157話 和霊
「ウミ、これ道あってるの?」
「うん、宇和島城は海に近いお城で、僕らの世界でも天守閣が現存している貴重なお城だよ」
「サトちゃん、場所ってこっちの世界の地図でもあってるの?」
「はい、宇和島じゃなくてウーワと言う地名でウーワ城という名前で載ってますね」
「なぜに島を抜いた」
「私に聞かれても……」
「なんか微妙に適当なんだよなぁ、名前が」
「僕らには適当に思えるかもしれないけど、この世界の人にとってはそうなんだから仕方ないよ。逆に僕らの世界に紛れ込んだ人がいたら、島でもないのに宇和島ってなんなんって言われるよ」
「いちいちケチつけたらきりがないわよ」
「両方行き来してるユイや天さん的にはどうなんよ?」
「別にどうでもいいわよ。どっちでも。それがそうなんだって言われれば、そう思うしかないじゃない」
「確かに……」
「ソラさん、ちなみにですけど昔に書かれたお遍路の案内にはちゃんと宇和島城って書かれてますよ」
「それってなんぞいな?アデヤさんが仕切るようになってエセ中世ファンタジーみたいな街作りしたせいか」
「エセって言わないの!一応そこにはパパもからんでるんだから」
「文化も地名も変えるのってものすごい労力やけどなぁ。市町村合併のときですら、地図やら案内看板やら大変やったって聞いたけど」
「宗教地図がガラッと変わってアデヤ教一色になったもんね」
とウミが言う。ほんまカタカナばっかり。変なの。なんでこんな世界にしたんだよ、全くめんどくさい。
「でもまぁそれを言うなら、そもそもアデヤ教のアデヤってのもなんなんだって言うのと同じか。意味なんてないやろ。何語やねん」
「え?アデヤ教の名前のこと?それならちゃんと理由はあるわよ」
「え?アデヤさんって名前から取っただけやろ?」
「それはそうだけどママの『アデヤ』って名前はパパが付けたのよ。ママを見て『艶やかな娘ゆえ、今後アデヤと名乗るがよい』って」
「ん?天さんが?なんで女神様の名前を天さんが決めるのさ。時系列おかしくない?女神様に惚れた天さんが、猛アタックして落としたんじゃないの?天さん、キャラはちょっとあれやけど見た目だけはダンディやし」
「歳はパパの方が相当年上よ。まあ詳しくは言わないけど」
「ま、天さん、空海さんの頃からおったみたいやもんな。千歳以上は確定やな」
「まあ、そんな感じで考えておけばいいんじゃない?」
「ねえソラ君、そんなことはどうでもいいじゃない」
「そうですよ、ソラさん」
「まあ、詳しく知らない方がいいんじゃないですか?」
「ソラ、バカ」
「そう、ソラはバカじゃ」
「わう~ん」
それぞれ勝手なことを言う。
「天狗様も偉大な方ってことですね!」
とアオ。そうなんかな。まあ、それなりに天さんって力はありそうやしな。変身できるしな。地元の人からは神様って祀られてるって自慢してたしな。
「で、ウミよ。なんで海沿いにある城に向かうのに山に向かってるんだ?」
「ああ、しばらく山越えだよ。海沿いだと逆に遠回りになるんだよ。海岸が入り組んでて」
「もうほんま極端よな。海沿いばっかりかと思ったら山に入ってまた海に出て、平坦な道になったと思ったらまた山に入る。こんなん、また山奥行ったら色々出てくるぞ。変な一本足の唐笠小僧拾ったんも、そんな時やったし」
「あと、ヒダル神様の時もそうだったね。ソラ君がへとへとになってた時」
「ああ、安芸に向かってた時な。懐かしい」
「ソラよ、お前らの目的はなんじゃ?」
一本さんが聞いてくる。
「え?四国八十八ヶ所の霊場の解放やけど?」
「その八十八ヶ所の中に、牛鬼やら野盗に鯨とかも入っとるんか?わし、神社直したり、大蛇の家作ったり、教会作ったりしとるけど」
「ん~、まあルートに出るってことは、裏設定でそういうのが入っとるんかもしれんな。ゲームで言うところのサブゲーム的な」
「一切わからん」
「簡単に言うと、ソラ君が歩くと分岐点がいくつもあって、すんなり進む道を避けて、ややこしそうな道を選ぶってこと」
「なるほどのう」
納得するなよ、一本さん。
「でもね」
サトちゃんが言う。
「そのおかげで素敵な出会いがたくさんありますもんね。助けたり、助けられたり」
「まあそうやんな。めっちゃ助けられることばっかりや」
僕が言うと、全員が首を振る。え?殿さんと吉田さんとか、シャチとか、みんなめっちゃ助けてくれてるやん。
「ソラ君が無償で助けてるから、みんな少しでも恩返ししようとしてるんだよ」
「飯食わしてもらったりしてるやん」
「ソラは対価の感覚がおかしい」
「見返り期待してないもん。見返り期待してるなら、それはもうビジネスじゃん。こうしてあげたからこうしてほしいって交換条件やんか。そんなんいらんわ、俺」
「相田みつをさんの詩を思い出したよ」
「なんじゃそれ?」
「誰かに何かしてあげた後、それを恩に着せるようになると、愚痴が出る。そんなことを書いた詩があるんだよ。やってあげたのに、してあげたのにみたいな気持ちのことだね」
「ほう……確かにそんな感じかな。凄いな、その人」
「うん。他にもいっぱい、いい詩があるよ」
「聞かせて、聞かせて」
みんながウミにせがむ。絶対記憶のウミは、これまで読んだ中でも選りすぐりの詩の話を僕らに聞かせてくれた。なんだかんだ愚痴を言っていた僕もすっかり聞き入り、歩く辛さを忘れ、いつの間にやら無事ウーワの城の近くまでやって来た。
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うわ、遠くからでもよく見えるけど綺麗な城。なんか地元の丸亀城を思い出す。山の上にちょこんと天守閣のあるお城。町もコーチに負けないくらい発展している。
「やっぱり似てるなぁ、ウミ。松山城も行ったことあるけど、こんな感じよな?」
「うん、平地で周囲を見回せる場所に建てると、こうなるんだろうね」
「でもなんか、この城下町、不穏な感じがするのは気のせいか?」
「ソラさん、私でも感じます!やっぱりそうですか?」
サトちゃんですら感じてるってことは、ほんまもんやな。
「実はね……」
ウミが語り出す。
「みんなもうわかっているけど、僕らの世界とこっちの世界はかなり類似点が多いよね?若干地名が違ったり、宗教の歴史が変わってたりするけど」
「同じではないし、時間もこっちが百年ちょい進みが遅い感じかな?あとはアデヤさんの存在やろ」
「うん。それ以外はほぼ同じと仮定すると、あれは宇和島城。そして、そこに出る妖かしってのがいて」
「妖かしってことは妖怪?」
「ん~、妖怪ではないかな。怨霊の類」
「怨霊かぁ~。そうかぁ~。じゃあ俺の担当外れたなぁ~。残念だなぁ~。妖怪だったらなぁ~。いやぁ~、そうかぁ~」
「なんでソラはそんなに嬉しそうなのよ」
「まあ、この前仕切ったところだからね。和霊って言い伝えがあって、正体はこの藩の初代家老さんらしいんだよ。家族もろとも暗殺されたらしくて、それ以来、事件や事故、災害が続いて、祟りだって言われてて。一応、供養されて治まったことになってるんだけど」
「え?あれで?」
リーちゃんが不安そうに辺りを見る。
「うん……表向きは治まったことにしてるんだろうけど、城内ではまだ色々続いているんじゃないかな。無実の罪で暗殺されたらしいけど、それもちゃんと無実と判断されて、名誉回復も終わってると思うんだけど」
「じゃあ何が原因なんだろう?」
「とりあえず行ってみるしかないか」
「ここは隠れ仏教徒の線もあるし、ウミに譲ろう。アプローチからプレゼンまでやってみ」
「学生にそこまでやらすのはどうかと思うよ。まずは社会人のビジネスマナーを学習したいもんだね。ソラ君の背中を見て覚えていくよ」
「くそっ!まあええわ。断られるまでが営業の仕事じゃ。まあ相手の反応を見つつ、フレキシブルにやな」
「要は行き当たりばったりで、出たとこ勝負ってことよね、ソラは」
ユイ、正解!
「じゃあ、昼ごはん食べたらお城に行ってみよう。コーチの殿さんの客分の身分証出せば、追い返したりはされんやろうし」
「あ!一本さん、前にオーダーしといた振出式の金剛杖ってできてる?」
「ん?ああ、とっくにできとるぞ」
「何かあった時用に持っていくか!」
「あ?わし、今金槌やぞ?持てるわけなかろう?」
「どこに置いてるの?」
「……天狗様のとこ」
「なんでよ!いつ行ったのさ!俺に黙って」
「この前、体を作り変えられ……変えていただいた時じゃ。あの時、作業場を借りて作っておいたんじゃ」
「なら持ってきてくれたらよかったのに!」
「天狗様が、空海様の金剛杖と、わしの作った振出式の金剛杖と、どちらが強いか試したい言うての」
「え?一本さんと打ち合ったの?」
「わしじゃ力が足らんから、ブッチーに持たしてチャンバラする言うて」
「ブッチー……?ブッチーって淵さんのことか?天さんのガールズバー友達になった葬儀社の店長!」
「まあ確かに淵さんなら、試し打ちにぴったりかもね」
ウミが言う。
「待て待て。あのおっさん、たいがいやぞ。軽トラ脱輪した時、自分で持ち上げてた人やぞ」
「どっちの金剛杖も心配だね」
「勘弁してくれよ。ほんじゃ、飯食ってる間に作ってよ!簡易版でいいから」
「簡易版って。普通の木で作っても、釣り竿程度の強度にしかならんぞ。どこぞのご神木とか……」
「そんなんええねん。威嚇できる程度で。どうせなんも起きんと思うけど、念のために持っておきたいだけ」
「ほな、そこらにある木でちゃちゃっと作るわい」
「よろしく!ユイ、一本さん見つからんように、一緒に認識阻害かけて、できるまでおってよ」
「え?私、お昼どうするのよ」
「おにぎり持ってきてやるわ。悪いから一緒に食おう」
「え?一緒に?え?」
どこからともなくヒューヒューと囃し立てる声。絶対サトちゃん。
「というわけで、お昼食べたらお城へ行く。振出式の杖できたら食堂まで行くから、みんなそれまで好きなもん食べてて」
「わかりました!腹ごしらえ終わったら勝負ですね」
アオが張り切っている。こいつも殿さん懐柔する時には使えそうやな。
よし、行くか!ご飯に。
*(158話へ続く)*




