147話 上陸
沖の島の浦へ入る。
ものすごく巧妙に、外洋を航行する船からは見えない死角になる位置に港を作っている。元漁師とかの賊の案だろうな。よっぽど目的がない限りは見逃してしまうわ、これ。
しっかりと整えられた港は、野盗たちがここから効率よく出港して、略奪しては島の中に運び込みやすいように考えられている。
もったいないな、その才能。まともに使えばいい技術者になっただろうに。
ふっ、浮き桟橋みたいなものまで作ってやがる。須崎の港より進んでるぞこれ、。
僕らはそこに船をつけて、野盗たちの拠点だった町に入っていく。
「凄いね、ソラ君。外を行く船からは見えない位置に港を作って、さらには港も近代化されてて、そこそこ発展していた須崎とかよりよっぽど使いやすいよ。おまけに港から町へ続く道も木でカモフラージュされててわからないようになってる」
「私がいて良かったわね」
と戦力外が言う。
「なんですって?」
いや、口に出してないし。
「ユイ、お前は町に入ったらアデヤ像探しに集中していいからな。サチも場所はわかるんだろ?ブツブツの」
「ブツブツ……あ~~~思い出したぁ~、あああああ」
「どんだけ気持ち悪いか知らんけど、聖女がルッキズムバリバリなのはどうかと思うぞ」
「そういうレベルの話じゃないから!見ればわかるわよ」
「あのぉ~ソラさん、私はそんなユイちゃんも逃げ出すような現場で何を……」
恐る恐るサトちゃんが聞いてくる。
「戦闘記録&アオイさん運搬係!以上」
「ええ~、そういうことですか。私はしっかり見ないといけないということですね?」
「当たり前やん。そもそもそれ目的で同行してるんやろ?俺らに。本を書くんじゃなかったっけ」
「ぬぐぅ」
「サトちゃんも苦手なタイプ?」
「蓮の花は好きですし、レンコンも好きです!でも、あの蓮の実はじゅっと見られているようで……」
「なるほどねぇ……そうか。結構苦手な人もいるんだな」
「はい、じゃあ私も行かなくて……?」
「ダメに決まってるやん。銅鼓して俺らの旅の記録を残すんでしょ?俺もどんなバケモノか興味あるし、よかったら挿絵も入れてよ」
「ソラさんの意地悪!スマホで写真撮ればいいじゃないですか?毎日充電してますよね?リュックからぶら下げたソーラーパネルで」
「あ?わかった?でも写真だと前にサブロウとのツーショット写真を会社の人に見せたけど、AIだろとかなんだとかバカにされたんだわ」
「そりゃ水かきのある手でVサインとかしてたら、仕込みかと思いますって」
「あいつノリノリだったんだもん。サブロー密かに俺のファンやし」
「最初は吉野川の下流で甲羅干ししているところを、突然ソラ君がやれって言って、僕がやり投げの槍を投げて、サブロウさんの甲羅にヒビを入れたのがきっかけだったね」
「その時の様子を見たかったですぅ~。面白そう!」
「やろ?だから今回のブツブツもひょっとしたら……」
「ナイナイナイナイ」
と全員が否定する。
そうかなぁ~。
「仲間になったら面白そうやん」
「私、抜ける!」
とユイがきっぱり宣言。
そりゃそうか。
「まあ冗談は置いといて、役に立たん……力を発揮できないユイはこれから別行動で。残りはブツブツの対応と、霊たちを供養しよう」
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サチの後ろをついて、賊のアジトだった町の中を歩く。
いや、驚くくらい綺麗に整理された町だわ。
インフラがきっちり整備されていて、道は石畳で、雨が降ったら側溝に水が流れるように勾配が取ってある。生活用水も海に近いから井戸ではなく、山の方から樋で引いている。
ダッシュ島みたいやな。
「ウミ、なんじゃこの島?めっちゃ快適そうやな」
「確かに、今の時代では考えにくいくらいに発展しているね。少人数の隠れ家と呼ぶには相応しくない。でも、こんなにインフラを整備できるってことは……」
「資金がそんだけ潤沢ってことやな。税金もないやろうし。町や村の人から奪った金銀財宝と、奪われた命の上に作られた虚飾だらけの町やな。自ら生産しているものが、見る限り皆無や。畑すらないぞ。魚や肉は山賊、漁師上がりの連中が採れても、野菜はこの海沿いの島では育てにくいんだろうな」
「奪ったお金で一般人のフリしたここの島民が、しれっと襲った町や村に買い付けに行ってたんだろうね」
「食料を奪われた農民は、自分らの食べるものも仕方なく売らざるを得んかったかもと思うと、胸糞悪いの」
「そう考えると、更生プログラムを受けているここに住んでた島民も、全く責任がないのかと言うと、それも違う気がしますね」
とサトちゃん。
プログラム作った張本人だもんな。
「でも、それを裁くのは僕らじゃないからね。この世界の役人が決めることだよ。それで更生すべしって人は、僕らが作ったプログラムで自力で生きていけるようにしないとね」
「ここでは全て与えられる側だったもんな。働くって概念を教えるところからのプログラムやろ?」
「はい、『労働ってなに?』からスタートです。なぜ働かないといけないのか、そして税についても」
「まあ、無事社会復帰できるといいな。当面は白い目で見られるやろうし。いっそ、コーチ郊外の開拓民みたいにしても面白いと思うけどな。郷士たちの村の近くに。知らん場所の方が溶け込みやすいかもな。郷士の連中もこの前までブラブラして、ろくに畑もしてなかったし。今は色々と仕事し始めたけど」
「それいいね!戻って代官さんに相談してみるよ」
「アホか。お前がこうしたいって言ったら、ノーなんて言えるかよ。この前も殿様と家老相手に対等に喋ってたのを見て、代官さんドン引きしてたやん」
「そうだね。じゃあ改定するよ。いいと思うことはどんどん変えていこう。ね、リーちゃん、サトちゃん」
「ソラさん、後で色々言うなら最初から話し合いに加わっててくださいよ。一度に決めた方がいいじゃないですか」
とサトちゃんからクレーム。
「だって、いつも後から喋っているうちにあれこれ出てくるんだもん」
しゃーないやん。
「ソラさん、自由でいいですね」
とサトちゃんの方から聞こえる。
アオイさんか。
四十年不自由してきたから、重みがあるな。
「アオイさんも自由なんだよ。サトちゃんが嫌になったら出ていってもいいし。アオに入ってもいいよ~」
「え?アオ様の?」
「それはダメです!ソラさん」
とアオが即座に否定。
珍しいこっちゃ。
「どうして?」
「だって僕の目でアオイさんが見れなくなるから」
あ、第三者の目で眺めていたいのね。
「でもお前、幽霊見えないじゃん」
「それが、実はアオイさんだけは見れるようになりました!」
え?またそんなご都合主義的な。
「なぜならば……」
あ、またなんか運命めいたことを言いたそうな予感。
「アオ、ストーップ!聞きたくない~。知るとややこしくなる。とりあえずアオは幽霊は見えんけど、なんか知らんけど、たまたまアオイさんは見えるようになった。以上」
因縁とか何度も言うけど、もうノーサンキュー。
「え~、聞いて下さいよ~」
何も聞こえません~。
とか言ってる間に、サチに連れられ町外れに。
「ソラさん、いつもこんな風に雑談してたら目的に着く感じなんですか?」
とアオイさん。
「え?ああ、そうだね。みんな仲間になった時に全員同じ感想言うわ。この旅を始めた時も、ウミと二人でず~っと雑談してたよな?」
「してたね。アデヤさんのパンツ覗けとか、ユイが加わってからも、ユイに蹴られた時にパンツの色がなんだとか」
「パンツの話ばっかりですね」
とサトちゃんが呆れる。
そうじゃない、そうじゃないんだ!
ウミが悪い!
「他にもしてたじゃん!」
「まあ、他愛もない話しかしてないね。記憶に残ってないよ」
「じゃあお前もパンツしか覚えてないじゃん!」
リーちゃんが冷めた目でウミを見ている。
ざまあ~。
「本当に楽しそうで。私も楽しくなります」
と笑うアオイさん。
癒やしだなぁ。
「ワン!」
サチが突然、警告の声を上げる。
「ソラ君、ここだよ。このゴミ捨て場にユイが怖がるモノがいるって、サチが」
「もうお前の犬語翻訳には驚かんわ。ここか?」
見ると、草むらの中にぽっかりと小学校のプールくらいの大きさの穴が掘られていて、その半分くらいに古い家具やら仏教の仏具やら、仏像まで捨てられてるな。底の方はなんかもうヘドロみたいなのが溜まってるな。
おっとよく見たら仏壇まであるわ。
なんでもありやな。そんなもん取ってどうするつもりやったんやろう。
アデヤ像もいくつか転がってる。教会とか一般家庭から奪ったやつか。そんなにいっぱいあっても意味ないと気づいたんか。遅いわ。
ここは百年以上前から賊どもが溜め込んできたお宝の最終的なゴミ捨て場か。
タクミが攫われた山賊の砦から持ってきたものから、海賊が奪ってきた年代物の物まで、もうグチャグチャだな。
でっかい船があったから、拠点を移す時にこの島に運び込んでから宝とより分けて金にならんものを捨てたんか。
「ウミ、この島を拠点にしたのは多分二十年以内よな?」
「タクミが仕切ってからじゃないかな。山賊の頭領を殺して、タクミが一味を率いるようになってからだと思うけど」
「物持ちがいいのかどうなのかわからんけど、おかげでこのゴミ捨て場が因縁まみれになってるなぁ。ユイが怖がるのもわかるわ」
「そうだね。確かにかなりのバケモノだね」
僕らは余裕をかまして会話しているように見えるが、内心ビビっていた。底からずずっと浮かび上がって来て僕らの前に姿を現したモノに。
因縁、恨み、怨念、執着。
色んな負の感情が混ざり合い、そこに捨てられた仏像、アデヤ像、仏壇、位牌やらが絡まり合っている。
この島で死んだ人、野盗に殺された人の魂まで取り込まれ、岡豊城で見た紫の怨念ほどの大きさの塊になっていた。
そして、その表面には全ての念の主の目玉がついている。
それぞれが色んな方向を見て、僕らを監視していた。
「俺らがここに着いた時には視認されてたな。目玉のいくつかが俺の動き追尾してるわ」
「同じく僕もだね。目玉十個くらいの視線が追いかけてくる」
「サトちゃんは?」
「私はなぜか見つかってないみたいです。アオイさんがいるので、私も霊と認識されてるんでしょうか?」
「リーちゃんは?」
「怖くて動けません。大きな目が二つ睨んできてます~」
「アオは?」
「僕はあいにく見えません。不吉な感じはしますが……」
あ、そうか。
「これ使え」
と言って、偏光サングラスを投げて渡す。
それをかけてゴミ穴を見ると、
「ああああああああああ~!目が、目が~!」
ムスカか、お前。
「目玉が数十個、僕を見てますぅ~!ヤバいです~!」
「多分、生前女性だと思うぞ。うん」
バケモノにもモテる色男。
羨ましくはない。
「サチは?見られてるか?」
「ワン!」
目玉一個な。
了解。
*(148話へ続く)*




