126話 事後処理
翌朝。
「一本さん、鬼子母神凄かった。太い牛鬼の首がストンって抵抗なく落ちたわ。怖いくらいの切れ味やった。ありがとう」
「そりゃそうじゃ。あの重圧の中で作ったからのぉ。もしお前が反撃されて怪我でもしようもんなら、おおか……天狗様から何されるかわからんかったしの。わしがこれまで作った中でも最高傑作じゃ。これは後世に残るぞ。まさに至宝やの」
「そうだろうなぁ。ものすごく凄い逸品だと思うよ。でもな、一本さん。これ、また鐘にして欲しい」
「はぁ?この宝を?お前、これ地上最強の武器になるぞ。これをわざわざ潰す意味あるか?」
「ん〜、俺はもう今後はどんな命も奪いたくないのと、牛鬼の血をたっぷり吸ってるしな。そもそも俺は空海さんの金剛杖くらいが身の丈に合ってるわ。正直俺の手には余る。だから悪いけど、鐘に戻してくれへん?」
「お前がそこまで言うならやるけどの。また植木鉢にするんか?なら最初から植木鉢に作り変えるぞ。嫌やけどな」
「この場所はもう寺にはならんと思うから、寺の鐘じゃなく教会の鐘にしてくれる?紐を引っ張ったらカランカランって鳴るやつ」
「ゴーンじゃなくてカランカランってか?わしにはようわからんけど」
「ユイ、絵を描いてあげてよ。アデヤ教会用の鐘。ほんでサトちゃんがメモってる内容も反映させて作って」
「了解。じゃあ一本さん、後で紙を渡すからしっかり作り直しておいてね」
ユイが一本さんにウインクする。
「あ、はい、お嬢様」
ユイがお嬢様ってか?なんじゃそれ。なんか山小屋で天さん、僕のいない間に一本さんにかましてるんちゃうか?しょうがないなぁ。
「朝からサチは見てないけど、生贄になった子らのとこ、回ってくれてるよな?」
「それはもう朝からあちこち元気に走り回ってるよ。牛鬼倒したってマキさんに伝えたら、マキさんも子供は帰ってこないけど、少しは前を向けるって気になったって言ってくれたから。サチもその気持を感じてやる気だしてたよ」
とウミ。
「アオ、お前はサトちゃんのメモにある犠牲になった子供のご遺族のところを回って、弔いの儀を行うから宿屋に来てって伝えて。全部の家に言って、全員の承諾を取ること!ええか?まだ公にはしてないけど、俺らが牛鬼倒したってことも伝えていいから」
「わかりました!メモに載っているご遺族全員ですね」
そう確認してあっという間に走っていった。
「ソラ君……」
深刻な顔をしたウミが声をかけてくる。
「どうした、ウミ?」
「これからフジマサはどうするの?」
「罰を与えるさ」
「もう命、長くないでしょ?」
「まぁ長くないねぇ。放っておけば、もう数日くらいじゃない。末期も末期だし」
「罰を与える意味あるの?」
「意味を与えればいい」
「なにそれ?」
「フジマサにアデヤ様のご加護がありますように……だ」
「ふうん……」
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僕とユイはフジマサのいる町の中央にある宿屋に来た。手には白い袋を持って。
ん~重たいわ。怪我した手に食い込んじゃう。天さんところでの修行と牛鬼との戦いでも手のひらボロボロなんだけど。悪鬼とやったときも血まみれになったけど、今回も豆が潰れて痛い痛い。
「ゴホッ、ゴホッ……今日も体の調子が良くないんじゃ。なんの用じゃ?」
とフジマサ。もう気力だけでソファに座ってる。そこら辺は男だな、メンツを大事にしているようだ。
「あ、あんたにお土産ですよ」
ドンと机の上に袋を置く。
訝しげに護衛の男がフジマサの許可を取って中を改める……と、部屋の隅に走っていってゲェと嘔吐する。汚いなぁ、もう。
「お前、なんじゃそれは!ゴホッ」
袋を下までおろしてフジマサに中身を見せてやる。
「ご対面〜♪お久しぶり……かな?」
「お前……これ、牛鬼……の首か?まさかお前が殺ったんか?」
「うん、俺がこの手でな。どう?うれしい?」
「ゴホッ!なんと!ようやった!凄いのぉ!お手柄じゃ!ケホッ。わ、わしがおらんようになったらこの町はどうなることかと、ゴホッ、心配しとったんじゃ」
「心配ねぇ……あんたが死んだあと、密約を守る為に誰が牛鬼のとこへ生贄を連れて行くかの心配か?」
「な、なんのことじゃ!」
やっぱり、こいつ、この前アオに生贄の話をベラベラ喋ってたの覚えてないな。あんなに僕らの前で喜々として語ってたのに。アオの催眠術、恐るべし。
「あんたが死んだら、牛鬼との密約を守れるやつがおらんようになる心配してたんやろ?良かったな。その心配はひとまずなくなった」
「おう、それは重畳じゃ。お前は何が欲しい?地位か?金か?」
「あ、サンゴは手元に腐るほどあるからいらんなぁ。強いて挙げるなら、あんたの命……」
そう言うと、さっきまでゲロゲロ言ってた護衛の男がこっちを睨む……が、前に僕にやられかけたのを思い出したのか、躊躇している。
「はっはっは、わしの命か?放っておいても、もう何日も持つまい。ゴホッ、私刑にする気か?それじゃ道理が立たんじゃろ?」
「私刑?しないしない。ちゃんとコーチの殿さんの裁きを受けてもらわんとな」
「ほうじゃろ?そんなの待つ間に、わしはアデヤ様の元に行ってしもうとるわ。ゴホッ。残念やったの」
その時、表が騒がしくなったかと思うと、一匹の大きなカラスがドアを破って飛び込んできた。
ローパーちゃん!
ユイがローパーちゃんの口に挟まれた書状を取り上げ、僕に渡す。中をサラッと読んでみると、バッチリお願い通りの内容。
「はい、これコーチの殿様から。現在この町には代官がいないので、食客である俺、ソラに、この件に関する一切の処置を任せるってさ。花押入りやから間違いないで」
フジマサに書状を見せる。
「コーチから代官送ろうにも、あんたが裏で消してたやろ?その辺の話も証言付きで送っておいたから話が早い」
「ふん!殺すなら殺せ!わしはこの町を思って……」
「やかましい!ジジイ。やってきたええことと悪いことのバランスが取れてないねん!悪いことが多すぎる。何人殺してきた?剣客、子供、代官、町の人。お前一人の命では帳尻合わんわ」
「ならどうする?一族郎党縛り首か?はん……ゴホッ」
「禁固刑やな」
「好きにさらせ。数日辛抱したらええだけじゃ。ゴホゴホゴホ……」
あ、吐血した。ヤバいな。
「フジマサさんよ。あんたは教会の横の牢で服役してもらうよ」
「教会の横に牢?聞いたことないのぉ。ゴホッ」
「ユイ、一本さんに大至急、牢屋作ってって書いてローパーちゃんに」
「わかった」
そう言うとユイはポシェットから手帳を取り出し、サラサラっと書いてそのページを破りローパーちゃんに咥えさせた。
ローパーちゃん、さっき無理して体当たりで扉破ってきたから羽に血が滲んでるけど大丈夫?と思ってたら、ユイが祈りを捧げる。するとローパーちゃんは大きく羽ばたき、元気よく飛び立った。ヒール?ホイミ?ケアル?
「祈りよ!バカ!」
「お前……治せるのか?本当に」
「私?完全に治癒はできないけど、それなりに……死なない程度には治せるわよ、フフフ」
ユイがフジマサにニッコリと微笑む。聖女の笑みだ。
「お前、まさか、わしを……」
「苦しそうだから治してあげるわ。死なない程度に、ね」
「やめてくれ、やめてくれ、死なせてくれ!アデヤ様の元にぃ〜〜〜」
「楽にさせるわけないだろ?お前は死ぬまで牢屋で反省しとけ。いつ死ねるかは……アデヤ様の思し召し、だな?」
ユイが微笑みながら頷く。
「ほな、行こうか?もう歩けるやろ?咳も止まってないか?」
「えっ?いつの間に……」
フジマサの咳はさっきからもう止まっている。
「あ、祈り?あれはポーズ。他人から見てわかるようにしてるだけ。本当はポーズも不要なのよ。祈りなんて誰にも言わず自分の心の中でするものだから。だ〜か〜らぁ〜、あなたのような形だけの祈りには意味がないのっ!」
そう言うとユイは、フジマサの後ろにある立派な大理石製のアデヤ像と、周囲に飾られた大小のサンゴを指から放った光で木っ端みじんに破壊した。
「こっわ!」
思わず声に出た。久しぶりに見たなぁ。
「じゃあお前んとこの親分さん連れて行くぞ。会いたかったら教会横の牢屋に来たらええからな」
そう護衛役に伝えると、着の身着のままのフジマサを、殿さんから任された立場で連行した。代官の代行。変なの。
教会に着くと、既に一本さんが裏の家庭菜園横のスペースに立派な牢屋を作ってくれていた。絶対に工事終わらせてくれていると信じていたんだわ。さすが!
「ソラ、これでええか?紙切れ一枚に『至急牢屋一人分』って、無茶もええとこや」
たった一人用で立派過ぎる気もするけど、まあ窓もあって明るくてええんちゃう?
「フジマサさんよ、ここでこれから寝起きしてもらう。罪状はもうええやろ?胸に手を当てて考えてみな。俺も初めは処刑一択と思ってたけど、それじゃ簡単に楽にするだけやしな」
「わざわざ生かして投獄か?お前は鬼か!悪魔か!ああ?」
フジマサが恫喝してくる。
「もうやめましょうや、フジマサさん」
と渋い声の司祭が話に割って入ってくる。
「ノブタ……か。今では司祭なんぞしとるが、お前も元は仲間やないか!わしと同罪やろがい!」
「フジマサさんさぁ、あんたはここで死ぬまで自分の犯した罪を反省しとけよ。アデヤさんがもうええやろって思ったらいつか空に上がれるかもしれん。そうじゃなきゃ延々そこかもな」
そう言って僕らは教会の中に入っていった。
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「元気ですな、フジマサは」
と司祭。
「はい、アデヤさんのご加護かもしれませんね」
「怖い神様ですね」
と司祭が笑う。
「ところで一本さん、鐘できた?」
へとへとになってる一本さんに話を向ける。
「ああ?そんなもん、とうにできとるわ。上見てみい?」
指差す方を見ると、教会の上に黄金に輝く鐘が見える。
「ソラさん、ありがとうございます。まさかあの鐘に、犠牲になった子らの名前を一人一人入れてもらえるとは」
「司祭さんがきちんと記憶してくれていたからですよ。あの鐘が鳴るたび、みんな犠牲になった子供らのことを思い出してくれる」
「本当にありがとう……」
司祭さんが鼻をすする。
「じゃあ次はいよいよ葬送ですよ!」
*(127話へ続く)*




