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141話 PL法

「一本さん、自分で作った物って、作ったらそれっきり?」


「なんのこと?」


「今まで色々作ってきたやろ?」


「人間の頃から含めてか?」


「そそ」


「そりゃあ刀やら、鍬やら鎌やら何でも作ってたからのぉ。数え切れんくらい作って、覚えとらん。片目が潰れて片足を失うくらい没頭しとったからの」


「その頃って、自分の銘を打ってた?」


「ああ、全部にわしの名前を彫っておったぞ。それがどうした?」


「なんて入れてたの?」


「個人情報じゃ」


なんじゃそりゃ。


「若い頃の作品は恥ずかしくて表に出せん。それと晩年の物を比べられたらたまらんわ。内緒じゃ」


「なるほどなるほど。ほんじゃ死んでからは?」


「お前、言い方が悪いの。神になってからと言え、神になってからと」


「一本さんになってからは?」


「人の名を端折るな、失礼な奴じゃ。そっからは銘など彫らんぞ。この前、山ん中で作ってやった大蛇の家の玄関の柱に『一本』なんて書いたら、そこら中から参拝に来て困るじゃろ?」


「別にユキさんの家の名字が一本って思うだけかなって思うけど」


「例えが悪かったか。じゃあコーチの春日神社様に、一本って銘があったらどう思う?」


「えらい神様にそんな不敬をする勇気は一本さんにはない!」


「そりゃ、そう……いや、そういう問題じゃないぞ。まあ神レベルになれば自己顕示欲なんぞないわ。その作品がわしじゃ。そのくらいの思いで作っている」


「涙の出るアデヤ像も?」


「あ、あれはちょっと調子に乗り過ぎた」


「そこで聞きたい!一本さんって、作る作品すべてに思いを込めてるよね?」


「当たり前じゃ」


「自分自身であるとも?」


「そう言うたの」


「作品とは心が通じ合っている?」


「わしの魂じゃ」


「もし、ユキさんの家が壊れたり、春日神社が壊れたら?」


「壊れるわけなかろうが。わしが作ったんじゃぞ」


「壊れたら?」


「……まあ、木だからいつかは朽ちることもある。でもまあ、不具合があればわしが直すぞ」


「不具合出たらわかるわけ?」


「魂でつながっておるからな」


「この前の子供たちの名前を彫った教会の鐘も落ちたらわかる?」


「無論」


「神になってからのすべての作品?」


「ソラ、しつこいのぉ。何が言いたい?」


「一本さんが作った作品は、すべて一本さんとつながっているのか知りたい」


「つながっとるわい!」


「壊れたら直す?」


「壊れないけど、もし壊れたら直す!」


「製造者責任?」


「意味はわからんが、そうじゃ」


「PL法が適用されてるってわけだ」


「なんじゃそりゃ?」


「製造物責任法……一本さんは自分が作った物は壊れないって言った。だから壊れたり、不具合や瑕疵があったら責任を負うってこと」


「まあ神だしの。でもそんなもん、お前になんぞ作ったか?せっかく作った逸品の槍もあっさり鐘にしたろ?もったいない」


「鬼子母神ね。あれはあれでええんや。人を傷つけるための武器が欲しいわけじゃなかったし」


「サクッと首、落としとったが」


「あれは牛鬼だからセーフ」


「プッ、ソラ君、悪いねぇ~、フフ」


横で聞いていたウミが吹き出してる。


「ん?言質取っただけよ。働いてもらわんといかんから」


「え?なに?わし、なんかさせられるの?またあそこに軟禁されて酷使されるの?」


「ちゃうちゃう。天さん恐怖症にかかってるな。ちがうよもっと楽しいこと」


---


「ただいま~」


疲れ果てた顔でユイとサチが戻ってきた。


「どうだった?」


とユイに聞くと、


「疲れすぎて喋れない……サチ、あなたから説明して」


「ワゥン?」


こっちも疲れた顔でユイを仰ぎ見る。仕方なさそうにサチが説明を始めた。


「ワン……ワワン……ワンワン……バウバウ、ワン」


いや、やっぱり全然わからんけど。


「サチ、そこは違うでしょ、もう!大事なところだから正確に伝えないと!もういいわ、私が説明する」


ユイが怒ると、サチは悲しそうにうなだれた。


いや、ユイも犬語わかるんかい!


「さっきの見立て通り、沖の島に賊の隠れ家があったわ。こっちから見たら島の裏側ね。沖を行く船からは巧妙に見えない場所に船を隠していたわ。ぱっと見は森だけど、木々を抜けた奥に集落があった」


「集落?」


「もう、ひとつの町ね。大人も子供も、男女が普通に生活していたわ。商店や飲食店、教会まであった、あとちょっと…ま、今は関係ないか」


「なんか問題が増えた」


「問題?」


とウミ。


「山賊、海賊の類なら、そいつらを一網打尽にして牢屋にぶち込んで、裁きを受けさせたらいいと思ってたけど、女子供もいるとなると難しいな。どこまで責任を追及できるのかって。女だって野盗として町を襲っているかもしれんし、子供もな。単に攫われて、子供を産んで育てているだけの人もいるかもしれんし……頭痛いなぁ」


「お年寄りも、引退した賊ってことも考えられるしね」


「そんなことは後で考えたらいいのよ!もうじきここが襲われるわよ!」


「え?」


「もう出航準備にかかっていたの!船が並べられて、槍や刀を積み込んでいたわ。馬も港に集められていた」


「馬を乗せられるくらいの大きさの船?」


「ええ。漁船とか櫓で漕ぐ舟とは大違いよ」


「室戸の鯨獲りの船より?」


「数倍の大きさ」


予想外。


「それが何隻くらいあるの?」


「大きいのは馬用かしら。あとは小回りの利く漁船サイズが十隻くらい」


「え?百人くらい来る感じ?」


「一隻に十人としたら、そのくらいかしら?」


「奴らのアジトって、じゃあ老若男女合わせたら数百人いるの?」


「子供も入れたら、そのくらいにはなるわね」


「それ、コーチから殿様に頼んで軍船派遣してもらっても厳しくない?」


「人手が全く足らないね」


と冷静にウミが言う。


「どうする?コーチから殿さんの家臣団を……」


「時間が無いわ」


とユイ。


「少数での防衛戦になるってこと?」


「防衛戦って私たちだけで?あとは代官?無理ね。手加減無しで良ければ……」


覚悟を決めた目でユイが言う。


「お前に人殺しをさせるわけにいかんだろ?聖女なのに。熱心なアデヤ教徒がいたら改心するヤツも出てくるかもしれんけど、人殺しするようなヤツはそもそもまともに信心してないやろ?島の中にはそういう人もいるかもしれんから、そん時はアデヤさんやユイの力を借りよう」


「じゃあどうするのよ?」


どうしようかな。


「上陸できないようにするしかないな」


「船が十隻、賊が百人。こっちはソラ君、僕、ユイ、サチくらいが戦力だよ。アオ君はいないし」


「俺たちは対人戦の経験がない……ユイも威嚇程度しかやってないからな。殺す覚悟で来る連中相手に、どれだけやれるかわからんな」


「アオが殿様に直談判して即動いてくれたとして、侍を動員して軍船を動かしてここまで……一日はかかるか」


「ソラ君、この世界はコンパスが発達してないし、灯台も無いから、山とかを目印に航行するんだよ。だから夜は動けないよ」


「くっ、そうだった……じゃあ明日の早朝にコーチを発って、風に恵まれたら夕方に到着するかどうかか」


「それは相手も同じじゃない?いくら距離は近くても、上陸位置がずれたらそれだけ危険性も増すもの」


「でも、もう積み込み始めてたってことは、多分明日の早朝って感じか?俺らがいて良かったのやら悪かったのやら」


「ソラ君、それはこの町の人にとってはラッキーでしょ?少なくとも今夜中に逃げることはできる」


「負ける前提か?ま、家財道具持って避難することはできるな。よし、ウミ、代官に話を通して避難指示を出してもらって」


「了解」


「ソラ、私は?」


「ユイはサチと一緒にしっかり休んで!大仕事頼むから」


「大仕事?」


「おう。どんだけ飛んでもらうかわからん」


「また飛ぶ?人使い荒いわね」


「ごめん、無理を言う…いや、お前そもそも人のカテゴリーか?」


「仕方ないわね。サチ、おいで」


そう言うと、ユイはサチを抱いてアデヤさんに祈りを捧げる。温かい光に包まれているうちに、サチのしっぽが元気にピンと立つ。


「おお、ヒール!」


「違うわよ!バカ。ママの力を借りたのよ」


「女神の恵み!」


「うるさい、バカ!」


「で、何をしたらいいの?回復したからすぐ行けるわよ」


「一本さんぶら下げて、海の上で探し物して」


「あなた一体何を……」


と言いながら、僕の心を読み取ったユイ。


「どうなるか知らないわよ」


「失敗したらこの町が終わる。俺らがどうなるかはわからん」


「最善を尽くすわ」


「じゃあ、一本さんをぶら下げて行って」


「おい、なんじゃ?海?落ちたらどうすんじゃ?危ない!」


「じゃあポシェットに入ってなさい」


そう言って、ユイが金槌姿の一本さんを押し込んだ。その後手を見て叫んだ。


「なにこれ、汚い!ドロドロじゃない!」


「ああ、この前アオイさんの頭蓋骨埋める時に土掘ったままだったわ」


「汚いわね、ちゃんと洗いなさいよ!もう、これ汚いっ」


「お前ら、神をつかまえてこれとか汚いとはどういう言い草じゃ!」


「はぁ?」


とユイが凄む。聖女の睨み。


「いえ、なんでもないです」


そして、またサチを連れてユイが窓から飛び立った。一本さんはユイに聞こえないようブーブー小声で愚痴を言っていた。


それからしばらくして、サトちゃんとシカちゃん、そしてアオイさんが帰ってきた。


「ソラさん、空振り~。アオイさんが案内してくれたところ、確かに山賊が住んでたみたいだけど、もぬけの空なうえに、もうぐちゃぐちゃに取り壊されてて使えない状態でした」


「でも……これ、私がタクミに縫った掻い巻きです」


とアオイさんが言う。サトちゃんが手にしてるやつか。

挿絵(By みてみん)

「なんでこれが?」


「壊れた家の中にあった箱にしまわれてたんです。大事そうに保管されてて、奇跡的に箱ごと残ってました」


「じゃあタクミは確実にここにいたんだな。掻い巻きが残ってるってことは、売られたわけでもなく、ここにいたんだ」


掻い巻きっていうのは着なくなった着物に綿を入れた防寒具で半纏みたいなやつ。アオイさんの着物から作ったやつかな。なんで大事にとっていたんだろう。


「ソラ、これで、良かった?」


とシカちゃんが聞いてきた。


シカちゃんも僕の意図に気づいてたか。ありがとう。にこりと笑うと笑顔で頷く。


「アオイさん、賊のアジトの場所はわかった。沖にある島に集落があるのをユイが見つけた。賊はおそらく明日の朝、この町を襲撃してくる」


「ええっ?」


三人が驚きの声を上げる。


そこへ、


「ソラ君!代官さんに伝えてきた。代官所のみんなで住民に避難勧告を出してくれる」


ウミが戻ってきた。


一気にジェットコースターみたいに物事が動き出してる。


「ウミ、金剛杖、天さんとこ置きっぱなしやな?どうする?」


「う~ん、どうしよう?代官所から槍でも借りてくる?」


この前、アオに鍛えてもらったからな。使いたくないけど、威嚇くらいにはなるか。


「じゃあ、お前のと俺の分、槍借りてきて」


「ソラさん!」


「ん?アオイさん?」


「私に、刀を」


「え?アオイさん、刀でどうするの?」


「斬ります」


*(142話へ続く)*

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