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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
吉野川

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第12話 てんむす、参上

「おい、ウミ君よ」


「はい……ごめんなさい」


ずぶ濡れのウミが謝る。


「なんで花火を宿屋に置いてこなかったのかな?」


「え、なんか打ち上げまくったら面白いかなと思って」


「野生動物がびっくりするでしょ?」


「ごめん……」


「用もないのに暇な天狗が呼ばれたと思ってやってくるでしょ?」


「ごめんなさい」


僕らはあの後、宿屋に行って久々に手足を広げて泥のように眠った。そして朝早くからカッパのサブロウのところに向かっていたのだった。


「で? なんで怒られてるのかな?」


「天さんに連絡用に使おうって言っていたロケット花火を早く打ち上げたくて、用もないのにリュックに入れてきてしまいました」


「はい、続きは?」


「ふざけて河原の石の上をジャンプして渡っていました」


「そんで?」


「思いの外濡れた石が滑って、リュックも一緒に川に落ちて濡らしてしまいました」


「花火はどうなったのかな?」


「濡れて導火線もシケって火がつきません」


「そうするとシャチョゾンが必要になった時どうするのかな?」


「ごめんなさい」


「ねずみ花火も濡れちゃったね」


「濡れちゃいました」


「おまえのぉ~! ただでさえ余計な荷物持ち歩くな言うのに、遊びのモン持ってくるなや。仕事やぞ!」


「仕事なん? カッパのとこ行ってから剣山のナニやらをナニするだけやろ?」


「お前、あやかし関係全部俺にやらす気やな? お前もクリップオンおろしたら見えるやろがい」


「見えたとて、ソラ君みたいに口だけで妖怪丸め込めんし」


「詐欺師みたいにいいなや。誠意と真心があったら人の心は動くんや」


「相手は人ちゃうやん」


「屁理屈いいなや!」


「人生経験では叶わんから僕は見とくしかでけんよ。しばく時は手伝うけど」


「お前武闘派か。しかしまぁ冗談は置いといて、天さんと連絡取れなくなったのは痛いの。またなんか方法考えな」


---


「……呼んだ?」


なんか空中から声が聞こえた気がするけど、天さんちゃうぞ。若い女子の声や。めっちゃ久しぶりに聞いた気がするけど……カッパ嫁かな?


「カッパじゃないよ」


とまた可愛らしい声。カエルかな?


「カエルじゃないよ」


なにこれ怖い。心読まれてるんですけど。


恐る恐るレイバンをかけようとリュックに手を伸ばそうとすると——突然それは現れた。


「おはよう~! 私、天狗の娘。あなた達2人が心配だからってパパがついていけって」


え? なにこれ……どういうこと?


眼の前にはハーマイオニーじゃないけど、炎のゴブレットの頃のエマ・ワトソンやん! めっちゃかわいいんですけど。違うのは黒髪ってところくらい? ってくらい似てる。


天使だ!

挿絵(By みてみん)

え? でも天さんの娘ってか?


「君が天さんの娘さん? 天さん結婚してたの?」と冷静に聞くウミ。


「ううん、結婚とかそういうんじゃないみたいだけどママとパパの娘だよ」


「君はお父さん似? お母さん似?」


「ママだよ!」


ウミが空を見上げて何かと見比べている。


「どうなんウミ?」


「この子の方が若い」


そういうことじゃないんだよ!


はぁ……なんかそういう感じね。色々事情がありそうだけど。


「で、君はどうして天狗さんに言われてここに来たの? 僕らなら大丈夫だよ。立派な大人と坊主の卵だし」


「あの2人、放って置いたらすぐ死ぬからって。せっかく久しぶりに昔の友人に会えたから一緒にいたいみたいだよ」


なら天さんがくればいいのに。


「パパはママに見つかると面倒だから基本は山の中林の中で跳ねてるの」


また心読まれた~~~。


だから代わりに娘をって事か。かわいいからまあいいけど。


「とりあえず勝手に心を読むのはやめてもらっていいかな?」


「うん、わかった! 許可取ってから読むね」


誰がOKするか。


---


「君の名前は?」


「名前? 特につけてもらってない。私達って自分で名乗るんじゃなくて、人間が勝手に呼び方決めるから」


そうなの?


「そうだよ」


……心読んでるやん!


よし、天狗の娘だから天結と呼ぼう。


「おい、ウミ。この子の呼び方決めたぞ」


と伝えて、河原の石の上に水をつけた指で「天結」と書いた。


「あまゆいちゃん?」


ぶぶー。


「てんゆいちゃん?」


ぶぶー。


「正解は! 『てんむすちゃん』」


「ええ~! なんかやだぁ! どっかの名物のおむすびみたいじゃない!」


「はい、君の名前は今日からてんむすです! 後世にも君の名はてんむすと伝わり、末永く信仰されることでしょう! 次期女神になるかもしれないんでしょ?」


「えっ! なぜそれを……一言も言ってないのに。あなたもまさかの読心術??」


そんだけ色々ヒント垂れ流されたらウミでもわかるわ……。


「なぁウミ!」


「えっ! 次期女神様ってどういう……」


お前どんだけ鈍いねん! 天才のくせに。さっき空の女神と顔を見比べてたのはなんやったんや。年齢確認だけなんかいっ!


---


「ところでてんむす君。君はアデヤ様のスパイ——我々を監視するため、もしくは妨害のためでもあるよね? 着いてくる目的は?」


「また読心術???」


この子もたいがいやなぁ。


「天さんの依頼があったから姿を現したけど、言われなくても透明なまま俺らの動向見るつもりだったろ?」


「ふふふ、半分正解、半分ハズレ。ママからはこれ以上信仰の邪魔を妨げるようならなんとかしなさいと言われているわ。でもパパからはあなた達に危険が迫ったら救い出すように言われてるわ」


「利益相反やん」


「だから私は基本、面白そうだからついていくだけ」


「面白そうって……若い女の子が若い年頃の野郎2人となんてよっぽど危険だよ」


「次期女神候補の私をどうしようって?」


その瞬間、空にいたカラスが一斉に集まってきた。


「ソラさん、アデヤさんの眉間のシワが深くなったよ! ヤバい」


「ね? なにもできないでしょ? あと私の年が気になるの?ふふっ」


そう言って耳打ちされた。


わかりやしたぜ、姉御!僕一人の胸にしまうは重すぎるので即開示。ウミへごにょごにょ耳打ち。


てんむすは涼しい顔で川の上流を眺めている。どこからどう見ても普通の女の子にしか見えないのに、その正体は天狗の娘にして次期女神候補。年齢…怖っ!


ついてくるなとも言えないし、言えたとして止められる気もしない。


「……とりあえず、よろしく、てんむす姉さん!」


「うん! よろしく、ソラ。姉さんはやめてね。それとウミも」


「あ、はい……よろしくお願いしますです」


ウミが珍しくちょっとだけ緊張した顔をした。


天才も年上の女性には勝てないらしい。てんむすって呼び名もどうかと思うな、年上やし。ほんどはダメだけど歩きスマホしながら「てんむす」ってスマホで変換したらやっぱり「天結」って出た!俺らウミとソラで、テンだとテンさんと被るので「結」の字から取って「ユイ」にしよ。人間が勝手に呼び方決めていいって言ってたし。


「ねえさん、とりあえず年齢の事は置いといて本名『てんむす』で、ニックネームは『ユイ』でよろしく」


「いいね『ユイ』。見た目通りって感じで」とウミ。


「私はなんでもいいわよ。『てんむす』以外なら」とユイが笑う。笑うとやっぱりエマやん!素敵。年上やけど。


「あと、神様クラスの年齢はちょっと想像がつかないので、とりあえず見た目通りに扱うよ、ユイ」と僕。


「はいはい。私も姉さんなんて言われたことないからそうして。神界からするとまだまだひよっこだし」


なんかまた新しい単語出て来なた。神界ってなんやの?


そして僕達3人はいよいよカッパのサブロウと共にカッパをパシリに使う剣山のナニをナニし行くのだった。



---


*(第13話へ続く)*

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