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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
吉野川

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第13話 バトル開始!ってか


「お~い! サブロウや~い」


淵の近くで声をかけると、4秒で飛び出してきたサブロウ。さすが躾けられてるな……誰にだ? フミさんか?


なんとなく「お前も大変だな」と言ってしまった。


丁寧にお辞儀をするサブロウ。


さて、カッパのサブロウを先頭に川を進む僕たち。いや、君は裸みたいなもんだから水の中でいいんだろうけど、俺らは陸で生活してるんだよ? 水中メインに行かれるとちょっときつい。


ウミはもうなんか嬉しそうにジャージの膝くらいまで水につかって水中をじゃぶじゃぶ歩いてる。長靴に水を入れて喜ぶ梅雨時の幼稚園児かこいつは!


「ソラさん、水が冷たくて気持ちいいよ~」と誘ってくるウミ。


僕はスーツだからそんなガキみたいな真似はしないのだ。入りたいけど、入りたいけれども。そんな葛藤をしてるのに…。


「やぁ!」


と声をあげて思いっきり背中めがけて水をぶっかけてくる女子1名。見るとユイが膝どころか太もも近くまで水に浸かって遊んでいる。


「こら! ユイ! 女の子がそんなにドレスの裾を上げたら恥ずかしいよ。ちゃんと隠しなさい」とウミ。姉さんぞ。


「はぁ~い」と素直に従うユイ。ちょっと残念。


え? まてまて、ドレスが通じるの? がっつりカタカナやん……。


「ソラ君! なんでドレスで通じるのよ?ユイに」


「だって別に最近の言葉じゃないし、今までも時々カタカナを使う人いたやん」


「天さんか?」


「あの人はここの人であってあっちの人やし。『アップルウォッチ』に『あいふぉーん』って言う。ジョブズみたいに」


「確かにこの前も聞いて、ん?ってなったのぉ」


「そもそも昔の四国みたいやけど別物って認識しないと。だって町の家だって洋風でしょ?着てる服だって宿屋の人も普通に洋服だったし。ソラさん、宿屋で『そこのお兄さん、上着はハンガーにかけときな』って言われて『は~い』って言ってたじゃない。おまけに風呂に行くとき普通に『タオル貸して』って言ったら『手ぬぐいやけど』って言われて受け取ってたやん」


「あ、ほんまや」迂闊やった。突っ込むとこやん。


「だから最近の言葉はどうかは知らんけど、アデヤさんになった時に割と洋化したと思うんよ」と。賢いのぉウミは。


「バカとウミは東大へいけぇ!」


「いや、いかんけど、多分」


「お前やっぱり賢いなぁ~。全く気づかんかったわ。普通に喋っとった」


「ソラはバカだね」とユイ。


「バカではないのだよ。注意力散漫、集中力が欠如しているだけで」


「ソラは間抜けだ」


「まぁなんとでも言え。ユイ、お前なんざ、ある意味まな板の上の鯉だぞ」


「どういう意味?」


「大人を怒らすとだな」


「ふんふん」


そこまで言うとまたカラスが大量に集まってきて不穏な雰囲気に……。殺らるか?


「あの、皆様、そろそろ進んでもよろしいでしょうか?」とサブロウ。


「そうだ、今日は剣山まで行くんだった。お前が背中に水をかけたりするからだな」


「ソラ君、それ速乾スーツやろ? もうほとんど乾いてるよ、背中」


あ、そうだった! これすぐ乾いてシワにもならない優れものだったんだ! 濡れても平気!


「あははははははぁ~!」


と僕は一気に水に入って肩まで浸かる。無敵じゃ! 本当は水浴びしたかったんだ、暑いし。


「でも下着は普通に綿のヘインズとかじゃなかった? シャチョゾンで頼んだやつ」と冷静にウミが言う。


そやった……。


「やはりソラはバカだ、あはは」とユイが指をさして笑う。


くそ、でもやはりかわいいなこいつ。黒髪のエマ・ワトソンいいわ~。ハーマイオニーと天狗のハーフ、どっちも洋風の顔だから日本人離れした顔立ちだなぁ……ってそもそもこいつ人じゃないな、そういえば。


「だから神人なんだってば」とユイ。


また知らん単語が……。


「あのぉ~先に行ってよろしいでしょうか?」とサブロウ。


「道案内が先に行ってどうすんねん! すぐ行くやん」


「ここから山道に入りますので」


「ん?」


「いえ、剣山の……」


僕とウミは靴をグッチュグッチュ鳴らしながら川岸から続く道を歩くのだった。


ユイを振り返ると……なんかドレスの上に羽織っていたチュニックを脱ぎ出していた。


おいおい、そんなん聞いてないよ。


ウミは目を逸らして空を見上げる。アデヤさんが鬼の形相で僕を睨んでいるらしいので仕方なく視線をそらした。ナニが起こるのかと思ったら、おもむろにユイが言う。


「なに期待してるの? 邪魔だから脱いだだけよ」


指の隙間から覗くと、ユイの背中に真っ白い羽が。


おいおい、なんだそりゃ。


「女神と天狗の娘だよ。羽くらいあるでしょ?」


と言ってくるりと回って一回羽ばたいてみせた。真っ白い翼、神々しい。


「パパに似たら黒い羽だけど、ママに似たのかな? ママに羽は無いけどね、フフ」と笑って見せる。


そしておもむろに空に舞い上がる。え? 天狗じゃなくない? これ普通に天使じゃん。奇跡の1枚の橋本環奈?


「うわ、飛べるんだね」とウミ。感想そこかい!


「私、歩くよりこっちのほうが楽なの。靴も濡れたし足がふやけそうだから飛んでいくわ」


と言って向こうの方まで行ってしまった。行き先わかるのかな?


---


「サブロウ、こっからどんくらい歩くの?」


「いつもあの方は麓まで下りていらっしゃるのでほんの1里程度かと」


「ウミ! 1里とは」


「4キロくらいだから山道と考えても僕の足なら30分だけど、ソラさんがいるから1時間20分かな、坂だし」


「普通1時間だろ? 4キロくらいなら。多少の山は余裕だよ。でもまぁカッパがいるからな。水のないところを歩かせるのはかわいそうだし」


「私なら平気でございます。通い慣れた道ですし、普通に陸の上でも生活できますので。この道はいつも駆け足で登っております」とサブロウ。


うそやん~。


サブロウはそう言うとだーっと駆け出した。いや、めっちゃ速いやん。水かきがしっかり地面をグリップしとる。つられてウミも靴から時々水を飛ばしつつサブロウの後をついていく。お前も水に濡れたスニーカーなのになんで走れる?陸上バカはこれだから。


僕は300メートルくらい走って息が切れた。


未舗装の坂道で濡れた重たい靴に、濡れたスーツと下着でダッシュはきついぞ。あっという間に離されて2人……1人と1匹は見えなくなった。やば、一人やん……。


はぁはぁ言いつつヘロヘロで登っていると、少し先のカーブの木の根っこにユイが座って待っている。


「体力ないね、若いのに」


ニヤニヤしてる。かわいいけど。


「ユイと比べたらそこら中の老若男女全員若いのに、じゃん」


見た目15、6歳くらいやけどな。


「またそんな事をいう! 私だって神界では……」とユイが反論しようとした。


「だから知らんってそんな世界。また今度暇な時ゆっくり聞くわ」


プーっとむくれてるけどその顔もかわいい。年齢は置いといて。


というかこれはロリ案件になるのだろうか? 見た目は若見えだけどさ。天さんも前に空海さんと遊んでたって事は余裕で1200年以上前じゃん。引くわぁ~。で、ユイの年齢のヒントは天さんとハーマイオニーの子って事はゆうに100年以上ってことですわね。唯一神になりはったのが。


ちょっと待てよ……。


「なあユイ」


「ん? なあに?」


「お前ってば天さんみたいに色んな姿に変化できるんちゃうの? だから今の姿も変身して可愛い子になってるだけでリアルは……ドキドキ」


「あなた失礼ね! 私はハーフだって。パパみたいにあんなバケモンみたいにコロコロ姿を変えられないわよ。神様の姿が頻繁に変わったら信者さんも困るでしょ? ママが今日は綺麗な女神様でも明日は湯婆婆みたいだったら」


確かに千と千尋の湯婆婆みたいになってたら……って!?


「ユイ! お前いま変なこと言ったな?」


こいつ金曜ロードショー見てるぞ、絶対。


「ん~?なにがぁ~?」ととぼけてやがる。


「お前! 天さんと同じ能力持ってるな? 俺らのいた世界に行き来できるんやろ? テレビ見てるな?」


「はてさて、テレビ? なあにそれ~」ととぼける。


くそっ! 絶対知ってるわこれ。尋問や!


と、その時。


「うわぁ~~~~~~!」


とウミの叫び声が聞こえた。なんだ! 例のナニか!!


「ウミ~! 大丈夫かぁ! すぐ行くぞ~! ユイが!」


「え? 私?」


「うむ。俺はもう少しかかるぞ。息が切れとる」


「仕方ないなぁ、もう!」


そう言って翼を広げて飛び立った。白い羽が少し舞った。


その羽を拾い上げるといい匂いがした。天さんの羽は雨に濡れた犬の背中みたいな匂いがしてたけどなぁ。


坂の向こうでユイの声が聞こえた。


「まぁ! これは」


驚いてはいないようだな。さすが子女神。経験値が違う。


「ウミ~! もうすぐ着くけど多分、俺が行ってもあんまり戦力にならんからユイに守ってもらえ~。万が一の時は槍で刺せ」


と叫ぶと「この槍、そういう目的の武器でもないんやけど」と落ち着きを取り戻したウミの声。


「でもとりあえず早く来て! ちょっとすごいことになっとるわ」


ナニナニナニ。好奇心が刺激される。


えぇい、濡れたスニーカーが邪魔だ! 脱いで靴下で走るぞ!


と勢いよくスニーカーをウミたちのいると思われる方へ投げて、その場は靴下で駆け上がる……つもりが、足の裏が痛い。枝とか石とか葉っぱとか。現代人に裸足とか靴下だけで山道を走るのは無理よ。


おかげでさらにペースを落としつつなんとか坂の上の開けたところに出ると——そこにはそれはそれはでっかい、電柱みたいな大蛇。


予想通りのやつがいた。ふ~んやっぱりって感じ。


まぁ最初から剣山と言われた時から予想してたし、驚きはない。ウミはニシキヘビやアナコンダを想像していたみたいだけど、そいつは太さが電柱くらいあって頭もでかい。動物園にはいないサイズだからまぁ驚くか。


ちなみに僕は王子動物園の飼育員と友達で以前はパンダをよく見に行ったもんだ。白浜に行けば売るほどパンダがいたからありがたみがわからなかったんだよなぁ。今はいなくなったなんて信じられない。ま、レッサーパンダもかわいいから許す。


とか余計な事を考えている場合ではなかった。


---


「サブロウ! こいつか? お前がせっせと魚を運んでた相手は?」


「さようでございます。この剣山の守り神でもあらせられる大蛇様に捧げておりました。女神の封印のせいで祠に閉じ込められていたそうですがなんとか脱出したとのことで。元の力を大幅に失っていて、それを取り戻すために魚を大量に持ってきてくれとのことで、余り物で申し訳ないのですが子どもたちの残した分を届けに来ております」


なるほど。これはちゃんと話をつけとかないと。


「もしも~し、そこの大蛇さん。事情はわかった。でも魚は人もカッパもヘビも平等に食べるべきだと考える。食べるなとは言わないが、ある程度おさえてみてはどうだろう? いやそもそもそこのカッパが乱獲して、あなたが消費を手伝っていると言えなくもないが。少し考えてはくれないだろうか?」


ちょっと相手のポジションと顔色が一切わからんので中途半端な口ぶりになってしまった。上から行くか下から行くかビジネススキルが試されるところで全く持ってクソみたいな対応ぶりだなぁ。


「さあ、返答を!」


と大蛇に向かって答えを促す。ちょっと強気に出た。


しかしなんの反応もなし。完全スルー。無視。


「ソラ君、相手にされてないやん」とウミが笑ってる。


ユイはそこらへんの切り株に腰をおろして広げた羽を指で整えつつ足をブラブラ。興味ないんか~い!


「行者様、よろしいでしょうか?」


「俺はリーマンだって言ってるだろうが」


「リーマンって言ってわかるわけないじゃん。ソラはバカだ」とユイ。


おお、バカだよ。爬虫類に無視されるバカだよ、笑いたきゃ笑えと心で思った。


「あははははは」と笑うユイ。また心を読みやがった。


「ではリーマン様」


サブロウはいい奴認定!


「大蛇様に人の言葉で話しかけても理解は難しいかと思うのですが」


「え? そうなの? こういう妖怪とか物の怪のたぐいって人の言葉を話すんじゃないの?」


「それは子どもが好む昔話や伝説の中のことかと」


ってカッパに憐れみをかけられた。


「あははは、ソラはバカだ」とまたユイが指さして笑う。


笑顔もかわいいな、と思うと口を真一文字に結んで無表情になったぞ。だから勝手に心を読むなと。


「じゃあどうすれば……」


「よろしければ先ほどのお話を代わりにお伝えしてもよろしゅうございますでしょうか?」


「え、サブロウ、蛇語喋れるの? すごいな」


「そんな大層なことではございませんです」とサブロウ。


「ソラ君、爬虫類と両生類だから意思疎通は哺乳類よりはやりやすいのかもね」とウミ。


確かに! 卵生同士だ! 知らんけど。


そしておもむろにサブロウは舌を出してペロペロし始めた。すると大蛇も反応してペロペロしてる。お互いに何回ペロペロしたのかは数えていないけど、結構ペロっていた。


「封印を解いてくれたら考えてやってもよい、とのことですがいかがいたしましょう?」


「あ~封印か。それは一応俺らの旅の目的のひとつでもあるので最初から解くつもりだよ」


「ではその旨お伝えいたします」


ペロペロペロペロ……。


何回見ないといけないんだこれ? イジリーかお前ら。


「よし、わかった。封印を解くならばお前らは特別に見逃してやる、と申しております。いやはやこれは」とサブロウは困ったように言う。


「ウミ、こいつ偉そうやな、なんか」


「うん、そうだね。別に全部封印を解かなくてもいいかな。一つくらいスルーしてもいいかも」


「そやな、サブロウ、なんかムカつくから帰るわ」


サブロウは必死で大蛇に向かってペロペロしてる。大蛇も激しくペロペロ。


なんやこれは。


唇の動きで言葉を読み取るのは読唇術。これはベロだから読舌術か。漢字を変えたら毒舌術やな。それなら僕向けの技かも知れん。「ソラはレベルが上がった!スキルを手に入れた!『毒舌』~」って捨てとけそんなん!


「そういうことなら帰すわけにはいかん、と申しております」


しゃーないな、久々のバトルが始まるのか? これ。


「ユイは危ないから空を飛んでおいて」


と言い、ウミはカーボンの槍を、僕は天秤棒(改)を握りしめる。


するとユイが言った。


「ほんとにもう鈍いなぁ。あたな達ほんとに冒険者?ソラ、ウミ、偏光サングラスをしてごらん」


れいばーん! くりっぷーおーん!


僕らは間抜けな掛け声と共に偏光サングラスで大蛇を睨む。ちなみに僕らは冒険者ではない。リーマンと高校生。坊主見習いのね。


とりあえず大蛇を睨む……大蛇?ん?


そこに見えたのはしょぼくれたアオダイショウのちょっとでっかい版。あえて言うならアオダイショウ(改)。


なんぞこれ。こんなんにビビってたのか?僕達は。


「これカッパ! 俺のレイバン貸してやる。かけてみ」と渡してやる。サングラスを掛けたカッパは


「ああ~行者様、何やら体が揺れるような……」


ごめんな、乱視が入ってて。


「ちゃうわ! 大蛇を見てみろ、大蛇!」


と言うと頭を揺らしながらサブロウは大蛇を見る。


「あれま、これはこれは可愛らしい……」


幻覚やな。というか、そもそも妖怪の連中がまとってる揺らぎみたいなもので、小さくなった体を大きく見せてたんだろうな。幻術的なもんかな。サブロウはもう俺らの前では隠そうとしてないからサングラスなしでも見えるけどな。


「こんなに小さいのによく魚をいっぱい食べられたね。でもとりあえず刺しておこうか、悪いことを言ってたし」とウミ。


こいつ怖いな。ヘビ、改心しないとマジで息の根を止めそう。


「サブロウ、そこのアオダイショウにお前の正体を見たぞ。真結びにして川に放り投げたろか、とそこののっぽが言っていると通訳してくれ」


「かしこまりました」


そしてペロペロ。アオダイショウ(改)もペロペロ。カッパに貸したサングラス、なんかネバネバする粘液がついてるから後で川で洗わねば。


しかし通訳はもどかしいのぉ。


「ユイさんや、これひょっとして君、最初からサイズダウンしてるの知ってたり?」


「そりゃ封印した側の血縁者ですし? それなりの能力もございますことよ」


とカッパみたいな返しが来た。


「お前、このヘビの言ってることも読心術でわかってるんちゃうか?」


「さあ、どうでしょう~」


と言ってくるりと回る。ちっ! かわいいぜ。ちくしょー。


あ、なんかユイ、顔が赤くなってるぞ。


---


「よしわかった。では封印を解いてくれ、とのことでございます。解いてくれたら約束は守るとのことで」


「了解!」


そうして僕たちは大蛇の祠の封印を解いたのだった。


いや、ぐるぐる巻きにされてた入口の紐をカッターで切っただけだけどね。


「うわ! アオダイショウが大蛇になっていく!」とウミ。


僕も見たいけどベチョベチョのレイバンはちょっとかけたくない。


「あ、完全にさっき見たのと同じ電柱サイズになったわ。偏光ガラス越しに見ても」とウミ。


よし、完全に封印は解けてもとに戻ったね。


「じゃあ約束守っての! カッパをパシリに使うのをやめろよ」


と言うとサブロウがそれを大蛇に伝える。


「あわわわわ、行者様! 解放してくれたお礼にお前らを飲み込んで我が血肉にしてやろうと言っています。これは本気です! 逃げて!」


サブロウは自分を盾にして通せんぼの形をして僕らを逃がそうとしてくれている。


こいつ、ほんまええやつ!


それに比べて~~~~~~~。


「ごるぅぁああああああ! お前というやつはぁあああああ! きぇえあああああやああああ~~~~ん!!!!」


僕の天秤棒(改)が気合とともに大蛇の脳天を一閃。大上段からの面を食らわせた。ウミも僕の面と同時に顎の下にカーボンのしなりの効いた槍を打ち上げた。上と下からのダブルパンチ。これは効くやろ。


脳震盪を起こしているらしい大蛇に最後はユイがサマーソルトキックを食らわす。華麗に大蛇の頭を踏みつけてからバク転をする。


ちょっと聞きたいんだけど、これってほんとに効くの? 単に体の上を走っているだけじゃないの? どこにダメージが?


などと思いつつ、キックの時にドレスの裾が捲れ上がって太ももあたりまで見えたのを僕は見逃さなかった。慌ててユイが着地と同時に裾を押さえた。


なんか知らんけど勝った気がする。実際に勝ったけどね、大蛇に。


---


大蛇を元の祠のところに引きずっていき——これはさすがのカッパ、略して、さすカッパ! 昔話で相撲が強いって読んだけど、サブロウ一人で引きずっていった。フィジカル、僕らの誰より強くないか?


で、荷物の中から万能、これさえあれば大抵なんとかなる銀色のダクトテープを取り出す。噛まれると困るので大蛇の口をぐるぐる巻きじゃ。なんかディスカバリーチャンネルでワニの口をダクトテープで巻いて保護してるの見たな。あんな感じ。


その後で大蛇のほっぺた……がどこかわからんので横っ面をしばいて目を覚まさせる。


「ええか? 自業自得やからな? 助けてやろうとしたその気持ちをお前さんは裏切ったからその結果や。わかるな? もう封印したら二度と出られへん。ダクトテープで祠をぐるぐる巻にしてやるから。何年か何十年か何百年か先に親切な人が来たら開けてもらえるかもの」


「ソラ君、マジでやるん? ちょっとかわいそうな気が」


いや、さっきアオダイショウの時に刺し殺そうとしてたウミに言われても。


「俺らの怖さがわかったか? 舐めた真似せえへんのやったら助けてやらんこともない。反省するなら今度は逆にお前がカッパの家まで週一でええから山の幸を差し入れに行け。子どもが5人もいて大変なんや。魚は嫌いやからベジタリアンになるかも知れん。野菜、特にきゅうりをたくさん持っていくなら解放してやらんでもない、返事は!!」


……無い。


反省してないんか、こいつ。


「返事は!?」


……無い。


「三度目の正直って言葉もあるからもう一回聞く、ラストチャンスや。反省してきゅうりを持っていくか?」


「ソラ君、なんかつめ方がおかしくなってる」とウミが笑う。


しかし返事はない。


「よし! わかった。反省はないと。こいつを封印するぞぉお!」と宣言。


「あの、行者様。舌を出そうにも完全に口が塞がれておりまして会話ができないかと存じますが……」


あ、そうやった。鼻の穴しか残してないわ。


「ソラ、その蛇、泣いて反省してるわよ。ギャン泣き。最後のキックが効いたそうよ」と笑うユイ。


あんなキック絶対見せもんや。派手なだけでどこにも効いてないに決まってる。


と思った瞬間、目の前を垂直に何かが真上に走り去った。


「ソラ君! 大丈夫?」


「ん? ここはどこ? 私は僕……」


「よかった、気がついて」


「まさか?」


「ユイにサマーソルトキックをくらって気を失ってたんだよ」と呆れ顔のウミ。


「どう? わかった?」と不敵に笑うユイ。


「うん、わかった。……白だった」


今度は見事なハイキックが側頭部に決まって僕は吹っ飛んだ。


「なに見てんのよ! このバカ!」とユイ。


「ナニ見せてんだよ! バカ」とふざけて言うとユイがまたこっちに掴みかかろうとするのを、カッパとウミが羽交い締めにして止めている。


危ないところだったぜ、ふ~。


---


とりあえず大蛇の反省は本物のようで、説教するたびにペロペロしていた。


言葉はわかるようなので、イエスならペロ、ノーならペロペロを仕込んだ。


「カッパにちゃんと週一で差し入れな!」と念を押すと1ペロしたので大丈夫。


これでやっと飯屋の親父のミッションクリアとなったのだった。疲れた~。


アホなことをしてる間に服も靴も下着もすっかり乾いてご機嫌になった。靴下はドロドロになったので後で洗おう!


「よし! 帰るぞ!」と皆に宣言して宿に凱旋だ。


例の霊の大名行列はウミの出番だ。さぁ帰ろう、帰ろう。


帰りは軽い足取りで山を下って河原に出た。


「ここからはまた川の中となりますので」と申し訳なさそうにサブロウ。


ユイは翼を広げてもう川の向こう岸の岩に座って、こっちを見ている。


「乾いたとこぞ、これ!」


そう言いながら僕とウミは、また水の中をじゃぶじゃぶ濡れながら歩いて帰路についたのだった。


---


あ、だいぶ後の話だけど、高知の霊場をあちこち回っている時に「吉野川の上流で大蛇が泳いでいるのを見た」という噂が流れている、恐ろしや~という話を耳にした。知らん知らん、僕らのせいじゃないしな。


でもあいつちゃんときゅうり運んでいってるんだな、「じむ」に「じょんそん」に「よはん」と「めありー」と「じぇーん」だったかに。「全部間違っております…」とサブロウの声が聞こえた気がした。知らん、知らん。


---



*(第14話へ続く)*

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