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123話 鬼子母神


ウミの解説だと鬼子母神って、もともと人間の子供を食べていた鬼女だったとか。でもお釈迦さんに諭されて改心して、安産や子育てを司る女神になったそうな。


牛鬼も死んで悟れるんかな?


そんなことを思いながらも、その牛鬼を殺そうと鍛錬している自分に矛盾を感じる。


「たとえ牛鬼が口で『わかった!』って反省の言葉を口にしても許す気ないでしょ?余計なこと考えず、倒すことだけを考えてたらいいのよ。それができないなら私がやろうか?」


と、側でずっと練習を見ていたユイ。


いや、そうじゃない。逡巡とかとは違うんだわ。悪を悪のまま葬ったら、そいつはどうなるんかなってちょっと思っただけ。アデヤさんの世界ではどう扱われるんやろうなってな。


「大丈夫、心は一ミリもブレてないから」


そう言って、鬼子母神を自分のモノにすべく上段から下に振り下ろす。


牛鬼に脇差と思わせておいてからの、薙刀への変化を悟らせないスピードでの振り下ろし。そして硬い皮膚への対応。


一本さんの腕を疑っているわけじゃないけど、僕の力量でできるかな?


アオは立派な巻き藁を何本も作ってくれて、ウミと協力して広場に据えていってくれた。


いったいいくつ作ったんだ?まるで中国の兵馬俑みたいに並んでる。


「うわ、趣味悪っ!」


と、天さんがその巻き藁の軍団を見て言った。


「お前、これ全部切っていくん?」


「ああ、どうやって切りつけるのが一番力が入るのか、切れ味が鋭くなるのか試したいから」


「どこ狙う気や?」


「ん?頭と背中はこれまでの剣術使いとかがはね返されてるって言うから、腹じゃない?角度付けて」


「どうやってひっくり返す?腹の下に潜り込むんか?」


「振り下ろしてから跳ね上げる動作じゃ力入らんぞ」


確かに。どうせなら振り下ろしの一回で決めたい。


「ソラ、格闘技好きやったやろ?」


「え?なんでそんなことまで知ってるの?キモっ!」


「待て待て、前にウミとプロレスの話しとったやないか!それでじゃ」


「ああ、初めてここに来た日にそんな話してたなぁ。どの技を食らいたくないかランキング!」


「そん時出た話でヒント出てるぞ」


「え?サソリ固め?無理無理……体が牛くらいあるんやろ?足も多いらしいから、どこを極めたらいいのやら」


「違うわ!」


「クロスヒールホールド?あれは痛いと思うけど」


「違うわ!牛鬼のかかとどこにあるんや!」


「う~ん……ウエスタンラリアットとか?」


「おう」


「チョークスリーパーとか?」


「ふむ」


「ひょっとして弱点は首か?」


「そうやのぉ。首はまあ太くなっても弱点になるやろのぉ。ワニの首はどこ?って言われたらわからんけど、牛でもライオンでもキリンでも首はわかるやろ?」


「じゃあ牛鬼の首も多分わかるってことか」


「顔は牛と人の間くらいなんやろが?ほな、牛も人も首は似たりよったりぞ。太さの大小はあれどな」


「あ、天さん、実物知ってるんやんな?」


「お前が倒そうとしているやつは会ったことはないが、宇和島や屋島のやつは知っとるぞ」


「なるほどな!首の付け根か……」


「まあ知らんけど」


そう言って、天さんはぴょんぴょん跳ねて家に戻って行った。


だてに長生きしてるわけちゃうな、天さん。


「ウミ、アオ、ごめん!その巻き藁、ちょっと角度を斜めにして並べ直して!」


---


僕は半日、巻き藁を切りつけまくった。


刃の入る角度、力を込めるタイミング、足さばきを加えての動き方。


それができるようになったら、牛鬼の前に立ってからの立ち居振る舞いのシミュレーション。いかに今までの剣術使いと同程度の力量に見せ、武器を脇差と錯覚させられるか、みんなの前で何度も繰り返した。


ウミは横からずっと動きを記憶。試行錯誤する中で、サトちゃんが動きの変化を言語化して解説してくれた。アオは巻き藁の切り口をいちいちチェックして、どこが悪いのかを指摘してくれた。


シカちゃんは……応援してくれた。


「ソラさん、切り口が綺麗に揃いましたよ。理想的な力の入り具合です!」


と、アオが言ってくれた。


「準備できたんじゃないの?ソラ君」


「あの……特訓ってこんなに早く終わるものなんですか?」


と、リーちゃんが聞いてくる。


「リーちゃんさん、これが普通じゃないです。普通じゃないですけど、やろうとしていることも普通じゃないので」


「そもそも二の太刀を考えてないびっくり攻撃だからね。一発で仕留め損なったら、それこそ総力戦になるよ。ね、アオ君」


「はい。僕がやっても多分、その薙刀……鬼子母神はソラさん専用に一本だたら様が作っていると思うので、僕が受け取っても上手に扱えないでしょう。普通の薙刀なら思うように使えますが、それで仕留められるかと言うと、きっと牛鬼も刀じゃないとわかっているので警戒してくると思います」


「一番攻撃力が期待できるのはユイとサチか。でもよっぽどの時じゃない限りは、やっぱり手出しさせたくないな。俺が俺の手で仕留める。失敗して死にかかってたらそうも言ってられないので、よしなに……」


「よしなに、って適当ね」


と、ユイ。


「ユイ、そうじゃないよ。ソラ君は失敗した後のことなんて考えてないんだよ。多分。きっと一撃で仕留める自信があるんだよ」


買いかぶりすぎだよ、ウミ。負けた後のこと考えるのが嫌なだけ。ユイに牛鬼殺しをさせたくないってのもあるし。


「!!」


勝手にユイが照れてる。人の心を読んで勝手に照れるな。


「まぁ、ソラは殺させないから。とっとと死んで神になっていいなんてパパは冗談で言ってるけど、私もパパもソラにはちゃんと最初の目的通り、八十八ヶ所の封印を解いて回ってもらいたいの。虫のいい話だけど、かつてのアデヤ教徒の暴走をソラやウミに是正してもらっていることへの感謝の気持ちは、ママも持ってるし」


「それに……」


「それに?」


「あなたたちと旅をしているのが楽しいから!」


それを聞いて、その場にいたみんなが頷く。


口々に色々言ってるけど、いちいち拾いきれん。グダグダ、ごたごたの旅をみんな気に入っているんだな。


「終わった後も楽しみです~」


と、サトちゃん。


シカちゃんも、


「みんな一緒」


と、笑顔で頷く。


「じゃあ、みんな、あれだ。とりあえず死なないようにがんばろう~!」


と言ってみたが、


「しまんないね」


ウミ?


「なんかグダグダ~」


サトちゃん?


「まあソラさんですし」


普段優しいリーちゃんまで。


「ソラを死なせないように気を付けるわよ!」


と、ユイが宣言すると、みんな腕を振り上げ、


「おお~!」


って……どういうことだよ。


「じゃあ、井田の町に戻って、フジマサのとこ行くか!アオも一緒に頼む」


「あ?僕もですか?わかりましたぁ!」


「天さん、ありがとうね。俺らもう行くわ」


「えらい早かったのぉ?もうええんか?」


「うん、一本さんの武器作りにもっと時間かかると思ってたけど、びっくりするほど早かったから、鬼子母神で練習する時間をしっかり取れたわ。ホンマはしばらく竹を振り回すつもりやったんやけど」


「ソラ、もうええか?はよ戻ろうや。わし頑張ったやろ?」


唐笠小僧みたいだった一本さんは、すっかりやつれて肌色も悪く、こうもり傘小僧みたいになってた。


「大丈夫?天さんとこでしばらく静養させてもらう?」


「おお、うちで良かったらなんぼでもゆっくりしてもろうてええぞ、一本だたら様」


「天さんもこう言ってくれてるから、もうちょっとおる?」


「やめて、やめて、連れて行ってくれ。数日で元気になるから……はよ、はよ」


ええんかな?


「じゃあ一本さんもこう言ってるし、ボチボチ行くわ」


「おお、頑張って来いよ。仲間も増えて大所帯やのぉ。わしも混ぜてもらおうかな?」


「やめて……やめてください……」


一本さんがうわごと言い出した。


「天さん来たら目立ちすぎるわ。買い出しもあるし、天さんはここでじっとしといて。たまにまた配達来てな」


「わかった、わかった。じゃあ行ってこい!」


天さんにお礼を言って、僕らはユイの部屋を通って井田の町に戻った。


「さて、まだ夕方やの。とっととフジマサんとこ行くか。アオ、お前って相手に会ったら、その相手の望む形がなんとなくわかるって言ってたな?」


「はい。相手の思い描く姿が頭に浮かぶ感じでしょうか」


「それが役に立つ。アオ、お前の使命はフジマサのコピーや」


「フジマサの?」


と、みんなが驚きの声を上げる。


そんな中、アオが一言。


「こぴー?こぴーってなんです?」


*(124話へ続く)*

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