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156話 魂の重さ


「わー、海だ、海だぁ~!ソラさん、海ですよぉ」


アオがはしゃぐ。


「ああ、海だな」


「ソラ君、テンション上げていこうよ!また海に戻ってこれたじゃない」


「ああ、そうだな」


「なんかノリ悪いわね。どうしたのよ、ソラ」


ユイが顔を覗き込んでくる。


「ソラ君、四国はしょうがないよ。基本は山か海で、もともと平野が少ないんだもん。僕らの住んでる香川くらいだよ。それなりに広い平野があって、ところどころにポコッて小さい山があるのは」


「そうやなぁ~。普通に平地を歩きたいなぁ」


遠くを見る目の僕。


「そうそう、香川の山って観光で来る人たちにはかわいいって評判らしいよ」


なんとか僕のやる気を出させようと、健気に話題を振るウミ。すまんなぁ。


「ああ、讃岐富士ってのもあるなぁ。地元民からしたら、ただの飯野山(いいのやま)でしかないけど」


「あそこ、地元の幼稚園や小学生は遠足で登るらしいね」


「あれって高さ何メートルあるんさ?」


「四百メートルちょいくらいかな」


「それはさすがに富士山に失礼やな。大阪の天保山よりマシやけどさ。でもまあ、金毘羅さんの境内から見ると、讃岐平野の向こうに見えてそれなりに立派には見えるけどな」


「元気出てきた?ほら、もうちょっとで地元に戻れるから頑張ろうよ。愛媛の次は最後の香川だよ!」


「あ、まあそうやけどさ」


「どうしたんですか?なにか考えてるんですか?」


リーちゃんが聞いてくる。鋭いなぁ、いつも。別に不貞腐れてるわけでもなく、考え事しながら歩いてただけなのだ。いつもいつも文句言ってないっちゅうの。


「あのさ、ちょっとみんなに相談。コーチでさ、俺らが割と好き勝手に動けたのって、殿様のおかげやんか。その殿様の威光がイーヨでは通用しないのよな」


「でも紹介状書いてもらったじゃない?」


ユイが不思議そうな顔で聞いてくる。


「ああ、確かに紹介状はもらった。でも、今から行く町や村の人には関係ないやん?次行ったところで、牛鬼じゃぁ~!やるぞ~!って俺らが張り切っても、ところでお前ら誰やねんってなるやんか」


「確かにそうですね……」


アオが言う。


「イーヨのお殿様から国中にお触れを出してくれてて、これこれこういう怪しい格好した連中がその辺行くけど、なんかあってもお目こぼしにしてやれ、なんて命令は出してくれんだろ?まだ見ず知らずの俺らに。紹介状だって、お城に行ったらとりあえず会ってみてもよいかのう、くらいじゃないか?そっからいかに殿様の信用を得るかにかかってると思う」


「ソラ君、そういうところやっぱりサラリーマンだね。根回しが必要って言ってるんだね?」


「そうそう。行く先々で普通に地元民と揉めたら、牢屋にぶち込まれる可能性あるやろ?また俺って、そういう星の下に生まれてるし」


「揉め事製造機だもんね。ふふふ」


ウミ、お前が言う?


「困っている人見たら、とりあえず関わり合おうとしますよね」


「製造機というか、揉め事に愛されてますよね」


「ソラだから」


「ワン」


みんなそれぞれ好きなことを言う。


「なんでもええわ。とりあえず、イーヨの殿様に面会して筋は通しておこうかなと。別に悪いことをしようってわけでもないしな。アデヤ教の聖女様もいるし、まあそこはなんとかなるやろ?」


「で、どうするんです?近くの霊場は無視して、先にお殿様のいるところ目指すんですか?」


サトちゃんが聞く。


「そうやなぁ。愛媛って色々と城あった気がするけど、まずは松山目指せばええんか?ウミ」


「伊予松山藩ってことなら松山だけど……」


「だけど?」


「伊予の国って、実は八藩もあったんだよ」


「八ってか?」


「この辺だと、宇和島藩っていうのが」


「ああ!聞いたことある!伊達さんがいたところだ!司馬遼太郎の本で読んだぞ。確か幕末四賢侯の一人だ」


「そうそう」


「じゃあ、イーヨの殿様に紹介状は書いてもらったけど、それ以外は頼んでないから、俺らってまさかのノーアポ状態?」


「そうなるね」


「なんや、結局自力で開拓か。まあええわ。こっちにはコーチの時にも活躍してくれた聖女様がついてる」


「まあ、たいていアデヤ教の聖女が来たと言えば、教会経由で話が通せるね」


ウミも太鼓判。


「仕方ないわね、もう。私に頼りっきりね。フン」


ユイの鼻息も荒い。


「あの~、ちょっといいですか?」


アオが口を挟む。


「どうした?なんか情報でもあるんか?」


「アウル教の反アデヤ教の活動の中で、僕はソラさんたちの監視と勧誘が仕事でしたけど、別の部隊が……」


「ん?」


「宇和島のダテ様の勧誘を画策していた記憶が、あったりなかったり」


「どういうことだ?ダテ様をなんで?」


「アウル教の僕の師匠……というか、まあ適当な尾行術とかを教えてくれた人の、さらに師匠という人が掴んだ情報なんですが、ダテ様は表向きアデヤ教に従いながら、先祖代々の仏教信仰を捨てていないらしいんです。アデヤ教の教えどおり城下町を洋風に変えて、アデヤ教会も作って、ダテ様一族もちゃんと礼拝に行ったりしているとのことですが」


「えええ~?殿様一族が隠れ仏教徒だと?なんかまたややこしい話やなぁ。普通にアデヤ教徒であれよ!」


「僕に言われても。でも、どうもかなりその線は濃厚らしく、アウル教団としてはアウル教を信じようが信じまいがどうでもよく、なんとか反アデヤとして活動してほしくて、あの手この手で接触を試みていたようです」


「じゃあ今でも仏教徒の可能性も大ってことか。ある意味、ウミやリーちゃんの存在がキーになりそうやな」


「どうせ動いてたらバレるしね。霊場の封印を解放して、八十八ヶ所を再設定することさえ反対されなければ、僕らにとってもまあ問題ないだろうし」


「コーチの殿さんみたいに甘えることはできんかもしれんけど、まあ行動の自由を認めてくれたらいいよな?でも一応、コーチの殿様の客分であるっていう身分保証はあるから、無碍にはされんやろ」


「じゃあ、この地の殿様にご挨拶するところから始めようか」


「一旦、霊場行きは保留ね」


「そうそう。だからここの場所、みんな覚えといて。海が見える峠のてっぺん。ここを再出発の地と設定」


「ソラのマイルールね?」


「うん。行きはズルなしで自分の足で歩く。戻りはシカちゃんやユイに手伝ってもらって、元いたところまで戻るのはオーケーで」


「私は嫌よ。ドレスとかワンピースとか、翼を出すとすぐ痛むんだもん。ダメになったら、どっかのバカがリサイクルとか言って切り刻んで教会のノベルティにするし」


「いいじゃん。みんな喜んでるんだから」


「嫌よ。知らないところで聖骸布とか言われたり、タグとかついてるところが出回るの」


「こっちの人はW58とか見てもわからんて」


と言うと、思いっきりユイにビンタされた。


「ソラさん最低~」


サトちゃんに白い目で見られる。サトちゃんはもっとあるの知ってるぞ。


「安いヤツ、ボロくなって切っても、オカンが作ったドレスやこの前もらったワンピースあるじゃん」


「汚れたり、破れてもっとミニになるのやだもん。恥ずかしい」


「ミニでもいいじゃん。綺麗な足してるんだから」


とポロッと言ったら、また叩かれた。腕をパンパンって感じで。照れてるんか。怒っても照れても殴るんだな。


「じゃあ、ユイの部屋経由のショートカットトンネルは?」


「汗臭いあんたたち入れるのイヤ」


「汗臭い?女性陣だって同じように歩いてるんだから一緒じゃん!リーちゃん、ちょっとこっちへ」


「え?なんですか?」


気にせず匂いを嗅いでみる。あれ?お花の香り。


「サトちゃんは?」


あれれ、意に反して甘い匂い。


「アオイさんは?」


ん?これは白檀?お線香?


「シカちゃん!」


あ、おひさまの匂いだ。


「ウミ!」


体育系男子の部活終わり~。


「アオ!」


徹夜で飲み明かした、よれよれのホストの香り~。


「ユイ、お前の言うことはよくわかった……」


無理だ……男たちは徒歩で戻るんだ……。


「シカ、行ける」


「え?シカちゃん、マジで?」


「うん。ちょっと大きくなって、飛ぶ」


そうだった!シカちゃん神様だから変身できたんだった。小鹿になるのは禁止したけど。


「前、ユイも乗っけてもらったことあったもんね。じゃあみんな大丈夫かな?リーちゃんもアオイさんも増えたけど……」


「僕は走りますし」


あ、アオは基本走るやつだった。ならいけるんじゃない?


「サト、ちょっとだけ痩せて」


あ、シカちゃん言っちゃった。


「え?あ?私?あ、そうか!アオイさんの分もあるもんね」


「アオイ、重さ、無い」


魂の重さは二十一グラムとかいう与太話あったけど、やっぱり神様は認めてないな。うん。


「あ、シカちゃん、私、ブツブツを斬ってた時に飛べることがわかったので、飛んでもいいですよ」


「アオイ、平気。サト、ダメ。ちょっと重くなった」


「ガーン!ちょっと食べるの控えます……」


う~ん、別に今のまんまでもいいけどな。細いより。


「サトちゃん!私、もっと頑張ってサトちゃんから栄養もらうようにします!だから気にせず食べてください!」


優しいな、アオイさん。


「本当に?じゃあこれからも美味しいものを食べていいの?」


「はい!私、食が細いのか、あまりサトちゃんの栄養をもらってなかったんですけど、しっかりいただきます」


「じゃあ、アオイちゃん、お腹の周りの栄養って取ってもらえる?」


「はい!」


そう言うと、アオイさんはサトちゃんの体に入っていった。


「おおおお、効く、効く……吸い取られてる~」


ウソでしょ?でも見る見るうちに、サトちゃんのウエストが元通りキュッと締まったような。


「サトちゃん凄い!細くなりましたよ!パンツのお腹がちょっと緩くなってますよ」


リーちゃんもパンツなんて言葉覚えたのか。ズボンでもなくパンツか……今どきよのう。


「じゃあ、アオイちゃん、お尻のところもちょっと」


「はい!」


「うおおおおお、効く効くぅう~」


なんか声がやらしいぞ。


「サトちゃん!お尻が上がって、ラインがすっきり」


「うわ、アオイさん凄い!これからもそれお願い。あ、胸は……そのままでいいわ」


いいとこ取りかい!


「わ……わかりましたぁ……またいただきます。今は、うっぷ、お腹いっぱいで」


サトちゃんの体から抜け出すアオイさん。


あれ?アオイさん、体が濃くなった?前に天さんの煩悩を吸ったサチみたいになってるぞ。


「なあ!ユイ、これ、アオイさん、サトちゃんの体からもっと栄養吸ったら実体化できるんじゃ?」


「実体化する頃にはサトちゃん、ミイラよ」


怖っ!


*(157話へ続く)*


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