158話 武装
158話 武装
「一本さん、おにぎりは?」
「……」
返事がない。
「一本さん、卵焼きは?」
「……」
無言。
「一本さん……」
「だぁあああ、ソラうるさい!集中している時に話しかけるな!」
一本さんが怒鳴る。だって飯も食わずに路地裏でずっと作業してるからさ。僕とユイはもうしっかりご飯食べたし。
「そもそも一本さんって神さんやろ?腹って減るもんなん?」
「……」
無視かい。
「サチやアオイさんみたいに、人から養分吸い取る感じ?」
「……」
「それともシカちゃんみたいに、一緒に食べたりするの?」
「お前!うるさい!作るのやめるぞ!」
「それやめたら、一本さんと一緒に行動する理由が特に無くなるなぁ」
「ソラ、その言い方は良くないわよ。こんな路地裏でやらせる作業じゃないでしょ?あなたのわがままから始まったんだから、そこはお願いする立場を理解しなさい」
ユイに怒られた。
「聖女様……ありがたきお言葉」
ユイには反応する一本さん。
「ありがたきなんて、とんでもないわ。ソラ、一本さんはあなたたちみたいに汗臭くないから、山小屋に行って作業してもらうわ。あっちの方が涼しいし、パパしかいないから集中して作業もできると思うわ」
「あわわわ!聖女様、私はここで大丈夫です。多少賑やかな方が落ち着いて作業もできるってもんです。ソラ君、ソラ君、全然うるさくなんてないよ?なんだっけ?食事だっけ?そうそう、わしは飯も食うぞ。金槌でいる間は腹は減らんから食べんが。またこの作業終わったらいただくから、おにぎり置いといてくれるか?美味しそうじゃのう。さあ、とっとと片付けて卵焼きもいただくとするかのう」
やたら饒舌になった一本さんは、マッハで仕上げて無言でおにぎりを頬張った。
「なんか急かしたみたいになっちゃったわね。ごめんなさい、一本さん」
ユイが労う。
「いえいえ、とんでもないです。いやぁ~、できてよかったなぁ。おにぎり美味しいなぁ。じゃあ目立つといけないので、またわしは金槌に戻りますね。ソラ、また運んでくれい」
「自分で歩けばいいじゃん。男前になったんだし」
「いやじゃ。人混みは苦手じゃ」
「じゃあ天さんとこでゆっくり寛ぎなよ。山の上で空気も綺麗だし、お風呂もあるぞ」
「わし、なんかだんだん人混みも好きになってきたかもしれんのう。でも、お前のリュックの横が一番落ち着くんじゃ」
「一本さん、パパ苦手なの?」
ユイがどストレートに聞く。
「え?え?わし、そんなこと全然。好きとか嫌いとか言える話じゃないですし。恐れ多くて、そんな近くにいるなんて」
「天狗が恐れ多いってなんやねん。神さんの方が偉いやん。天さん、その辺わきまえてないから偉そうやけど。俺や社長の前ではただのおっさんやで」
「私の前でもそうね。ふふふ」
確かにただの親バカだわ。
「とにかく、わしはソラの横が一番ええんです。さあソラ、それ持って振ってみろ。伸びた後、固定されてええ感じになるぞ。せっかく練習したから、お前のは鬼子母神と同じ長さにしてある。ウミのは使い慣れたやり投げの槍と同じ長さにした」
「気が利くなぁ。うん、いい感じ。シュッと振ったら伸びてバランスもいい。まるで如意棒やな」
「尿意坊?」
「誰がおしっこしたがるガキじゃ!にょいぼう!孫悟空の武器だよ」
「なんか知らんけど、まあ気に入ったならそれでええ。ただ刃はないからの。ただの棒やぞ」
「うん、斬ったり傷つけたりするのが目的ちゃうし。振り回してビビってくれたらそれでいい。最悪、まあしばくかもやけど」
「え?それでしばいたら相手えらいことになるぞ」
「えらいことって?」
「刃を付けんぶん、硬度を高めたからのう。金剛杖より硬いぞ。もちろん普通の刀なら刀が折れる。槍もじゃ。侍の持つ武器で、それより強いのはないぞ、多分。もうここにはないけど、それとええ勝負できるのは天狗様の山小屋に置いたあれか、鬼子母神くらいじゃろ」
「天さん、限られた材料でよく作ったなぁ。精霊さんたち、どっから材料集めてきたの?」
「ああ、あそこの城の鯱の表面に、ええ具合の鋼が巻かれとっての」
ん?
「なんか鯱の左右、色が違う気がするけど……」
「おお、片方だけで足りたからのう」
ゲッ……お城のパクったんか。
「ソラ、どうするの?バレたら怒られるわよ?」
う~む。
「まあ、お城に住んでたら天守閣の上の鯱なんて見ぃへんわ。おまけに瓦にコーティングしてただけやろ?別に片方無くなったって機能は変わらんて」
「じゃあわし、戻るぞ」
そう言って一本さんは金槌になって、僕のリュックにぶら下がった。
「よし、じゃあ飯屋に行ってみんなと合流するか」
「もうちょっとだけ。まだお茶飲んでないし」
ユイに引き止められ、なんかそのまま二人で路地に隠蔽をかけたまま、ゆっくりお茶を飲んだ。期待するようなことはもちろん何もない。なぜなら僕はヘタレだからである。
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「お帰り、ユイちゃん、ソラさん。なんかいいことあった?」
サトちゃんがニヤニヤしている。噂好きのおばちゃんか。
机の上には食べきったお皿が並んでいる。アオイさん、食べ過ぎみたいで顔が若干青くなってる。半透明だったのに、もうすっかり顔色がわかるレベルまでなってるってことは、それだけサトちゃんが暴飲暴食したってことだな。
「ああ、一本さんが凄いの作ってくれたわ。ほれ、これウミの」
振出式の杖を渡す。三十センチくらいの棒だけど、振るとめっちゃ伸びる。
「俺のは鬼子母神サイズ、お前のはやり投げの槍サイズだってさ。めっちゃ硬いらしいから、人を殴る時は用心せえよ」
「わかった。バールのようなモノくらいの感覚で扱うよ」
「どこぞのトクリュウ関係のニュースか!あれ、甲子園球場何個分とか東京ドーム何杯分とかと同じような扱いやな。東京ドーム一杯分ってどんだけやねん。飲んだことないからわからんわ。バールはバールちゃうんかい」
「はい、脱線するからストップね、ソラさん」
サトちゃんが止める。サンキュー。カタカナ言葉、普通に話すようになって心強いわ。
「そういえば、アオの武器は……」
「僕は素手でも大丈夫ですよ。格闘術も使えますし」
出た、万能兵器。
「アオ君って本当に隠密だったんですね」
しみじみサトちゃんが言う。
「ただの二枚目にしか見えませんよね」
リーちゃんも続く。
「お前の過去の話、じっくり聞いてみたいわ」
「わかりました。じゃあアオイさんとの運命の……」
「よし!時間も時間だし、お城行くかぁ」
「え?僕の話は……」
「運命なんて無いっ!自分の行動で変わる!以上」
「ちなみにアオイさんに、アオの記憶ってあるの?」
ユイが尋ねる。
「え?記憶ですか?どうでしょう?うふふふ」
笑ってごまかされた。本当に幽霊なの?って時々思う。
「ソ~ラ!」
ユイが睨む。
いやいやいやいや、そういうんじゃないよ。っていうか、お前も次期女神だろうに。俺から見たらアオイさんもお前もシカちゃんも似たような立場やぞ。
「空海様の生まれ変わりはどうなのよ?」
「うっ……それを言われると……っていうか、ウミは明らかにそうだけど、俺は煩悩担当のポンコツだぞ?出涸らしに過ぎんよ!」
「ソラ君、出涸らしが先に出ることはまずないよ。一番濃いところが出た後に出涸らしになるんだ。そういう意味でいうと、後から生まれ変わった僕が出涸らしに当たるよ」
「じゃあ空海様は、あれこれ首を突っ込みたくなるおせっかいがメインで、立派な宗教家としての素養はその次だったんや」
「まあ、人が好きだったんでしょうね」
サトちゃんが言う。
「俺、クソガキとか年寄り嫌いやけどな」
「はいはい」
リーちゃんが軽く流す。
「ソラ、嘘、下手」
シカちゃん……。いかん、なんか変な空気。
「じゃあお城行くぞ!ウミ、その振出式の金剛杖、お城の天守閣の部品パクってるからバレんようにな!バレたら怒られるぞ」
「え?それどういうこと……?」
*(159話へ続く)*




