152話 宿毛
「ソラ君、次は高知最後の霊場だよ」
山間の道を僕らは歩いている。
左は川か。結構な崖だこと。
徳島の大歩危小歩危から祖谷のかずら橋に行く途中で、肝試しで崖っぷちからおしっこするところあったなぁ。小便小僧の像が立ってるところ。
あ~、想像したらなんかヒュンってしたぞ。
「やっとかぁ~!長かったなぁ~!そもそも吉野川過ぎて岡豊城あたりからペースがおかしすぎたんだよ。どんだけ寄り道してるんだよ、俺たち」
「それをソラさんが言うんですか?」
サトちゃんが呆れた顔をする。
「思えば、サトちゃんを拾ったのは室戸の近くだったね」
「ウミさん!拾ったって、犬や猫みたいに」
「そんでコーチに行って、リーちゃんと出会ったね」
「はい、ウミさん」
ほれそこ、見つめ合わない。
「で、神社の瓦礫の中でシカちゃん見つけたろ?」
「そうだね。出会っちゃったね」
とユイ。
「ほいで密偵だったアオをスカウトして~」
「密偵でした、はい」
とアオ。
「その後、山の中で一本さん拾って~」
「落とし物か!わしは」
「で、アオイさんと出会った、と」
「見つけてくださってありがとうございます」
「アオイさん、一言言っていい?」
「はい、ソラさん。なんでしょう?」
「まさかあの時のボロボロの痩せこけた幽霊が、こんなに綺麗になるとは思いもしなかったよ」
「そんな……」
いや、これは本心。
ユイが怒るかと思いきや、頷いている。
「心配しなくていいわよ、ソラ。私だって驚いているもの。人って……霊って、こんなに変わるんだ、変われるんだって。認識を改めるいいきっかけになったわ」
「皆さん方のおかげです。こんな私に手を差し伸べてくださったから」
「こんな私ですって?違いますよ!そんなアオイちゃんだったからこそ、放っておけなかったんです」
サトちゃんが力説する。
「ソラさんと同じで、アオ君との過去とか運命とかはどうでもいいです。そんなの置いといて、私はアオイちゃんと一緒にいたいって思いましたから。これからももっとおしゃれして綺麗になろうね!アオイちゃん」
「『も』って、サトちゃんも綺麗になるつもりなの?」
いかん、余計なこと言った。
「どういう意味?ソラさん?」
「え?いや、サトちゃん、もうすでに綺麗だしなぁ~って」
フォロー、フォロー。
「へ~、じゃあ私も姫なんだ?」
めんどくさ。
「あ、サトさんずるい。じゃあ私は?」
リーちゃんも乗ってくる。悪ノリしてる。
「詩歌もおるぞ」
油断しているとシカちゃんまで詩歌様になって自己主張。あ~めんどくさい!そもそもその格好で山道歩きにくいでしょうに。
「もう!ソラにとって私は何なのよ!」
やっぱりなぁ。改めてユイが聞いてくる。答えミスるとあとが怖い。
「唯一無二……なんちゃって……?」
あれ?
ユイの名前にかけてギャグ言ったつもりなのに、女性陣、最後まで聞かずにキャーキャー盛り上がってる。
いや、最後まで聞いてよ~。
「まあ、ソラの気持ちはわかったわ。フン」
いや、鼻息荒いですけど、ユイさん。
「やっちゃったね、ソラ君」
「やってしまいましたねえ、ソラさん」
「次代の神を選ばんとは愚かな」
「わんわわんわわーん」
サチ、お前まで真似しなくていいから。
「若いってええのう~」
捨てようか?一本さん。
「これまでの旅の総括をしてただけじゃん!脱線してしまったわ。まあ他にも安穏寺さんやら殿さんやら坂本さんやら、色々あったなぁって。ようやく次で高知も終わりか。宿毛……海沿いの町やんな、ウミ」
「うん。宿毛は九州にも近い、有名な海沿いの町だよ」
「じゃあ、ちゃちゃっと行くか!」
「ちゃちゃっと?違うよ。宿毛って広くてさ。次の延光寺って、ものすごい内陸部だよ」
「うそだろ?」
「本当、本当。前に四万十川渡ったじゃない?あの辺から、ブツブツを弔った沖の島へ行く港に向かう街道の真ん中あたり」
「なんでそんなところに寺作るんだよぉ~!よりによって高知最後の寺なのにぃ~~~~~!」
「修行……ですね、うふ」
リーちゃんが笑う。
「君ら、嫌にならんの?そんな移動距離で」
「え?楽しいですから平気です」
とサトちゃん。
「同じく」
とウミ。
「私もですけど」
とリーちゃん。
「ソラさんと一緒でしたらどこまでも」
アオもか。
「そうだ!サトちゃんに聞きたかったんだ。関所ってあるやろ?」
「もちろんありますよぉ。女一人だと大変なんです」
「やっぱり?通行手形ってあるの?」
「ええ、一応持ってました」
「なんで過去形?」
「だってソラさんたちと旅をしてたら、関所なんて通らないじゃないですか」
「た、確かに……」
「そう言えばそうだね。関所なんて通った記憶ないね、僕ら」
人が通らない山道やら川の中とか、本当にひどいところばっかり通ってきたなぁ。
道なき道を。
「だから、ソラさん、余計に遠出を嫌がるんですよ!街道を避けるから」
とサトちゃんが言う。
「そうかなぁ」
「そうですよ。ちゃんと整備された道は歩きやすいですよ」
「じゃあ、これからそうしようか?で?」
「で?」
不思議そうな顔のサトちゃん。
「通行手形持ってる人~、挙手!」
し~ん。
「え?一人も?」
「私、コーチ出たことないです」
とリーちゃん。
「シカ、飛べる」
ああ……。
「僕は関所通ると捕まります。捕まらないですけど」
とアオ。
「ユイは?」
「あるわけないでしょ!」
だよな。
「一本さんは?」
「人間の頃は持ってたぞ。お伊勢さんとか行ったしの」
「唐傘小僧が一番まともやった……」
「まあいいじゃない、細かいことは。リーちゃんなんてコーチから出たことないのに、時代超えて善通院行って、水族館でイルカショーまで見てたしな」
「あ、シカもソラキン。見た!」
そうそう。
「じゃあ今後も関所破りやな。よし、俺の腕の見せ所……」
「残念だけどソラ、コーチのお殿様からイーヨの殿様宛ての紹介状、届いてたわよ。ローパーちゃんが持ってきてたわ。同じ文言のをイーヨの殿様にも送ったから、割り印を合わせたら信用してくれるって。関所もそれ見せたら、私たち顔パスですって」
「俺の盛り上がりを返せ!せっかく関所破りでテンション上げてたのに」
「バカじゃないの?普通に私の隠蔽を使えば、関所なんていくらでも通り放題よ。散々シカちゃんに乗る時に使ってて、今さらズルは嫌とか言わないわよね?」
「あ、はい……」
「してやられたの、ソラよ。ははは」
「ウミ、金槌って放り投げたらブーメランみたいに回転して戻ってくるかの?ちょっと形似てるし」
「似てない、似てない。飛んでいったっきりになる。無理無理無理無理」
「元の姿に戻って、谷から這い上がってきたらいいやん」
「ソラ、わし、片足ぞ。無茶言うな」
「じゃあ人だった頃の姿に戻ればいいじゃない?そっちの方が何かと便利なんじゃない?目も二つあった方がいいでしょ?」
とユイ。
「ん、どういうこと……でしょう?」
なんで丁寧語?
「パパに言えば、容姿の変化くらいできると思うわよ。しょっちゅうパパだって変化してるし。他人にもかけられると思うけど?頼んでみる」
「え?いえ……結構です。しばらく会いたくないです」
鬼子母神作ったあたりから、えらい天さんにビビってるなぁ、一本さん。
「一本さん、遠慮せんでええで!ユイ、悪いけど、今夜山小屋に帰る時にでも一本さん連れて帰ってあげて。どうせ女性陣は風呂入りに天さんとこ帰って寝るやろ?この調子だと宿屋もないし、ベッドでゆっくり寝ておいで」
「いや、やめて、ソラ。いらん気遣いするな」
「いや、お堂建ててもらったり、教会作ってもらったり、アデヤ像の彫刻といい、本気で感謝してるんよ。言葉だけじゃ足らん。なんかちゃんとお礼しないとって思ってたんよ」
「余計なことすんな。わしの勝手でやっとることや。放っておいてくれ」
「謙虚だなぁ、一本さん。悪い、ユイ。遠慮しまくってるけど、俺の気が済まんから頼むわ。天さんにいい感じに仕上げてあげてもらって」
「わかったわ。行くわよ、一本」
「なんで呼び捨て!ちゃんと『さん』付けろ」
「え?うるさいわね。行きますわよ、一本だたら様」
「やめて、やめてください、ユイ様。後生です」
「なんか仲良しやな。羨ましいぞ」
「ソラ君、鬼だね」
「容赦しないのがソラさんのいいところです」
何を言っている、ウミ、アオ。
「まあ、久しぶりの男三人、テントで野宿だ!パーっと行こうぜ」
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その夜、いきなりキャンプ地に熊が出た。
命からがら一晩中走って逃げた。
アオの足は速かった。
以上。
*(153話へ続く)*




