえずラッピングの実働部隊は今夜は三人、ラベル貼りはウミとチェックに二人。
「四郎さん、今晩宿直やろ?上がってもろてええで。あとは僕らでやるわ」
荷物の山の向こうの四郎さんに声をかける。
「おお、ソラか?戻っとったんか?お前もえらい長い出張やのぉ~。俺より下っ端おらんと困るけん、はよ戻って来いよ」
向こうから出て来た四郎さん。相変わらず半袖のワイシャツをこれでもかとめくり上げ、腕の筋肉を見せつけている。ほぼ角刈りのスポーツ刈りに、顔はマイク・タイソンそっくりでいかつい。身長は百六十五センチ程度と小柄だが、普通に怖い。淵さんよりかなり小さいけど、圧倒的に四郎さんの方が怖い。若い頃は街宣車に乗って君が代を鳴らしながら走っていたらしいけど、それはまたおいおい。
「じゃあ、上がらせてもらうわ。ありがとうの!」
去っていく背中が盛り上がっている。
「なに食うたらあんなんなるのや?」
つい口に出る。さてさて、ひょっとしたらアオとシゲさんと僕なら今夜中に終わるんちゃうか。
「ソラよ、お前、まずわしに気をつかわんか。社長ぞ」
あ、荷物の後ろで存在感なかったから忘れてた。
「社長、お疲れ。ほな、淵さんと田中さんと僕とシゲさんとウミとアオの夜食買ってきたら帰ってええわ」
「お前、社長を使い走りに……」
「僕、かまどやの大関さん弁当な!うちの連中はそれでええわ。とりあえず大関さん弁当四つ」
「ほんだら僕はぁ~」
田中さんがオーダーしようとしたとき、
「田中っ!お前が行けっ!」
うん、まぁそうなるやろ。そういう星の下に生まれたんやで、田中さん。
「ほな、田中さん、俺、王将の焼き飯と餃子三人前の」と淵さん。
後ろから四郎さんが、
「あ、じゃあわし、ビッグマックセット頼むわ。コーラLで」
「せ、せめて店まとめて……」
悲しそうに田中さんが言った。
*(167話へ続く)*




