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144話 リゲイン


「なんか色々あったけど、やっと足摺だな。アオイさんのおかげで近道できたよ」


「そんな、そんな。皆さんに色々助けていただいた御恩に比べたら、御礼を言われるようなことは……」


とアオイさん。


「御恩?」とウミ。


「ごおん?」とシカちゃん。


「ゴーン?」とアオ。


「GO ON?」とユイ。


ちょっと留学してたからって。


「わおん?」


サチ、それは違う。


「誰も恩なんて思ってないですよ、アオイさん」


「そそ。みんなボケてるけど、なんも思ってない。むしろアオイさんに会えて良かったよ」


「良かった、ですか?」


「美人!剣術使える!常識がある!の三点セット」


「剣術はさておき、それ以外はなんかおかしくないですか?」


とサトちゃん。


いや、君、常識あるとでも思ってるの?


「でも、どうして私なんかを?幽霊ですよ?死んでるんでしょ?なんのお役にも……」


「立ってもらってるじゃない?現に迷わず足摺に来れた。うん、助かる」


「サトさんのお遍路の本を見たら、皆さんでも来れますよ」


「あ、サトちゃんの記憶全部見せたんだっけ?まあでも、紙で見るのと実際に案内してもらうのは違うしな」


「あと、幽霊だからって言うのは違うよ。ねえ、サチ」


ウミが声をかけると、サチが嬉しそうに尻尾を振る。


「サチはサトちゃんとこれからもずっと一緒にいるよ」


「これからもずっとですか?」


「聞いてよ!サチはもともとは俺の手下だったはずなのに、いつの間にかサトちゃんに鞍替えしやがったんだよ」


「それはサトさんに憑りついてるという?」


「違うよ。サトちゃんのお守りだよ。何するかわかんないから」


「だから全然、俺らと一緒にアオイさんがいてもおかしくないよ。この前知ったと思うけど、聖女や神様や、一本さんもいるくらいだし」


「なんでわしは神様じゃなくて一本さんなんだ?ソラ!」


「一本さんは神様というよりは、もう僕らの仲間だからね!」


「そ、そうか?それなら理屈はわかるの」


「シカちゃんも仲間なのにね~」


とサトちゃん。


一本さん本人はそれで納得してるんだからいいの。


「ありがとうございます、本当に。服や靴も」

挿絵(By みてみん)

サトちゃんのお下がり服のはずだけど、もともと背が高い上にヒールのあるブーツ履いてるからモデルさんみたいに綺麗だわ。服装と表情だけでものすごく変わったな。よかった。心のモヤモヤが消えたおかげかな。


「ああ、サトちゃんの最近食べ過ぎで着れなくなった服な。ちょっと露出多いけど勘弁してね。リーちゃんもいくつかお焚き上げしてくれたし他にも着替えはあるよ。ユイのドレスはちょっと胸がきつそうだったからやめといたけど」


「はぁ?」


ユイに睨まれた。


「ユイは華奢でいいと思うぞ、うん」


「そ、そう?」


はい、そうですよ。うんうん。


「こんなにしてもらって……」


「まあ、約束したし」


「え?」


とアオイさん。


「ああ、タクミがコーチに送られる前にね。アオイさんが教会を出たあと、少し話をした。自分のせいでまだ二十半ばで死なせてしまったアオイさんを頼むって。だから思いっきりアオイさんの残りの人生……残りの霊生?を謳歌させてあげて欲しい、みたいな」


「ター君が?」


「うん。アオイさんに叱られた後は、色々と本音で話してくれたわ。そのおかげで救われた命も多いよ。島に住んでただけの連中とか」


「そうでしたか……」


「ま、そういうこともあるし、あとは……」


「アオイさん、いっぱい楽しみましょう!」


アオが満面の笑みで言う。困ったやつだ。


「てな感じで、ずっとアオがやたらと張り切っててさ。珍しいよな、アオが女性に執着するなんて」


「本当に。私の立場はどうなるのかしら?およよよ」


着物の袖に手を当てて泣き真似をするサトちゃん。


あんた、タンクトップやん。


「ビジネスカップルが何を言ってるのかしら?」


「あ、バレました?でも私だってアオ君のことは、みんなと同じくらい好きですよ。恋心かというと違うけど、まあ弟みたいな?」


とサトちゃん。


身内じゃん、それ。姉貴が風呂上がりに下着のままでリビングウロウロして目のやり場に困る弟のパターンやん。


「……という感じなのよ、アオイさん。で、サトちゃんこんな感じだから、とりあえずアオイさんはサトちゃんの中で僕らと一緒に旅をしよう。好きな時にサトちゃんから出てきたらいいし。僕らも用事があれば呼ぶし、手伝ってもらう。サトちゃんの身に危険が迫ったら、タクミをビンタした時みたいにサトちゃんの体を使って守ってあげて。剣術使いの本領発揮で」


「なんでソラさんが、アオイさんが私の体を使うルールを決めてるんですか!私が決めます。改めまして、オホン。アオイさん、私の中で一緒に生きよう。やりたくてもできなかったこと、私と、私たちといっぱい楽しもうよ。剣術でも恋愛でもなんでも。できなかったことを取り戻そう、アオイさんの人生」


「リゲインね」


とユイが言う。


「ん?24時間戦えますかの?」


「古いわよ!あなたバブル世代?本当に学がないわね!学校でちゃんと英語習ったの?バカ」


そんなん言うなよ!懐かしのCMとかで見たの思い出しただけじゃん。


「もう一度取り戻す、って意味だね」


とウミ。


「なるほどな、確かに!いい言葉だ。アオイさん、取り戻そう」


「アオイさん、僕も応援します!」


またアオか。


「お前、すっかりのぼせ上がってるけど、アオイさん亡くなってるぞ。歳も取らんぞ?ええの?」


と聞くと、


「ソラさん、その質問をそっくりそのままお返しします。その答えが僕の答えです。聖女であるユイさんを許嫁としたソラさんは、ほとんど歳を取らないユイさんとどう連れ添う覚悟ですか?」


おお、そう来たか。


「ん?そうやの~。まあ、自分の心のままかな。別に俺が先に死んでもかまんし。天さんなんてそれを心待ちにしてるし」


「じゃあ、僕もそうです」


「いいんじゃない?それで」


とサトちゃんが言う。


「私は私で多分アオ君と一緒にいるし。私もアオ君もアオイちゃんより先に死んじゃうけど、いいんじゃないですかぁ」


ものすごい割り切り。


あっちの世界で生きるには、そっちの方が動きやすいもんな。


「サトちゃん、さっぱりしていてめっちゃいいわ」


「私は書物、命!ですから恋なんてする暇ないですし。そんな暇があったら、とっくに結婚してますよ」


「まあ普通にモテるよね。明るいし美人だし」


と僕が言うと、


「あ、でも私、ソラさんだったら結婚します!」


「はぁ?」


いや、サトちゃんを威嚇するなよ、ユイ。


「こんな具合に怖い子がいるので、あきらめてますけどね。ふふふ」


「皆さん楽しそうですね。ウミさんとリーさんはそんな様子を見守ってますし、シカちゃんは我関せずでサチちゃんとどんどん歩いていくし」


「うん、まあこんな感じでいつもワイワイやってるよ。だから色々楽しもう!俺らよりもっと長く楽しめると思ったら、楽しくならない?」


「でも皆さんがいなくなってしまったら、私はまた一人になってしまいます」


「その時は私が空に送ってあげるわよ。任せて」


とユイ。


「よく考えたら、ユイがアデヤさんの次に女神になるのって、どのくらいのスパンなの?百年後?」


こいつとサチだけ残るんかな?


いや、シカちゃんと一本さんもいるか。


「まさか」


「千年後?」


「さあ?」


「ユイもわからないの?」


「まあ、ママが引退って言わない限りは代わらないと思うけど」


「じゃあユイも一人の時間が長くなるなぁ……」


と呟くと、


「ソラ、パパが言ってたでしょ?神にならないか?って。ソラだけじゃなく、このメンバー全員神になったらいいんじゃない?」


いや、何を言い出すんだ。


「ユイ、僕は人間のままでいいよ。修行して普通に歳を取って、やがて仏になる」


「私もです」


とリーちゃん。


「私はあらゆる本が読めたら、それでいいかな」


うん、サトちゃんらしいな。


「僕はソラさんに倣います」


とアオ。


お前はもっと自主性をだなぁ。


「ワン」


お前は既に死んでいる。


「まあ、シカちゃんも一本さんもいるし、このメンバーで寿命とか考えててもバカらしいな!まずはアオイさんをいっぱい楽しませるぞ」


「そうね!リゲイン、ね」


「楽しいばかりじゃないですけどね。死ぬ思いをすることもあるわよ」


とサトちゃん。


「既に死んでますので……ふふ」


と笑うアオイさん。


「笑顔も素敵です」


アオ、お前が見ているのはサトちゃんだぞ。


アオイさん、もう中に引っ込んでいるもん。


「アオ、お前どっちでもええんやろ?」


「え?え?」


「アオはアオイさんのどこに惹かれたの?」


「えーとですね。なぜか以前から知っているような感じがして。初めてお会いした時に、やっと会えた!というような……」


「え?なにそれ~。なんかまたそこをほじくり返すと、ややこしい因縁とか出てきそうやから、これ以上触れるのやめよ」


「なんか前世でどうこうとかありそうだね」


「あそこで出会うのは運命だったとか?」


とサトちゃん。


完全に面白がってるな。


「そもそも俺は運命とかは前から言ってるけど、無いと思ってる。そんなんあったら、生まれてから努力したこと全部無駄やん。だから全部偶然。偶然が重なってこうなってるの」


「思考停止しちゃってるね、ふふふ」


とウミが冷静にツッコむ。


「もう空海さんの生まれ変わりとかでお腹いっぱいなの!俺は」


「ソラ、あそこ、茶屋!」


サチと先を行っていたシカちゃんが報告してくれた。


「よし、団子食うぞ!ほんとはクレープとかがいいけど」


「休憩しましょ、皆さん」


とリーちゃんが言う。


「殿様から僕の分の給料もらったから、好きなもん頼んでいいよ」


ウミが太っ腹の発言。


ま、お茶と団子、よくて甘酒くらいか?


「お腹いっぱいになったら今度こそ寺行くぞ、寺」


「で、次はなんて霊場なの?ソラ」


「え?忘れた……」


「金剛福寺……ですね」


「あ、アオイさんあざ~す」


*(145話へ続く)*



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