159話 登城
159話 登城
「頼もう~!」
僕は大手門の入口に門番がいるにもかかわらず、声をあげた。
「ソラ君、時代劇じゃないんだから!」
ウミが慌てる。
「道場破りなの?バカ」
ユイも慌てる。
「何用だっ?」
門番が二人、駆け寄ってくる。そりゃそうか。
「私たちは四国をまわる旅の者で、コーチからウーワに参りましたので、お殿様にご挨拶をと思い参上いたしました。こちら、コーチのお殿様からいただいた書面でございます。コーチのお殿様の食客という身分でございますゆえ、そのようにお取次ぎいただけましたら幸いでございます」
アオがスラスラと語った。ちらりとコーチの殿様の書面と花押を確認した門番は、城中に人を走らせた。一応、本物って信じてもらえたのかな?
「しばしそこでお待ちを」
そう言われて待つこと三十分。時代劇や小説で城の中の部屋で待たされるのは見たことあるけど、門の外で待たすって、これまたちょっとカチン。
「暴れるの無しよ。死人が出るから」
ユイが釘を刺す。どんだけ無法者って思ってんだよ。と思ったら、ユイが指差す先には裸にされた鯱が寒そうにしている。もう片方はピカピカで太陽の光を反射してるのに、なんでだろう?不思議だな~(棒)。
「あっ!そういうこと?」
ウミが反応した。僕とユイのやり取りを見て理解したようだ。
ふふん、驚いたか。僕も驚いたさ。
「お待たせいたしました。昨日、城に賊が入ったようで、朝から天地をひっくり返したような大騒ぎで。いや、これはこちらの話です。申し訳ございません。どうぞお入りを」
「え?城内に賊?それは物騒ですね」
僕が言うと、しかめっ面の案内役が、
「ええ、ただ城内の宝物は荒らされず……」
と言って指差した先には裸の鯱。あ~、やっぱりバレますよねぇ~。町民から通報ありますわね~。
「なので城内はちょっと空気が張り詰めておりましてな。外部から来た者には用心をと、城下に周知しておったのです」
なんかすみません。
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「ソラ君、やっぱりお城の中になんかあるね」
案内役に聞こえないようにウミが言う。いくつもの郭をぐるぐると巡り、三之丸御殿の書院近くまで来た時、見えない何かのプレッシャーを感じた。
「ユイ、見える?」
「ごめん、見えない。でもサチがさっきからずっと唸ってるから」
そう、この建物に入った途端、サチが警戒モード全開で気を張っている。何がいるんだ?
「和霊ってやつか……?」
ウミに向かって聞く。
「僕にもわかんないや」
なんなんだ、この雰囲気。わけわからん。そうこうするうちに、お殿様に会う大広間に通された。えらいだだっ広い所やな。
「これ、周囲の襖や壁の後ろにたくさん侍が隠れていて、いざとなったら斬りつけられるやつちゃうか?」
「まんま時代劇じゃない」
「ソラさん、僕、五人くらいなら一度に相手できますから」
緊張した面持ちでアオが言う。
「そんなに気を張らなくて大丈夫。いざとなったら、あなたたち全員私が守るから」
ユイが言う。いや、敵対する気無いから。そう、僕らは全く敵対する気はない。なのになんだ、このおかしな緊張感。一本さんのせいか?
「こら、わしのせいじゃないぞ。それとは別の話でピリピリしてるぞ、これは。連中、ずっと気を張って暮らしているようじゃ」
さすが腐っても神様。
「ソラ君、心の声漏れてるよ」
「誰が腐ってもじゃ!」
「?一本さんだよ」
「ああ、お前は……お前はソラだったな。そうじゃそうじゃ。お前はそういうやつじゃった。お前は口だけ悪いけど、本心ではわしのこと尊敬してるはずじゃ」
「当たり前やん。一本さん、神さんじゃん。俺は扱いも口も心から尊敬してるわ。いつも期待したのより凄いの作ってくれるし」
「また、お前はすぐにそうやって……仕方ないやつじゃのう」
「一本さんもちょろい」
サトちゃんが言う。なんとなく僕らの緊張はちょっとほぐれたな。
「待たせた。ソラとその一行よ」
上座に座った男が声をかけてきた。
男……ん?まだ子供か?これがウーワの殿様?
「ソラ!」
ユイが僕をつねる。ごめん、口にはまだ出てないやろ?
「わしが若くて驚いたか?」
心を読んだかのように殿様が言う。
「はい、驚きました。お若くして家督を継がれたのですね」
「正直に言うのお。お主がソラか?」
「おっしゃるとおりで。私がソラでございます。隣がウミ、そしてリー。この二人は仏教徒でございます」
いきなりぶち込んでやった。どんな反応をするかな?
「ん?これは戯言を。仏教などもう存在せぬだろう。アデヤ様を愚弄しておるのか?」
「愚弄ですか?もし愚弄する気があるならば、アデヤ様の愛娘、聖女と行動を共にはいたしません」
「聖女……コーチのヤマウチ殿もそのように書いておったの。お主とウミが客分、その他同行者の素性も書かれておったが、本当に聖女様と言うか?」
「ユイ、ごめん、翼出せる?」
「もちろん。今日はお母さんのくれたドレスだから出せるわよ」
そう言って、ユイは白い翼を背中から出してお殿様に見せた。
「おお、本物の聖女様であったか。失礼しました」
頭を下げるお殿様。素直な子だな。歳の頃は……ウミよりは年下だな。ウミは老けて見えるからあれだけど。
「お殿様は、ウミとリーが仏教徒というのを信じてらっしゃらない?」
「仏教など途絶えてもう久しかろう?未だに信じている者がいるとは信じられん」
「ウミ、リーちゃん、アオ、般若心経を」
そう言うと、三人は立ち上がり一斉に般若心経を唱えた。相変わらず見事なアンサンブル。ア・カペラか。無伴奏合唱みたいだな。
「お主ら……本当に仏教徒か?」
若干戸惑うお殿様。
「やめよ!今すぐ読経をやめよ!大変なことになる!」
殿様の声で、ウミたちは読経をやめた。
「お殿様、仏教徒ですね?」
不躾に僕は質問した。確証が出たから。
「何を唐突に馬鹿なことを」
「アデヤ教徒は『読経』なんて言葉使いませんし、知りません。なぁユイ」
ユイを見やると、優しくうなずく。
「『読経』なんて用語はアデヤ教会では一切使いません。『祈り』で統一していますから」
広間を見回すと、立派なアデヤ像が飾られている。金箔が貼られているな。
「ユイ、あれアデヤさん把握してる像?」
「ちょっと待ってね。聞いてみる……ママ、ウーワに教会以外で意味のあるママの像ってある?え?あるの?ああ、各家庭のやつね。どのくらい?え?百体以上?全部ママは把握してるの?え?当たり前って?凄いね。ところで、お城のママの金ピカの像って……知らない?知らないの?そう。わかった。ありがとう。え?ソラが何?何もないわよ!今忙しいから!じゃあね!もう!うるさいわね!なんもないってば!……ふー」
「何なん、最後の方グダグダは。ある程度想像はつくから聞きたくは無いけど」
「そこの像はママの管理下に無い像だって。祈りが入ってないからつながってなくて、知らないそうよ」
「お殿様、お聞きになられました?アデヤ様ご自身が、ここの像には祈りの気持ちが入ってないので知らないそうですよ。一般家庭の小さな木の像すら把握している女神様が、こんなに立派な金の像の存在を知らないんですって。祈ったことないでしょ?ウミたちの読経を止めたのは、そのまま聞き続けるのは危険と判断したからでしょ?僧侶の読経なんて、隠れ仏教徒にとっては蜜の味。聞きたくてたまらないはず。お殿様は自制できても、隠れている家臣の人なんて一緒になって手を合わせていたでしょ?ちょっと失礼」
そう言って僕は懐から金剛杖を取り出し、ひと振りしてから襖を突いてみた。
倒れた襖の後ろに、刀を提げた侍が五人。
うん、アオの想定通り。あいつ、これをすでに想定して一人で五人って言ったな。あっちの障子の後ろにも、壁の後ろにも。十五人くらいか。ウミと僕とアオで五人ずつなら、まあいけるか。……いかんけど。
「お殿様、家臣団、お城丸ごと仏教徒ですか?隠す必要あります?」
「アデヤ様の世になって、隠れ仏教徒なんてことが知られると、家が取り潰しに……」
「なりませんて。女神様が仏教や他の宗教を否定してないんですから」
「な、なんだと?ではなぜ寺は壊された?仏教は廃れた?神道は?」
「まあ疑問はごもっとも。でも実際に坊主見習いがここにいます。ウミと僕は空海様の生まれ変わりです。言いたくないけど。そこの女児は春日神社の神様の娘で、次期女神となる予定の子です。そして聖女ユイ。ユイは僕の許嫁で、そのうち結婚するかもです。空海の生まれ変わりの僕と、アデヤ教の次期女神がです。他にも色々いますよ。反アデヤ教のアウル教団の元隠密、アーワの国の犬神の母犬の霊、山賊に殺された女性の幽霊、最後はただの冒険者の女性」
「わしは?わしは?」
「あ、あとは鍛冶の神様ですね。ほかにも、一緒には来てませんけど、ユイの父で箸蔵の天狗さんもちょくちょくいます」
「なんと……そんな規格外の話が」
「だから仏教徒大歓迎ですよ。隠さなくていいです。僕らが旅をしているのは、空海さんが開いた四国八十八ヶ所霊場の解放です。アデヤ教団の過激派が弾圧してきた仏教、壊された寺や祠の封印の解放です。ウーワに来たのはそのためで、お城に来たのは筋を通そうと思ってです。今から色々やるので、そのご挨拶をと思いましてね」
「わしが力づくで止めようとしたら?」
「ムリですよ。そこのお侍さんたちなら、僕ら男三人いれば無効化可能です。お城中のお侍さん全員が完全武装してきてもムリです。ユイがいますから。コーチの天守閣を潰したのはアデヤさんですけど、この子も手加減しなければそのくらいは容易いです。犬神も力を抑えてますが、本気を出せば城下町一つくらいならなんとかするでしょう。試しにウーワの国力全部で対抗しますか?何日……何時間……何刻耐えられるか」
本意ではないけど、ちょっとオーバーに言ってみた。
「オーバー?冗談でしょ?一分でいいわ」
「光の柱に俺らも巻き込んでの一分やろ?俺らが町から逃げ出す時間を勘定して『何時間耐えられるか』って言ったんだわ」
「汗臭いけど、その時はトンネルをシェルター代わりに使わせてあげるわ。だから一分ね」
「そういうことなら一分でいけるな」
「ソラ君、好戦的過ぎる。ダメだよ。相手の事情を聞かなきゃ。お殿様、なんで霊場の解放を止めようとするんですか?」
「和霊の話を知っているか?」
「知ってますけど、それが何か?まだ出るんですか?」
「とっくに供養して治めておる。それで双方手打ちじゃ」
「え?治まってる?じゃあこれはなんなんです?このお城おかしいですよ。見えないんですけど、何か悪いことが起きてないですか?」
「それじゃ。和霊とは和解したのに、凶事が続いておる。父が早世したおかげで、わしのような若造が国主となっておる。異常な事態じゃ」
「凶事……ですか」
「ワンワンワン!」
サチが吠える。
「あの犬が犬神か?」
お殿様が言う。
「え?見えているんですか?」
「ああ。そこの女の中にいる美しい女性も見えておる」
アオイさんもか?
「なんで中なんですか?外にいる私って一体……」
それは置いとこうよ、サトちゃん。
「この力のお陰で、わしは命拾いをしておる」
ん?
*(160話へ続く)*




