163話 家族
「楽しかったのう、ソラよ」
踊りを終えて、顔を上気させた若が言う。
緊張が解けて、すっかりただの子供の顔になったな。
詩歌様はこれを狙っていたのか。凄いな、神様は。
そう思って詩歌様の方を振り返ると、
「シカちゃん寝たわよ。遊び疲れたみたい」
ユイがシカちゃんを抱いたまま答える。
なんや、自分がはしゃぎたかっただけなんかい。
「ソラさん、みんなで踊るのってこんなに楽しいんですね!」
アオイさんがニコニコ顔で言う。
そうか、こんな楽しみも無かったんだなぁ。
一方で、シゲさんにはサトちゃんがダル絡みしている。
「ねえねえ、シゲさん。生きてた頃、モテたでしょう?」
「わしは山の中でずっと鍛冶仕事をしてたから、モテるも何も無いわ」
「え~、もったいない~。カッコ良かったのにねぇ」
「サトちゃん、シゲさんってその姿になる時、ちょっと天さんが弄ってるらしいで。元はそんなんちゃうからな」
「そうじゃそうじゃ、ソラの言う通り!天狗様がわしをこの姿にする時に言うておった。『髭面が暑苦しいから剃る!』言うての。だから雰囲気が変わったんじゃ」
そう言って顎を撫でる。
若干、無精ひげ残ってるやん。
「え~、髭いいじゃないですかぁ」
サトちゃん、なんでもありか。
放置、放置。
「若、ちょっといいですか?」
「どうした、ソラ?」
周りからは見えない猫を撫でながら、若が言う。
「これから僕らは、まず和霊様の社を建て直します。そこに和霊様の御霊をお迎えします」
「そうしてくれ」
「あと、若の領地内での僕らの行動に、ある程度の自由を保障してほしいです。無法なことはしませんが、無茶は度々しますので」
「ソラたちは僕の恩人だ。僕と同じ……だと具合が悪いか。カタクラと同等の身分を保証しよう」
「近習と同様の扱いってことですか?」
「不服か?ん?そうか、不服よな?僕もそう思う!ねえ、ソラ、ウミ、アオ!」
「え?」
三人で若を見る。
「今から、みんな僕の兄だ」
「ええええええ~!」
「ユイ、サト、リー、アオイ」
「はい?」
「みんな今日から僕の姉だ」
「それとシカ……は寝てるか」
若がユイに抱かれて眠るシカちゃんを見る。
「シカは僕の妹だな」
いや、シカちゃん、この中で最年長の予感……。
「シゲ!」
「えっ、わしか?」
「シゲは僕のオジだ」
「まあオジはオジやけどのぉ~。サトにはイケオジって呼ばれておるが」
そのオジちゃう!
「サチ!」
「ワン?」
「お前はシロの姉だぞ」
「ワン??」
「若、若!ちょっと待ってよ。なんか軽々しく身内を量産しすぎ」
「ダメなのか?」
悲しそうな目で僕を見ながら聞いてくる。
「いや、ダメってことじゃないですけど……身内なんて宣言したら色々ややこしいじゃないですか。お城の偉い大人の人が聞いたら卒倒しますよ。昨日まで天涯孤独だった若殿様が、どこの馬の骨ともわからない連中が来ていきなり大所帯になったら。若の相続人増えすぎて、一体誰から暗殺したらいいかって若の命を狙ってた連中も混乱しますよ」
「え?僕のせいでソラたちが暗殺される?」
「まあ、それはないんですけどね。余裕で返り討ちです」
「だよね!ソラたちにその心配はない」
「でも、どうして急にそんなことを思ったんです?兄とか姉とか」
「さっき、みんなと踊ってた時に見えたんだ」
「見えた?手足バラバラでバタバタ踊ってる僕らですか?」
「ソラたちみんなにつながっていた、魂の絆」
「え?絆……ですか?」
「うん。僕も詩歌様って人に言われて一緒に踊っていたら、僕の体からもそれが少しずつ伸びてみんなとつながっていったんだよ。僕もみんなの絆の輪に入っていった」
さっきまで楽しそうに笑っていた若の顔が、少しだけ照れくさそうに緩む。
ずっと一人だった若には、それがどんな風に見えたんだろう。しかし見たことも聞いたこともないな。絆ねぇ。
「ユイ、なんか見えたか?」
「え?私?私は踊りに夢中で」
「アオイさんは?」
「もう楽しくって、詩歌様の真似して踊りまくってました」
「アオ……」
「僕は踊るアオイさんを見てました」
ダメだこりゃ。
「なんか……詩歌様の力かな?そう言えば葬送もお祓いの儀式でも、こんな風にシカちゃんが疲れ果てて倒れ込むことなんてなかったわな」
「もの凄く消耗してたもんね。詩歌様」
「だから、みんな一緒に踊らせたのか」
「じゃあ、カタクラさんも?」
「うん、僕らの絆の輪に入ってる」
「おいおいおいおい……近習も身内になっったとか。ねえカタクラさん、歳いくつ?」
「私ですか?私は数えで二十三でございます」
「よし!年下やな?じゃあ年長者の僕の言うこと聞いて」
「はっ!」
「僕らは若をずっと見守るわけにはいかない。旅をしているからね。でも、図らずもそこに寝ている、いたずら好きの神様のおかげで、僕らはひとつの輪の中にいる」
「はい」
「なので、そこの幽霊猫……はカタクラさんには見えんか。そいつも若を守ってくれるはずなんだけど、カタクラさんは僕らの代理で、常に若を支えてやって。若殿様ちゃうで、こうなったら一応身内のつもりで接してあげて」
「元よりそのつもりです」
「うん。僕らはウーワ以外にもイーヨに行ったり、あちこち旅をしないといけない。でも絆で結ばれた家族として、ちょくちょく城には来るわ。僕らがいない間は、若のこと頼むね、兄として」
「お任せください」
「では若っ!あなた、これから僕ら家族の中では一番下っ端ですからね?そういう扱いになるから覚悟して」
「え?シカは?」
「この中では一番最年長」
「えええええ?」
「神様だし……見たでしょ?詩歌様のあの美しい舞を」
「ああ、見たけど……あれ、シカ?」
「そう。シカちゃんの別の姿。白い鹿にもなるよ」
「シカが神様……か」
「よし!じゃあみんな、これにて家族内の上下関係確認完了!一番下っ端が若!カタクラさんは歳は若の兄貴分になるだけど、近習なので若に使われる立場もある。若は俺らより下で、さらに若に使われるカタクラさんは俺らの下僕ということだな、うん。なので城で用があったらカタクラさんに頼もう!」
我ながら屁理屈だ。
「じゃあカタクラ!お腹空いたし、疲れたから眠い。ご飯とお布団用意して」
サトちゃんが言う。
ちょっと順応性高すぎ。
「せめて『さん』くらいつけなよ、サトちゃん」
リーちゃんが嗜める。
「え~。わかったわ。カタクラさん、お風呂ってある?」
「は、はいっ!すぐ用意を」
カタクラさんが広間を走って出て行った。
「サトちゃん、ありがとう」
「え?なんですか、急にソラさん」
「あえて今後のそういう雰囲気を作ってくれたんやろ?僕らの覚悟、カタクラさん、そして若の覚悟のために」
「あれ?バレました?ソラさんにはかなわないなぁ」
サトちゃんは自由だけど、無礼じゃないからな。
「さて、カタクラさんが出て行ったので聞くけど、若。今ってどうやって仏教の教えを繋いでいる?」
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専門的なことは僕には分からないので、ウミとリーちゃんが正しい真言宗の教えを若とカタクラさんにレクチャーした。
本尊も無い状態だったので、シゲさんがその場にあった木彫りの熊を、ささっと大日如来像に彫り上げて若に与えた。
本物の大日如来様の姿を見た二人は、黙って手を合わせた。
まあ、それってまだただの木の像なんやけど。
「ウミ、その像、開眼して」
そう頼むと、
「うん。じゃあアオ君も一緒に」
ウミ、アオ、リーちゃんの三人で開眼の儀式を行った。
なんちゃって坊主なのに、儀式を終えたご本尊は、さっきまでとはまるで違う神々しさをまとっている。
「やっぱシゲさんの腕は確かだけど、魂が入らんと仏像もただの人形やな」
「お前なぁ。わしはこれでも神様ぞ。なんでわしが、わざわざ仏教の偉いさん呼び込まんといかんのや?こんな立派なのを作ってやったんだから、自分から入ってこいっちゅうねん」
「シゲさん、なんか言うことがソラ君っぽくなって来たね」
「うん、毒吐くようになったわね」
しみじみユイが言う。
ちなみに僕の子供の頃のニックネームは「毒吐きコブラ」だった。
いつも皮肉ばっかり言ってたから。
シカちゃんはまだ起きない。かなり消耗してるんだなぁ。でもなんでシカちゃんは僕らの絆なんてものと若とをつなごうとしたんだろう。謎だ。
その日は広間に布団を並べてもらい、若もカタクラさんも一緒に雑魚寝をした。踊りまくってお腹が空いていた僕らはウーワの海の幸をやまほどいただいた。酒も美味いらしくサトちゃんはシゲさんと延々と酒盛りしていた。飲み過ぎや。
「ソラさん、おしっこ……」
夜中にサトちゃんが言ってくる。
知らんがな。僕寝てるし。
窓の外に向かってしたらええやん、とか思ってたら、
「こちらです」
片膝をつき灯りを手にしたカタクラさんがサトちゃんの手を取り、厠へ案内してくれた。
寝ている間も、いつ何かあっても起きられるように神経を張り続けてるんだろうな。
厠の帰りも手を引かれて戻って来たサトちゃん。
「ありがとうございます、カタクラさん」
お礼を言うその目は、すっかりハート。ある意味まだ酔ってる。
「サトちゃん、あんたチョロ過ぎ。男に免疫無さすぎ!」
「いいじゃない!本ばっかり読んで来て、男の人と話すことなんてこれまで無かったんだから」
開き直った。
「サト、うるさい」
シカちゃんが目をつぶったまま言う。
「だってソラさんがぁ~」
口答えするサトちゃんに、
「サト、祓う?」
と言われ、黙った。
「サトちゃん祓われたら、私どうなるんです?」
アオイさんが笑ってる。
アオイさんは寝なくて平気なのかな?
「私、夜の方が元気なんですよ。うふふ」
あ、幽霊やった!
さて、明日は和霊さんの社を一本さんに作ってもらったら出発しよう。
一本さんは結局、シゲさんの姿だとサトちゃんに絡まれるので、身軽な金槌に戻ったのだった。
「一本さん!」
「ん?なんじゃソラ?」
「寝てた?」
「いや、わしは神ぞ。活動は止めておるが、寝てもいないが」
「さすが一本さん!」
「何を企んでおる?」
「いや、別にどうということでも無いけど、寝ないんだったら明日早くここを発ちたいから、今のうちに和霊さんの社作っといて」
「何っ?」
「材料は城にあるの適当に持って行って。若に明日言うわ。使っても嫌とは言わんやろ。何しろ一本さんはおじさんやし」
「社作るとなると、装飾もせないかんから銅板とかいるぞ」
「ええのあるやん、屋根の上に」
「お前、鯱のもう片方も?」
「シーッ!バレるやん。そもそもやで片方だけピカピカに光ってるのもおかしいやん。バランス、バランス」
「お前、神遣いが荒すぎるぞ」
「一本さんにしか頼めんやん。こんな無茶なこと」
「そ、そうか~?仕方がないのう、ソラは。甘えてばかりで」
「ごめんな。精霊さんにもよろしく伝えて」
「ほな、急ぎでやってくるわい。場所は?」
「なんか壊された社が封印されてて、手つかずらしいからそこで」
「じゃあ行ってくるわい」
「いつもありがとう」
チョロっ。金槌のまま行くのかと思ったらサトちゃんに見つからないように、シゲさんの姿で出ていった。きっと門番に捕まるだろうな。ま、知らん。寝る。
「さて、今度こそ朝まで寝るかぁ~」
「ソラ、しっこ」
……シカちゃん。
カタクラさんは……えっ?寝とる!神経張りつめてないんかい!
ガーガーいびきかいて寝とる!単に寝付きが悪いだけの人だったっ!
くそっ!
「じゃあ行くよ。シカちゃん手をつないで」
「おんぶ」
あああああ?でも頑張ってくれたしな。
「はい、じゃぁ乗って」
仕方なくしゃがんでシカちゃんを背負って歩き出す。
「スースー」
すぐに寝息が聞こえて来た。
なんやねん。
階段をゆっくりと下りて城の外に出る。
まあええわ、とっととトイレに……。
あれ?
女子用トイレって、どこぉ~~~~~~?
*(164話へ続く)*




