153話 ゴール
「やっとゴールかぁ~。俺たちやり切ったな?」
「まあ高知県としてはゴールだけどね。まだ四国の半分だよ。なんなら後半の方がお寺の数は多いという……」
「ウミ、ちょっとは感慨にひたらせろや。もともとはたった二人で挑んだ徳島県、そして徐々に仲間が増えていった……」
「それ、この前も言ってましたよ」
サトちゃんが手元のメモを見る。いや、言ったけどさ。振り返りじゃん。
「ちなみにソラ、まだ終わってないからね。単に霊場跡に着いただけ」
「そうですよ。ちゃんとご本尊さん探さないと」
リーちゃんはしっかりしてるなぁ。
そう、とっくにコーチの最終札所、延光寺には着いているはず……なのに、すっかり整地されていて新築の家が建っちゃってる。これ、どういうことよ?
「これは今までにないパターンだねぇ」
諦め顔でウミが言う。
「これ、もしこの家の下にご本尊さんあったらどうするんですか?家ごと解体しちゃいます?」
サトちゃんが無邪気に言う。いや、こんな新しい家、はいそうですかって解体させてくれんでしょう。
「でも御本尊様を探さないとダメですよね」
リーちゃんが詰めてくる。厳しいな。
「でもさ、俺もウミもなんも感じてないよな?ご本尊さんの居場所」
「そうなんだ。いつもならなんとなくこの辺って呼ばれてる気がするから、土の中にあっても掘り出せてたんだけど。サチより鼻が利くアオ君はどう?」
「ここには無いです」
きっぱり宣言。ホンマにびっくり人間やな。能動的には動けんくせに、指示されたらなんでも応える。万能型平社員だわ。
「俺ら二人にアオもわからんとなると、ご本尊さん自体ここにはないってことやぞ。土地の封印は解除できるけど、ご本尊さん無かったらただの土地でしかないな」
「僕、あの家に行って聞いてきますよ。なにかわかるかもしれません」
「じゃあ私も行きます!男一人で行くと怪しまれるかもしれないので」
サトちゃんが手を挙げてくれる。たしかにこんな辺鄙なところの一軒家にいきなり若い男が訪ねてきたら、怪しすぎるわな。
「じゃあ悪いけど、二人で行ってもらえる?ぞろぞろ行ったら玄関も開けてもらえんかもしれん。どういう経緯でこの場所に家を建てたのか、本尊の行方とか知ってる人がいたら情報聞いてきて」
「わかりました~」
二人で……いや、三人で擁壁にある階段を上っていった。寺だった頃の名残だろうか、地面より三メートルくらい高い敷地に家を建ててある。築十年いってないくらいじゃなかろうか。
「しかし、ウミよ。浄化されていない封印されたままの土地に家建てるって凄いな」
「うん。毎日ここで過ごしたら体力削られると思うけど」
「何ゆえここに居を構えたか興味あるな。普通住めんぞ、こんなとこ」
「シカ、祓う?」
いや、詩歌様になったシカちゃん、ちょっと怖いからいい。
「アデヤ教の狂信者って、よくこんな封印思いつきましたよね?凄いです」
それやったの、リーちゃんのよく知ってるコーチの学校にいる人格者の吉田さんだからね。あの人、元は悪鬼になって僕を殺そうとしたアデヤ教の狂信者だからね。知ってる?言わんけど。
「その封印を俺らは解いて回ってる。解ける俺らはもっと凄いっちゅうことだな。ふふふ」
「解いてるのは僕やアオ君だけどね」
「はいはい。私はただの案内役ですよ」
「案内してるのはアオ君とサチだけどね」
「はいはい。私はただの露払いですよ」
「そろそろソラ君も封印の解き方覚えたら?教えようか?」
「ん?いらん。面倒くさい」
「面倒くさいって……」
「そもそも俺は一人で旅しないもん。ウミもいればアオもいる。得意不得意で役割分担やろ?この前もあんなぐちょぐちょのきちゃないとこに、俺、スニーカーで行って靴下までぐちゃぐちゃに……」
「はいはい、わかったよ。これまで通りね」
そうそう。
「あ、お待たせしました~!ソラさん、上がってきてください。お茶を出してくれるそうですよぉ」
アオが石の階段の上で呼んでいる。お茶って、お前、また一体どんな手で。
「あ、ああ。ありがとう。じゃあみんなお邪魔しようかな。サチ、濡れティッシュで足の裏ちゃんと拭いて上がれよ。まだ新築っぽいから」
「サチは飛んでるから汚くないわよ」
ユイが言う。あ、そうか。
---
階段を上がると芝生のかなり広い庭。お寺の頃はお堂とか色々あったんだろうな。今は真砂土が入ってフラットに整地されて芝で覆われ寺だった頃の面影はない。建物もアデヤさん好みの立派な洋館だ。
「ユイ、アデヤさんってお前の読んでたラノベとかの影響受けてない?」
「はあ?ラノベなんて私、読まないわよ!シェークスピアとかなら読んでたけど」
「え?シェークスピアの新刊が出るの待って、出たら即その日に読んじゃう派?」
「シェークスピアの新刊待ってるって、いったい私は何歳なのよ!バカなの?」
「司馬遷の『史記』の新書を読んだとか……」
「私は二千歳超えてるっていうの?ほんとバカね!」
「くだらない夫婦喧嘩はその辺に。もうみんな行っちゃったよ」
ウミに言われて見ると、もうシカちゃんが玄関に上がってる。靴脱いだかぁ?
「おじゃましま~す」
中に入る。洋風なのに玄関で靴脱ぐスタイルなのね。衛生上、非常によろしい!
リビングのソファには中年の男性が座り、キッチンには同じく人の好さそうな中年の女性が立っていた。向かいのソファではサトちゃんがクッキーのようなものをいただいている。絨毯にボロボロとカスを落とすな。既に実家みたいに寛いでいる。
「ようこそこんな田舎へ。アオ君に聞いたがやけど、旅の途中とか?まっこと珍しいこと。家を建てて夫婦二人で住んじゅうが、来客などほぼなかったがよ。息子や孫すら近寄らんがやき。いったいどうなっちゅうがよ」
そりゃなぁ、こんな封印された土地に住んでたら、普通の人なら体力奪われて逃げ出したくなるわな。ある意味、禁足地みたいになってるもん。
「誰も訪ねてくれないのは寂しいですね。なんでお二人は平気なんでしょう?」
「ああ、わしらか?わしらは元々ここに寺があったがやけど、その時の住職の子孫らしいわ。家内も親戚筋で、わしらは近所に元々住んでおったきのう」
「近所に?ここに住み続けていたんではないんですか?」
「ここはのう、由緒正しき霊場で、うちの先祖は代々住職をやっとったらしいが、アデヤ教徒がやってきて無茶苦茶に破壊していったらしいわ。じゃき、当時の住職もここを下りて、近くの村で暮らしとったらしいわ」
「住めなくなって避難したんですね」
「ほうよ。その後に山賊やらが、見晴らしのいい高台にあるここに目を付けたがよ。石積みの擁壁もあって周りより高いじゃろ?寺の瓦礫を集めて、砦を建てたんじゃわ。ただ不思議なことに、そいつらも長居はせずに、こんな堅牢な場所を捨ててまた違う場所に移っていったがよ。ある意味、城みたいな場所やから、根城にするにはこんなええ場所はないがやけどのお」
いや、ご主人、ここで普通の人が寝起きしてたら、すぐ体の具合悪くなりますわ。僕らが今平気なのは耐性があるのと、ユイとシカちゃんの恩恵かと。
「寺にあった宝具やら仏像やら値打ちのありそうなもんは、撤収する時に全部持ち去ったみたいで、わしらが見に来た時には寺にゆかりのあるものはなんも残ってなかったがやき」
「ソラ君、だから本尊が見つからなかったんだよ」
「ああ、危なかったな。もうちょっとで、この家潰してええですか?って言いそうになってたわ。地面に埋まっている可能性をちょっと考えてた」
「え?潰す?」
「いえいえ、こっちの話です」
「じゃあ、薬師如来様は盗賊に奪われて、この霊場跡地にはもう本尊が無いってことなんですね」
リーちゃんが悲しそうに言う。
「ああ、本尊は持ち去られて、どっかの金持ちにでも売られ……」
ん?
「なあウミ。一応アデヤ教しかないこの世界で、仏像の値打ちあると思う?」
「ぱっと見、古い物とは思うだろうけど、まあ金とか銀、銅じゃない限りは、ただの古い木の像としか見られないかも。ありがたみも価値もわからないだろうしね」
「なんてもったいない!」
リーちゃんが憤る。山賊に持ち去られて、どっかに捨てられたのかもなぁ……。山賊……?ん?
「ウミ、八十八ヶ所のガイドブック見せて?」
「どうしたの、いきなり?」
「延光寺のページ開いて!本尊見せて」
「ん、ちょっと待ってね。え~と、ここだな。これだよ」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
「突然なによ!うるさいわね!人の家で急に叫ばないでよ、バカ!」
「この仏像見たぁ~~~!!島の穴の底のヘドロの中で見たヤツ!間違いない。覚えてる」
「うそでしょ?ここにあったご本尊様なの?」
ウミが目を丸くして僕を見てる。
「マジ、マジ。足元に転がってたから踏まないように凝視したもん。これに間違いない」
「ええ~、あの穴に捨てられてたんですかぁ」
リーちゃん絶望の顔。
「じゃあさっそく回収に!僕、行きましょうか?」
「アオ、行かんでいいよ」
「え?なんでですか?そのご本尊がなかったら、ここは……」
「お前も見たやろ?穴の底。もう怨念やらヘドロでぐちゃぐちゃ。その上、何十年もあの念の中に埋もれてたんやぞ。どんなありがたい像だって、もう昔みたいには見られんわ」
「もう回収できないってことですか?でも、じゃあなぜ村のアデヤ像は……」
「あれはさ、島でもずっと教会で祈られてたやん。間抜けな血で背中は汚れてても、島の人たちから祈りの対象として存在してた。一方で、ヘドロに浸かった仏像ぞ。存在すら忘れられて、何十年もあの中に埋もれてた……」
「じゃあどうするんですか?」
アオが困ったように聞く。
状況がわからずポカーンと見ているご主人に向かって、僕は言った。
「あのぉ~、庭先ちょこっと借りていいですか?」
*(154話へ続く)*




