148話 目玉
「なあ、ウミ。お前の頭の中に、この手のバケモンって読んだ記憶ある?」
「確か鳥取の境港の水木しげるロードってところに、百目って妖怪の像があるけど、これとは違うね」
「さすがの水木しげるさんの妖怪にも当てはまらんか」
「ソラさん、目目連っていうのを私、本で読んだことあります!」
とサトちゃんが言う。
「ああ、障子にたくさんの目が浮かぶやつだね?でも、それとも違うなぁ……」
やはりウミは詳しい。
「どっちかと言うと……海外の怪物、エル・クエーロに外観は似てる気がする」
「お前、どんだけUMAとか好きやねん。海外までおさえてるとかついていけんわ。ちなみにそれはどんなやつなん?」
「川とか湖みたいな水辺に近いところに出て、人が近づくと水に引き込むらしい。弱点はサボテンらしいよ!」
「こんなところにサボテンなんぞあるかい!そもそも、こいつら別に誰かを水に引き込もうともしてないしな。誰かをどうにかしようっていうんじゃなくて、たまたま色んな念が混じり合って、この形になったみたいやん」
「じゃあ、何のためにいるんでしょう?」
とリーちゃんが冷静に言う。
「きっと……」
アオイさんの声?
「きっと、何をしようというのではなく、ここにしかいられないから、どうしようもなくてここに留まっているだけのような気がします」
「どうしようもなく……かい?」
「はい。ここに捨てられたアデヤ像を頼って集まってきた霊、無理やりあるべき場所から引き離された仏像や仏壇に入っていた魂、私のように殺され、怨みでここまでついてきた霊たち……色んな行き場のない思いがここに留まって、こんな姿になってしまったような気がします」
「アオイさん……」
とアオが心配そうに声のする方を見る。
いや、お前が見てるのはサトちゃんだぞ。残念だったな。
多分だけど、サトちゃんが目玉に視認されていないのは、ブツブツがサトちゃんの中にいるアオイさんを霊と認識しているから、その器であるサトちゃんには興味ないのかもしれないな。人間に興味があるのか。
しかしアオにもブツブツにも興味を持たれないサトちゃんって……。
「興味持たれないってなんですか!」
あれ?心で呟いたつもりが口に出てた?
ごめんサトちゃん。
「ソラさん、確かにこのブツブツは気持ち悪いですけど、なぜか害意をあまり感じません。何がしたいわけでもなく、仕方なくここにいるような……」
またまたリーちゃんの解説。
「ソラ君、確かにそうかも。とっくに目で捉えられているのに襲ってこないって不思議だよね。僕らに姿を見せて近寄らせないようにしてるだけかも」
「こんだけものすごい怨霊、念を感じるけど、俺らに向けてってわけじゃなさそうだな。しかし、これどうしたらいいんだろう?害意がないなら俺らから攻撃もしようがないけど」
サングラス無しのアオには見えんかったから、見えない人間は騒ぎ立てることもないわな。見える人間には姿を見せて近寄るなって警告してるのか?意図が読めんなぁ。
「でも、供養はしてやらんとダメだよな。殺された人や、島で亡くなった人の念もあるやろうし。ウミとリーちゃんとアオで送れるか?アデヤさんとこ」
「この状態だと無理かも。僕の専門分野じゃない」
「え?専門外ってか?妖怪、妖かし、バケモノ系は俺?」
「もともと、そういう仕切りだったよね、ふふ」
確かに、確かにそんな話、前にしたなぁ。
「でも、俺らに害意がないのにいきなりぶん殴るのって、ちょっと道理に合わんぞ。誰に迷惑かけているわけでもないし。状況変えるには岡豊城んときみたいに殴って引きちぎるくらいしか思い浮かばん。もしくは金剛杵でぶん殴るか」
「私が……切り離します」
静かにアオイさんが言う。
アオイさんはサトちゃんの体からすっと出てきた。腰に霊刀を下げている。
その瞬間、ほとんどの目玉がサトちゃんを認識して凝視した。
突然、人が増えたからびっくりしたのか。
「ぎょっとした目をしてるね。こうして見るとちょっとかわいく……は見えないか」
ウミ、さすがにかわいくはないわ。
「アオイさん、タクミの因縁を斬ったみたいに、この目玉を切り離せるの?」
「できると思います!ただ、私は斬ることしかできません。ただその後のことは……」
「わかった!ウミ、リーちゃん、アオ。アオイさんが切り離した霊を導いてあげて。それから戦力外も必要やな」
僕は頭の中でユイに伝わるように考える。
遠隔でも思考を読み取れるだろう、あいつなら。ある意味ストーカーみたいやし。
『ユイ、戦力外撤回!今から育成選手として契約する。支配下目指して頑張れ!』
『何よ、突然呼びかけて、わけのわからない例えしないでよ!野球バカ!』
頭の中にユイの声が響く。ちゃんと理解してるやん。
『ブツブツは相手にしなくていいから、アオイさんが切り離した霊を上げる協力をして欲しい』
『アオイさんが?ブツブツを見なくていいって?でも近づくことすら嫌なんだけど』
『ブツブツはブツブツでも、あんまり悪いやつじゃないみたいなんだわ。元をたどれば、かわいそうな霊たちの集合体だったかも。さすがにこう言えば聖女様も重い腰を上げるだろ?』
『う~ん、見た目で判断したらダメだったってことね。わかった、一旦反省するわ。でもムリ!視界に入ったら鳥肌立って、力を制御できる自信ないわ』
『いきなり全力トールハンマーとか勘弁してや。俺らも巻き込まれるやん。ブツブツを見ないように工夫して来て!もうウミたちは準備終わったからボチボチ始まるで』
『え?今すぐ?まだ町の教会の中なのよ?もう!とりあえずお面かなんか探して、ブツブツを視界に入れなくて済むもの探して行くわ』
『頼む!助かる』
今の内容をみんなに伝えないと。
「もうすぐ……」
「ユイちゃんも来てくれるんですね!心強いです」
「じゃあユイが来るまでに、僕らはお鈴とか用意するよ。アオくん、般若心経の経文準備ね」
「あれ?なんで?」
みんな今の会話聞こえてるの?
「お二人の会話が頭の中に流れ込んできましたよ~。どういう仕組みなんですか?」
「サトちゃんにも聞こえてたの?仕組みなんて俺にはわからんよ。ユイのびっくり隠し機能じゃない?」
「じゃあ、私、行きます!」
アオイさんがブツブツの上の方へ飛んで行き、霊刀で斬りつける。
あ、サチみたいに飛べるの?
じゃあ移動にサトちゃんの体いらなかったりして。
まあ今はそんなこと関係ないな。
「ごめんなさい!そんなに痛くないと思いますので、斬らせていただきます!」
アオイさんは丁寧にブツブツに断りを入れている。
「ギャーッ!」
声を上げて目玉は苦しんでいるけど、大丈夫なの?これ。痛そうだけど。
斬られた目玉は本体からベロリと剥がれ落ち、下に落ちる前に青い透明の霊体となった。
それに向けてウミたちが読経を始める。
アオが加わって、美しい三重奏みたいに聞こえる。
もともとこのトリオだったかと思うくらい、しっくりくるな。
般若心経の旋律に耳を奪われた霊は目玉から離れ、ウミのいる方へ近づいていく。
ブツブツから切り離しは成功。
あとは空に……。
「お待たせ!」
現れたユイは、目に黒い布を巻いている。
どっかで見たような……。
あ、2B!
ニーア オートマタか!
ブツブツを死んでも見るもんかという強い意志を感じる。
「ユイ、ブツブツに背を向けて。そう、その辺で祈って、アデヤさんのいるところにみんなを送ってあげて」
「わかった!こっち向きでいいのね?ブツブツの方を向いてないわね?じゃあ祈るわよ」
そう言って、羽もしまわずに膝を曲げて祈り始めた。
後ろではアオイさんがどんどん目玉を斬っては、霊を引き剥がしていた。
霊たちはウミたちの読経でブツブツから引き離され、ユイの祈りで空に上る。
サチがそれを誘導していく。
ブツブツの上の方はかなり離れたけど、下に行くに従って体積も大きくなり目玉の数も多い。
「ソラさん、これ、下に行くに従って怨霊の念が強くなってないですか?」
とサトちゃんが呟く。
「俺もそう感じてた。下の方に古い怨霊や念が溜まってるな。上の方ばっかり見て害意がないとか言ってたけど、新参者の霊が上に乗ってて抑えられてたのが、いなくなって解放されたら悪い気をどんどん増してきてる気がするわ」
「これ、アオイさん一人で大丈夫ですかね?」
え?
「一人で大丈夫ですかね?」
なんで二回言った?
「一人で大丈夫……」
「あ~、わかった!妖怪とか怨霊とか悪いやつは俺の担当だったね。やるよ!あの穴の中、もうグチャグチャやん。ヘドロみたいになってて、そこに仏壇やらアデヤ像やら……きちゃないなぁ」
そう言いながら、ウミのリュックを開けに行く。
目を閉じて読経をしているウミが気配に気づいて、片目でこっちを見る。
リュックを指さして何かを掴むジェスチャーをすると、ウミはウインクして了解の合図をした。
以心伝心。
ウミのリュックから金剛杵を取り出す。
久々に使うなぁ、これ。
善通院秘蔵の空海様ゆかりの逸品。
多分、国宝級のを借りパクしているウミ。
「よっしゃ、やるか……」
僕は肩をぐるぐる回しながら、穴に向かって歩き出した。ちょっと本気出す。
*(149話へ続く)*




