146話 島へ
「あれ?ソラ君、文句言わないの?逆戻りって」
「ん?これは別に構わんよ。足摺岬の出っ張りに行って戻るだけだから。次の寺行くにしても戻らないかん」
「理由があれば怒らないんだね」
「怒ってるんじゃないの。ダルいだけ」
「どうして、教会の物が島にあるかもって思ったの?」
「だってあいつらアデヤ教徒だろ?他に選択肢のない世界だし」
「でも無法者たちだよ?信仰なんてしてるのかな?」
「山賊レベルならしてないかもしれんけど、女子供や年寄りも島にはおったんやろ?町みたいに。この時代、医者もろくにおらんのに、病気になったり死にかけたりしたら、神に祈るしかないやろ?」
「なるほど」
「そもそも金にもならんような田舎の教会の女神像を盗む意味あるか?なんぞ目的なかったら盗まんやろ?どこの町にもあるんやで?個人で持ったとて意味ないやろ?一本さんが作った逸品とかなら別だけど」
「胸から母乳が出るような?」
「やめろって、下品な。それは俺が止めたわ」
「神様が神様の像を作るって、なんか変だね」
「その辺、頓着してないのが一本さんのええところや」
「何より、誰も一本さんを神様と思ってないのがいいよね」
「だって仲間だし~」
サトちゃん正解!
「いちいち神様とか意識してたら、私たちだってシカちゃんに乗れないよね?」
とサトちゃんが言うと、リーちゃんが頷く。
「ところでソラさん、質問」
サトちゃんが手を挙げる。
「なんぞいな?」
「わざわざ島まで行かなくても、一本さんに像や調度品とか作ってもらえば、もっと豪華な教会になるんじゃないですか?」
「そらそう。でも、そこまで頼まれてないのが一つ。でも一番は、昔からアデヤ教が布教されて、この地に根付いて百年以上やろ?その間にここで生まれて死んでいった人たちの祈りの場所やろ?そっくり全部新品ですって言われてもなぁ。建物は燃えたらしいから作らないかんけど、村の人の思い入れもあるやろ?調度品やアデヤ像にも」
「そこまで考えてなかったです。でも、なんとなく……」
「なんとなく?」
「あちこちから略奪してきた物が、てんこ盛りになってるような気がしませんか?賊ってバカそうですし」
「いっぱいあったらご利益あるとか考えてそう」
「タクミがどうやったかは知らんけど、手下どもは手当たり次第って感じやろうな。ま、そこは適宜柔軟に対応で」
「正式な像ならわかるわよ」
と唐突にユイが言う。
「基本は教会本部から支給された像だから、ナンバリングされているの。帳簿と照らし合わせたらすぐわかるわよ」
「消失とか紛失とか、略奪された代わりの像とかないの?」
「それもママが魂を込める時に、本部の司教が許可を得てナンバリングされてるはず」
「じゃあ教会のやつは基本的には公認ってわけだね」
「そうよ。あの涙を流すふざけた像も一応公認だったわ。あんな仕掛けをしているなんて、あのバカ」
あ、怒った。
「じゃあ、ちゃんと元あった場所に返せるヤツは返そう。新しく新調してるところは、古いのは供養?してばらそうか」
「アデヤさん、魂分割して大変やな」
とユイに言うと、
「繋がってるだけだから。切り離してるわけじゃないから平気よ」
と答える。
ネットワークみたいやな。
だからサトちゃんの実家近くの教会に降臨した時も、すぐに来れたのか。
「じゃあ、本当に教会と女神像、アデヤさんは繋がってるんだ?」
「バカなの?当たり前じゃない。そうじゃなきゃ、みんな何のために祈ってるのよ?」
「ふ~ん……そういうことなんか。なんか俺の宗教観変わってくるわ。アデヤさんに監視されてるから、『神は見ている』って言葉もひしひし感じるし」
「監視じゃない!見守ってるの!」
へいへい。
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「代官さん!取り調べはどうですか?」
「ああ、ウミさん。もう一通り話は聞き終わりましたよ。更生プログラムってやつを、これからそれぞれに合った内容で行うつもりです」
「その中に、島の司祭って人いませんでしたか?」
「いました、いました!誘拐されて、無理やり島の教会に閉じ込められて祈りの儀式などをやらされていたというのが」
「その人はどうなってます?」
「一応、他の収容した連中にも聞いたので間違いなさそうだということで、緩めのプログラムを施して、この町の教会預かりにしようかと」
「釈放してもらえませんか?」
「え?島にいたヤツですよ」
「拉致された被害者ですし、その人たちは基本、簡単な社会復帰プログラムで釈放にしてたと思います」
「そうです、そうです。ですので、そのプログラムに沿って……」
「その社会復帰プログラムを僕らが行います」
「ええ?皆さんで?」
「ダメですか?」
懐から殿様の花押入りの書状をチラチラ見せてみる。
「そもそもウミさんたちが考えたプログラムです。いいでしょう!」
さすが。融通が利く人、好き!
「あと、漁船と船乗りさんを!」
「ええ~、漁船と船乗りですか?」
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船はどんぶらこっこと島に近づいていく。
舟じゃなく船ね。れっきとした。
大きめのカツオ船だけど、漁師さんたちが櫓を漕いでいく。
「ソラ、先に言っておくけどね……」
「ああ、覚悟してるわ。弔いやろ?だからウミもリーちゃんも俺も用意している」
「なんで言いたいことが先にわかるのよ!」
「だって島の中に町があったんだろ?それまでに亡くなったお年寄りとか、病気の人もいるだろうに。俺らが行く先々に浮かばれない霊がいるのは当たり前だしな」
「ん~とねぇ……それだけじゃないかもぉ~と思って」
「ん?何その後出しじゃんけんみたいなの」
「この前、島の中をあちこち偵察して回ったじゃない?その時に嫌な物見つけちゃって」
「はっきり言えよ。何があったのさ?」
「んとね……ヤバい物。山賊、海賊、野盗だった頃、それぞれに略奪した物が色々あったんだけど、まあ無理やり奪った物とか、仏教の寺院とか、もちろんアデヤ教会の物とか、民家とか色んな物が集まって、怨念とか色々……」
「奪われた時に殺されたとか?」
「うん。お坊さんみたいな人とか、商店主さんみたいな人とか、教会の司祭みたいな格好の人も。色んな時代の人たちがね」
「お寺がまだあった時代からの収奪物もあるのか。昔からのならず者たちが集めたお宝がどっさりと?」
「価値のあるものは、おそらくコーチの役人が運び出したと思うけど、念は残ってるんじゃないかなーって」
「ユイにしてはえらい弱気な発言だな?どうした」
「絡み合って一つになって、目玉がいっぱいばーってあって……ムリムリムリムリ。私、集合体恐怖症なの!あー思い出した、無理っ!鳥肌が~」
「トライポフォビアってやつだね?」
ウミが言う。
「なにそれ?おいしいの?」
「フォアグラと違うからね。ハスの種とか、昆虫の複眼とかの顕微鏡写真とか、苦手な人いるじゃない?そんな感じのやつ」
「ああ、ブツブツ?」
「適当な表現ですね、ふふ」
リーちゃんが笑う。
「ユイ、それはどこにいたの?」
「島の外れのゴミ捨て場にしてた辺り。そこに価値のなさそうな仏像やアデヤ像、食器とか家具とか、色々捨てられてたのよ。そこに亡くなった霊たちも集まって。多分、アデヤ像に助けを求めたと思うの」
「捨てられたアデヤ像に、アデヤさんの魂とか入ってないの?」
「ママの魂は教会に新たに設置された像に繋がってるから、それはただの朽ちた像よ」
「アオが行った村は教会も焼けたままだから、像もまだないんだよな。島の教会に安置されてる可能性あるよな?確認できる?」
「町の教会の司祭さんから台帳の写しを借りてきたから、それで照合できるわよ。コーチの教会の一覧があるわ」
「OK。もし捨てられてたら新設やな。しかし、そのブツブツのやつどうしよう?武器がないぞ」
「武器なんていらないよ、ソラ君」
「え?なんで?」
「結局、殺されたり亡くなったりした人の念でしょ?」
「まあ、そうだと思うけど。岡豊城とかではかなり苦戦したじゃん」
「ソラ君が一人でぶん殴ってたからね」
「ユイも安穏寺さんもいたけどな」
「うん。でも今はリーちゃんがいる。アオ君もいる」
「アオ?アオは霊すらまだ見えないぞ?」
「でも教えたら、封印の解除もすぐできたよ」
「アオも葬送の儀を手伝わせるってこと?」
「うん。バックアップしてもらえたら。経文はあるから、それを読んでもらえたら大丈夫」
「そもそもこいつ、アデヤ教でもなくアウル教やぞ?」
「ソラ教だよね?アオ君」
「はい、そうです!」
「ソラ君の信仰のメインは真言でしょ?だったら弟子のアオ君も真言の流れでいいじゃない」
「なるほど……なのか?」
「そして何より強い味方。秘密兵器はサトちゃんの中のアオイさん!」
「え?は、はい、私ですか?」
サトちゃんの中から声がした。油断してたのに突然名指しで呼ばれてびっくりしてる。ぼーっとしとったらチョーク飛んでくるぞ。
「アオイさんにはお焚き上げした刀がある。霊刀とでもいうべきものだよね。その刀は人は斬れないけど、見えない因縁が切れる」
あ……タクミの時のか。
「暴れるのがいたらアオイさんに斬ってもらう。大人しくなったら僕とリーちゃんとアオ君で空に上げる」
「アオイさん、化け物になったとはいえ、元は人だったものを斬るのは辛いと思う。でもアオイさんが斬ることで、その人は怨念に囚われた今の姿から解き放たれるんだ。解放してくれたら、僕らが責任もって供養する。やってもらえる?」
「私が人を斬る?刀で……」
「剣術を学んできた、タクミを守るために命を懸けるような強い心を持ったアオイさんだから頼める」
「私がやらないと、私みたいにずっと苦しみから逃れられないんですね?その人たちは」
「うん。アオイさんにとっての僕たちみたいな存在に、今度はアオイさんがなるんだ。アオイさんが苦しんでいる人たちを救ってあげて欲しい」
ほんの数日で立場が逆転だな……。
さすがウミだな。ユイが戦力外になって、どうしようか頭が回ってなかったわ。
「アオイさん。アオイさんと同じように山賊たちに殺された人、この町で亡くなった攫われてきた人、勝手にここで死んだ賊たちやその家族、みんなまとめて送ってあげよう」
霊に霊を救わせるってどんなもんかと思うけど、まあ人が人を助けるようなもんなのでよし!
「もうすぐ船が島に着くから、まずは化け物の救済から始めようか!」
「私、無理」
今回ユイは戦力外。
「使えないユイはアデヤ像の番号の照合でもしといて」
「はあい……」
*(147話へ続く)*




