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124話 写し身


「アオ、これから宿屋に行ってフジマサに会う。お前、会うの初めてやけど大丈夫やんな?」


「僕が行く目的を伺ってもいいですか?」


「お前にはこれからフジマサになってもらう。それも病気にかかった今のフジマサじゃなく、一年前のフジマサに、や」


「一年前ですか?」


「そう。これまで牛鬼と交渉してきたのはフジマサしかおらん。あいつが秘密裏に全部、事を運んでた。でも今のフジマサは病気で痩せ細って、去年とはすっかり別人や。もとは恰幅のいい老人って話やったからな。別の人間が牛鬼をおびき出そうとしても警戒されるやろ?だからお前に偽フジマサになってほしい」


「なるほど。でもフジマサの容姿を真似るだけなら、テツさんに聞いたらいいんじゃないですか?テツさんが元気な頃のフジマサの姿を頭に浮かべて話してくれたら、僕、完璧に変装しますよ」


「容姿だけやったらそれでええんやけどの。今まで牛鬼とどんな取り決めをして、隠れ家にしてる島のどこに行って、何をどうしたら牛鬼が出てくるのか、他の誰も知らんのや。あいつが健康な時はこっそり一人で舟を漕いで行ってたんやろ?この前は体力が落ちたからって初めてテツさんに漕がせて行ったそうやけど、連れてはいかず舟で待たせてたやろ?だから島に着いて何をどうやってるのか、全くわからん」


「なるほど~。僕にそれをフジマサの口から聞き出させようというわけですね!」


「そう!人の心をあっさり開かすことができるお前にしか頼めん」


「わかりました。やります。やりますけど、一つ条件があります」


「条件?なんや、アオが条件出すとは珍しいの。どんな条件や?」


「ソラさんの持っている知識をもっと僕にください。ソラさんのいた世界のことをもっと知りたいです。この旅が終わったら、僕も一緒に行っていいんですよね?その時のためにもっと知りたいんです」


「あ、コピーの意味がわからんかったから悔しいんか?サトちゃんやシカちゃんは、あっちで一緒にウロウロしたことあるから、それなりにカタカナ言葉知ってるからなぁ。わかった!天さんに許可取って、まだあっちに行ったことがないお前とリーちゃんを案内しよう!リーちゃんにも善通院に行こうかって言ったとこやし。約束する!」


「ありがとうございます!ところで、さっきの『コピー』ってなんなんですか?」


「なんなんですかって……日本語やと複写?模写?……ん~違うなぁ。今回は現身(うつしみ)?そんな感じやな。いや、写し身……これやな。うん、これがしっくりくる。相手の姿かたちを自分に投影するって感じ。お前の変装がまさにこれや」


「なるほど……写し身ですか。いいですね!それ」


---


「ゴフッ……またなんの用や?調子が悪いんじゃ。手短に頼むぞ。一時調子が良かったんやけど、またぶり返したわ、ゴホゴホ」


そりゃなぁ。一時的に緩和させてただけやもんな。早いとこやらんと、フジマサそんなに持たんな。


「フジマサさんですか?初めまして。僕、アオと言います。ソラさんと一緒に旅をしています」


「ゴホ……お前、わしの指示でテツが見張っとったやつやな。お前の報告は上がっとる、ゼェゼェ……」


テツさんな。どこまで喋ったんやろう。


「お前、室戸で鯨漁師やったらしいのぉ。それやったら、こんな頓珍漢なヤツとの旅なんぞやめて、ここでカツオ漁したらええが、ゴホ」


あ、かなりごまかしてくれてる。テツさんは味方確定やな。


「ハイ!できたらそうしたいです。フジマサさん、仕事を紹介してもらえますか?」


爽やかな笑顔でそう答えるアオ。この笑顔にみんな騙されるんだなぁ。


「おおお、ええぞ、ええぞ。この町のことやったらわしに任せとけ、ケホ」


上機嫌になったフジマサは、もうアオの手のひらで転がされている。


そこからアオはなんの疑いも持たせず、フジマサから牛鬼関連の情報をスルスルと聞き出していった。横でその様子を見ていた僕は、呆れるやら感心するやら。どうして人はこうも簡単に人を信じてしまうんだろう。


僕がいるのもそっちのけで、身を乗り出してアオと語るフジマサ。しまいにはアオの手を取って泣いている。何を見せられてるんだ、これ。


「お前、わしの養子になれ!」


と、フジマサは言った。


「いやあ~、そんな大それたこと~」


のらりくらりとアオはかわす。


情報は十分聞き出せた。もうこれ以上聞くこともないな。横っ腹を突いてアオに合図を出す。


目で頷いて話を切り上げるのかなと思ったら、


「フジマサさん!もう着ない服とかあったらもらえませんか?僕もフジマサさんみたいになりたいです!」


と、バカみたいなお願いをするアオ。


「お前、わしの着ない服って。前まではえらい太っとったから、お前には合わんぞ。お前の体が二つくらい入るわ」


「それがいいんです!そんな大きな男に僕はなりたいんです!」


くさいセリフをいけしゃあしゃあと言えたもんだ。はたから見てるとバカみたい。


「おお、ほんまか!そこまで言うてくれるんやったら、なんぼでも持って行け!わしももう長くないからの。気の早い形見分けじゃ」


そう言って、手下に言いつけて用意させた服を風呂敷に包み、アオに持たせた。


どれもこれも悪趣味な刺繍の入った服だ。頼まれても着たくないわ。でもバラして売ったら高く売れそうだな。一・五人分くらいの生地やから売れば一・五倍かな?なんてバカなことを考えていた。刺繍に金糸使ってるぞ、これ。


「ありがとうございます!僕の宝物にします!」


と、アオは言って、僕らは宿を後にした。


なんか知らんけど、僕にまで大量のお土産を持たせてくれた。宿屋の弁当か。美味そうやな。数えたら七個。完全に俺らの人数も把握してるってことか。別にええけど。


「アオ、どやった?フジマサって人間は」


「ん~、一言で言えば歪んだ正義感の持ち主ってことでしょうか」


「歪んだ?」


「彼は彼で自分の正義があります。それはこの町を守るってことですね。町を守るために牛鬼を倒そうとしたけどできなかった。代わりに少しの犠牲で町を助けることを選んだ。町を守るために外部からの邪魔を阻止したい。だから外から来る人、外に助けを求める人を排除した、ってことです」


「それで得た利益で自分はのうのうと生きてるってことか?」


「町を守ったことに対する正当な報酬と考えていますね。やることやったのでもらうものをもらっている、何が悪いという理屈です」


「なるほどな。多数のためなら少数の犠牲はOK、目を瞑れってことやな」


「はい。その考え方です」


「汚いのは子供をその犠牲にしたってとこやな。自分らに火の粉がかからんようにして」


「そこですね。僕も許せないです」


「アオ、いけるか?」


「はい、十分聞けましたし、服も用意できました。テツさんに太っていた頃の容姿を詳細に聞けば、完璧に『コピー』します!」


さっそく使ってみたかったんやな?コピーって言葉。


「アオよ。牛鬼の呼び出し方とかもあっさり聞き出してたけどさ、俺、お前の力がちょっとわかったわ」


「力、ですか?」


「お前、自分で意識してないけど、お前の独特のリズムで受け答えしてるうちに、相手を自然に催眠術にかけてるわ。ゆっくりゆっくり話しているうちに、フジマサの目がトロンとしてきて、お前の質問になんでも答えるようになっていった」


「催眠術ですか?大道芸みたいなやつですか?」


「どうかわからんけど、横で見てたらまさにそんな感じやったわ。いつの間にかお前のペースになって、お前の虜になってたぞ」


「へ~。そうなんですね。なんか不思議ですけど、ソラさんが言うならそうだと思います!」


---


「というわけで、お弁当もらってきた」


教会で僕らを待っていたみんなにご報告。


「わ~い、お弁当~」


サトちゃん、無邪気。


「毒とか入ってないでしょうね?」


と、ユイ。


「さすがにそれはない。フジマサ、アオにぞっこんで養子に来いって言うくらいやし」


「え?アオ君、養子になるの?」


「ウミさん、ならないですよ!僕はソラさんと一緒ですから」


「え?私はぁ?」


と、ニヤニヤしているサトちゃん。アオの嫁になるって話やな。めんどくせぇなあ。


「とりあえず弁当食べながら、この後の流れを説明するぞ」


「ソラ君!ウニだよ、ウニ!」


そんな叫ぶほどのことかい、ウミよ。


「あそこに泊まっている時に食べた料理より、よっぽど豪華だよ。フジマサたち仕様なのかな」


なるほど、クオリティが全然違うな。美味い!いや、そうじゃなくて。


「アオがフジマサに聞いたところでは、生贄になる子を連れて行くのは大潮の夜って決まっているらしい。舟で島に着いたら上陸して、細い一本道を子供を連れて歩いて行く。しばらく行くと松明を差し込む穴のあいた岩があるので、そこに松明を差し込む。差し込んだら、その岩の横にある木にぶら下がっているカンカン石を五回鳴らす。何回でもええらしいけど、一回や二回やったら寝てるかもしれんからってことで五回になったらしい。ふざけとるの。それを鳴らすと、松明のその先の開けたところに牛鬼が来るので、そこに子供を連れて行く。フジマサは牛鬼が置いているサンゴを拾って、覆面に詰めて持って帰るってことらしい」


「なんで大潮の日限定なの?」


「大潮だと潮が引きすぎるやろ?牛鬼が海に出るのが億劫になるらしく、住処におるから。あと満月で生贄がよく見えるからっていう胸糞悪い理由」


「最低!海に入るまで歩くのが面倒だから?生贄がよく見える?本当に最低ですね!」


リーちゃんが激怒している。マキさんの話を直接聞いてるしな。


「サチは呼ばなくていいの?戦力になるけど」


「あいつは全部終わるまでマキさんのところにおってもらうよ」


「次の大潮の日っていつなんだろう?」


「あ、調べますね!」


と、サトちゃんが手持ちの本をペラペラとめくる。やがて、その手を止めた。


「え~と……明日です」


明日なんかいっ!


「アオ、悪い、時間ないからテツさんとこ行って、フジマサの容姿固めといて。明日の夜の舟か……司祭さんに元漁師のつてで当たってもらうか」


あとは……牛鬼の餌やな。


「シカちゃん!」


「ん?なに?」


「なるべく美味しそうになっといて」


「餌なの!」


ユイとリーちゃんとサトちゃんが叫ぶ。


生餌だな、うん。


*(125話へ続く)*

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