122話 薙ぎ払う
多分僕の記憶だと、高校の時に触ったなぎなたは2メートルよりちょい長い感じだった。竹刀に比べるとかなりリーチがあったけど、振り方にコツがいったんだよなぁ。構えも独特。一応その時に教えてもらったのでまだ覚えてるけど、あの構えじゃ勝てんな。
「アオ、お前がやっていた流派の薙刀ってどのくらいの長さやったん?」
ビンタして起こしたアオは、今はしゃんとして薙刀指導者モードに変わってる。
「特に決まりはないです。自分にとって一番いい長さを極めればいいです。要は勝てばいいんですから」
なるほど。この世界の道場も、町人たちの手習いでありつつも、まだ実戦もあちこちであるやろうしな。僕に合う長さか……。
「ソラさん、いいですか?」
「ん?」
「短時間で全部の動きを覚えるなんて素人には無理です。ソラさんの動きも隠密の頃から見ていますが、命のやり取りをする動きではありません。殺気を全く感じないんです。だってソラさんは最初から相手を殺す気なんてないんですもんね。今まではそれで良かったですけど、今回はそうじゃないでしょ?」
アオ、鋭いな。僕の動きは所詮スポーツの範疇を超えてないし、超えられない。命なんてかけられないし、取る気もなかった。痛めつけて動きを止める、抑止のための暴力だった。でも今回は違う。牛鬼を止める……ここで終わらせる戦いをするんだ。
「お前の言う通りだわ。今までみたいな甘い戦いはできん。死にかけたことはあるけど、殺そうと思ったことはなかった。俺に必要なのはなんや?遠慮せず言ってくれ」
「ソラさんの潜在能力の高さもわかってます。体の使い方の基本もできています。ただ命をかけた戦い方をしたことがない。なので、その動きを今から徹底的に叩き込みます!体に覚え込ませるので靴を脱いでください。裸足で足の動きを感じてください」
「アオ君、裸足で土の上はナンセンスだよ……僕らの時代では意味がない。足に合った靴で程よく地面を捉えて動くほうが絶対いい」
「ウミさん、おっしゃる意味はわかります。今、裸足で足の裏を怪我したりすると、本番の動きにも支障が出るかもしれない。でもね、僕が求める動きはそうじゃないんです」
「そうじゃない?裸足で動き回るんじゃないの?」
「違います。すり足でほんの少し、大股で一歩程度」
「アオよ、それで牛鬼の動きについていけるんか?長いリーチを活かして腹を狙うために撹乱したりとか」
「やりません。ソラさんにはその一つの動きを極めてもらいます」
「一つだけ?」
「倒せる機会はそうそう訪れません。油断している隙に一撃必殺の技で終わらせるくらいじゃないと倒せないでしょう」
「油断なぁ……。するかな?」
「油断するしないじゃなくて、させたらいいじゃないですか!ずるい作戦はソラさんの得意分野でしょ?」
「油断させる、か……おもろいな、アオ。よし、ウミ、俺が足さばき覚えるまでの間に、これまで話に出てきた牛鬼の内容分析して、使える戦法編み出して。実は俺にはもう頭に浮かんでる」
「さすがズルくて有名なソラ君だ。方向性決めたらパッと頭にアイデアが浮かぶのも、やっぱり天才だと思うよ」
「本物の天才に言われても微妙やな。サトちゃんのメモのデータと記憶突き合わせてプロファイリングしといてな。後で俺の考えと答え合わせや。よし、じゃあアオ、指導頼む!」
「わかりました。まずは足さばきから。手はその後で」
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「ソラさん、なんでたった一日で、型までできるようになるんですか?」
と、アオが呆れてる。
「型までって言うたって一つだけやん。足さばきなんて剣道のすり足の応用やし」
「いえ、ただのすり足じゃないんですよ。相手が気づいた時には横に一間くらい動いているんですから」
「これ、ズボンより袴の方が動きバレにくいやろな。袴で足の動きよく見えんやろうし」
「いいですね!やれることは全部やりましょう!」
「ソラ君、あっちから見てたけどすごいね!瞬間移動したみたいに見えるよ。足を横に大きくスライドしてるんだろうけど、速くて見えないよ」
「さらに袴で足の動きを見えなくするつもりだわ」
「それはいいね!まさにそのことを伝えに来たんだよ。色んな話をまとめて導き出した結論」
「ほう、お前とサトちゃんのプロファイリングからどんな作戦になった?」
「ヒントはやはり侍の戦い方だね。牛鬼はもう対侍の戦い方を知っている」
「うん、そうやな。同感」
「そして今回もまた侍が刀を持って戦いを挑んできたと思う」
「おう」
「なのでソラ君は刀を持って、侍の戦い方をすると思わせる」
「うんうん、いいね」
「牛鬼がいつものように硬い頭と背中で刀を受けてから、手足で攻撃しようとしてくるので……」
「そうなる前に、殺る」
「ビンゴ!」
「でも刀じゃ殺せんぞ。どうする?」
「抜かりないよ。うちには神様がいるからね。天さんの家から二人がやってる戦い方を見て、一本さんに武器を頼んだよ」
「え?もう?見ただけで?」
「ソラ君とアオ君の模擬戦見てたらわかるよ。薙刀も最後の方に竹の長さ決めたでしょ?それを一本さんが見て、作ってくれたよ」
「薙刀を?」
「薙刀であって薙刀でない傑物だよ」
なんじゃそりゃ。
「一本さん!持ってきて〜!」
と、ウミが天さんの山小屋に向かって叫ぶ。
すると、
「一本さん、天さんにお酒飲まされて倒れてます〜!褒美じゃって言われて」
と、リーちゃん。
おお、天さんちゃんと接待してくれてたんか。さすが!
「私がお持ちしますね〜」
そう言うと、リーちゃんとシカちゃんが箱に入ったものを持ってきてくれた。
ん?短いぞ。短刀サイズ?
「ソラ君、やっぱり一本さんはそんじょそこらの神様じゃないよ。すごいよ」
と、ウミが言う。
短刀じゃないの?脇差くらいしかないけど。
そう思いつつ箱を開けると、まさに刃渡り60センチくらいの脇差……これじゃ刀よりリーチないじゃん。
手に取ると、どうも普通の脇差じゃない。柄じゃないな。持ち手は丸みを帯びた薙刀風で、見かけよりちょっと重いぞ。
「ソラ君、さっき竹でやってたみたいに上段に構えて振り下ろしてみて」
ん?
「フン!」
上段から下に薙ぎ払うような動作をしてみると、脇差だと思っていたものがどんどん伸びて薙刀くらいの長さになる。
通常の薙刀よりも長めで、まさに僕とアオが模擬戦をしていた時の竹の長さと全く同じ。振り出し式の釣り竿みたいにどんどん伸びて、ロックできるようになっているのか!
それと重心が僕の持ち方にぴったりで、竹よりもちろん重いけど、バランスを取ると重さを感じない。
「一本さんってすごいのぉ……神が作ったから『ゴッズ』なの?」
「本当にソラ君、転スラ好きだねぇ。わかるけど」
異世界物でテンプレは嫌いだけど、独創性あるのは好きなのだ。
しかし一本さんすごいなぁ。いや、でもこれ考えたのは……。
「アイデアも一本さん?」
「ううん、イメージは僕とサトちゃん。刃渡りは天さん。『ソラが必要としている刃の長さはこのくらいかな』って」
「なんじゃそりゃ、怖いな。まぁ、まさに俺がイメージしてたんと同じやわ。よし、武器も手に入ったし、今日はこのまま男はテント、女子は天さんの山小屋で寝て、明日はこの武器に慣れるために練習やな。試し切りとかしたいし。巻き藁作らんといかんな」
「あ、ソラさん、僕、巻き藁用意しますよ。今日はあんまり動いていないので、ちょっと走って材料集めてきます!」
アオ、お前付きっきりで教えてくれてたやん。
「ユイとサトちゃんは?」
「天さんと一本さんのお酒の肴を作ってます。ついでに夕飯の用意もするって言ってくれて」
「あ、ユイって料理できたんか。ノーマークやったな」
「ユイさん、色々料理できるんですよ。西洋風のが得意って言ってますけど、私らに馴染みがないだろうからって作らないだけみたいです」
「あ〜、サトちゃんやシカちゃんは俺らの世界で食べ慣れてるけど、リーちゃんはまだ行ったことないもんな。今度、善通院に行ってウミの両親に挨拶したらええわ。父ちゃんめっちゃでかいで。でもえらいお坊さんですごい人や。お母さんは優しい人。どっちもええ人やから」
「ふふふ、ソラさん、牛鬼との戦いを控えているのに、そんな先のことを心配してくれるんですね。絶対負けないですもんね!」
「勝てるかどうかはわからんけど、あいつは俺が息の根止めるよ」
「ほんじゃ、料理できたらアオの分も持ってきてくれる?俺、こいつに慣れるように、もうちょっと練習続けるわ」
「ソラ君、その武器に名前つけないの?」
「名前か?……そうやのぉ……『鬼子母神』にしようか」
「鬼子母神?鬼になった母親が改心して神様になったってやつ?」
「そう。牛鬼も死んで改心してくれたらええなぁって、な」
「OK。じゃあソラ君、『鬼子母神』を従えられるように練習しよう!」
「よしっ!うおりゃぁああ!」
「掛け声ダサいよ」
*(123話へ続く)*




