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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
吉野川

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第10話 ホントの敵は

そこにいたのは——以前、吉野川の河口で悪さをしていたのをウミと一緒に説教したカッパだった。


いや、カッパの顔立ちなんてわからんから同一カッパかどうかはわからんけど、ビクッとしたので多分同じ。


このカッパ、なんでかアデヤさんの封印を逃れていたらしく、河口の町の人々を怖がらせていたのだ。川にいると突然足を引っ張られ引き摺り込まれそうになったとか、飼っている家畜がいなくなったとか。姿が見えないので町の人達はひどく怖がっていた。幽霊の概念も無いからわけわからんわね。


僕らが河口付近に様子を見に行くと——川の中の岩の上で文字通り甲羅干しをしているカッパ発見。


レイバン最高!


「そこのカッパ! ちょっとこっちへ」


声をかけるとギクッとこっちを見る。慌てて水の中に逃げようとする所をウミのアルミの槍がカッパの甲羅にゴーン。軽いから貫通する威力は無いけど、カッパは気を失って流れていった。


カッパの川流れってこういう事?


とりあえずそのままにしとくわけにもいかないので、下流の浅瀬に流れ着いた所を確保。事情聴取。


書くと長いので簡単に言うと——コイツの祠は水中にあった為、アデヤの封印に巻き込まれずに済んだ。でも町民達の生活はガラッと変わり、昔は川にお供えしてくれていたきゅうりも団子もおにぎりも、なーんもお供えされなくなった。妖怪の類もいないものとされたからねぇ。


で、嫌がらせをしたり、腹が減りすぎて鶏を盗んで食べたら思いのほか口にあったのでちょくちょくいただいていたらしい。


とりあえず自立するよう話した。人に頼らない、人のものは取らない、自分の事は自分でする。それが立派な社会人ということを説いた。なんか違うかもしれないけど、ニートはいかん。


その時にカッパは改心して、必要なものは自分で獲って暮らすって約束したはずなんだけど。


---


「こら! お前、この前あれだけ話したやろ? 納得してもう自活するようにする言うたんちゃうんかいっ!」


つい声を荒げてしまう。


「あなた様はあの時の行者様!」


「行者ちゃうわ、ただの会社員じゃ。絶賛異世界出向中やけどの」


「何をおっしゃられてるのかよくわかりませんが……その節は」


「覚えてるならなんでまた悪さしとるんや」


「悪さとは? 私はただ言われた事を守って自分の必要とする分だけを川からいただいているだけで」


「町の人が魚影が薄くなるくらい魚が激減した言うとる。お前が獲りまくってるからやろ?」


「いえ、本当に必要な分だけを……」


「お前どんだけ食うねん! 往年のジャイアント白田か! ギャル曽根か!」


「ソラさん、伝わらんて」とウミが呆れる。


せっかく改心したと思ったのに全部無駄だったと思うとエキサイトしてしまった。アンガーコントロールやな、深呼吸、深呼吸。ふーっ。


「ってお前、なに帰ろうとしとる! まだ話の途中や!」


カッパは背を向けて川の上流に泳ぎ出そうとしていた。


「いや、子供らが腹を空かせているので」


「あ? 子供? お前嫁さんおったんか? 1人やったやん」


「え? 気になります? 聞かれます? 私の話?」


そこから小一時間、カッパの惚気話を聞くハメになった。


奥さんとの出会いから子育てに至るまでじっくりと。


なんでも改心して人の少ない上流で静かに暮らそうと思って吉野川を遡ってきている最中に、こちらも封印を免れた奥さんカッパと運命の出会いをしたらしい。そして2人でさらに上流の淵に居を構え、仲睦まじく暮らしているらしい。


「で、子供とな?」


「はい、結婚してから5人の子が……」


「まてぃ! 俺ら出会ったのってまだ数ヶ月前やんな?」


「うん、前回の徳島遠征からやからそんなにたってないかもね」とウミ。


「5人てなんや? 連れ子か? 奥さんの」


「いえいえ、私たちの愛の結晶でございます」


「計算合わへん」


「まさに文字通り玉のような卵でございました」


「え? なに? 卵って?」とウミを見る。


「うん、甲羅に水かき……卵生かな。まあじっくり見たら両生類的な感じ?」


「お前両生類やったんか!」


「なにを言ってるのかさっぱりですが、それはそれは妻に似た可愛い子達で。幸い美人の妻に似て一安心でございます」


「なんかムカつくのぉ~」


「いや、ムカつきはしないけど」とウミ。


「無性にお前の丁寧な口調もムカついてきた」


「そんなご無体な……」


---


とりあえず、ホンマにそんだけ魚がいるのかチェックや。


「お前の家連れて行け。それで納得したら町の人にも説明してやる」


「え? 私の家に? ご案内するのはやぶさかではございませんが、家内に色目をつかうのだけはご容赦を」


使うか! ……多分。


そして僕とウミは河原を、カッパは水の中をスイスイ進む。カッパの腰から下げた紐の先には獲ったばかりの鮎が20匹ほど数珠繋ぎ。


どんだけ食うねん。


程なくして川の流れの穏やかな淵に到着。


「あの奥でございます。おーい、帰ったよ~。魚を取りに来ておくれ~」


カッパが呼びかけると、水面にポコんとお皿が1枚、続いてミニ小皿みたいなのがポコ、ポコと5枚並ぶ。そして皆一斉に立ち上がる。大きいのと小さいのがズラーっと。


「うちの家内と子供達です。どうです? 美人でしょ? こんな美しいカッパ見たことあります?」


と自慢げなカッパ。


奥さんカッパが恥ずかしそうに顔を赤らめる。緑に赤ってなんか割と黒くなるのね? ちょっと怖い。カッパはカッパ妻の元に歩み寄りデレデレ。


「ちなみに、わかるか? ウミ」


「うん、わからん」


「だよな?」


カッパの顔なんて全部同じにしか見えん! 区別つくかぁ! 電線のカラスを見たって全部同じにしか見えんわ。でも社会人やしここはおべんちゃらのひとつでも。


「いやぁー綺麗な奥さんでびっくりしました」


「あの、私ですが……」


あ、旦那カッパに言ってしもた。


同じ顔が一緒に並んだらわからんて! 子供らも小さいだけで全部同じにしか見えん。動物園の飼育員の方はペンギンの顔を見分けられると言うけどホンマか? ハンコ押したみたいに同じやぞこれ。シャッフルしたら親でも間違うと思う。


---


改めてカッパ親子を並べて、尋問開始。


「カッパ父、君の名は?」


「私でございますか? 私の名前は恐れ多くもサブロウと名乗らせていただいております。由来でございますか? それはもちろんこの雄大な流れ、四国三郎の名を持つ吉野川の……」

こいつアデヤ神の影響を一切受けていないから、そのまんま言っとるな。裏四国とか異世界とか関係なくどストレートや。


「ウミ、やっぱりここはどっかで分岐した俺らの世界で間違いないの」


「うん、アデヤさんと関係ない連中は地名とか全く影響受けずみたいやね」


「ほな天さんはどうなんやろ?」


「あの天狗はそもそも自由やし、アデヤさんの封印関係ないとか言ってたし」


「他にも封印免れた妖怪やら人もおるかもな」


「うん、アデヤさん信仰してない人とかいたら話ししてみたいね」


サブロウか。こいつの顔はもう覚えたぞ。区別つかんけど……。

しかもよりによって、この世界で貴重な知り合いのドラッグストア店主のサブさんと名前がもろかぶっとるやんけ! めんどくさい。


そして奥さんは「フミさん」というらしい。

和風や。なんかもう凄く安心する。サブロウとフミさん、覚えとこ。

そして子どもたちはというと——並んだ端から「とむ」「かーる」「えでぃ」「まりぃ」「べろにか」。

……しばいたろか、サブロウ! 僕の安らぎ返せ。


「なぁサブロウ君、なんで子供らの名前はそんなハイカラなの?」


「ハイカラとはちょっと意味がわかりませんが、私がここに来る前——行者様に殴られる前ですが——河口近くにいた頃、人間たちが子どもを呼ぶ時にそのような音で呼んでいたかと。子どもにはそういう名をつけるのが近頃の流行りかと思いまして」


カッパが人間のトレンド気にするな。真に受けてたら子ども大きくなったらグレるぞ。「光宙」で「ぴかちゅう」と名付けられた子どもの気持ちわかるか? あ?


とりあえず名前は置いておく。


「さて僕たち~、もうお話できるかな~?」と子供らに話しかける。


「はい、なんでしょう?」


端っこのとむかかーるが答える。同じ顔してるから見分けつかん。いや、生後まだ1ヶ月くらいやろ? 何しっかり喋ってるのよ。


「驚かれているようですが私達は人間に比べると成長がかなり早うございます。基本親は卵を産みっぱなし。孵化した私達は自力で魚やカニなどを食べ、親は子育てしないのがカッパ流と父から聞かされております」

親に似て子どももきちんと丁寧に喋るのぉ。社会人の僕の立場が無い!


「ソラさんより丁寧語使えてるね」と見透かしたようにウミが笑う。


気を取り直して「君たちはお魚をいっぱい食べちゃうのかな? 毎日何匹も何匹も?」と聞くと、反対側に立っていたまりぃだかが答える。


「いえ、父には魚はそれほど好きではないので、できればきゅうりなどを用意してくれると嬉しい旨を伝えているのですが」


え? 大量の魚は?


「いやいや、それはダメですよ、べろにか」


あ、名前ハズレとった。


「育ちざかりに好き嫌いはダメです。しっかりカルシウムを取らないと大きくなれないですよ」


あ、サブロウ、カルシウム言うたで。もうスルーするけど。


「でもお父様、野菜もしっかり食べろと言ったのはお父様ですよ」


「はい、それも間違いではありませんよ。ビタミン豊富な野菜をとるのも必要です」


ウミが小声で「ビタミンなぁ」と呟く。


はい、スルースルー。


「そういう事で私達はそれほど魚を好んでおりません」と真ん中の子が言う。

う~ん、多分とむ!と心で思う。


「だからいつも私がせっかく獲ってきた魚が余ってしまうのですよ、とむ」


よっしゃ当たった~! 心でガッツポーズ。

魚乱獲は子どものためだったと。でも子どもは菜食主義ですよ、と。じゃあ余らせた魚はどうしてんのよ?


「余った魚はフミさんとサブロウが食べるの?」


「まさか、2人でそんなに食べれないですよ」


「じゃあ無駄に獲るなよ、町の人困ってるがな」


「それが……余った魚をよこせという知り合いがおりまして」


「おりまして?」


「はい、いくらあっても全部食べるから持って来いと言われているのです」


「食べもしないもんを獲って、それを持っていくってパシリやん」


「パシリがなにかは存じ上げませんが、持ちつ持たれつということでそのようにしております」


「はい、結論!」


僕は一息ついてから言った。


「カッパのサブロウが魚を乱獲して町民の皆様の分まで獲ってしまっています。子供らが食べる分と思って獲るけど子どもが嫌がって食べないので、それを知り合いに献上しているってことだね?」


「はい、そのようになります」


「やっぱりパシリやん。相手誰や? 森のクマさんとかか?」


「いえ、剣山に棲んでおりますところの……」


「剣山に棲んでおりますところの……みなまで言うな!」


「ソラさん! それってこの前言ってた……」


「多分それやの」


「時間軸ようわからへんね」


「時間軸どころか、カルシウムもビタミンもそんなに口に出すカッパ聞いたこと無いわ」


「いや、僕そもそもカッパ見たこと無かったし」


とウミがクリップオンサングラスをパカパカした。


はぁ~。


次はまた山か……。


*(第11話へ続く)*

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