140話 可能性
シカちゃんとサトちゃん、そしてアオイさんは、町を少し出た人目につかない場所から飛び立っていった。
一本さんの時と同じように、アオイさんは神様の背中に乗るなんてと恐縮していたが、『私はまだ神ではございません』というシカ様の一言で、ようやく納得したのだった。
しかしシカちゃん、シカ様、詩歌様と人格が色々あって大変だな。根本は同じなんだろうけど。時々シカちゃん女児姿でも怖いもん。死神を祓った時のあの姿が本性だと僕は見ている。壁にドーン!ってやつ。
「行ったね、アオイさんたち」
「そうやな。ウミ、お前どう見る?」
「ソラ君と一緒」
こいつ……。
「いないと思うから行かせたんでしょ?ソラがいきなりアオイさんと、悪党になったタクミとをご対面~なんて残酷な真似するはずないし」
ユイもわかってたか。
「で、ソラさんは賊はどこにいると思うんです?」
それを聞くリーちゃん?
「俺は……海から来ると思う」
「根拠は?」
とウミが聞く。
「まずはかなりの大所帯となっているという点。アオの報告から察すると、宿毛を襲ったのは町の規模からして、おそらく実働部隊が三十人くらい。それ以下だと町を一気に制圧するのは無理だろう?この町ですら、町の人が武器を持って総出で迎え討ったら十人、二十人程度なら返り討ちできるだろうし」
「三十人以上はいるとなると、それ以外にアジトを守る人、兵站を担当する人を考慮したら、全体で五十人は超えそうだね」
「それだけの人数が山賊時代のアジトを捨てて、見つからず移動して町を襲撃して逃げるって、結構大変よね」
「うん。だから俺は、アジトはアジトでちゃんとあると思うのよ。そこから攻撃する村へ一気に行く。で、大量に略奪したものを一気に運ぶ」
「ひょっとして……」
「わかったわ」
「この辺の村や町って海岸沿いに固まってるよね?」
「そう」
「海から?」
「それが一番合点がいく。山賊スタイルを捨てて野盗と呼ばれるものになったってウミが言ってたけど、漁師も仲間にって話が引っかかっててな」
「馬は?」
「馬は上陸してからの奴らの足さ。逃げる時、荷物を運ぶ時の。馬ごと待機させてた船に乗せて外海に出たら、もう追えない」
「どっかの海岸沿いの洞窟かな?」
「それも考えてたけど……牛鬼のことを思い出してな」
「あ、島か!」
「可能性大だと思う。だから……サチ。お前、ウミの持ってるガイドの後ろにある地図を見て、無人島らしき島を見つけたら、そこに偵察に行ってくれ!」
サチは意気揚々と「ワン!」と答えた。
「何を言っているのかわからない、だってさ」
とウミ。
「あなたバカなの?犬に地図を見て偵察しろって本気で言ってる?犬が本読めるわけないでしょ?ほんとバカね」
そこまで言わなくても……。
「私が行くわよ。わざとアオイさんを連れ出したんでしょ?それとなく水を向けて、そっちに気を逸らせて」
「嫌になるくらい正解。心を読まれないようにしてたのに凄いな」
「バカがどう考えるかくらいわかるわよ、バカ」
「そんなバカと結婚するのは嫌だろ?ユイ」
「嫌じゃないわよ、バカ!」
そう言って、ウミのガイドブックの裏面にある現代版の地図をチェックするユイ。かわいいところあるなあ。
「ユイちゃん、耳元まで真っ赤だけど大丈夫?」
とリーちゃんが心配する。照れてるだけだから、そっとしといてあげて。
「ソラ、わかったわよ。ここの町と宿毛の中間地点くらいのところに、大きめの島があるわ。『沖の島』だって」
「そのまんまの名前やな」
「島の大半は山ばっかりで人が住めそうな場所は限られているから、飛んで行って隠蔽を使って見てくるわ」
「しかし、よく意図を汲んでくれてるなぁ」
「山の中が本命だったら『ユイ、行って見てきて』って、あなたなら言うでしょ?多分サトちゃんも気づいているわよ。だからアオイさんを誘って、自分の中に入れたんだと思う」
「ちくしょう!完璧だな、このチーム!最高だわ」
「ユイ、悪いけど、シカちゃんたちが戻ってくる前に頼む。サチ、お前は護衛だ。ちゃんと見張れよ」
「わん」
「なんの護衛を?だってさ」
ウミ、もう犬語ペラペラだな。
「わかり切ったことを。キレたユイが野盗どもをその場で勝手に痛めつけないように止めろってこと」
「野盗の護衛ですか、ふふ」
とリーちゃんが笑う。
「じゃあ、行ってくるわ。サチ、モタモタしてると置いていくわよ!早く来なさい」
ユイが宿屋の窓から羽を広げて飛んでいく。まあ隠蔽使ってるからいいですけど、お行儀はよろしくないですね。
「ウミ、俺、偉そうに作戦立ててるけど、前提間違ってたら終わりよな?野盗とアオイさんが鉢合わせする可能性もあるよな」
「無いと思うよ、ソラ君。代官所でも聞いたけど、一応山の拠点は捜索してもぬけの空。使えないように徹底的に破壊したって言ってたから、そこには戻らないと思う。その場所がばれてるのがわかるからね。じゃあ他の山かってなるけど、山の中なら人に見つかる可能性は高いよね。道に迷って入り込む人もいるだろうし、大人数の買い出しとかだと目立つし。海からっていうのは一番可能性が高いと思う。買い出しだって、小舟を隠しておいて少人数でバラバラに来ればわかりにくい。街道沿いなら、お遍路さんの頃ほどじゃないにしても人の出入りもあるしね」
「えらい早口で一気に喋ったな。まあそう言ってもらえると自信がつくな。なんせ多くの人を動かさないといけないから」
「もう動くの?」
「ああ。十年周期だとして、ここは十年以上襲わず寝かせてるわけだろ?宿毛の襲撃から一年以上経ってたら、そろそろ連中も動かんと実入りがなかろう?油断してたらここか隣の町が狙われる。ユイの情報次第では、こっちから仕掛けるのが良策かもって思ってな」
「でも人との殺し合いなんて僕らしたことないよ?どうするの?」
「捕り物は役人さんを頼るしかないやろ。そこで、人を動かす決断をどうするかって考えてる」
「ソラ君、手配しとこうよ。ローパーちゃんなりアオ君に行ってもらっても、その人数を捕縛するには倍くらいの人が必要だよ。留置する場所も必要だし、早めに行動することは悪いことじゃないと思う。コーチから船で来てもらおうよ。逆に、そうなったら今度は襲撃に間に合うかどうかが心配だよ」
「かなりのスピード感だと思うけどな。アオイさんに出会わなきゃどこかの町が襲われてたんだろうけど、今ならなんとか間に合いそう」
「アデヤさんとユイがいたら、あっさりどれもこれも片付くけど……あちこち屍だらけになるやろうな、本気のトールハンマーみたいなのの直撃くらったら」
「出力落としてくれても危険だね。一人や二人ならユイも失神程度に調整はできても、大人数となると一気にドンだろうから」
「それも本意じゃないからな。悪いことしたらしたで法の下で裁かれないと。まあ、その法もそれを作ったほうの解釈で一方的やけどな。相手には相手の言い分はあるやろうし」
「お互いがお互いの信念、正義を持っているって話だね」
「おう。でもまあ、俺の中では人を傷つけることは悪だ。戦争はそれぞれ言い分があるだろうけど、野盗の略奪とかは論外。しんどくても自分の手を動かせ。働いて正当な報酬を得ろ。無理なら魚とるなりイノシシとるなり、生き方を考えろ。それでもダメならアデヤさん頼れ。人を傷つけるな」
「わかりやすいね、ホント」
難しいことわからんもん。
「手紙じゃちょっと伝わりにくいな。アオ、悪い、コーチ行ってくれる?今話した内容、理解したな?」
「一言一句漏らさず」
頼もしい。
「できれば軍船が欲しいし実戦経験のある武士が六十人は欲しい。可能なら百くらい人。優秀な士官も」
「……とにかく手勢が必要なんですね。わかりました。交渉してきます」
「あと、殿さんに伝言。『これも貸しにしときます』って」
「じゃあ急いで行ってきます!目的地は沖の島でいいですね?変更あればローパーさんで連絡ください」
そう言ってアオは着の身着のまま走り出した。今日中にコーチ着いたりして。四万十川渡れるかな?お金も持たせたっけ?
「ソラ君、心配いらないよ。アオ君なら全部うまくやるよ」
そうか、アオだったわ。
「ところでリーちゃん、さっきから何作ってるの?」
「あ、これですか?あの……アオイさんの首に傷跡があるので、スカーフとかあればいいかなって」
「あ、鎌で首を切られた時の傷か。確かに首筋に斜めに入ってたな……あれを隠してあげようって?」
「一緒にご飯食べてた時に思ったんです。コップを持って水を飲んでましたし。実際のコップはそのままでも。じゃあ、身につけることもできるんじゃないかって」
「あ、なるほど!じゃあ服も着れるかな?裸足でスカートも破れてかわいそうだったもんな。ユイのドレスをどれかひとつ……」
「あ、あの……ユイちゃんのじゃ、胸とか入りきらないかなぁ~なんて思ったりして……」
ユイが聞いたらブチ切れそうだな。黙っておこう。
「じゃあサトちゃんの服を借りようか。あの子、ユニクロとかGUか、冒険者の服しかないけど」
「アオ、これ、ずっと着てもらうとしたらどうしたらいいの?」
「飲んだお水のコップは、時間が経てば元のコップに同化しちゃったから……」
「一時的に服は着れても、効果が切れたら全裸?」
「そうなるかも」
「ありっちゃありかな?」
「ユイさんには黙っておきますね」
リーちゃんは手元の作業を続けながら言う。
「じゃあどうすりゃいいの?」
「お焚き上げでいいんじゃないかな?」
「なるほどな。ここにも霊たちいるし、アオイさんのいた村で殺された旦那さんとかお姉さんも供養せないかんやろうから、野盗の始末が終わったらサトちゃんにもらって、それもやろうか?」
「私の服もいくつかお焚き上げしてもらってもいいですよ」
「え?リーちゃんの服もアオイさん着れるの?」
こくりと頷くリーちゃん。
ユイ、おらんけどなんかゴメン。
「次は一本さんを尋問だな」
「え?なんでわし?え?え?」
*(141話へ続く)*




