宿屋へ
「よし!帰るぞ」と僕。
「え?帰るってどこに」とウミ。
「魚の件はわかったし、サブロウもこれからはセーブするやろ。一旦宿行こう。もう疲れた」
「あ、キャンプ続いたからちょっと休みたいね」
「カッパ!また出直すからまた明日来る。俺が呼んだら5秒で支度しな」
「行者様の仰せのままに」
相変わらず妙に礼儀正しいカッパ一家に手を振って、僕らは町へ戻り始めた。
「宿って久しぶりやね。コトヘラでもあんまり泊まらんかったし。基本テントかサブさんの店の倉庫とかやったもんな」
「俺ら金稼いでないからしゃーない。誰に頼まれて寺まわってるわけでもないしの。誰にも見られてないボランティアや」
「いや、ちゃんと見られてるよ」
ウミが空を見上げる。
あ、そういや見張られてたな、アデヤさん。見守られているというより、睨まれているらしいけど。
「僕ら、女神さんの邪魔してるだけやしね。なんか最初よりサイズダウンしてる気がする」
「そんだけ他の信仰が解放されていってるってことやろ? あと物の怪の類も」
「めっちゃ嫌な顔してはる」
「今どんくらいのサイズ?」
「うーん……自由の女神くらい?」
「え? 立ち上がったの?」
「前から立っとるよ。スカート覗け言うとったやん」
「せやったな」
バカ話してるうちに食堂へ戻ってきた。
「おっちゃーん!魚の件、目途ついたでー!おそらくそのうちきっと魚の量は元に戻るような気がしなくもないと思うよ、たぶん」
「えらい婉曲な答え方やのぉ」
店主のおっちゃんが苦笑する。
「まぁええわ。ありがとう。手間かけたの。宿取ってないやろ?うちの系列の宿あるから割引券渡すわ。良かったら使ってや」
「あ、もろてええの? 宿泊券じゃなく割引券っていうのがまた商売人やな」
「ふふ、何年この仕事しとると思とるんや。あ、宿の朝飯と晩飯はここやから。受付で食券持ってきてや」
「食券て?そんなシステムいつから……」
とウミが首を傾げる。
「なんか知らんけど色々統一感ないのぉ。天狗がスマホ持っとったり……」
「呼んだ?」
突然後ろから声。
振り返ると、そこには半端なくデカい荷物を背負った天さんが立っていた。
人型バージョンのおっさんモードだ。西洋風の農夫みたいな格好してるくせに、両手にはコーナンとダイソーとマルナカの袋。マルナカて。もうほぼイオンやろ。よう見つけてきたなレアな店舗。
……いや、まぁええわ。わざわざ探してくれたんやろうし。
しかし、なんでここがわかったんや?
「天さん、スマホのGPSも使えないのになんでピンポイントでこの店におるってわかったん?」
「ん?ああ……あれの視線たどったらこの辺やろと目星つけての」
「あれってまさか?」
「空の上からお前たち監視してるあれじゃ。わかるやろ?」
「天さん、あれ見えるん?見えるのウミくらいかと思ってた」
「アホか。あれが見えるから見つからんように山奥で跳ねとったんやろがい。空、飛んでたらすぐ見つかる」
「見つかったら天さんも封印されるん?」
「あんなんにワシが封印されるかい。逆にワシが……まぁええ、昔の話やし」
「天さん……あんた何者?」
「ワシは天狗さんや。あ、あと!」
急にこっちを指差す天さん。
「お前、シャチョゾンってなんや! あのおっさんめっちゃ激ギレしとったやんか! 『お前は〜!』言われて往生したぞ」
ふふふ。社長、短気やし。
「でもまぁちゃんと買い出しは行って荷物もほれ、こんなにいっぱい用意してくれたぞ。っていうかお前ら要望多すぎや。めっちゃ羽凝ったわ」
「羽って凝るんや?」
ウミが変なところに食いつく。
「見せて見せて!」
「アホか。こんなとこで正体見せたら、『きゃぁー天狗様〜!』って人集まってきて銅像建てられちゃう的な?崇め奉られ系?」
無いと思うな。
ギャー言われて塩撒かれて犬に吠えられると思う。
「とりあえず天さんありがとう。その先の宿屋あるやろ?あそこに運んどいて。あとは自由に帰ってええで。また用事あったら呼ぶわ」
「なんか合図決めといた方がええんちゃう?」とウミ。
「でもスマホも電波なかったらライトとYAMAPとバンプやしな。トランシーバー用意してもも電池食いまくるだけやし」
「お前らワシをなんやと思ってる?」
「天狗」
「天さん」
口々に答える僕ら。
「わかっとんのか〜い!なんやその扱い!」
「天さん」
「ん?」
「そんなん言いながらめっちゃ嬉しそうやん。元々長い付き合いやったんやろ?俺らと?ええんやでもっと甘えて」
「ええんやで甘えて」とウミも続く。
天さんは少し顔を赤らめながら鼻を掻いた。
「なんやお前ら……久しぶりに空海の魂と会えたから多少テンション上がってもええやろ?」
「空海言わんといて」
「言わんといて」
今度は僕らが顔を赤らめてうつむく。
変な格好した若者二人と、大荷物抱えた百姓のおっさんが三人並んで顔赤くして下向いてる。
……シュールやな。はたから見たら。
「あ、花火リクエストしとったの? ウミ」
「うん。この辺、火気厳禁とか花火禁止の看板ないから今度やろうって盛り上がったから書いといた」
「ロケット花火も束で買ったよな?」
「うん、紙に書いた!クマ脅すのにも使えるかと思って」
「よし!それでいこう。天さん、ロケット花火飛んだらとりあえず来て。またお使い頼むかもしれん」
「ロケット花火切れたらねずみ花火投げるから、とりあえず集中しといて」
「お前、シュルシュルシュルパーンって山から見えんぞ。ロケット花火ならまだしもねずみ花火は……」
「来てな!ちゃんと」
念を押してから宿屋への配達をお願いする。
なんか出口で犬に吠えられてたな。気の毒に。
「おっちゃん、お騒がせしました。ほなまた晩御飯よばれにきますわ」
「なぁ兄さんら。さっきの人やけど」
「あ、なんも注文させんでごめんなさい。ほんのちょっと立ち話のつもりが」
「いや、あの方……天狗様やろ?」
「え?」
「なんで……?」
「犬に吠えられた時、一瞬背中から羽がぶわって出て、鼻が伸びた……」
うかつ。
うかつすぎる天さん。擬態能力赤点や。
「天狗様はここら一帯の山の主様で、それはそれは大昔から守り神みたいな存在やったと聞いている」
「聞いている?」
「アデヤ神様の教えで、全ての神はアデヤ様であるとされていたんやけど」
「いたんやけど?」
「その時、天狗様だけは存在を消されず、信仰も放置されていたと。なのでワシも、じいさんばあさんから天狗さんの話を聞いて知っとるんじゃ」
「え?森の中にずっと隠れたりしてたから存在バレてないって言ってたけど」
「アデヤ様は天狗様だけは特別扱いしてるみたいやぞ」
「特別扱いとな?」
「元々は二神でこの世を治めるみたいな話もあったとか」
「天狗さんが神さん?」
「なんであんなそこら中フラフラしてるんやろ?」
「呼んだ?」
またフラッと戻ってくる天さん。
なんちゅうタイミングや。
「これはこれは天狗様……ありがたや」
「お? ワシの事知ってるの?なんて敬虔な信者」
「いえ、そういうわけでもございませんが」
ブフッ、と僕らは吹き出した。
「で? 二神とか聞いたけどなんなん? 天さん、神になってこの世支配する気やったとか?」
「ちゃうちゃう。話せば長くなるけど……聞く?」
「手短に」
「元カノ、口論、お互い無視、以上」
あ〜もう!
情報がまた渋滞する〜。




