145話 金剛福寺
「ソラさん、ここのはずですけど?」
とアオイさんが周囲を見渡す。
周囲は雑草の生い茂る、瓦礫だらけの場所。
「多分合ってるから心配しないで。どこもこんなもんだから」
僕らにとっては見慣れた風景だけど、アオイさんには意外なのかな?逆に僕からしたら、その反応が意外なんだけど。
「アオイさん、なんで霊場の場所知ってるの?アオイさんの年齢だとアデヤ教徒でしょ?仏教の寺なんて、生きてる時には既になかったと思うんだけど」
「そうなんです。お寺っていうものはわからないんですけど、昔の教会みたいな感じで、四国八十八ヶ所のお寺を一番から八十八番まで歌う童謡があって、それで覚えていたんです」
「八十八ヶ所ってえげつないなぁ。全部覚えてたの?」
「とてもとても……自分の近所のお寺の名前だけですよ」
信仰は消えても、語り継がれてたんだろうなぁ。
「リーちゃんは知ってた?その歌」
「はい、仏教の道を選んだ者の義務ですから。ふんっ」
と鼻息も荒い。
「ウミは知ってた?」
「え?知らない……そんなのあったんだ?」
と言うと、リーちゃんは冷めた目でウミを見る。
「知らないんですかぁ?」
「いや、伝わってないし。聞いたら覚えるよ、僕なら」
そうか、そんなん僕も聞いたことないしな。
多分、仏教が続いている僕らの時代でも、いつの間にか廃れていったんだろうな。
「でもアオイさん、なんで場所まで知ってるの?」
「お寺の場所そのものは知らないんです。でも、おじいちゃんと足摺岬に行く時に、『昔はここらに立派なお寺があってな』って聞いてて覚えてたんです」
「おじいちゃんか。なるほど……アデヤ教に変わる前の時代を知ってる人か。アオイさん、歳いくつ?」
といきなり聞くと、ユイに頭をひっぱたかれた。
「私は二十四でタクミの母になり、二十六で……」
なるほどなるほど。それが四十年前か。
「じゃあ生きてたら六十六歳くらい?」
と言うと、サトちゃんから強めに頭を叩かれた。
「女性に失礼ですよ!」
いやいや、アオイさんもう歳取らないんだよ。
「サトちゃん、実年齢同い年じゃん!」
「わ、私は二十二って言ったでしょ!」
とサトちゃん。
言っただけやん。自称な。
「というわけで、アオイさん、俺らに気を遣わなくていいよ。最年長のサトちゃんと同い年だから、気楽に話していいよ。さん付けやめていいから」
「誰が最年長ですって?」
あなたです。
「ユイちゃんとシカちゃん、一本さんの方が上じゃない」
ユイの眉がピクリと動く。
「はいはい、年下だけでの最年長は僕でいいで~す。というわけで気楽にしてね。仲間だから」
とアオイさんに声をかける。
「じゃあ、みんなの名前を呼んでみよう!」
「え?皆さんの?え~と、ソラさん、ウミ君、ユイちゃん、サトちゃん、リーちゃん、シカちゃん、サチちゃん、一本様……あと、アオ様」
「なんで一本さんとアオは様なのよ」
皆から苦笑が漏れる。
まあええがな。わかりやすくて。
「俺は便宜上、最年長扱いになったから、さんでもいいよ」
「はい、よろしくお願いします」
「また話が脱線したね」
とウミ。
「こういうの今後大事だから。メリハリ、メリハリ」
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「ありました!ソラさん、ここに本尊が封印されています!」
サチより鼻が利くアオ……。
サチが尻尾を丸めちゃったじゃないか。
瓦礫から少し離れた斜面に、ご本尊様が封印されたまま埋もれていた。
「一本さん、小さくていいのでお堂を建てて、雨露しのげるようにしてもらえる?豪華さより頑丈さ重視で。ここにある瓦礫から作れるかな?」
「ん?ちょっと待てよ。元の姿に戻るわ」
と言って、一本足の一つ目小僧みたいな姿になる。
「キャー!」
と悲鳴を上げるアオイさん。
まあ確かに、わからんでもないけど。
よく見るとかわいい……可愛くはないか。
慣れだよ、慣れ。
「これが一本だたらさんの本当の姿。生きている時に働き過ぎたらこうなった」
「働き過ぎでこうなったら、みんな仕事辞めるわよ」
とユイ。
「加減を知らないとこうなるんだよ」
と冷静に言うウミ。
「何も亡くなった時の状態を引き継がなくてもねぇ」
とサトちゃん。
「本人がこれで納得してるならいいじゃないですか。失礼ですよ」
「リーちゃん、神様に『これ』っていうのは失礼じゃないのかい?」
「お前ら好き勝手言いよって!材料をぱっと見たところ、角材が雨に晒されて腐り過ぎとる。乾いた木をどっかから持ってこい。それからじゃ」
「大きさと量をサトちゃんに伝えて。サトちゃん、メモをアオに。アオは近くの村で譲ってくれそうなのがあれば、もらってきて。予算は銀貨一枚までで」
「わかりました!」
もう行っちゃった。
「一本さん、木を切る精霊は?ユキさんの家作る時に手伝ってもらったじゃない?」
とウミが聞く。
「生木じゃいかんのよ、ここのお堂は。乾いた木じゃないと。海に近いからの」
「なるほどねぇ。でもここも壊れたら、アフターサービスで一本さんが直しに来たらいいんじゃない?」
「ウミ、ここは遠いぞ」
いや、シャチのヒレもメンテしてもらうけどな。
この前助けてもらって借りできたし。
「ソラ、シャチは借りよりまだあなたの貸しの方がよっぽど多いわ」
とユイが僕の心を読んで言う。
貸しにした気はないけどな。町のためだったし。
「でも、なんか寄り道ばっかだけど、結局みんなに助けられてるよな、俺ら。お互い様だわ」
「ソラさんが動かなきゃ、みんな今も暗い顔のままだったと思いますよ。元司祭さんだって、あんなに元気に船に乗って大活躍でしたし」
とリーちゃんがフォローしてくれる。
「あ、元司祭さんなぁ。あの体で司祭はないわな。網元の方がしっくりくるわ」
「忘れてた!私、手紙預かってたのよ。網元から」
ユイがポシェットから手紙を取り出す。
「ん?なんか新しく来た司祭からの報告で……フッ」
「どうしたの?」
「フジマサが子供らの鳴らす鐘に合わせて、アデヤ様にお祈りをし始めたそうだ」
「あのフジマサが?」
「おう。食事も毎日しっかり食べて、教会で採れた野菜を残さず食べてるそうだ。子供に美味しかったって言うようになったそうだ」
「へ~」
「まあ、まだ許さんけどな」
「だよね」
「あいつが体調回復してもっと肉付き良くなって、元気になったら……」
「なったら?」
「懲役三十年くらいで、コーチの教会でガキどもの世話させるか」
「それは苦行だね」
「元気すぎて多分牢屋の方が楽だ、返してくれって泣きますよ」
とリーちゃん。
よっぽどしんどかったんだな。
「吉田さん、喜ぶよ。男手が増えたら」
「まあ、もうしばらく反省の時間はいるけどな」
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「板、集めてきました。これでいいでしょうか?」
両手いっぱいの板を持って来たアオが言う。
「上等、上等。この立派な檜、高かったじゃろ?」
と一本さんが尋ねる。
「いえ、もらったんです」
「もらったってか?」
「はい。その代わりに……」
「その代わり?」
また出たぞ、厄介ごと!
「教会を直して欲しいと」
「ん?なんじゃそりゃ」
「数年前に野盗が来て、教会の装飾品などを奪って、アデヤ像も失ったそうで。司祭もその時連れ去られ、生きているのか死んでいるのか……。教会も放火されてから祈りの場がなくなったっていうことでした」
「ん?」
「どうしたの?」
ユイが尋ねる。
「この前、野盗の処分終わってからさ、更生プログラム作ったじゃん?あの時、その連中に司祭みたいな格好してた人いたぞ」
「ひょっとしたら、ここの教会の中にあったもんとかは全部、野盗の町に移設されたんでは?子供も生まれたりしたら、洗礼も必要だったろうし」
「教会丸ごと島に強制的に持って行ったのかな?」
「代官に交渉して、島に教会があったら丸っと取り返そう」
「司祭さんも、もしそうなら戻してあげないとね」
「多分、まだ子細な取り調べ終わってないから、犯罪者かそうじゃないかを差配してるところじゃないかな?船で襲ってきた連中はコーチだけど、島の人は代官所預かりだから」
「え~と、戻っちゃう?」
「ん?わしは?」
「一本さんはお堂作って、終わったら前の町の代官所に来て」
「片足だけで?」
「いやなん?」
「シカちゃん、終わったら連れて来てくれる?」
「うん」
「いや、そんなたいそうな。神様の背に乗るなんて」
「じゃあ、シカちゃん、咥えて飛んで」
「諾」
「え?え?」
「よし、じゃあご本尊の封印解いたら戻ろうか。アオ、その教会焼かれた村は近いの?」
「元の町からだと、このお寺に来るより近いですよ。位置を三角形で書くと、この寺が二等辺三角形の頂点、町と村は底辺の位置関係です」
「なんかようわからん説明やけど、近いんやな?」
「はい!」
「じゃあ教会再建といこうか」
「は~い」
「あのう……」
とアオイさんが切り出す。
「突然、決まるんですね?予定とか段取りとか」
「びっくりするよね?毎回こんな感じ」
「アオイさんの時もそうでしょ?山道で声をかけられたら、いつの間にか野盗と船で戦闘。実際はシャチにやってもらったけど」
「なんでもありですね」
と笑う。
「俺らとおったらなんでも起こるよ。牛鬼退治したり、磯女にお見合いさせたり、唐笠小僧を保護したり」
「誰が唐笠小僧じゃ!」
皆が一斉に一本さんを指さす。
「わしじゃった!」
*(146話へ続く)*




